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362.そして、優しく迎え入れられる

 ヤマト領でも人気のスイーツ店『(なごみ)』にて、皆で甘味を楽しみながら歓談。ヒカリもその味を楽しんだのだが、それ以上に街を行き来する人達をキラキラした目で追っている。

 なんせ往来の人々は、皆時代錯誤……という言い方も変だが、ヒカリが今まで実際に目にした事が殆どないような格好の人ばかりだったからだ。それに相まって風景も、自分の知ってる日本とはかけ離れた光景だった。感覚としては、ずっと日本で育ってきた人が、いきなり水の都ヴェネツィアに連れてこられたら驚く……みたいなものか。

 ヒカリも最初は好奇心と同等なくらい、おっかなびっくりの状況だったが、俺達を見かけた領民たちが皆にこやかに挨拶をしてきたりするので、今はもうすっかりリラックスしていた。そしてヒカリは、屋外席で二つ目のケーキを食べ終わろうという頃、何の気なしにしていた雑談に飛びついてきた。


「お姉ちゃんってペガサス飼ってるの!?」

「飼ってるというのとはちょっと違うかな。えっと、召喚獣ってわかる?」

「うん、呼ぶと出てくるヤツだよね?」


 ヒカリは特別ゲーマーではないらしいが、流石に召喚獣とかくらいは知っているようだ。


「そう。それで私とお姉ちゃんは、それぞれペガサスを召喚獣に持ってるのよ」

「えっ、エレリナさんもですか?」

「はい。私とゆきのペガサスも姉妹です。私の方がダイアナ、ゆきの方がルーナ」

「へぇ~」


 感心するヒカリ。だがこの流れからして、是非とも見たいと思っているのだろう。案の定すぐに「見たい! あと出来たら乗ってみたい!」と言い出した。そりゃそうだよなぁと思い、ならば折角だからと少し移動することにした。さすがに街中で召喚獣をたくさん呼ぶのはちょっとね。




 すこし開けた場所に移動して、各自召喚獣を呼び出す。次々と現れる召喚獣に、ヒカリは先程から興奮しっぱなしだ。フェンリルに麒麟、それにスレイプニルにも驚いていたが、やはり二頭のペガサスにはとてつもなく感動していた。


「こ、これがペガサス……。えっと、こっちの子が……」

「ルーナよ。お姉ちゃんの方がダイアナ」

「そうそう! ルーナちゃん! えっと……触ったりしてもいいかな?」

「かまわないけど……イタズラとかしちゃダメよ」

「しないよっ。えっと、それじゃ失礼して……」


 少しこわごわとした感じで手をのばし、そっとルーナの首筋に触れる。「おおっ」と驚きながらも、両手で優しく触れ、鬣をそっと撫でたりする。最初は少々恐々していたヒカリだが、すぐに満面の笑みで抱きつくようにしながらなで始めた。ルーナの方もヒカリとは初対面なのだが、どこか落ち着いた感じで顔を摺り寄せたりしている。主であるゆきに似たものを感じたりしたのかな。


「……ふう。思わず触れ合いを堪能してしまった」

「あげないよ? ルーナは私の子なんだから」

「わかってるわよ。そのかわり乗せてくれるんでしょ?」

「まぁ、それくらいなら……」


 そう言って、ルーナを軽くひと撫でして、ヒラリとその背中に飛び乗る。そして馬上からヒカリに手をのばして、引き上げる。


「わっ……とっと……」

「大丈夫よ。普通に座ってれば落ちないから」


 少し高くなった視点に驚くも、すぐさま笑みに変わる。その様子を見て、皆もそれぞれ召喚獣に騎乗する。


「……それで、どこへ行くのですか?」


 スレイプニル上……いつものように俺の前に座るフローリアが、顔をこちらに向けて聞いてくる。とりあえずはこの辺りを飛んで、上空からの景色を……というつもりなのだが。なのでまずは、適当に領地を一周する事を伝えた。まずはヒカリと飛行行動の様子見というところだ。

 そしていよいよ飛行開始。最初は結構怖がる様子をみせるも、すぐに状況になれたのかかなり身を乗り出して周囲を見下ろしたりするようになった。


「すご……なんか、ドローン使ってみる景色っぽいかも」

「あぁーわかる。でもそれなら、フローリア様がまったくその通りの事できるよ。フローリア様の召喚獣に白いインコがいるんだけど、そのインコが上空から見た景色を受信して見ることができるから」

「へえぇ、まんまドローンだね……あ、かわいい!」


 話を聞いていたフローリアが、さっと白インコのアルテミスを呼び出してヒカリの肩にとまらせる。その姿にはしぎならが、ざっと周囲の召喚獣たちを見る。


「ペガサスは翼もあるしまだわかるけど……他の子達はどうやって飛んでるんだろ?」

「あはは、そうだね。でも、ペガサスだって翼があるってダケじゃ多分飛べないでしょ」


 素朴な疑問にミズキがのってくる。言ってることはもっともだが、俺達はこっちの世界になれすぎてしまっているので、彼女のように別の価値観をもって客観的に見れないと、そういった疑問はなかなか出てこないのだろう。

 その後、少しばかり空を散歩がてら飛んでいた。ある程度満足した頃合で、


「……よし。それじゃあ一旦降りようか。この街の領民にも、ヒカリの顔とゆきの血縁者ってこと知ってもらったほうがいいだろうしな」

「そうだね。ちょっと遠方に住んでて、時々遊びにくる親戚って設定だね」

「……なんだか“設定”っていうのが少しばかりアレだけどな」


 軽口をたたきながら俺達が降り立ったのは……ヤマト領の『水の憩いの広場』だ。突然空から何頭かの動物が降りてきてさぞ人々も愕く──なんてことはなく。


「領主さまー! お馬さん乗せてー!」

「ミレーヌ様ー! わんちゃんさわりたーい!」


 近くにいた子供達がわーっと走り寄ってくる。それを聞きつけ、広場にいたほとんどの子供が俺達の周りにあつまってきた。お目当てはもちろん召喚獣たちだ。

 男の子にはスレイプニルや麒麟が人気で、女の子には二頭のペガサスが人気らしい。わんちゃんと呼ばれてるフェンリルのホルケは、勇ましさと豊かな毛並みゆえに男女どちらからも人気が高い。要するに、うちの召喚獣はみんな人気だ。

 ……さすがにここではフローリアのサラスヴァティは出さないけど。子供はすぐになれるだろうけど、多分親が愕いてしまうだろうかなら。

 少しすると、子供だけじゃなく親や観光で訪れていた人たちも集まってきた。そして俺達に話しかけてくる。その中で、俺達は一緒に降りてきたヒカリのことも話す。


「へぇ~、ゆきちゃんの親戚の子かぁ」

「そういえば、どことなく顔も似てるわね」

「あ、はい。昔から一緒なので、もう妹みたいなもので……」

「ほぉ! ゆきちゃんの妹なら大歓迎だよ。なぁ?」

「おう!」

「だね」

「ありがとうございます。時々こうやって遊びにきますので、その時はよろしくお願いします」


 ニコニコと笑顔で応対するヒカリに、領民の皆も暖かく声をかける。そんな華やかな場に、前触れもなくやってくるモノ(・・)がいた。それは、人々の間をするすると抜け、ヒカリのところまでまっすぐやってくると。


「わわっ!? な、何!?」


 ピョンと飛び跳ねて、ヒカリの腕の中に飛び込んできた。一瞬愕くも、その姿を見て俺達だけじゃなく、多くの領民も笑みを浮かべる。その相手をみたミズキが指差しながら。


「わ! 子バフォちゃんが遊びにきた!」

「え? え? えっ!?」


 腕の中で擦り寄ってる子バフォをおっかなびっくり抱えながら、ヒカリはあたふたと周囲を見渡すのだった。




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