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356.そして、備えがあるから憂いなし

「ふっふふのふ~ん♪」


 俺の隣……というか、腕に抱きついて鼻歌を奏でているのはフローリアだ。先程、思わず抱きしめてしまった後、我に返って離れようとしたのだが何故か全然解放してくれない。

 ちょっとばかし歩きにくいし、何かあったらと思うのだが。


「うふっ、ふふふのふ~♪」


 すんごい満面の笑みなので、とても離してとか言える雰囲気じゃない。

 ……そう。先程俺はこの世界で、久々に本気で焦ってしまった。俺の不注意から、ノワールパラディンの攻撃がフローリアに向いてしまったからだ。実際のところこの世界においてフローリアは、特異なステータスのため怪我を負うことはない。だけど、いざ目の前で彼女に向かって振りかぶった槍が振り下ろされそうになったら、とてもじゃないが黙っていられなかったのだ。

 結果俺がノワールパラディンを倒し、思わずフローリアを抱きしめてしまったのだ。その結果、フローリアは上機嫌状態となったわけである。

 まぁ、既に次のフロアへの通路にたどり着いたため、今は最終フロアへの階段を進んでいるだけだ。この先に居るのはボスのみ……城主のデーモンロードだけである。流石にデーモンロードと戦う時は、離れてくれるだろう。……あれ。そういえばフローリアはデーモンロードに文句をぶつけるとか言ってなかった? どうなんだろうとチラリと見ると、丁度こっちを見たフローリアと視線が合う。


「さっきのカズキ、すごく素敵でしたよ」

「……おお」


 ニコリと微笑んでそんな事を言ってくるので、思わず視線が泳いでつまらない返事を返してしまう。なんだろう、さっきの慌てた行いも含めてすごく気恥ずかしい。

 だがフローリアはそんな俺を見て、軽く笑いを零しながら言葉を続ける。


「先程のですが……もしアレが私以外でも、同じようにしましたか?」

「は?」


 まさかの質問に思わず立ち止まる。その反動で「きゃっ」とより強く抱きつかれた。

 そしてそのまま、じー……っとこちらを見つめてくる。


「……さっきのは咄嗟に出た行動だけど、多分あれが他の人でも同じことをしたと思う」


 そして思った事を返答する。多分俺はさっきのが誰だろうと、同じ事をしたはずだ。

 ……でも。


「でも……あんなに我を忘れてしまったのは、やっぱりフローリアだからだと思う。誰でも同じことをする、とは言ったけど…………うん。フローリア達は、特別だ」

「…………ふふ、やっぱりカズキさんですね」


 そう言ってどこか安心したように相貌を崩す。


「ちゃんと“私”ではなく“私達”と言ってくれましたから」


 微笑みながら一度ぎゅっと強く抱きしめると、ようやく腕を解放してくれた。……まぁ、それでも手を繋いではいるけど、それに関しては俺も心のどこかで安堵しているのを感じた。




 そしてついに、最上階へ到着。

 ここの階は、ザコモンスターは出現せす、ボス部屋への直通通路があるのみだ。この辺りの設計は、LoU特有のものだ。

 通路を歩いていくと、正面に大きな扉が見えた。そこが古城のボスであるデーモンロードとの決戦の場所だ。さすがにここまで来ると、フローリアも俺の手を解放してくた。そして静かに頷く。


 それを見て、俺はボス部屋への扉を開けた。部屋は広い吹き抜けほどの天井になっており、巨大なモンスターが暴れても問題なさそうな部屋だ。ただ何より目をひくのは、床に描かれた大きな魔方陣。それ以外は存外ガランとして寂しげな部屋である。……まぁ、これもLoUまんまなんだけど。

 ここで普通の人なら「何もいませんね」とか言うところだろうが、流石にフローリアの魔眼は性能が違う。床に描かれた魔方陣をじっと見つめたかと思うと、


「……あの魔方陣から、デーモンロードが出てくるのですね」


 見事に正解を言い当てた。あの召喚魔方陣は、周りの模様をプレイヤーが踏む事により室内の出入りが不可となり、その後中央にデーモンロードが出現する仕様だ。

 ではどうしようか。さっきまでのフローリアは、自分で文句を……みたいな事言ってたけど。もしかして、一緒に戦う気なのかな? まさか自分だけで行くとか、そんなトンデモは言わないよね? 何て聞いたらいいのかちょっと困っていると、くすっと笑って俺の顔を覗きこんでくる。


「心配しないでも、邪魔なんてしませんよ」

「あ、うん。でもさっきはホラ……」

「そうですね。あの時はすこぉーし不機嫌だったので、私自身でデーモンロードさんに文句を言うつもりだったんですけどね」


 そう言ってニコリ……ではなく、ニヤリに近い笑みを浮かべる。さすがに面白がってわざとやっているのはわかるけど、綺麗な子がそういう顔をするのって本当にビクッとする。


「でも、私が危なそうになるとカズキが心配しますので」

「……そうだな、うん。わかった、じゃあフローリアは入り口の傍まで下がって。部屋の隅にいれば、デーモンロード達からのヘイトは向かないかな」

「わかりました。……“達”?」


 了承の返事を返すも、すぐさまフローリアは疑問を口にする。ああ、そうか。LoUプレイヤーなら常識だけど、ボスモンスターの眷属モンスターって概念は無いのかな。


「覚えてない? 以前──」

「ああ! バフォメットさんとお会いした時に討伐していた魔物ですね」

「そうそう」

「なるほど……でしたら、また補助魔法をおかけします」


 そう言ってフローリアが魔法を詠唱する。確かにその時も、こうやって補助魔法を付与してもらってたなぁと今度は俺が思い出す。



「【祝福の風】【聖なる意志】」



 防御魔法と、武器への聖属性付与魔法をかけてもらう。これでより磐石となった。


「ではカズキ、大丈夫とは思いますがお気をつけて」

「ああ、ありがとう」


 フローリアが部屋の隅に退避したのを見て、俺は床の魔方陣の端に足先を重ねる。そこがぼんやりと光、その光がすぐさま魔方陣全体に広がっていき光の柱が立ち上る。同時に周囲の4箇所からも一回り小さい光の柱が立ち上り、そこから眷属──デーモンイリュージョンが姿を現す。

 そして最後に、魔方陣中央からのそりと現われるデーモンロード。この世界では以前見たことあるはずだが、その時よりも確実に強いと直感した。

 目の前にのデーモンロードと、眷属のデーモンイリュージョン4体が出現した。これが普通のソロプレイヤーなら無謀なボスチャレンジだが、あいにくこっちはインチキ満載のGMキャラだ。しかし、まず最初にやるべきことは──



「【サンダーチェイン】」



 手を前に突き出して電撃を飛ばす。弱いモンスター相手なら麻痺効果も期待できるが、ボス級モンスターにはまともなダメージにはならない。当然ダークロードにとっては、毛ほどのダメージも無い……が。俺の放った電撃が、すぐさま跳ねるように飛んで周囲にいるダークイリュージョンに連鎖していった。

 この魔法は周囲にいる敵に対し、1撃ずつヒットして飛び火する電撃魔法だ。こういった集団戦の場合、いっきにヘイトを集めることが可能になる。ただし余程強いプレイヤーでなければ、一斉にヘイトを集める=一斉に攻撃を受けるという事になり、下手をすれば即死誘発の自殺行為でもある。

 その証拠に、フローリアに気付きながらも目の前にいる俺にタゲを向け気味だったダークイリュージョン達は、今や完全に俺だけをターゲットとして捕捉している。

 これで、後方にいるフローリアに敵が向かうことはなくなった。


 ──それじゃあ、対ボス戦を開始しようじゃないか。




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