367.それは、過ぎたる故の余興と所業
古城の三階をどんどん突き進んでいく。主に戦うのはミズキ、ゆき、エレリナの三人で、時々ミレーヌが後方支援で魔法矢を撃っている。フローリアは前衛外の防御と後方からの回復を担っている。
そんな中、ヒカリはというと今は俺と共に後方から皆を見ている。さすがにこのフロアの敵相手では、1対1ならともかく乱戦では荷が重い。
「皆さん強いですよね……」
「そうだね。でも、これがこっちの世界で生きるってことだから」
「こっちにはこっちの大変さってものがあるんですね……」
前方で魔物をバッタバッタと打ち倒していくミズキたちをみて、しみじみと言うヒカリ。彼女のステータスだと、さすがにこのフロアの敵は厳しい。
しばらくして前方の戦いが終わる。特に問題もなく無事討伐完了だ。皆が居るほうへ歩いていく途中、となりのヒカリが何か思いついたように話しかけてきた。
「あ、あの! カズキさんって、この中で一番強いんですよ?」
「あー……うん、一応ね」
「何が一応ですか。この中どころか、この世界で一番強いというのに」
「そうですよ。何しろ創造主なんですから、ね?」
あまり自分から「俺最強!」とか言うのは恥ずかしいからと謙遜するも、フローリアとミレーヌにつっこまれてしまう。
「それなら、その……次はカズキさんが戦うところを見たいです。ダメですか?」
「えっ、俺の? でも、今日はその……」
見守りとしてついてきただけだから……と言おうとしたが、
「いいじゃない。私も興味あるかな」
「ですね。カズキがあのノワールナイト小隊とどう戦うのか、実際に見てみたいと思ったいたところですから」
「だよねー。フローリアは以前見たらしいけど、私達も見てみたいもん」
ゆき、エレリナ、ミズキによって言葉はとめられる。そういえばこの古城を最初に攻略したときは、フローリアと一緒だったから基本俺一人で戦っていたんだよな。そうなると当然見ているのもフローリア一人だし、その時のことを皆に話してないわけない。
「よろしいじゃないですか。そもそもここへ来た理由もヒカリさんの要望に応えての事なんですから。当初の予定通り、最上階での戦いには手を出さなければ問題ないという事で」
「んー……まあ、皆が言うなら」
「やった!」
よろこびヒカリを見ながら、内心では俺も少し嬉しかったりしている。というのも、さすがに延々と皆が戦っているのを見ているだけだったので、少しくらいは自分でも……という気分になってはいたからだ。とはいえ、自分から「今回は見てるだけ」と言ってしまった手前言い出せなかった。
「んじゃお兄ちゃん、場所交代」
「おう」
パチンとハイタッチをして先頭に立ち、そして前に歩き出す。少し離れて後ろにミズキとヒカリがいて、その後ろに皆がついてくる。俺一人が存分に戦えるようにと、離れて観戦するとの事。
ほどなくして、通路前方からお目当てのノワールナイト小隊が姿を現す。それを見て俺だげが近づいていき、皆はその場で待機する。
ノワールナイトの前衛は、剣盾装備と槍装備の混成だ。ということは、後方に弓兵がいる可能性がいる。
『フローリア、敵に弓兵がいるかもしれない。そちらの防壁はたのむ』
『わかりました。こちらは心配せず存分に』
念話で伝えた直後、後方から障壁展開の感覚をうける。続けてヒカリのちょっと驚いたような声も聞こえてきた。
後ろの事は気にせず、前方の敵にだけ集中すればいい状況だ。なのでいつものようにストレージから愛刀の天羽々斬を取り出す。開発者権限ということで、ストレージには他にも神剣名剣が入っているが、どうにも俺は剣より刀が好きらしくコレを手にとってしまう。
前衛のノワールナイト達ともう少しで接触……という距離で、その後方からこちらに飛んでくる矢群が見えた。前衛が接触する直前に、矢による場の優位性確保をするための行動だ。
実際のプログラムとしては、弓の方が攻撃射程が長いので先に戦闘接触が発生する……というだけなのだが、良くも悪くも“それっぽい”状態になっているという事だ。
ちなみにこのノワールナイトの弓兵。敵への攻撃は敏感に反応するも、射線上に味方がいてもおかまい無しという性質がある。そのため前衛近接職が乱戦になっても、矢が次々と降ってくるという迷惑さはかなり鬱陶しい。その矢でノワールナイトが倒れきるようなこともないので、こちらへの損傷効率のほうが高いのも問題だ。
なので──
「はぁあああッ!」
思い切り前へ飛び出し、正面のノワールナイト数体を切りつけ吹き飛ばす。一瞬で移動したため、向こうとしては接触までまだ少し間があったつもりなのだろう。武器も盾もしっかり構えて状態で、いきなり吹き飛ばされるほどの衝撃をうけ、文字通り吹き飛ばされてしまったのだ。前衛を固める横帯の中央がに、一瞬で破れ目ができてしまった。
そこから俺は進むと、目の前には後衛である弓兵の姿。先程一矢放ったばかりなので、どの弓にも第二射を構えていない。これが人間であれば、たとえ弓兵であっても近接武器にもちかえて戦う……ヘタをすれば弓で殴打する、という手段もあるだろう。だが相手はLoUに存在するモンスター、その思考は与えられた行動以上をとることは無い。
もしかして慌てているのかもしれないが、淡々とした様子で弓をかまえようとするが、それを片っ端から天羽々斬で撃つ砕いていく。軽く棒立ちに近い状態なのをさっくりと討伐する。
それが終わると、その向こうにいたノワールパラディンが姿を見せるが、丁度先程出し抜いたノワールナイト達がこちらに追いついてくる。はさまれるのは得策じゃないので、まずはノワールナイト達を片付けることに。
先程とは違い武器や盾を構えているが、天羽々斬を一度振るえばなんの問題もなく切り捨てる事が可能だ。結果、先程の弓兵とさしてかわらずに小隊の大半を倒しきる。
そして俺の視線は、残りの三体……ノワールパラディンへ向く。
こいつらは別段それほど強いわけではない。むしろ俺の場合は、さっきまでの相手と大差ないほどだ。だが初めてこの古城で相対したとき、ちょっとした油断から一体がフローリアに襲い掛かる状況を許してしまった。それもあってコイツには、少しばかり怨みのような感情を抱いてしまっているのを実感していた。
愛刀を構え──飛び込む。
一瞬にして正面にいるノワールパラディンの前面に飛び上がる。相手が武器を持ち上げる前にまずは一体。
そんな俺を挟んで倒そうと、両側から攻撃を向けられる。空中で切りつけた姿勢の俺に左右から長剣が振られるが、俺はすのまますっと空中で回避──正確にはただの移動をする。GM特有の絶対座標での移動だ。
そしてそのまま右側のノワールパラディンを倒す。これで二体。ちなみになぜ右なのかは単純だ。俺が右利きで武器が近いのが右側の相手だったからだ。
最後に左側のノワールパラディンには、自身の武器を引き戻す動作と一緒に、こちらの武器を繰り出して討ち取る。三体……これで完了だ。
倒し終わって周囲を確認し、討ち漏らしが無いことを確認。天羽々斬を鞘に戻し、そしてストレージに収納すると、ミズキ達がやってきた。
「おつかれお兄ちゃん。……って、このくらいじゃ全然疲れてないか」
「ふふ、相変わらずカズキの強さはデタラメですね」
「んー……まぁ、おかしいことは自覚している」
フローリアの言葉に、どこか気恥ずかしさを覚えながら肯定する。俺のステータスとかがおかしいのはさすがに自覚してるからな。
「それでヒカリどうだった? カズキの戦いを見てなんか参考になった?」
「全然わかんなかった。すごいけど、自分の参考にはならないと思う」
「だよねー。うん、私も参考にならないもん」
ヒカリとゆき、姉妹そろって参考にならないと断言された。その意味はわかっているけど、どうもちょっとだけ寂しい。
この後また俺は後方に下がって皆を見守ることに。そしてゆきがサポートするからと、ヒカリも前衛に入ってもう一戦した。1対1なら十分戦えるので、息の合ったゆきと一緒ならば前衛相手なら問題ないほどだった。それに、どこか嬉しそうにしていたのがなんとなくほほえましかった。
こうして進んでいき、古城の三階は終了した。後はこの上、最上階のボス部屋のみ。
じわじわと上がってきた皆のテンションも、いつしか最高潮に達していたのだった。




