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364.そして、冒険者を始めてみる

 ヒカリが異世界(こっち)へ来た翌日。昨晩はゆきの部屋で寝たため、当然だが朝から一緒にいる。順応性が高いのか、皆と和気藹々と朝食をとる様子は、もうすっかり溶け込んでしまっている感じだ。


「……さて、それじゃあ今日の予定だが……ヒカリは何か希望あるか? 実現可能な範囲でならかなえようかと思ってるんだが」

「カズキってば、ヒカリにちょっと甘すぎー」

「大事なお客様なんだからいいじゃないか。それに現実世界(あっち)の連休が終わる前に戻って帰省しないといけないんだから」


 ゆきがどこかからかうように言うが、実際のところ甘いとは思っている。だがヒカリがこの世界にいられる時間は、観光旅行と称して関東にやってきてる連休中だけなのだから。


「でも、私もまさか東京観光のつもりが異世界観光になるとは思ってなかったよ。うん」

「よかったのですか? せっかく遠いえっと……ホッカイドウ? からいらしたのに」

「そりゃあもう! 確かに東京を見て回りたかったのも事実だけど、異世界(こっち)の方が何倍も珍しいもんね。というか、普通は来れないところだから当然こっちだよ」

「わわっ!?」


 笑顔で、傍にいたミレーヌをぐいっと引っ張りだきしめる。その行動に悪意はなく、楽しげだったのにエレリナは何もいわずに見ていた。


「それにこっちには皆がいる世界なんでしょ? だったら迷うことは何もないよっ」


 そう言ってミレーヌをぎゅっと抱きしめる。どうもヒカリは“妹がいる”という状況に憧れていたらしい。そこには、ゆきの生前である姉の雪音が亡くなったことへの感情が、いろいろと交わり変化した情景なのかもしれない。なのでこの面子では、特にミレーヌを可愛がっている様子を見受けられる。

 そんなヒカリに何かしたいことはと聞いてみたのだが……


「あのね……その、私もクエストを受けたりとか……できないかな?」




 ヒカリからの要望は、まさかの冒険行為だった。聞けば、初めて俺達と会ってからゆき──前世では姉の雪音が遊んでいたゲームに興味を持ち、おもに育成が充実したRPG系ゲームをよく遊ぶようになったとのこと。以前聞いた時はそういう経験がないと言っていたが、その時は本当にやったことがなかったらしい。ゆき達から聞いた話をきっかけに興味をみったのはその後だとか。

 ともかく、そんなファンタジー世界が具現化したこの世界、彼女にとっては夢物語の実現であり、押さえ切れないほどの興奮がずっと続いているそうだ。

 ただ、さすがにゲームとは異なり気軽に「冒険したい!」とは言えないと思っていた。

 しかしヒカリは俺のほうを向き、


「どうもこの世界だと、私の身体能力って随分高くなってませんか? 昨日とか、けっこう遊びまわったと思うんですけど、全然疲労とか感じませんでしたし」

「あー……うん。実はこの世界に来るために作ったヒカリのキャラクターデータなんだけど、一応の安全性を考えて全てのパラメータを最大値の中間ほどにしてあるんだ」

「ねぇ、お兄ちゃん。それってどのくらいの強さ? 私達よりも強いの?」

「いや、さすがにミズキやゆき、エレリナよりは下だな。フローリアやミレーヌに関しては、魔力関係は上限突破してるから、そこも比較しても仕方ない。そうだなぁ……一般の冒険者なら、Bランク辺りか」

「高ッ! それじゃあ基本的にどこへでも行けるって事に──」

「ホント!? やったあ!」


 思わずゆきがもらした言葉に、ヒカリが飛び跳ねて全身で喜びを体言する。それを見たゆきが、またしても俺に向かって苦言を呈する。


「やっぱりカズキってばヒカリに甘すぎない?」

「いやいや、仕方ないだろ。ヘタに怪我でもされたら、お前だってイヤだろうが」

「そりゃまあそうだけど……」

「でも、マリナーサさんはさすがでしたね。昨日もヒカリさんを見て、その資質を見抜いておりました」

「そういえばそんな事も言っていたな……」


 エレリナの言葉に、俺も昨日のマリナーサとの会話を思い出す。彼女はハイエルフ特有の眼があり、それはフローリアやミレーヌの魔眼ともまた違う物事を見ることが可能な眼だ。それでヒカリの持つ才能を見抜いたのだろう。


「それじゃあ今日の予定は、ヒカリと一緒にクエストに行く……でいいか?」

「「「「「はい」」」」」

「やった! よろしくお願いします」


 こうして俺達は、満場一致で本日の予定を決めた。




「……で? なんでお主らは屋上(ここ)におるのじゃ?」


 朝っぱらから屋上の露天風呂につかり、やってきた俺達をねめつけるのはヤオだ。基本的にヤオは温泉好きだが、ことヤマト領の……とくに我が家のお風呂は、一日中どころか何日でも入っていられる。ここにはお酒をストックできる場所もあるので、ヘタをすると何日も延々と湯船で手酌をたしなんでいるなんてことも珍しくない。

 そして時々俺達の都合で呼び出したりしたタイミングで、新たに酒を購入してくるからこれからもそのルーチンワークは変わらないようだ。


「ヒカリがクエストに一緒に行きたいというから、基本的な事を覚えてもらうんだよ。ここならよそ様の邪魔にもならないだろ」

「ほぉ、そうなのかえ。なんじゃ、それならわしが直々に──」

「初心者にお前が指導したら相手がつぶれちまうわ。いいから今日はゆっくりつかっとけ。気持ちだけありがたくいただいておく」

「わかった」


 ちょっとばかり興味を示してきたが、さすがに今の段階でヤオの出番はない。そんなワケで、俺はヒカリに装備を渡して彼女がどれほどのものか実際に体感してみることにした。武器や防具は、ゲーム内でいえばトッププレイヤー達ならば誰もが持っているレベルの物に。最高級品一歩手前くらいのものだが、それを見たゆきが「やっぱり甘い……」とぼやいてくる。……なんだかゆきって、妹にはちょっと厳しい?

 ともかくそれで、軽く打ち込んでもらった。武器は両手剣で、刃幅はそれほどなく名称としてはクレイモアと呼ぶのが似合う剣だ。最初は武器を生身で振り回すことに戸惑いを見せていたが、段々とその動きがなれてきて次第に強く鋭さをもった打ち込みをみせるようになってきた。こちらは片手剣でいなしていたが、段々剣だけでは裁ききれないほどの打ち込みも来るほどに。


「はあああっ!」

「っ…………うん、いいな。これなら問題ないだろう。……ゆきはどうだ?」


 じっとヒカリの動きを心配そうにみていたゆきに判断を仰ぐ。十分及第点だとは思うが、それでもゆきが「ダメ」と言うなら俺はそれを尊重するつもりだ。


「……はぁ。しかたないなぁ……うん、いいよ。十分合格」

「やった! ありがとうお姉ちゃん!」

「わっ、こら、抱きつくな!」


 きゃっほーと抱きつくヒカリを、文句を言いながらも強くは引き剥がさないゆきを見て、エレリナが優しげな顔で見つめている。


「もしかして羨ましいとか?」

「ふふ、少し違います。なんというか……ゆきが“姉”の顔を見せているのが、なんだか微笑ましくて」

「あー、わかるー。なんかみててほっこりするよね」


 エレリナの指摘にミズキが同意する。見ればフローリア達だけじゃなく、ヤオも杯片手に二人を見ていた。こういうのを、本当の意味で酒のツマミと言うのだろうか。

 そんな光景を見ながら、俺はミズキとエレリナと話を進める。


「それじゃあどこが丁度いいかな。あれだけの能力ならあまり簡単な所じゃ物足りないだろう」

「そうですねぇ……やはり基本というか、ヤマト洞窟あたりが──」

「あ、ちょっといいかな?」


 少しだけ遠慮がちな感じでミズキが口を開く。俺としてもまずはヤマト洞窟かなと思っていたので、エレリナの意見に賛同しようと思ったのだが。だがミズキが提案した場所は。


「えっとね……その、『古城』に行くってのは、どうかな?」

「古城か……」

「うん。あそこって階層で色々な難易度があるから、わかりやすいかなーって」


 確かにその通りだ。でもそれはヤマト洞窟でもかわらない。となれば他にも何か理由があるか。


「本音は?」

「…………えっと、私達だけだと最後のボス部屋……ちょーっとだけ心配だから。ね、いいでしょ!? お兄ちゃんがいれば絶対大丈夫だって思うからっ」


 そう言って俺をガクガクゆさぶるミズキ。んー……まあ確かにGMでいけばどう転んでも失敗しないだろうけど。


「……わかった。ただ、俺はあくまで引率な? どうにもならないって状況になるまで手助けしないからな?」

「うん! ありがとうお兄ちゃん!」


 笑みを浮かべてだきついてくるミズキ。ヤレヤレだぜ……と思っていると、隣から生暖かい視線が飛んでくる。


「……なんだよエレリナ」

「いいえ、なんでも。ふふ、こちらも微笑ましいですねぇ」


 そう言って先程見た笑みを、俺にも向けてくる。それが少し気恥ずかしくて……けっこう嬉しかった。



メインPCが逝ってしまいサブノートPCの環境整理のため少し投稿できませんでした。

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