357.そして、開かれた古城
01/11更新予定分は01/12に投稿致します。
LoUの中でも、デーモンロードは最強クラスのレイドボスだ。その理由の一つに“古城に出現するから”というのがある。デーモンロードが出現する最終部屋は、部屋の仕様上「1パーティーしか入れない」という制限があり、通常のレイドボスなら複数パーティーで挑める所を1パーティーで戦うしかないのだ。そして、そんな条件があるにも関わらず、取り巻きの眷族であるデーモンイリュージョンもかなりの強さ。ヘタをすればちょっとしたボスモンスターよりも強い位に。
でも、それはあくまでLoUというゲーム上のプレイヤー視点での話。一斉に襲い掛かってくるデーモンイリュージョンに向けて横薙ぎをする。振るう武器は、予めフローリアに強力な聖属性を付与してもらった、いわゆるエンチャントウェポンだ。俺が振った剣に触れたデーモンイリュージョンは、その部分が霧にでもなるように浄化され、瞬く間に全身が霧散していく。
これで多少警戒されると手間だなぁと思ったが、所詮眷属モンスターだからなのか、こちらへの対応に変化はみられない。なので続けて同じように武器を振るい、早々に全4体のデーモンイリュージョンを跡形も無く消し去った。
残るはデーモンロードのみだが、実はLoUでこうすると結構厄介なことになる。というのも、眷属のデーモンイリュージョンを先に討伐すると、その分デーモンロードが強くなってしまうからだ。攻撃や防御などが単純に増加するのだが、その上昇率が討伐数にそって『125%→150%→200%→300%』となる。
以前王都で戦った時は、召喚の魔石で呼び出したため遠地にいるデーモンイリュージョンとのリンクが切れており、その補正は入らなかった。だが今回はちゃんと補正が入っているようで、目の前にいるデーモンロードが纏っている禍々しいオーラを濃く大きく変化させる。
こちらにまで漂ってくるオーラが、俺に触れた部分から霧散して消えていく。この段階にまでなると、普通ならばこのオーラで麻痺や混乱といった状態異常にもなる。そして濃密な魔力の塊でもあるオーラは、同時に魔法攻撃をほぼ無効化するほどの強さになる。要するに、LoUでは眷属を先に倒すのはタブーという事だ。それをすると、閉鎖された毒ガス部屋で戦うようなものなのだから。
だけど、勿論GMキャラには通用しない。多少視界が悪くなったかな、くらいの印象しかない。
濃密なオーラを纏っているデーモンロードの方へ歩いていく。当然俺が触れた先から、音もなく霧散していくオーラ。
『グォオオオオオッ──!』
近寄ってくる俺をみて、声ならぬ絶叫を上げるデーモンロード。う~ん……コイツは会話不可か。バフォメットが意思疎通できたからちょっと期待したけど、こればっかりは仕方ない。
近寄ってくる俺に対し、手にした王笏を振り下ろしてくる。だが俺は、それをわざと受ける。GMの性能により、打撃が到達しないのがわかっているからだ。ちにみにこの王笏、対象の相手を麻痺させる効果があるため、以前王都で戦った際うっかり油断して受けてしまった記憶がある。今回その事を踏まえて、先んじてGMにキャラ変更しておいた。そうじゃなかったら、今の攻撃は全力で回避してたな。
王笏がぶつかった……ように見えた付近に麻痺効果を示すエフェクトが飛ぶ。だが俺の視界に移るUIには、麻痺アイコンは表示されてない。なので悠々とそのまま前進していく。
『グウウウゥ……グガアアアッ!』
どこか苛立ちを感じさせるような声で、もう一度王笏を振り下ろすが、当然俺は状態異常にならずそのままデーモンロードの前にたどり着く。ハッキリ言って舐めプレイだ。このGMキャラが“仕様”で守られているため、デーモンロードのあらゆる攻撃は俺に通ることはない。万が一可能性があるとすれば、フローリアの魔眼のように俺の……というかLoUの仕様──プログラム制限を越えた現象でないと無理だ。
これまでの所、LoUに存在したモンスターがその仕様以上の性能を発揮したことはない。目の前にいるデーモンロードも、打撃が効かないと判断しての魔力攻撃に切り替えたが、こちらのインチキ具合はそんなものじゃないので当然無効だ。
……うん、十分検証したかな。そう思って俺は剣を上段に構えると、以前戦った時も同じ構えをしたことを思い出す。あの時手にしていたのはGMのデフォルト武器である天羽々斬。でも今手にしている聖属性魔法を付与した剣の方が、何倍もデーモンロードには効果的だろう。
少しだけノスタルジックな気持ちになりながら、俺は迷いなく剣を振り下ろした。
「カズキ、お疲れ様でした」
部屋の隅にいたフローリアが、討伐完了した俺の傍にやってきた。とりあえず古城の主であるデーモンロードを倒したが、どうだろうか……。
「見てくださいカズキ。外が……」
「ん? あっ、空が見えるな」
先程までは城の窓から見える外の景色が、黒いうねりが漂う空間一色だったが、今は普通に空が見える。そこから差し込む光は、間違いなく太陽光だ。そう思っていると、ふいに念話がとんできた。
『主様よ。なんだか突然異様な気配が出現したのじゃが、なんじゃこれは?』
突如聞こえた声で、俺はもう一度外を見る。どうやら主であるデーモンロードを討伐したことで、この古城にかかっていたプロテクトみたいなものが解除されたようだ。多分今なら、普通に外からこの古城を見ることが出来るだろう。
『ヤオ、まずはこの声をフローリアにも聞こえるようにしてくれ。いま一緒にいるんだ』
『おおそうじゃったの。のう、フローリアよ、聞こえておるか?』
『まぁヤオ様! はい、聞こえております』
三人で会話可能な状態になったので、俺は手短に状況を説明した。先程まで古城が作り出した空間にとじこめられて、外部との連絡ができなかったこと。そして、古城の主であるデーモンロードを倒したことで、その制御シーケンスが正しく稼動するようになり、その古城が出現したこと。
『──そんな訳だが、とりあえずここの管理とまず冒険者ギルドに伝える。おそらくはすぐにでも冒険者がやってくるが、最初の階はともかく上へ進むにつれ急激にモンスターが強化される。その辺りの徹底をしないと怪我人が続出すると思うしな』
『なるほど。……というか、そこの城主モンスターはそんなに強いのかえ?』
少しばかり楽しげな声色でヤオが飛びついてくる。確かにヤオならば、そういう事で興味をもつのも必然だな。
『そうだなぁ……バフォメットといい勝負、といったところか。場合によってはそれ以上かもしれん』
『ほっほぉ~、ソレはいいことを聞いたのぉ』
『まぁ、暫くは一般冒険者たちが詰め掛けるから、遊びに行くのは控えてくれ』
『ふむ、仕方ないのぉ。まぁ気長に待つとしようか』
とりあえずヤオに釘をさして念話を切る。しばらく話していたため、多少時間経過したのだが……。
「……? どうかしましたか?」
「えっと、ボスを倒したのに何もドロップされないなと思って」
フローリアの疑問に答えながら周囲を見るも、クリアすると開く出口のドアが動いたのみ。あのドアの先には転移魔方陣があり、クリアしたパーティーメンバーはそこから城の前に戻れるのだ。ちなみにLoUでも同じ仕様で、クリアできなかった場合は死に戻りである。
もしかしたら今回の戦闘、普通の形式じゃなかったからドロップ無しってことかもしれない。少なくとも何も変化がないので、少し残念だが転移魔方陣で外へ出る。……問題なく城の前に出た。これでもう暫くすれば、あの部屋にデーモンロードの召喚魔方陣が復活するのだろう。そこからはLoUと同じで、訪れた冒険者相手に戦いを繰り広げていくことになるハズだ。
ただし、その難易度はこの世界でもかなりのものになるだろう。最も、城の道中でさえまともに突破できる冒険者は少ないだろう。
まずは冒険者ギルドへ行き、そこでユリナさんと話をしよう。この古城に関する情報と、それに連なるクエストの提示について。
これでまた一つ、ヤマト領が活性していくことだろう。それに長い事気になっていた事も解消できた。どこかほっとした表情をしている俺の手を、すっと横からフローリアがつないでくる。
「そろそろ戻りませんか?」
「ああ、そうだな。それじゃあ──」
目の前にポータルを出そうと構えるがフローリアが止める。
「あの、もう少し……」
「ん?」
「もう少しだけ、一緒に歩きませんか?」
「…………ああ、そうだな」
ゆっくりと構えた手を下ろし、そのままフローリアの手をにぎる。一瞬驚きの表情を見せるも、すぐさま「はい」と返事をして握り返してきた。
そして俺とフローリアは、少しだけいつもよりゆっくりとヤマト領へ戻った。




