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361.そして、新たな世界で羽を伸ばす

「わあぁー……すごいねぇ……」


 目の前にいる人物ヒカリ、こと現実世界(あっち)での菅野陽光(ひかり)は、窓から見下ろすヤマト領の景色に感心している。

 ここはヤマト領にある俺達の家のリビング。そこへヒカリは、向こうから転移してきてしまったのだ。最初は単純に俺に捕まっての転移を試みるが、それはあえなく失敗した。だが、俺のPCに繋がる独立したサーバーに新規で彼女のキャラクターデータを登録したところ、なんとこちらに来れてしまったのだ。

 そのヒカリは、窓から外を見ながらミズキやミレーヌと楽しげに話している。フローリアとエレリナが、それをどうしたものか……という感じで見ている。

 そして──


「ねえカズキ……本当にヒカリを連れてきちゃったけど、大丈夫なの?」

「あ、いや。そこは俺もどうなんだろうとしか……」


 中でも一番どうしたらいいのよって感じの人物は、前世では彼女──陽光の姉だったゆき。2つの世界とかゲームとか、何より姉妹だからと色々事情が一番わかっているため、困惑もしているし喜んでもいる状況だ。


「でもまあ、状態としては俺と同じなんじゃないか? だから多分大丈夫だとは思うが」

「う~ん……そうならいいんだけど……」


 さすがに妹が心配なのか、普段よりも幾分真面目な感じのするゆき。だが、そんな姉の心を知らずの妹は、ニコニコ笑顔でこっちにやってくると。


「ねぇねぇカズキさん! カズキさんってここで一番偉い人なんですか!?」


 興味津々という感じで聞いてくる。この後の事もあるし、まずはヒカリに色々と話すのが先決かな。


「そうだな。じゃあ少し話をしようか。まずは──」




 まず話したのは、俺とこの街について。

 俺ことカズキ・ウォン・ヤマト公爵は、現在ここのヤマト領の領主を務めている。この土地は元々ただの交易道路だった場所を、俺が一から基礎固めをして今の街にしたこと。なので俺が最初の領主なんだと。

 それから皆の事も、こちらの世界での立場を踏まえて説明をした。

 ミズキは単純に俺の妹だが、フローリアは隣国であるグランティル王国の王女であること。ミレーヌはミスフェア公国の領主令嬢であること。エレリナはその専属メイドであり、その妹がゆきだと。

 そしてエレリナ──本名ゆらとゆきは、彩和というあちらでいう日本みたいな国の出身だと。

 正直伝えたい情報は山ほどあるが、ひとまず最低限の事だけを教えた。一度に言っても、ヒカリも覚えきれないだろうし。

 だがまあ、今与えた情報だけでも結構な分量らしく、ひかりはどこは呆気にとられたような表情だ。


「……あー……うん。えっと、聞いてる間は理解できるけど、さすがに覚えきれないかな」

「まあそうだろう。まあ、ここヤマト領では皆そこそこ知られてる人物ばかりだと思ってくれ」

「そこそこって……」


 ゆきが呆れたようにいう。いや、俺だってこの領民にはほぼ漏れなく知れ渡ってると思うけど、なんだかそういうのを自分で言うのって恥かしいじゃん?

 ただ、そういう感じで皆に知れ渡っているから、一つだけ俺は決め事をした。それはヒカリの対外的な立場についてだ。というのもヒカリはゆきを「お姉ちゃん」と呼ぶ。これだと普通、ヒカリ=ゆきの妹と思われるが、その年齢差があまりない事と、なによりゆきの姉であるエレリナの存在も知れ渡っているからだ。なのでここでのヒカリの立ち居地は、ゆきの親戚で、懐いてる妹分という事になった。

 その辺りを話すと、さっそくヒカリは「街が見てみたい!」と言い出した。さっき東京に来て観光したい場所を幾つか聞いたばかりだけど……そう聞き返すと。


「こっちの方が見たい! ねえお姉ちゃん、いいでしょ?」

「あ、えーっと……」


 困ったようにチラリとこっちを見るゆき。もしかして生前のゆきは、あんな風に妹におねだりされると断れない性格だったのかな。それが久しぶりだから、本人も嬉しくて絶対断れない状況か。


「まぁ、そのために親戚だって設定を考えたんだからな。これからも時々こうやって遊びにくるんなら、領民にも認知してもらってた方が便利だろ」

「ありがとう! じゃあさっそく行きましょうっ」

「あ、ちょっ、ヒカリ!」


 ゆきの手を引いて楽しげに玄関口の方へ向かって行く。仕方ないので俺も行こうとすると、当然だと皆も着いて来る。なんだかんだ言って、ヒカリがこっちに来たのは嬉しいのだろう。

 玄関部屋にいくと、早く早くとせがむ犬のように目を輝かせたヒカリが。だがやってきた俺達を見て、


「あれ? ヤオちゃんは?」

「アイツはこっちにいる時はだいたい屋上の温泉だ」

「温泉? 屋上に?」

「ああ、ここの屋上には露天風呂があるんだ。この建物全体が俺の所有だから、屋上の温泉も入りたかったら入っていいぞ」

「ホント? やった~」


 嬉しそうによろこぶヒカリ。さっき窓からの景色に感動してたから、あれをお風呂から見れたらまた喜びそうだな。




 外に出た俺達は、まず両ギルドへ向かうことに。特に冒険者ギルドで、ヒカリが俺達の関係者だという事をちゃんと徹底しておけば、ヘタな冒険者がからんで来る事は大幅に減るだろう。無論そうそう彼女を一人で行動させるつもりもないが、念の為にしておいたほうが良いだろう。


 こうしてまずは冒険者ギルドへやってきた。最初に入って来た俺を見て、冒険者の多くは会釈をしてくる。その冒険者の多くは、ここのギルド所属の冒険者だ。その後に入ってくるミズキ達をみて、声を掛けようかとする者もいるが、さらに続くフローリアやミレーヌを見てすぐに足を止める。そんな何時もの光景だが、最後にゆきとヒカリが一緒に入って来た。

 職員にギルドマスターのユリナさんに話があると伝えると、すぐさま奥に言って聞いてきてくれた。案の定どうぞと通されたのでいつものように奥へ行くが、俺はちょっとだけその場に留まった。そして見慣れないヒカリに気付いた職員に「彼女はゆきの親戚で、これからは時々遊びにくるんで」と説明をした。それを受けて回りで聞き耳を立てていた人達にも、彼女によけいな手出しをしないようにという意味合いが伝わったようだ。


 そして応接室に入ると、そこにはユリナさんの他にエリカさんもいた。なにやら丁度ギルドマスター同士での話し合いをしていたらしい。やってきた俺達を見て、俺とフローリアとミレーヌに座るようにすすめてきた。さすがに人数が多いので全員が座れないと思ったのだろう。

 だが、二人の一番気になっているのはやはりヒカリだった。俺達が座ったところで、ユリナさんがこっちを見る。


「あの、カズキくん。そちらの子は?」

「どことなく、ゆきさんに似てる気がするけど」

「はい。彼女はヒカリ。ゆきの親戚で、昔から姉妹みたいに育ってきた子です」

「「へー」」


 最初からあった興味プラス、ゆきの血縁者と言うことで何割り増しでの興味が上乗せされた。


「初めましてヒカリです。よろしくお願いします」

「私はこのヤマト領の冒険者ギルドマスターのユリナよ。よろしくね」

「同じくヤマト領の商業ギルドマスターのエリカよ。ふふ、よろしくね」


 挨拶をしながら、何故かユリナさんとエリカさんはこっちを見る。……何だ?


「ねえカズキくん。まさかと思うけど、ヒカリちゃんも?」

「ん? 何が?」

「いや、だってほら、フローリア様もミレーヌ様も、それにミズキちゃん達も……ね?」

「…………あっ、違いますよ」


 ここに来て、ようやく俺は彼女たちの言葉の意味を理解した。

 要するに、ヒカリも俺の婚約者とかそういう関係の人物なの? っていう意味だ。当然それは違う。でも、そんな風に思われるとは思っていなかった。


「ともかく、彼女はそういうのではないです。それよりも、今後度々遊びに来ると思いますから。なので一応挨拶と報告をと思ってきただけです」

「そう、わかったわ」

「了解よ。んー……それじゃあ顔見せも済んだし、(なごみ)にでも行く?」


 エリカさんの言葉に、女性陣はわっと盛り上がる。只一人、ヒカリだけは顔に「?」を浮かべている。


「あの、ナゴミというは……?」

「ここの通りにあるスイーツ店よ。エレリナさん監修で、すごく美味しいんだから」


 楽しげに説明するユリナさん。この二人は、後輩ともども和には通いつめてるもんな。


「エレリナがあちらのスイーツを研究して、こっちでも造り上げたケーキとかがありますよ。とても美味しいからおすすめです」

「そうなの? 行く! 行きます!」


 こそっと耳打ちするミレーヌの言葉に、はいはいと元気良く返事をするヒカリ。

 そういえば、元々現実世界(あっち)では連休を使って東京見学する予定だったもんなぁ。これはしばらく異世界(こっち)の観光旅行ってことになりそうだ。



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