344.そして、新たなる志への道……その前に
全試合無事に終わり、最後に優勝者への表彰があった。
そのプレゼンターとしてフローリアがミズキにお祝いの言葉を送っていた。なるほど、そういう役目もあって呼んだわけね。
こうして無事、今年の大武闘大会は終了したのだが、俺の仕事はこれからである。そもそも俺たち……というか、ミズキ達が大会に出た理由は、ヤマト領との親睦を深めてもらうための先駆けのようなもののためだ。将来的にヤマト領を小国家として独立させる際、無用なトラブルを極力避けるための前準備だ。
なのでミズキたちに出場してもらい、今年の大会を盛り上げながら良い関係を築けたら……という目的のもと行った結果…………非常に満足いく結果になった。
元々レジスト共和国としては、別にヤマト領に対して何か遺恨があるわけでもないし、今までミスフェア公国やそこを通じた外洋国との交易が、新たな中継都市であるヤマト領のおかげで便利になったほどだ。また、レジスト共和国から見れば、グランティル王国とほぼ同じほどの距離に、温泉をメインにした新たな観光地が出来たため、結構遊びに行く人もいるのだとか。
なので、むしろお互いの仲をもっと深めたいとさえ言われた。そうと知っていれば、わざわざ外堀を埋めるべく大会に出なくても良かったのだが、これはこれでミズキ達が楽しんだので良しとしよう。
こうして、レジスト共和国での大武闘大会と、それを通じて国と親睦を深めるという目的は、十二分に成果を出して幕を閉じたのだった。
大武闘大会が終わり、幾分観光客が減っていたヤマト領にも活気が戻ってきた。さすがに大陸内でも有数のお祭りがあると、客をもっていかれるのは仕方ないことだ。でも、それが終わるとすぐに人がやってくるのは、この領地の観光地認知が行き届いてきたという証だろう。
温泉は無論のころ、気軽に浸かれる足湯も好評だ。足湯につかりながら、飲み物や軽食をいただけるという、いわゆる『足湯カフェ』みたいな店も人気らしい。
あと、子供や家族連れはやはり『水の憩い広場』がダントツの人気だとか。直接ペンギンたち戯れることが出来るスペースは、子供達に大人気だ。また、特製ガラスで作った巨大な水槽で優雅におよぐ魚達も人気だ。ここに入ってる魚は、多くが色鮮やかないわゆる熱帯魚系であり、その色とりどりな魚の泳ぐ水槽をずっと張り付いて眺めている人も珍しくない。
……だいぶ、色々と整ってきたな。
でも、まだまだやるべき事はたくさんある。今後を考えての領地拡大とか、ここ特有のお土産などの生産のほか、子供達の教育をするための学校などの建設だ。この世界には、現実ほどのガチガチな義務教育制度とかはなく、平民の多くは文字を読み書きできない場合が多い。そういった子供達に、簡単ではあるが文字の扱いや、生活で必要な計算能力、あとは将来に役立つための各種勉強の場としての学校を用意するつもりだ。
これに関しては適材な者を、彩和の狩野一族から派遣してもらう話を以前からしてあるが、そろそろ本腰入れて話す頃合だろうか。
国としての独立を目指す前にも、やるべきことはまだたくさんある。だけど──
「よし! 今日はどっかへクエストにでも行こう!」
「…………どしたの、お兄ちゃん」
朝食時、皆がいるところで俺はそう宣言した。
なんというか……まぁ、要するに気晴らしである。大武闘大会でのミズキ達を見ていて、なんか自分も久々にクエストなり何なりで身体を動かしたくなったのだ。
その事を告げると、呆れられる……とおもいきや、皆笑顔で賛成してくれた。
なんでもフローリアとミレーヌも、参加者であるミズキたちを見ながら、どこかうずうずしていたと言うのだ。……君ら、いわゆるお姫様なんだよね?
そして大会参加者の三人だが……理由は単純明快。本当の全力を出したい、との事。大会は大会で充実していたが、その分魔法を封じての全力ということで、些か目に見えないストレスもあったようだ。ミズキに関しても、『全力魔力を乗せて拳を振りぬきたい』とか。……いかん、嫁達が脳筋思考になってる。
ただ、それを言うと言い出したおれこそ脳筋か。
そんなわけで誰も止めることなく、久しぶりに全員でどこかへクエストに行くことになった。
さて、それでは何所へ行くか? という話になったのだが。
「ヤマト洞窟周辺の、南西を詳しく調べるというのはどうでしょうか?」
「ラウール王国に向かう途中の大森林とかは? あそこってまだまだ未開拓だよね?」
「洞窟の地底湖と、リーベ湖の関係も気になります。調査を一考してみてはいかがかと」
「ここの東の森林の向こうって、どうなってるのか気になるよねぇ」
皆が自分の考えを口にするが、どうにも意見が合致することがなさそうだ。ふと見ればミレーヌが何か言おうとしながらも、少し言いよどんでいる様子だ。
「ミレーヌは何かないのか? どうにも、言いにくそうにしてたけど」
「あっ……えっと、ですね」
発言することを少し迷っていたが、仲間内で遠慮は無用なのは全員の共通意思。そんな訳でミレーヌが口にしたのは。
「以前、調査ということでミスフェアの対岸にある洞窟を調べました。その奥にあった水晶で、彩和のどこかへ転移したのを覚えているかと思います」
「ああ、そんな事もあったな」
確かたまたま同行してたリスティ王女と俺とヤオが、彩和のどこか不明な洞窟に転移してしまった時のことだ。幸いにも何も問題にはならなかったが、その時であった人物が少し特異だったといえる。
「私としては、ミスフェアからどこかへ繋がっている事に起因して、何事か起きないかと少々心配でして……でも、気のせいかとも思いますし」
「ふむ……そうだな。いいんじゃないか? あの繋がった先がどうなのかってのは、俺としても気にはなっていたし。でもまあ、これに関しての決定権は……」
そう言いながら、俺の視線はヤオへ向く。なんせあの日、あそこで出会った人物おいうは、伝承にてヤマタノオロチを討伐したとされるスサノオだからだ。
洞窟から出たヤオを、どうやってかは知らないが感知してスサノオはやってきた。そしてそのまま、手にした天叢雲剣の刃をヤオに向けたのだった。当然それを無視できるはずもなく、俺も天叢雲剣を抜き誇示することで、ヤオがスサノオが討伐すべきヤマタノオロチではないことを認めさせて引いてもらった。
だが、ヤオにとってあまり心象の良い場所ではないのだろう。そう思っていたのだが。
「なんじゃ? わしの許可がいるのか? なら別に問題なかろうて」
あっけらかんと言うので、少し拍子ぬけした。思い悩むほどじゃないにしても、少しくらい苦汁の表情をにじませるかと思っていたので。
「それともなんじゃ? 主様はわしが困る表情がみたいのか? こじれた性癖じゃのぉ」
「いや、そんなんじゃねーよっ」
はぁー、と一つため息をつき、俺は皆の顔を見る。その目はもう既に行き先は確定し、さあいこうかといわんばかりの感情が溢れていた。
「……よし。それじゃあ、今回はあの洞窟から繋がった彩和の調査だ。皆、いいな?」
「「「「「はい」」」」」
「うむ」
皆の重なった了承の返事に、ヤオは満足そうに頷く。
さて、久々にまったくの未知の場所だ。鬼が出るかじゃが出るか……という所だな。まぁ、蛇なら既にいるんだけどね。




