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347.そして、討伐依頼の舞台は整う

 圧倒的な力量差を示したミレーヌは、今回の海洋巨大烏賊(イカ)──クラーケン討伐依頼に関しての特別参加が認められた。空を駆ける召喚獣と遠距離攻撃手段の保持は、大変有用だとの判断が下ったようだ。

 ともあれこれでミレーヌを含め全員で、今回の依頼を行う事になった。これがヤマト領の冒険者ギルドであれば、ユリナさんが何の問題もなく了承してくれるから楽なんだけど。






 では、さっそく討伐任務へ……と行きたいところではあるのだが。俺達はまだ冒険者組合にいる。その一室を借りての作戦会議だ。


「主様よ、それでその“くらーけん”とやらの討伐じゃが、どうやるつもりじゃ?」


 ヤオの言葉で皆の視線が俺に集まる。今回のクラーケンが今までと一番違う所……それは何より、生息場所だ。今回のクラーケンが巨大なイカだということでわかるとおり、ヤツのいる場所は海。これが陸上であれば全員が一斉に囲んで、袋叩きにすれば万事解決だろう。

 だが、流石に海というのは手出しがしにくい場所だ。召喚獣たちでちかよるにしても、海上ならいざ知らず海中は無理というものだ。

 となれば、やはりどうにかして陸上……せめて立てる浅瀬にまで引きずり出さないといけない。その事を告げると皆考え込んでしまう。なんせ話によれば、そのクラーケンとやらはかなり大きいらしく、ともすればヤオの本来の姿といい勝負かというほどらしい。


「カズキ。その役目……私に引き受けさせては貰えませんか?」

「え? フ、フローリアが?」


 俺だけじゃなく、皆もその発言に愕く。だが当の本人は落ち着き払っており、ちょっとしたお使いの役目を私にとでも言ってるくらいだ。


「はい、是非私に──私とサラスヴァティに」


 彼女が自分と自分の召喚獣に任せてくれと言う。その言葉を聞いて、皆もあぁと幾分納得の声を漏らす。彼女の召喚獣サラスヴァティは、白き魔獣ヒュドラだ。そしてフローリアと主従関係を結んだことで、水神の御使いという状態になっている。そのため、フローリアが自分の意識を移し、サラスヴァティを水中で自在に動かすことが可能なのだ。

 以前ヤマト洞窟の地底湖で行って以来、ときどき綺麗な水場で行っているとの事。ただ、海のような広大な場所でやるのは初めてらしい。


「たしかにフローリアとサラスヴァティなら、水の中でも自由に動けるから可能かもしれないが……」

「あっ! それじゃあ、ペトペンも同行してもらえばどうかな?」


 少々不安だという俺の声に、ミズキがアイディアを出す。たしかにペンギンのペトペンなら、同じように水中では素早く動けるし、何よりミズキの呼びかけで瞬時に送還できる。


「その……よろしいのですか?」

「大丈夫だと思うよ。ペトペンもフローリアのこと好きだし。ちょっと聞いてみようか……っと」


 すぐさまミズキがペトペンを呼び出す。ミズキの前にちょこんと呼び出されたペトペンは、まずミズキを見たのちフローリアの方へ視線を向ける。フローリアは膝を折ってペトペンへ顔を寄せた。


「ペトペンさん。実は、海にいる大きなイカをおびき出すため、水中にもぐらないといけないのですが……ご一緒願えますか?」


 そう問いかけると、すぐさまきゅっきゅっと声をあげながらフローリアの足に擦り寄る。どう見ても「まかせて!」との返事をしているようにしか見えない。


「ふふっ、ありがとうございます」


 笑顔のフローリアがペトペンをやさしく頭をなでると、きゅぅと嬉しそうな泣き声をあげた。






 作戦を決めた俺達は、組合長に話をしてある場所を教えてもらった。それは、この付近で人が近寄らず、そして相応の広さがある場所だ。もちろん、クラーケンをおびき出した後、戦うための場所である。

 幸いにも要望にあう場所があり、俺達はすぐさま移動した。街から少し離れた所にある小さな孤島で。適度な広さの浜があり、当然ながら無人である。普通の人たちには離れ小島だが、俺達にはそんな事は関係ない。

 場所的にも少しばかり沖合いとなり、クラーケンが出没する海域にも近付いたのは好都合だ。

 ……そして何より。


「……うむ。感じるのぉ」


 ヤオが敏感にその存在を感じていた。


「街の者達よりほどよく離れた結果、海から漂ってくる強力な力が心地よいほどじゃ。主様よ、どうやらこの近くにお目当ての“くらーけん”がおるじょうじゃ」

「わかった。フローリア、お願いしていいか?」

「はい」


 フローリアがサラスヴァティを呼び出す隣で、ミズキがペトペンを呼び出す。しかし、さすが水に関する召喚獣というべきか、二匹ともが自分の主を見た後すぐさま沖合いに目を向ける。どうやら二匹とも、クラーケンの存在を感知しているようだ。


「ではカズキ、お願いします」

「ああ、まかせろ」


 俺の返事に笑顔で頷くと、すぐ傍にやってきたフローリアがふっと意識をうしないもたれかかってくる。俺はそれを慌てずやさしく抱えてやる。フローリアの意識をサラスヴァティに移したため、一時的に気を失ったのだ。

 サラスヴァティが光り輝き、淡い光を発した状態でフローリアの姿となる。俺は彼女自身をかかえているので、意識を移動した彼女と会話が可能だ。


『……大丈夫ですね。ではペトペンさん、お願いしますね』


 そういってペトペンに触れると、嬉しそうにないて擦り寄っていく。よくこのコンビで水の中で遊んでいるらしく、俺の知らない仲良し度合いがあるのかもしれない。

 そして『行ってきます』との言葉を残し、フローリアとペトペンはすーっと沖の方へすべるように海中へ進んでいった。方角は、先程二匹がじっと見つめていた沖合いの方だ。


「よしっ! それじゃあ皆、準備を頼む!」

「「「「はいっ!」」」」


 ミズキ、ミレーヌ、ゆき、エレリナの返事が響く。ミレーヌはホルケを呼び出しているが、他の三人は今回は自分の足で動くようだ。

 そして俺は、もう一人へと視線を向ける。


「ヤオ、頼んだぞ」

「うむ。まかせておけ」


 そう言うとヤオは、予め呼び出しておいたスレイプニルに飛び乗る。そしてすぐさま飛び上がり、あっという間に見えなくなってしまった。

 おーおー張り切ってるなぁ……と、思わず苦笑したその時。


『カズキ! 来ました!』

「えっ!? もう来たのか!?」


 あまりにも早いフローリアからの連絡に愕く。俺の声に、周りの皆にも緊張が走る。


『どうやらあちら様も、私達の存在に気付いていたようです。あっ、来ます!』

「わかった。余裕をもってこちらに誘導してくれ」

『はいっ』


 屋外ということでUIのマップが使えるので、それで戻ってくるフローリアを確認する。認識エリア内に戻ってきたフローリアのすぐ後ろ、何か大きなマークが追跡してくる。これがクラーケンか、でかいな。

 どうやらフローリアの強大かつ純粋な魔力に惹かれ、獲物を追うがごとく追いかけてきているようだ。ミズキたちは浜辺の水際ほどに立つ。


「フローリア! そのまま皆の横を抜けて俺のところまで走り抜けてくれ!」

『はい!』


 水中から顔を覗かせたフリーリア姿のサラスヴァティは、そのままミズキ達の横を走り抜けて俺のところに飛び込んでくる。そしてフローリアの体に触れると、強い光を放ち意識を身体へと戻した。


「……ふぅ、いかがでしたか?」

「ああ、完璧だった。ありがとう。暫くここで休んでいてくれ」

「はい」


 俺の言葉を聞いて、すぐさまサラスヴァティがフローリアを守るように体勢を整える。そして視線を前に向けると、既に四人は姿を半分見せたクラーケンと激突していた。

 すぐさま俺もそこへ加わる。それに気付いたクラーケンが、俺に対しても手を伸ばしてくる。相手が巨大なイカということで、合計10本の手があるのだが、一人当たり二本ほどの割り当てらしい。そのため、クラーケンの手はすべてが浜辺の方へ伸ばされていた。


『ヤオ、今だ!』


 念話でヤオへ指示を送る。そして──




「了解じゃああああああ~~~~~~ッ!!」




 上空から大絶叫で降りてくる影が。

 浜の浅瀬にいるクラーケンよりも少し向こう側、そこへまっすぐ落下していく一つの小さな影。

 その身体が水面に激突する間際、膨大な魔力がそこから放出された。

 着水で飛び上がる水しぶきは、人一人が水に落ちた程度で撒き散らされる量ではなく。

 着地と同時に、まるで地震かと思わせるほどの地揺れを呼び起こす。

 舞い上がった水しぶきの霧の中、うっすらと姿を見せたそれは──



『悪いが逃がさぬ。我がここに居たこと、後悔するのじゃな』



 ゆっくりと複数の鎌首を持ち上げ、幾多の頭と幾多の尻尾を揺らし、目の前にいるクラーケンに匹敵するその巨躯こそ、ヤオの本来の姿──八岐大蛇(ヤマタノオロチ)であった。



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