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345.そして、磯香る地へ

 行き先が彩和ということになったので、とりあえず少し仮眠を取ることにした。ここと彩和ではおおよそ10時間ほどの時差があるので、午前中の今向こうへ行くと丁度日が暮れて夜になったばかりになるのだ。

 各々仮眠を取ったり、彩和へ行くこということでそれなりの準備をしたりで数時間ほど経過したところで、、改めて出発となった。

 行き先は、以前スサノオと相対した時の洞窟前。以前行ったときに登録してあったのでポータルは設置したのだが、場所の地名はまだ不明のままだ。

 準備が終わり全員で玄関部屋へ。この部屋は俺達であれば、魔力を消費しないで全員一斉に転移できるようになっているからだ。


「じゃあ、行くぞー」


 気軽な俺の声に、皆笑顔で頷く。まるで近所にピクニックにでも行くかのようだが、気分的にはそれと同等だ。違うのは、行き先が知らない場所でちょっと遠いってことくらいか。




 そんな訳で、いつも通りにお手軽に彩和へ到着。

 ただし目の前に広がる景色は、見慣れた大衆食堂の裏庭ではなく、ざっと見渡す限り木々が生い茂っている山の中腹だった。俺達の後ろに洞窟があり、以前はここから出てきてスサノオに会ったのだ。

 とりあえず後ろは山で、それ以外は山が見えるだけであり、ここがどこなのかはまだ不明。


「ヤオ、ここがどの辺りなのか見当もつかないか?」

「ううむ……なんとなく彩和じゃろうとはわかるが、流石にどこあたりなのかは……」


 さすがに情報が少なすぎるのか、ヤオもよくわからないとの事。


「しかし、よく見るとあちらには裾野が広がっておるようじゃな。……うむ、どうやら港町か」


 だがさすがに人智を超えた存在だ、とても人間の肉眼じゃ見えない事をこともなげに言う。


「それじゃあ、その付近まで行ってみるか」


 俺の言葉に皆すぐさま召喚獣を呼び出す。そしていつものようにフローリアが俺のスレイプニルに乗ってくる。そして今回はヤオも同乗だ。

 他の召喚獣だと三人は少し手狭に感じるかもしれないが、俺の呼ぶスレイプニルは他より一回り大きいため、十分余裕をもって騎乗できる。

 そして見知らぬ山間を下っていくと、ヤオの指示する方向に広がる裾野と町が見えてきた。建物が見慣れた感じの木造建築のようで、やはりここが彩和なんだなぁとようやく実感がわいてきた。

 このまま町中まで飛んでいくといらぬ騒ぎになるかもしれないので、人目に付く前に少し手前の森林道へと降り立った。そしてそのまま皆で歩いていくと、徐々に人々が住まう町というべき雰囲気の場所へとたどり着いた。


 町は思ったよりも活気があるようで、大都市というわけじゃないのに往来は人でにぎわっている。特に祭りでもある様子じゃないのに、こうやって賑やかしいのはいいことだと思う。

 町の中央を通る道には、屋台のようなものがあったりして、往来の人々も楽しげだ。せっかくなのでそちらに寄ってみる。


「へい、いらっしゃ……おっ! 綺麗なお嬢さんをたくさんつれて、お兄さんどっかの貴族様かい?」


 焼き醤油系の香りのする屋台へいくと、そこのおじさんが笑顔で話しかけてきた。


「ああ。ちょっと別の大陸から来て、ここ……彩和だったか? 色々なところを旅しているんだ」

「おう、そうかそうか! でもお兄さん、彩和なんてひとくくりにしないでくれ。ここは『お伊勢さん』のある由緒正しい場所なんだからよ」

「お伊勢さん……伊勢神宮、ですか?」

「おぉ! お兄さん、よく知ってるねぇ~」


 俺の反応に気を良くしたおじさんは、サービスするからどうだと屋台を勧めてくれた。貝やイカやタコなどを串焼きにしたものだったが、伊勢の海で取れた新鮮な魚介だとか。たしかにイカとかも、すごく肉厚なのにやわらかくて上手かった。

 その後お値段をサービスの会計を済ませ、お礼を言ってまた歩き始めた。するとゆきが隣にきた。


「お伊勢さんかぁ~。別に文句はないけど、案外近かったね」

「そうなんですか? 私、その『オイセサン』というのがどの位離れているのかわかりません」

「ああ、お伊勢さんっていうのは親しみを込めた呼び名で、伊勢神宮っていう神社の事だ。そしてそれがあるこの地を伊勢って呼んでいるわけだ。それで、どの位離れているかというと……」


 そういいながら視線をエレリナへ向ける。大武闘大会が終わったので、普段着をいつものメイド服として心構えをエレリナに戻していた。なんとなくだが、やっぱりミレーヌのすぐ後ろにメイド姿で立っている姿が見慣れた感があるな。

 そんなエレリナは俺の意図をくんで、説明の続きを引き受ける。


「私達の町から、そうですね……湾を迂回するので多少大回りになりますが、それでも距離感としましてはヤマト領からミスフェア公国へ直進した場合と同じくらいです」


 確かに近いとは思うが、それでも普通に歩けば何日もかかるし、気軽に出かけられる場所じゃないことも確かだ。もちろん俺達には適応されないけど。

 ただ、俺はここが伊勢だと聞いて、妙に納得もしていた。なんせ伊勢の代名詞ともいえる伊勢神宮だが、ここに祭られているとされているのは天照大御神(あまてらすおおみかみ)──日本神話の主神であり、スサノオの姉だ。以前俺達の前にスサノオが来たのも、無関係ではないのだろう。もちろん俺達は、そんな存在と事を構えるつもりはないけど。




 ここが伊勢という事であれば、十分な町……いや、街といってもいいだろう。たしかに中心街によってくると、人の多さに目が行く。中には完璧な旅行者という者も結構いて、ここが街道の中継の役目をも果たしているのだと理解できる。

 ちょっとした観光気分で歩いていると、何度か見たことある文字と看板が視界にはいってきた。


「あっ! 冒険者組合だよ! きっと伊勢の支店だね」

「そっか、ここは彩和だから、ギルドじゃなくて組合って名称だっけ」

「そうそう。ね、カズキ。ちょっと見に行かない? もしかして、いい依頼があるかもよ?」

「そうだな……。よし、行って見るか」


 ゆきの提案をうけ、俺達は冒険者組合の建物へ入っていく。中にいた冒険者達は、俺達を見てどこか不思議そうな顔を向けてくる。実際今の俺達は、ゆき以外は彩和ではあまり見ない服を着ているからな。ヤオも最近は、着物ベースより動きやすい短パンをはいてたりするし。

 でもだからといって、俺達にからんでくるような人はここにはいないようだ。無用な手間をとられずに安堵しながら、俺達は依頼掲示板のところへ。地元であれば顔なじみの受付に聞けば手っ取り早いが、さすがにここは初見なんで普通に依頼を見る。

 何かめぼしいものは……と思っていると、周囲にいた冒険者たちの雑談が聞こえてきた。


「……だから、今日はなんとかなったらしいぞ。さっき漁師達が言ってたからな」

「そっか。そういえば久々に魚介料理が普通に並んでたな」

「まぁな。でも、こんな状況があんまり続くと、そのうち獲れた魚介は全部役人にもってかれるんじゃないのか?」

「だよなぁ……。でも、あんなのどうすればいいのか……」


 ……なんだ? どうも聞いた感じだと、なにか理由があって魚漁が出来ない傾向にあるのか? さっき俺達が食べた分については、さっき言ってた『今日はなんとかなった』というヤツか。

 他所の話なんだけど、ちょっとばかり気になるなぁ。でも首をつっこんでもいい案件なのかな……と、少し迷っていた俺を、誰かがくいっと引っ張る。みるとヤオが、何か言いたそうにしていた。


「ん、どうした?」

「主様よ、今聞こえてた話なんじゃが……」


 どうやらヤオも俺と同じ話を聞いていたらしい。そのヤオの指が、依頼掲示板の中に貼られている一枚の依頼書に向けられる。


「あれが原因なんじゃなかろうか?」

「どれどれ…………っと、これは……」

「ん? 何?」

「どんな依頼?」


 俺が少し言葉をつまらせるのを見て、ミズキとゆきが覗き込んでくる。フローリアたちも「何かしら?」という感じでこっちに寄ってくる。

 その依頼書にかかれた内容は──


「海洋巨大烏賊(イカ)の討伐!?」


 近海沖に住み着いた海洋巨大烏賊──クラーケンの討伐依頼だった。



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