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371.そして、建国へ

 改めて建国の決意をした俺は、各国の代表者たちへその旨を伝える。前々から話を通してはいたので、特に問題もなく話は進めることができた。基本的に俺とつながりのある大陸の各国のほか、彩和の代表である松平広忠(まつだいらひろただ)にも行った。

 また国とは違うが、交流のある種族への報告も。エルフの里の古代(エンシェント)エルフや、ダークエルフやドワーフ集落の長などにも挨拶に行った。

 そのどれもが「いよいよですね」という感じで好意的に受け入れてもらえた。そこは今までの行いもあるだろうけど、やはりフローリア達が一緒なのが大きいと思う。


 こうして縁のあった人々に挨拶へ赴き、同時に領民にはここを国に……大和(ヤマト)国とすることを話した。その際、少しばかりの疑問が領民から上がってきた。特に多かったのはやはり、国になる事で何が変化するのかという事。

 これに関しては現状に比べ、一切のマイナスが無いことを明確にしておいた。領民にとって大きいのは、はやり領民としての税金だろう。だがここが他国の領地ではなく、自国の地となれば税率も変化する。そしてハッキリ言ってしまえば、ここの税金はもっと安くできる。それだけでも多くの領民にはありがたい事なのだ。


 その他に関しては本当に大差がない。ヤマト領から大和国へと独立しても、グランティル王国とミスフェア公国を結ぶ『中継と観光の街』というスタンスは変わらない。むしろ改めて国として再出発することで、領地開始時の時以上の活気がしばらく続くと予想されている。


 実際のところ、新しい国ができるという事は結構な大事だと思う。根回しが十分だったため、歓迎お祭りムードが強いけど、そうでなければ色々問題もあっただろう。




 そんな“建国”に、俺としてはどう反応すべきなのか……と思っていたのだが。




 建国を宣言し、その日を迎えた。


 とはいえいつものなんら変わらぬ朝で、俺は皆と一緒に食事をとる。むろんそこでも「いよいよ今日ですね」みたいな話はしたが、まぁそれだけである。

 いつものように身支度をして、まずは領地……いや、自国の見回りに出かける。今日は一緒にフローリアが付いてきた。

 だが、そこからは違っていた。


「おはようございます、国王様」

「王様、おはようございまーす」

「おうさまーおはよー!」

「あ、ああ、おはよう」


 思わず気おされながら挨拶を返す。当たり前のことだが、領民は国民となり、俺の呼び方は領主から国王になっている。

 …………なんか慣れなくて気恥ずかしい。

 だが、呼び方が変わっているのは俺だけだ。なのでちょっとばかし慣れない感じで返事をしながら歩いていく。いつもの歩きなれた道だが、今日はどこかちょっとばかり違う空気を感じている。これが今日の……建国の日の空気なのか。

 そんな俺たちの傍に、女の子が一人ちかよってきた。


「おはようございます、王様、フローリア様」

「おはよう」

「ふふ、おはようございます」


 女の子の視線に合わせてしゃがむフローリア。すると女の子が笑顔でフローリアに質問をする。


「領主様は王様になったなら、フローリア様は王妃様になったの?」

「えっ!? …………ふふっ、そうですわねぇ……それは、もう少ししたら……ですか?」

「うっ……」


 笑顔で返事をするフローリアは、ちらりとこちらを見る。その事にまた少しだけ言葉につまってしまう俺。言いたい事はわかるし、俺もそれについては考えてるけど……急にこうやってふられると焦ってしまうのは仕方ない。

 その後も何度か、次は王妃様達だねぇみたいな声をきかされ、ちょっと駆け足気味に冒険者ギルドに駆けこんだ。そこに見慣れた冒険者たちがいて、どこか安心できる雰囲気が漂っていた。…………が。


「おはようございます国王様、フローリア様。今後もよろしくお願いいたします」

「ア、アリッサさん……おはよう」

「おはようございます」


 声をかけてきたのは、ヤマト領の冒険者ギルドに最初に所属してくれたアリッサさん達だ。当然彼女たちは大和国になっても変わらずここに居て、いまやギルドの代表的なパーティーへと成長してくれた。


「カズキさんは国王になっても、前とあまり変わりませんね」

「まあね……」

「それがカズキさんのいいところなんですよ」


 よくわからないフォローをフローリアがしてくれるが、なんとなく「そうなんだ~」みたいな雰囲気になるのはすごい。

 他の方たちとも挨拶を交わした後、ギルマスのユリナさんにも挨拶を。ヤマト領から大和国になったことで、色々と規約なども細かく切り替えたりする必要があり、今は少しばかり忙しそうなので挨拶もそこそこにしておいた。ちなみに、


「これからは国王様って呼んだ方がいいかしら?」


 なんて言われたが、さすがにユリナさんにそう言われるのはこそばゆいので「公式の場以外は以前と同じで」と言っておいた。




 次に商業ギルドへ顔を出したが、エリカさんに同じような事を言われた。二人は双子なんで、そういう部分はかなり似通った事するよなぁ。

 その後はお土産通りを歩いて祝福の樹へのお参り。この地に運気を呼び寄せている要素はいくつかあるが、その中でも大きな役割を担っているのはこの樹たちだ。ありがたいなぁと手を合わせていると、また何時ぞやのようにゲートが開く。ここで開くゲートから顔を出すのはあの二人しかいない。


「あっ、こんにちはカズキ──」

「ちょっとエルシーラ、彼は今やこの国の国王になったのよ。そんな気やすく──」

「いやいや! 公式の場ならともかく、いつもは以前と同じで構わないから」


 出てくるなり挨拶を交わすのは、ハイエルフのマリナーサと、ダークエルフのエルシーラだ。どうやら建国ということで遊びにきてくれたらしい。といっても国外の知人では、彼女たちが一番親しい間柄だ。普段なにもないときもよく遊びにきてくれるし、特別にここの温泉に自由に入れる許可証も渡してある。もちろん基本的に身内しか呼ばない屋上温泉にも何度か入ったことがある。さすがに現実世界(あっち)には連れて行ったことはないけど。


「しかし国になっても居心地は相変わらずいいわねぇ。周りの草木もそうだけど、街中に流れる水にも精霊が宿ってるし」

「そうね。あそこの……水の憩い広場だっけ? そこに流れる風も、まるで森林にいるみたいな涼やかな風だもの」

「そうなんだ。森の妖精であるエルフに褒められると、殊更嬉しいな」


 笑みを浮かべて応答する俺の隣で、フローリアが「そうですわ」と何かを思いついたように手を合わせる。


「本日夜、建国を記念してちょっとしたパーティーを開きますの。といっても場所は家で、出席者は身内のみです。なのでよろしければお二人もいらっしゃいませんか?」

「えっ? でもその、身内だけって……」

「はい。基本的にはカズキと特に親しい者での集まりですが、他にもラウール王国からアミティ王女とリスティ王女もお呼びしております。なのでぜひお二人も」

「えっと……いいの?」


 誘われた二人がこちらを見てくる。その場で一番上の者は俺だろうということで、その決定を問いているのだろう。


「もちろんだ。以前スレイス共和国に温泉旅行に行ったとき同行した、ユリナさんとエリカさんも呼んでいるしね」

「ああ、あのお二人ですか」

「それならその……私たちも、よろしければ」

「ええ、歓迎いたしますわ」


 こうして夜に行うパーティー……まあ、ちょっとした自宅食事会だが、そこに二人も参加することになった。

 この後一体帰って準備をしているエレリナ達にそのことを伝えるも、


「はい。おそらくはそうなるだろうと予想して食材の量を調整してあります」


 との事。やはり思慮深い部分では、なかなか彼女たちには追いつけないと実感した。




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