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35.それは、避けられぬ横道

 現実(あっち)から戻ってきた俺の前には、ミズキとフローリア様がいる。

 たしかログアウト直前の場面は──


『というわけで、カズキ様、ミズキさん。海、行きませんか?』


 そうそう、たしかそんなセリフだった。それを聞いて、これはもう行くの決定かなと思って、ミスティア公国のことを調べに戻ったんだったな。


「いいんじゃないですか? ……国王様が許してくださるのなら」

「お父様の許可ですか。そうですね……多分大丈夫かと」

「ええっ? 国王様ってそんなに簡単に許可してくれるんですか?」


 大丈夫だろうとあっさり言うフローリア様に、ミズキが驚く。俺もまあ、驚きはした。いくらフローリア様のステータスが高くても、大事な娘で第一王女をそんな簡単に。

 などと思っていたのだが。


「私、ミスフェア公国には従妹(いとこ)が居ますので、お互いの国によく訪問するんですよ」

「ああ、そういえば確か……」

「お兄ちゃん、ミレーヌ様だよ。アルンセム公爵家のご令嬢」


 そうだった。確かそんな名前だったな。

 なるほど、それならば訪問するという行為自体は、よくある事だから問題はないということか。となるとあと問題なのはおそらく。

 すばやくUIを操作して自分のステータスを見る。覚えている魔法の種類は、どうやらLoUでのプレイヤーキャラ状態と同じようだ。だが……やっぱりだ。【ワープポータル】の行き先にミスフェア公国がない。たぶん実装後にこっちのキャラで行ったことがないか、行っても登録を忘れたか。もしくは他のプレイヤーの【ワープポータル】屋さん、通称“ポタ屋”で移動してたのかもしれない。

 どっちにしろ、直接移動するしか方法はないわけだ。だとすれば気になるのは、


「フローリア様。普段ミスフェア公国へ行く場合、同行者などは?」

「そうですね……通例なら何台かの大型馬車のほか、騎士兵が何名かと侍女も何名かです」


 やはり結構な大所帯だ。詳細を言わなかったが、大型馬車という単語にはそのまま業者など兵士以外の人間も含まれているのだろう。

 しかしこれは普通のことだ。王族の、ましてや第一王女が別国へ訪問するにあたっては、もっと過度な同行があっても不思議ではない。

 だが、今回はちょっとそれは好ましくない。


「……フローリア様。少し相談したいことがあります」

「何でしょうか、カズキ様」


 俺が真面目な話を切り出したのを察して、きちんとこちらに体を向けて返事を返された。

 こういった些細な所で『ああ、やっぱり王族なんだな』と時々痛感する。


「今回のミスフェア公国訪問ですが……」


 そんな王族の王女に対して、俺は結構な事を言う。


「私とミズキ以外は、同行者無しにできませんか?」




「そのような事、許可できるはずありません!」


 キッパリと俺の意見を却下するのは、王宮騎士団の団長さんだ。

 あの後、俺の話を聞いたフローリア様とミズキは、満面の笑顔で賛成をしてくれた。というのも、そこには大きな秘密があるからだ。

 その秘密とはずばり、道中の休憩・食事・睡眠などの行為を、ログアウトして現実(あっち)の世界で行おうということだ。

 それには同然異世界(むこう)の世界を知っているという条件、つまりミズキとフローリア様だけで行くという事が必須条件になる。

 また期間中、こちらの世界は延々と移動することに費やされるので、夜中であろうと移動することになる。無論、向こうで十分な睡眠をとった後の移動になるから、寝不足での深夜強行という事ではない。

 この申し出に対し、ミズキもフローリア様も大いに賛成してくれた。なんせ食事や休憩、そしてお風呂などを旅路でも問題なく行えるという事に、とてもつなく魅力を感じてくれたらしい。

 おかげで二人の脳内では、他の同行者がいる=食事と休憩が楽しくなくなる、という事に。まあ、本当はそれが普通なのだが、二人は既にあちらでの生活を一部楽しんでしまったのだ。

 そんな訳でフローリア様は、同行者無しという方針に積極的なのだった。


「ですから、同行者としてカズキ様とミズキ様に……」

「特にそこです。その二人、聞けばただの冒険者というではありませんか」

「ただの、ではありません。二人とも一流の冒険者です」

「一流、ですか。報告は受けてます。平民の兄妹で、兄はAランクだが、妹はまだDランクだという報告ですが」


 あちゃー、またここでミズキのランクがちょっとネックか。実力なら全然Aランク以上なのに、ちっともランク上げしてない影響がこんな時にも……。近いうちにせめてBランクにでもしないとダメか。


「ミズキ様がDランクなのは先日登録したばかりだからです。その実力はAランク以上だと、冒険者ギルドマスターからも伺っております」

「……そうですか」


 騎士団長はチラリとミズキの方を見る。その視線は相手の力量を推し量るかのうようだが、ミズキの場合はあまりにも見た目と中身の差があるからなあ。

 見られてるミズキも、どうしていいのやらという表情を浮かべる。


「申し訳ありませんが、とてもそのようには見受けられません。その冒険者ギルドマスターが、虚偽報告をしているのではありませんか?」

「……はぁっ!?」


 騎士団長の言葉に、思わず反応して変な声が出てしまった。グランツのことはミズキのランク昇格時の対応などを見て、結構信頼できる人物だと思っているので、こんな事を言われたら反応してしまうのも仕方ない。

 だが当然騎士団長は、そんな俺に対して侮蔑の混じった視線を向ける。


「そこの者、何か言いたげなことがあるようだな」

「よくも知らない人間に対し、虚偽だなんだと言うのは騎士としてどうなんだと思っただけですよ」

「…………なんだと」


 すごいありきたりな事を言ってみたら、ありきたりな展開がキタよ。


「私は王宮騎士団長として、王女の安否を気遣い発言しただけだ。王女の危険に繋がる要素は、たとえどんな小さいことでも看過するわけにはいかない」

「その考えは立派なもんだ。でも、それでグランツ……ギルドマスターを罵るのは違うだろ」

「そうです騎士団長。先ほどの冒険者ギルドマスターへの言、取り消してください」


 俺の言葉にのり、フローリア様が発言取り消しを要求する。


「……いええ。たとえ王女の言葉でも、自分が間違ってるとは思いませんので」


 なんだろう。これも凄いテンプレなんだけど、いかにも騎士団長って感じがするな。こういうタイプか、もしくは元平民出身で人望に厚い二択って感じかな。

 すると、そこまで流れを見ていたミズキが口を挟んできた。


「それなら、私が戦って勝てば問題ないんじゃないかな?」


 ミズキの発言に、フローリア様はそうそうという表情を浮かべるが、当然騎士団長の表情は一層険しくなる。


「お断りします。こんな女冒険者に勝ったところで、何の価値もありません」


 おー、言ってくれるねテンプレ発言。なんだろうな、俺ってあんまりこういう流れに持って行くの上手くないから、普通ならもっとこういう展開に出会えてるはずなんだけどな。

 まあいいや。ともかくこう来たのなら、次の発言は安い挑発展開だ!


「なるほど分かりました。騎士団長はミズキ様に負けるのは恥かしくて、勝負から逃げたと」

「な!? 王女、いくらなんでもそれは……」

「あら、何か私が間違っておりますか? 事実貴方は勝負に背を向けようとしていますわ」


 ……あれ。なんでフローリア様が、挑発係やってるの?

 ミズキなんてタイミングを逃したって顔で、口をパクパクしてる始末だ。


「……わかりました、いいでしょう。この申し出、受けさせていただきます」


 そう言うが当然騎士団長は忌々しげに、ミズキを……あれ? 俺を見てる?


「そちらの女冒険者は部下が、そしてその男冒険者は私が直接相手を致します」

「あれ? 俺も?」


 何故かこの茶番劇にまきこまれてるんだけど。いやまあ、確かに他人ではないけど、この流れで俺が戦う理由あんの?


「いいでしょう。今回護衛同行するカズキ様の力を知っておきたいのですね」

「はい。せめて私と互角に戦えなければ話になりませぬゆえ」


 ああ、そういう事か。何か私怨とかだったら、どうしようかと思ったぞ。


「カズキ様、よろしいでしょうか?」

「ええ、かまいませんが……」

「どうかなさいましたか?」


 ちらりと騎士団長を見る。んー……いいのかな?


「この勝負って、城内の闘技場とかでやるんですよね? それって騎士団の方とかが見たりは……」

「どうなんですか騎士団長」

「なんですか。負けるところを見られるのが、恥かしいという事ですか?」

「えっと、大丈夫なんですか?」

「……どういう事ですかな」


 俺の言葉に騎士団長が、少し声を落として聞き返す。


「いやですから、大勢の部下の前で負ける姿を晒しても大丈夫なのかと……」

「この私が負けると言うのかッ!」


 あれ? 何か気遣いを間違えたか?


「いいだろう。ならば大勢の人の前で討ち負かしてくれる」


 そう言い放つと肩を怒らせたまま、闘技場の方へ歩いて行ってしまった。

 すっかり声も届かないくらい離れたところで、ミズキが言った。


「ダメだよお兄ちゃん。あんな挑発すること言ったら」


 ええー……お前ら二人だっていろいろ言ってただろうが。

 あんまりお城の人と、ギスギスしたくなかったんだけどなぁ。


「カズキ様、がんばってくださいね!」


 はいはい、がんばりますよ。

 ……もしかして、ケーキとかお風呂とかの為に頑張れってこと?


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