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365.そして、ヒカリ初めてのクエストへ

 行き先は古城に決定。ならば早速……としち所だが、そういう訳にはいかない。既にあの場所はヤマト領の冒険者ギルドの管理下にあるため、きちんとクエスト受注をしていかなければならない。それはたとえ領主であっても同じだ。そういった規則が守れないと、領民からの信頼も得られなくなってしまうからな。




「……というわけで、ヒカリの一時的なクエスト同行許可が欲しいんだけど」


 なのでまずは冒険者ギルドへやってきた。そこでギルマスであるユリナさんにお願いするのは、以前彩和でクラーケン討伐時にミレーヌがやった臨時の参加許可発行だ。


「カズキくんのお願いだし、ゆきちゃんの親戚ってことだから、その実力は疑いようもないとは思うけど……」

「そこは信用して。少なくともBランクくらいの能力はあるし、何より同行者が俺たちなんだから。ね?」

「…………ハァ、わかりました。あんまり無茶はしないでくださいね」


 ヤレヤレという表情で、ユリナさんは許可を発行してくれた。その様子を見ていたヒカリは不思議そうな顔をしてゆきに聞く。


「ねえ、お姉ちゃん。ユリナさんってここで一番偉い人なんでしょ? なんか……カズキさんとは立場ある人との付き合いというより、ご近所さんとのお付き合いみたいな感じに見えるんだけど」

「うん、そうだよ。元々ユリナさんはカズキやミズキちゃんと同じで王都にすんでたんだけど、その頃からのご近所さんなんだって。だからカズキにとっては近所のお姉さんっ感じらしいよ」

「なるほど……いいなぁ、頼りがいのありそうなお姉さんがいて」

「……ちょっとヒカリ、私は? 頼りがいのある実の姉の私は?」

「あ。私にはエレリナさんがいるじゃない。エレリナさーん!」

「ふふっ、なあにヒカリちゃん」

「ちょぉヒカリ! それにお姉ちゃんもなんでそんな優しそうに……」


 なぜかぎゃあぎゃあ騒ぎ始める彼女たちを見て、ユリナさんはおかしそうに笑いをこらえる。


「ヒカリさんがどのくらい強いのかはわかりませんけど、とても仲が良いことは存分に理解できたわ」

「騒がしくてすみません……」


 とりあえず許可はもらえたが、なんだかちょっと恥ずかしい思いを抱いて、俺たちは冒険者ギルドを後にするのだった。




 ヤマト領の西口、その先にあるノース川にかかる橋をわたる。目の前にある森の奥にお目当ての古城がある。目的はそこなので森はさっさと飛ばしていくことにした。古城の城門前にポータルは設置してあるのだが、


「空を飛んで行きたい!」


 というヒカリの要望に応え、ほんの少しだが召喚獣で移動することにした。案の定ゆきがまた「やっぱり甘い……」とにらんできたけど。そういいながらも、ヒカリをちゃんとルーナに乗せて面倒みてるのはお姉ちゃんだなぁと思った。

 短いながらも空散歩を楽しんで古城に到着。皆が召喚獣を送還させるなか、ミレーヌのホルケだけはそのままにしてる事にヒカリが気づく。


「えっと……ミレーヌちゃんはその子……戻さないの?」

「あ、ホルケですか? 私はいつも皆さんのクエスト同行中は、たいがいホルケに乗っておりますから」

「へぇ~……いいなぁ……」

「こらヒカリ」


 うらやましそうにするヒカリをゆきが嗜める。まぁヒカリからしてみれば、確かにうらやましいのかもしれない。


「残念ながらヒカリ、君はちゃんと歩いてついてきてくれ。ミレーヌはホルケと一緒にいる事で、特別にクエスト同行が認められているんだからな」

「はーい」

「それじゃあ行こう。ミズキ先頭よろしく」

「了解っ」


 ミズキを先頭に俺たちは城門をくぐり古城敷地内へ。俺は今回見守り役であるため、基本的に最後尾についていくことになっている。俺が一番後ろということで、背後からの奇襲は絶対に無いという安心感はあるだろうが、それよりやはり進行方向でのエンカウントのほうが重要だ。


 まずは敷地内の庭などを進む。時折下級のアンデッドなんかが出るが、軽く小突くだけで倒せるような存在だ。要するに『モンスター出現敷地内に入ってますよ』という警報の役割程度だろう。

 その証拠に、建物入り口付近では休憩をしている冒険者が何人か見受けられる。つまりここに出現するモンスターは、休憩場所として成立するレベルでしかないという事である。

 休んでいる冒険者たちと会釈を交わしながら、俺たちは建物の中へと入っていく。そこの空気は、以前の虚無を感じさせる“何も無い”から、隠滅としたモンスターを感じさせる雰囲気へと変わっていた。どうやらダンジョンとして定着してきているらしい。

 そして、中にはいると早速低級アンデッドが適度に出現してくる。外にいたのと同じ種類であっても、程よく強化されていたり複数同時に出現したり、確かに難易度はかなり違ってくるようだ。


 とはいえ先頭のミズキは無論、その隣にいるヒカリにもまだ余裕の相手だった。すばやい一撃で簡単に討伐する様子は、どこかゆきの血筋を感じさせるようにも見える。倒し終わった後なんかは、ゆきの方をみて笑顔を浮かべるのも微笑ましい。

 結局この階層、1階は先頭の二人がちょちょいと倒し進んで終了となった。一般冒険者ならば、ソロならDランク、パーティーならEランクが来る場所だろう。そのレベル帯の冒険者は、ごく稀に中級アンデッドも沸くのでそれだけは注意すべきだろう。




 2階へやってきた。内部構造は変化しないので、ここも当然見覚えがある。ただ、やはり空気の淀みとでもいうのか……以前とは違うものが漂っている。よくある例えなら『生気を感じる』という所なんだろうが、このアンデッドの根城でその例えは語弊があるとしか思えない。

 そんな事を考えている間にも、この階層でのお出迎えが遠慮なくやってきた。ワイトやグールなど、先程よりも上位のアンデッドだ。とはいえ、今の俺たちから見れば強さはさして変わらない。ヒカリが手にしている剣は、そこそこ良い武器ではあるが無属性。でもほぼ一撃で撃破できてしまう範疇でもある。


「うーん……これはなんというか、思った以上にヒカリが強いな」

「だから言ったじゃないのー。カズキはヒカリに甘すぎだって!」

「くっ、これはさすがに反論できんか」


 俺の呟きに反応したゆきに返す言葉が無い。確かに何かあったら大変だとそこそこのステータスと、結構な装備を施したが……俺ってそんなに過保護だったのか。

 そんな俺たちの会話にエレリナが入ってくる。


「仕方ないでしょ。カズキがヒカリさんを気に掛けているのも、大元をたどればあなたが気にしないでいいようにという配慮なんだから」

「え、そうなの?」

「そうなの。ヒカリさんに何かあったら、一番気にするのは──ゆき、あなたでしょ? それを危惧してカズキが色々手をまわしているんですから。ヒカリさんへの甘さは、そのまま自分へ向けられる想いの強さだと理解なさい」

「あ、あー……そう、なんだ。ふふ、ふふふ……」


 ゆきがこっちをチラチラ見ながら、ニマニマして笑いを漏らす。……うん、言ったらアレだけど、ちょっとキモーい。

 その隣で、優しく……でも、そこか何かを感じさせる笑顔のエレリナ。

 このパーティーのリーダーは確かに俺だけど、生き方……人生を語る上で中心にすえるべきは、やっぱり彼女なんだろうなぁと妙に納得してしまうのだった。


 少し遠い目でミズキたちのほうを見ると、楽しそうにアンデッドを一撃で粉砕しているヒカリが目に映る。

 ……うん。楽しそうで何よりですよ、ハイ。



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