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363.それは、新しい風と共に

 唐突な登場でヒカリに飛び込んできたのは、バフォメットの子供こと子バフォだった。このヤマト領を含む周囲の森林を守護するバフォメットは、ここの領民にとっては守護者として親しまれていた。なかでも子バフォはちいさく可愛らしいため、子供達だけでなく女性からも人気が高い。

 とりあえず近くにバフォメットがいないので、おそらくは領端の森林あたりにいるのだろう。ここが交易の中継街でもあるため、外来者も多いからバフォメットもあまり寮内にまではやってこない。


「……とりあえず、バフォメットのところまで連れて行くか」

「えっと、バフォメットというのはどなたさん?」


 不思議そうに聞いてくるところをみると、ヒカリはバフォメットは知らないようだ。LoU特有のモンスターってわけじゃないけど、ドラゴンとかみたいに誰でも知ってるものでもないからなぁ。


「簡単に言えば、その子の親。成長した姿を想像してくれればいい」

「へぇ~、じゃあ今からその……お父さん? お母さん? のトコに行くわけね」

「そういう事だ」


 そんな訳で俺達は、子バフォと共に領地東側の森林へと向かう。ちなみにバフォメットは雌雄同体なので、お父さんでもお母さんでもどっちでもいい。

 森林に近付くと、案の定こっちを見ている者が見えた。目的の相手、バフォメットだ。最初姿を見た時のヒカリは「おお~」と唸っていたが、近付くにつれて段々と顔が引き攣ってくる。

 そしていよいよ目の前に……となったとき、ほぼまっすぐ上を見上げるような姿勢で、ヒカリは唖然とした表情を浮かべるのだった。


「…………でっか!」

「驚きすぎて語彙が貧弱だよ」


 隣でゆきが肩をぽんとたたきながら呟く。なんだかんだでいい組み合わせだなと思う。こういう所が姉妹っぽい。ゆきとエレリナとはまた違った姉妹だ。

 ついでなので、バフォメットにもヒカリを紹介しておく。そしてゆきの血縁者だということも。


「……フム、分カッタ。ヨロシクナ」

「あ、はい。こちらこそヨロシクです」


 バフォメットがそっと差し出した指を、ヒカリがにぎって握手……っぽい挨拶行動をとる。なんかちょっとだけ微笑ましい光景だったので、なんとなくスクショを撮ってみたり。




 バフォメットたちと暫し楽しい時間をすごした後、俺達は次の場所へと向かった。といっても場所はすぐちかくで、ヤマト領の東西に植わっている“祝福の木”のところだ。東西に伸びた通称“お土産通り”の両端にそれぞれ植えられたこの樹は、元々はエルフの里に生えている神木から生まれたものだ。それゆえにこのヤマト領の大地を守護する役目をになっている。それと共に、名前の通り祝福の力も備わっているので、この双樹にお参りをするとご利益があるといわれている。

 そして案の定、今日も領民や観光客が樹に向かって手を合わせている。傍に立てかけたお参りの作法をみて、皆丁寧にお参りをしている風景は日本の神社みたいにも感じる。それを見てヒカリも祝福の樹に手を合わせる。……おお、ちゃんと二礼二拍手一礼にれいにはくしゅいちれいだ。


「ヒカリさんも正しいお参りを知っているんですね」

「ああ、それね。近くにある神社に毎年年始参りしてるからね」


 感心するミレーヌに笑顔で答えるヒカリだが、それであってもちゃんと知ってるのは優秀だ。さて、それじゃあついでにお土産通りを歩いて西側の祝福の樹にも行こうかと思った時。


「皆さん、こんにちは」

「ふふ、また温泉に入りにきちゃった」

「え? あ、マリナーサさんにエルシーラさん!」


 祝福の樹の傍の森林から、特殊なゲートをあげて顔なじみの二人が現われた。ハイエルフのマリナーサと、ダークエルフのエルシーラだ。二人に気付いたミズキ達は駆け寄っていく。丁度いいと思い、俺は二人にもヒカリを紹介した。


「へぇ~、ゆきちゃんの親戚か……」

「よろしくね。んー……でもそうだねぇ……」

「ん? どうかしたか?」

「大したことじゃないけど、ちょっと変わった子だなって思って」

「うん。なんかどっちかっていうと、カズキにどことなく似た部分があるっていうのかな。姿かたちじゃなく、存在っていうのか……ね?」

「あー……。まぁ、その辺りは流してくれるとありがたい」

「くすっ、わかったわ」


 マリナーサだけじゃなく、エルシーラもヒカリの特異さを感じたようだ。確かに俺とヒカリは、正確なことを言えばこの世界の“人間”ではないからな。見ればマリナーサたちに呼ばれるように集まってきた精霊らしき光が、ふらふらとヒカリのほうにも寄って行ってる。先程の子バフォのように、人間以外の者達にも好かれるものを持っているのかもしれない。

 挨拶を済ませた俺達は、お土産通りを歩きながら今ヒカリを観光案内しているところだと伝える。これからも時々遊びにくるから、その時はよろしくと。この二人は、俺達が【ワープポータル】等の転移魔法を使えることを知っているので、それで今後は遊びにくるのだなと解釈してくれた。本当は少し違うが、それが一番わかりやすいと思ったのでそういう事にした。そしてマリナーサはヒカリを見て、


「ねえカズキ。ヒカリちゃんって、他の子みたいにクエストを受けたりはしないの? 冒険者登録もしてないんでしょ?」

「ああ、してないな。ヒカリはちょっと立場が特殊でな、そういった方面にはあまり関わらないことにしているんだよ」

「うーん……そっか。直感だけど、結構才能を感じたんだけどね」


 そんな事を言われても、さすがに彼女をわずかでも危険な目にあうような場所に連れて行くのはどうかと思ってしまう。この世界で生まれ育った人間なら、たとえ子供でも魔物をはじめとする危険は自覚して生きなければいけない。だが、現実世界(むこう)で育った彼女にそれは蛇足だ。

 彼女はオンラインゲームなども特に遊んだことなく、こういう世界を体験しないで育った人間だ。ならば無理に危険なことをする必要はない。クエストを受けたりしなくても、この世界は思いのほか楽しく過ごせるのだから。特に守護の強いここヤマト領内は安全率が格別だ。




 西側の祝福の樹でもお参りを済ませ、二人とはそこで別れた。歓迎するから今度はヒカリもエルフの里に来てといわれた。確かに俺もここ最近行ってないし、たまには行っておくのもいいかもしれない。

 とりあえず、領内を幾つか回ったところでだいぶ日が傾いてきた。当たり前だがこの世界は、電灯なんて存在しないので夜になればかなり暗くなる。幸いヤマト領ではお土産通りと、24時間通行可能な南北に伸びる道路があるため、結構明るい所もあるのだけれど。


「とりあえず、今日の観光案内はこれくらいかな」

「そっかぁ……まあ仕方ないよね」

「別にこれからは、時間がとれれば来ればいいんだから、あせる事もないだろう。それにこっちじゃ照明文化がかなり未熟だから、夜の観光なんて何の成果もないぞ?」

「そうだよねぇ……。あ! だったらここだけでも、夜はイルミネーションとかできない? ホラ、さっき行ったあの動物がたくさんいた……」

「『憩いの水広場』か?」

「そうそう! 別に夜中ずっととかじゃなくても、日没から2時間だけとか限定で水槽にネオンライトが点灯してとか」

「ふむ……」


 なるほど……そういうのもアリか。夜だからといって、それを上手く利用するといった事はいままでもあまりやってこなかったかも。オブジェクトや建造物をライトアップするとか、そういった事はこの世界では見たことなかったからな。そもそもそれをするための照明機器が存在しないか。


「……面白い発想だ。ちょっと検討してみよ」

「やった! さーて、それじゃあ帰ってご飯と、おまちかねの露天風呂~♪」

「あ、ちょっとヒカリ! 一人でいかないの!」


 鼻歌まじりに走り出したヒカリをゆきが慌てて追いかける。

 どうやら、暫くは彼女を中心とした日々を送る事になりそうだな。




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