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355.それは、自分一人じゃないから

 俺達は庭園まで戻ると、そこからいよいよ古城へと入って行った。なかなか厳かに設えた入り口をぬけると、そこは広い玄関ホールとなっていた。いきなり何か出てくるかもと思ったが、そこはゲームと同じで別に待機しているようなこともなかった。

 だが見える範囲にも、何体か魔物がいるのが確認できる。ゲームと同じならこのフロアは、スケルトンやゾンビといった低級アンデッドが主だ。ただ、ほんの僅かだがワイトなどの上位種もいるので、古城の1階での狩りをする低レベルプレイヤーは注意しないといけない。

 そんな事を考えている間にも、俺達に気付いた魔物たちが近寄ってくる。だがいかんせん相手が悪い。破魔の象徴ともいえる聖女のフローリアに、低級のアンデッドができる事はなにもない。まるで誘蛾灯のように魔物を引き寄せながら、にじみ漏れ出ている聖属性の力で近寄ってきた相手を片っ端から勝手に浄化してしまう。なんだかアクションゲームで無敵状態になり、敵を片っ端から蹴散らしている風にも見える。


 結局フローリアは、戦棍(メイス)を握りながらもまともに一振りもせず1階を通り抜けた。LoUでなら、高レベルのアサシンであれば捕まらずに駆け抜けることが可能だが、無防備にてくてく歩きながら尚且つ漏らさず殲滅していくなんてのは不可能である。

 ちなみに道中だが、俺とは普通に会話をしていた。だが時々現れては襲ってくる魔物に対しては、一切注視せずに放置して殲滅している。色々と思うところもあるが、とりあえずデーモンロードにたどり着くまではあまり気にしないようにしよう。




 古城の2階に来たが、ここも凡そは1階と同じ感じで進む。多少魔物がランクアップして、グールとかスケルトンアーチャー、スケルトンウォーリアーなどになった程度だ。それと1階よりもランダムで徘徊しているワイトが少し増えた。そのため、ようやく……というと語弊があるけど、ワイトとも遭遇した。

 だが、いかんせん相手はフローリア。多分大丈夫だろうと様子見していたが、近寄ってきたワイトに軽く戦棍を一振りして浄化していた。スケルトンアーチャーだけは遠距離攻撃をするので、こればっかりは俺が……と思ったのだが。


「…………はぁっ!」


 手を翳して聖属性の魔力弾を飛ばしていた。なんかもう『アイツ一人でいいんじゃないか』的な流れになってきており、苦笑いが止まらなかった。




 そして3階に到着。この古城がゲームと同じなら、次の階はほぼボス部屋のみなので、ザコモンスターが出てくるのはここまでとなる。だが、その分急激に強い魔物が出てくるため、さすがにここからは俺が前に立って進むことにする。

 フローリアも2階分突き進んできたおかげか、多少気持ちも晴れたようだ。もっとも、デーモンロードには一言言わないと気がすまないというスタンスは変わらないようだけど。

 俺が前を歩くという形で進む。といっても二人なので、フローリアは斜め横にいてもらう。真後ろではもしもの時に間に合わないかもしれないから。

 そうして進んでいくと、前方よりガチャガチャと鎧の音らしきものが聞こえてくる。この古城3階で、あそこまで鎧音を響かせる相手は一種類しかしない。


「カズキ、あれは……?」

「この階にだけ出現する限定モンスターの“ノワールナイト”だ」


 俺の言葉が終わる頃合で、前方から不気味なオーラを漂わせた騎士が出現する。だが一体ではない。ノワールナイトはいわば古城に棲まう闇の騎士団で、普通に遭遇する場合は小隊として現れる。つまりこの古城の3階は、ソロプレイヤーはよほどの腕前でないかぎりは進めなくなってしまうのだ。

 目の前にやって来たノワールナイトの小隊は、どうやらゲームと同じで30体のようだ。そのためソロプレイヤーの場合、たとえ素早さが抜きん出ていても突破できない。となれば、正面からねじ伏せて進むしか道はないのだ。

 そんなノワールナイト小隊の先頭にいた個体が襲い掛かってくる。俺はすぐさま反撃を開始する。相手は魂の無いアンデッド群、遠慮はいらない。俺はその軍勢の中につっこんでいく。普通であれば無茶な事だが、幸い予めGMキャラにしてあったためまったく無傷だ。だがこいつらを倒さないと人垣とでもいうべき壁ができているので、進めないことにかわりはない。

 なので俺が全力でヘイトを集めて、その間にフローリアが詠唱を完成させる。


【荘厳なる聖域】(サンクチュアリ)ッ!!」


 彼女の声が通路に響くと同時に、俺を中心に光の柱が立ち上りそれが広がっていく。その幅は通路の端まで届き、周りを囲んでいたノワールナイト達を全て飲み込む。


 ──────ッ!!!


 光の柱が眩しく輝くと同時に、飲み込まれたノワールナイト達から言葉にならない絶叫が、空気の震えとなって耳に届く。ほどなくして光が収まると、通路には俺とフローリアしかいなくなっていた。

 フローリアが放った【荘厳なる聖域】は、指定したパーティーメンバーを中心にして範囲回復をする魔法だ。回復魔法をアンデッドに使用すると、それが攻撃効果になるのはゲームと同じだ。これは彼女専用で、本来はLoUのNPC専用のイベント演出用魔法だが、これまども何度か使ってもらっている。今回ここが古城で、アンデッドの巣窟なので存分に使ってもらうことにしたのだ。


「……疲労とか大丈夫?」

「はい。まったく感じませんし、魔力のストックもまだ存分にあります」


 そう言って腕輪にふれる。確かにまだまだ魔力貯蔵は十分だし、フローリアも元気満々だ。

 俺もキャラ特性のため、一切のダメージを受けていない。本来のLoUであれば、古城3階を二人パーティーで進むなんて無謀だが、まったくもって何の問題もなかった。


「この階にいる相手は、さっきのが規準だから。もう何度か出会うことになると思うけど」

「大丈夫です。それに慢心も油断もしません」


 そう言ってかわいらしく拳を握る。その姿が思わず頬が緩むが、それで俺が気を抜いてたら元も子もない。なので改めて気を引き締め、先程と同じように俺が前になり進んでいく。

 途中同じように2度ほど、ノワールナイト小隊に遭遇した。その際、最初の隊では全員が剣装備だったのが、一部槍装備になっていたが特に問題はなかった。これが弓装備だとすると、場合によっては距離が離れて【荘厳なる聖域】が届かない場合がある。そうなった場合手間だったので、そこは幸運だったともいえる。

 ともかく、無事この階を抜けれる──と思ったが、最後にまたノワールナイト小隊と遭遇。ざっと見たところ今回も弓兵はいないようだ。なので先程と同じように俺が飛び込んで、そこを中心にフローリアの【荘厳なる聖域】で浄化する……はずだった。

 違和感はそこで生じた。通路に広がるノワールナイト達だが、暗いこともあり一番奥の存在を見落とすことがある。ただしそこに弓兵がいることはない。その場合は、視野が届く中ほどにも存在するからだ。

 だが俺がその時見たのは、ノワールナイトの後ろにどっしりと構える……馬の脚。


「しまっ──」

「【荘厳なる聖域】!!」


 慌ててフローリアに声をかけようとするが、既に魔法は完成して発動した。先程と同じように範囲回復魔法が、ノワールナイトを包み込んで浄化していく。そして光が収まった後にいるのは、俺とフローリア……だけではなかった。


「……えっ」

「フローリア! こいつらはノワールパラディンだ!」


 大声で叫びながら、悠然と立つノワールパラディンに剣を振りおろす。先程の小隊は、ノワールパラディン3体を指揮系統とする隊だったのだ。ノワールパラディンはナイトより魔法防御耐性が高く、アンデッドでありながら聖属性魔法が非常に利きにくい特性がある。これは元は聖騎士パラディンだった者が、アンデッド化したからというLoUの設定があるからだ。

 まず正面中央のパラディンに剣を振り下ろす。物理防御も高く盾もあるため、それを盾で受け止められてしまった。ただこれでまずヘイトを一体獲得。続いて横にいるパラディンへ剣をなぎ払うと、そちらは防御がまにあわず剣が胴へ突き刺さる。これで二体。だがここで、胴に剣がささったままパラディンが盾を振り回してきた。GMキャラなので無視すればいいのだが、つい反射的に防御をしてしまう。

 ──それがまずかった。残りの一体が、俺を通り過ぎてフローリアの方へ向かったからだ。


「フローリア! 防御!」

「え! は、はいっ!」


 駆け寄ってくるパラディンに驚くも、すぐさま俺の声に返事をして掌を前に突き出す。腕輪に蓄積した魔力を掌に厚め、自身の前に光の障壁を作り出した。そこに体当たりをかますノワールパラディン。その勢いは非常に強いが、咄嗟とはいえフローリアの作り出した障壁を越えることはなかった。

 だが、大きな魔物がフローリアにぶつかっていく場面を見て、俺は思わず叫んで駆け出す。


「離れろおおおおッ!!」


 これでもかという全力で駆け寄り、思い切り横殴りに切り捨てる。襲われているフローリアを見たというのもあるが、油断しないと言ってた傍からミスを犯した自分が、やるせなくて怒りのぶつけどころにしたというのもある。

 結局その勢いのまま、残りのノワールパラディンも俺が切り捨てた。そしてすぐさまフローリアのところへ行く。


「フローリア!」

「え? あ、あの、カズキ……?」


 気付けば思わず抱きしめていた。俺もだが、フローリアもそんな行動をされると思ってなかったらしく、戸惑ったような声が聞こえてくる。

 フローリアであれば俺が何もしなくても、多分ここでなら傷一つつかないだろう。でも、そういう事じゃないんだと俺の中で恥かしさと後悔がささやいていた。

 それが上手く言葉にできず、俺はただ「ごめん」と繰り返して抱きしめるしかなかった。

 そんな俺を驚きながらも、やさしく頭を撫でてくれる。


「大丈夫ですよ。カズキが一緒なんですから」


 そう言ってくれたこの強くて小さな少女を、俺は今しばらく抱きしめていた。



本作の年内更新はこれで終了です。一週お休みをして、次回更新は1/7となります。

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