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373.そして、掲げる気持ちと共に

 建国の祝いとして食事会を開いたが、その場にて旅行へいく話になった。

 この時期の旅行ということで、何となく俺とフローリアの婚前旅行みたいなもの──という事になったのだが、当然ながら全員で行く。あくまでみたいな(・・・・)であって、そういった旅行ではないのだから。

 そのため目的としては、以前とおなじ“温泉旅行”という事となったのだが。


「せっかくだからさ、彩和の温泉に行こうよ!」


 という鶴の一声ならぬ、ゆきの一声で行先が決定した。

 既に彩和にはいくつもポータルを設置してあるし、なにより“温泉”としてはやはり優秀な部分が多いのだろう。

 それに彩和の温泉というものに対し、その実を知っているのはゆきとエレリナだけ。俺も現実世界(あっち)の日本の温泉は知ってるけど、それはそれ、コレはコレだ。


 そんな感じで、彩和へ温泉旅行することが決まった。俺としても、彩和でのんびりするというのは感性に合ってる気がするので楽しみだ。


 翌日になり、泊っていった皆と朝食をとる。旅行については先んじてゆきとエレリナに色々と調べてもらい、それを踏まえて予定を決めることにした。その事を皆に伝えて解散となった。

 解散とは言ったが、せっかく来たからとマリナーサ達もアミティ王女達も、大和国を観光してから帰るとの事。なのでマリナーサ達はミズキとゆき、アミティ王女達はミレーヌとエレリナに同行をお願いした。


 そして俺はフローリアと共に、とある場所へと向かった。






「おお、フローリア。それに……大和国王、となったのだったな」

「はい。此度は大和国の建国と、自身が国王を拝命した事への報告に参りました」


 行先はグランティル王国の王城。そこへ国王様に会いに来たのだ。ただし場所は謁見の間ではんく、賓客用の応接だ。


「ふふ、堅苦しい言葉は無用だ。そもそも、既に其方も今や一国の主であろう。同じ王として、対等にしてくれてかまわないぞ」

「お言葉感謝します。ですが今回は建国とは別に、改めての報告を致したくやってまいりました。ですので言葉や態度については、このような形にさせて頂きます」

「…………そうか」


 こちらの言葉に、少し目を細めてゆっくりと返事をする国王様。今この場に俺とフローリアしか居ないこともあり、何の話なのかもう察しているのだろう。

 一つゆっくりと息を吐き、姿勢を正して国王様を見る。あちらも俺の言葉をしっかりと聞くための態度をとっている。


「……改めて申し上げます。フローリア王女を──娘さんを私に下さい」

「──ッ、カズキ……」


 自身の気持ちを、一番素直な言葉で告げて頭を下げる。隣にいたフローリアが、息をのむ音が耳に届く。これまでも婚約だ何だと色々言ってきたが、それを国王様──父親にこうやって告げるのは全然別の意味合いがあるのだろう。

 もちろん俺だってそうだ。認めてもらえるだろうとは思っているが、それでも漠然としない不安みたいなものが出てしまう。これってきっと、誰しもが相手方の父親から受ける通例行事なんだろう。


「……娘を」


 下げた頭に、国王様の声が届く。それは、普段の威厳ある声ではなく、ごく普通の父親の声だ。


「娘を……よろしく頼む」

「──お父様!」


 フローリアの感極まったような声に顔をあげると、そこには父親に抱き着く一人の娘の姿があった。その光景をみて、俺もおもわずグッときてしまう。

 娘を抱きしめたまま、国王様はもう一度こちらを見て頭を下げる。


「………………はい!」


 その優しくも強い眼差しに、俺は強く返事をする。やはり親心というものは、世界が違えど同じなんだと強く感じた。






 続けて女王様へと同様の挨拶をしに行った。女王様は現在身重のため、適度な運動以外は自室で過ごすようにしている。そのため普通はお会いするのは無理なのだが、今回は内容が内容なので特別に会えることになった。

 そして先ほどと同様、俺は正式にフローリアを嫁とする事を告げた。


「ふふっ。カズキさん、娘をよろしくお願いいたしますわね」

「あ、は、はい」


 だが、返ってきた返事はとても軽やかなものだった。別に女王様が娘を軽んじているわけじゃないのは重々承知だ。信頼しているからこそ、そのすべてを娘に委ねているからの対応だ。


「この子ったら、カズキさんと初めて会ってからもうずーっとその事ばかりで」

「えっ!? お、お母様っ!?」


 隣りで飛び上がらんばかりに驚きを見せるフローリア。軽く声が上ずってひっくり返るほどになっており、こんな状態のフローリアは珍しい。


「ある日突然、目が恋する乙女になっちゃってね……でも、別にどこか出かけたわけでもないのにどうしたのかと思ったら──」

「待って、お母様! その、えっと……気付いていたのですか?」

「もちろんよ。本当に貴女ったら、それまでと全然顔も違うし心ここにあらずで──」

「わああああー! カズキ! 何も聞いてないわよね!? ねっ!?」

「お、おう……」


 ぐいっと両手で襟元をつかまれ、ぐいっと引き寄せられてにらまれる。その形相はすごく赤くなっており、怖いというよりも酷く愛らしく感じた。ただ、そこから鬼気迫る感情があふれており、思わず返事を返してしまったけど。


「もう、フローリアったら……素直になればいいのに」

「素直になるのと、秘密を暴露されるのは全然違いますぅー!」


 うきゃーっという感じで文句を言う姿は、どうみても仲睦まじい母と娘だった。国王様──父親の時とは違うけど、やはり家族だなぁとしみじみ思う。


「そ、それよりもお母様、お腹の赤ちゃんはどうなんですの?」

「ふふ、そうねぇ……この子も、元気に育っているわよ」


 そう言って優しく自分のお腹をなでる女王様。そこには娘に向ける慈愛の眼差しと、同じ想いが宿っているのがよくわかる。

 フローリアもそっと手を伸ばして優しくなでる。すると何か反応があったのか、おそるおそるという表情だったが、一変してまぶしいほどの笑顔になる。


「ここに私の弟が……名前はもう決められましたか?」

「ええ。国王(アインハルト)が自分の名前からとって、ラインハルトと名付けることになったわ」

「ラインハルト……ラインハルト・ハイネス・グランティル……私の弟……」


 優しく名を呼びながら、そっとなでるフローリア。その光景が、まさに聖女と呼ぶにふさわしい気高い情景だったので、俺はおもわず見とれてしまった。

 そんな俺に気付いた女王様は、ニコリとほほ笑むと手招きをする。


「ほらカズキさんも。この子は将来、カズキさんの義理の弟になるのですから」

「そ、そうですね……」


 そう言われて近づくのに、なぜかちょっとだけ尻込みしてしまう。思い返せば、こういうシチュエーションに自分が置かれるのは人生初めてだ。どうしたらいいのか……と思っている俺を見たフローリアが、俺の手をつかんでそっと女王様のお腹へ。


「ほら、カズキ。…………わかる?」

「えっと………………あっ…………これが…………」

「うふふ、すごいでしょ?」

「ああ、すごいな……」


 こわごわ触れた手に、布越しに伝わるのは女王様の体温。少し恥ずかしいと思ったのもつかの間、その奥から確かにゆっくりと動く感触が。

 ここに居る──そう実感する存在が、確かにそこにいた。

 そんな俺たちを見ながら、女王様が優しい笑みを浮かべる。


「カズキさん。娘を……お願い致します」

「…………はい、わかりました」


 どこまでも優しい母の言葉に、俺は静かに……でも、これ以上なく強い決意で返事をしたのだった。




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