338.そして、一人目のファイナリスト
追記:11/19更新予定分は11/20に投稿致します。
準決勝前に、暫しのインターバルとなった。これは第一回戦や第二回戦にくらべ、前試合からの経過時間を考慮しての事だ。
休憩時間という事なので、俺達も少しばかり木を休める。なんせこの後の三試合、どう転んでも絶対に誰かが出場するからだ。唯一知らないのは一試合目のミズキの対戦相手だが、さすがにここまで勝ち上がっているのだからそれ相応なのだろ。
「いよいよ準決勝ですね。でも、皆の実力なら当然ですか」
「寧ろここからでしょ。お互いの力は知ってるけど、互いに相当な強さですし」
マリナーサとエルシーラが楽しそうに言う。二人もミズキ達とは随分仲良くしているし、スレイス共和国への温泉旅行にも一緒に行くほどなのだから。
「でも、そんな彼女達よりもカズキは強いんですよね?」
「あー……まあ、そうだけど。でもこの大会みたいに魔法不可だったら、どうなのかな?」
魔法有りの場合、自分よりも相手の強さが格段に上昇する。特にミズキの場合、類を見ないスピードに乗せた拳に、魔力を上乗せした打撃を繰り出すことになる。その威力は強固な防御魔法を容易くぶち抜くほどだ。
なので、自重ではなく本心でどうかなと言ったのだが。
「何を言っておるのじゃ。主様がそれこそ何でも有りの本気じゃったら、主様以外の全てを相手取っても負けないじゃろうが」
「「えっ……」」
ヤオの言葉にマリナーサたちが絶句する。ヤオの言葉が冗談ではなく、本心で言ってることがわかっているからだ。
「いや、さすがにソレは言いすぎだって」
「そうでもないじゃろうて。あっちであれば、主様にダメージを与えることすら叶わんのじゃろ?」
「あー……そういう事か」
つまりヤオが言うのは“GMキャラならば”という事だ。確かにGMキャラであれば、全ての攻撃を無効化できるという公式チート性能を持っている。だが、俺は唯一の例外を知っている。
「実はな……俺の持つ特化能力なんだけど、どうやらフローリアには通じない部分があるみたいなんだ。防御に関しては試してないが、彼女の魔眼の前だと俺の技は全て見破られてるからな。もしかして、フローリアがもつ特製を攻撃に転用できたら、最強はフローリアかもしれんぞ? なんせフローリアも、俺と同じく全ての攻撃に対して絶対防御があるからな」
「なるほどのぉ……。つまりは夫婦で世界最強というわけか」
ニヤニヤと笑みを浮かべて、からかうように言ってくるヤオ。そんな俺達の会話を、途中何度も驚きながら聞いていた二人は、やはり聞きたいという感じで質問をしてくる。
「あの、フローリア様はその……攻撃の手段とかをお持ちなのでしょうか? 普段から身近に強者がいて、自身で戦うという事をする必要はないようですが」
エルシーラの言葉に、マリナーサも同意と頷く。確かに冒険においてのフローリアは回復がメインとなり、攻撃に関する場合も武器に聖属性魔力を付与する、という事くらいだろう。……普通ならば。
「フローリアは強いですよ。まず自身が持っている絶対的な防御で、あらゆる攻撃を打ち消すので自身が怪我をすることは皆無です。それと彼女は自分が持っている聖属性魔力をきちんと扱えますので、それを大きな波にして放つことも可能です。他にも……まあ、色々あって正直とても強いです」
「「………………」」
私の言葉に今日何度目かの絶句を見せる二人。フローリアは聖属性魔力を、一定の波長の可視光線として打ち出すことができる。時々ミレーヌと一緒になって、いわゆるアニメの魔法少女ごっこをしている感じに見えるが、実はその威力はえげつない。子供が夢見る魔法少女もこんなんだったらビックリだ。
あとフローリアは、魔力をブレスレットに込めて扱えるので、一見素人空手に見えながらとんでも無い結果を残すことも可能だ。それにギリム製作の戦棍も所持しているので、まさに鬼に金棒という所だ。うん、言いえて妙だね。
『カズキ。今何か妙な事を考えませんでしたか?』
『いいえっ! 何にもないデス!』
不意に脳内に響くフローリアの声。……うん、やっぱり俺より強いのはフローリアだな。
まさかの念話に驚いたりしながら暫しの休憩をしていると、徐々に観客からのざわつきが広がってくる。闘技場の整備が終わり、主審が出てきたようだ。
そろそろ始まるかとそちらに目を向けると、丁度通路を歩いてやって来る人物が。
おそらくは、俺が一番この世界で見ている相手──ミズキだ。
「落ち着いておるな」
「まぁ……相手がゆきかゆらなら、違ってるだろうけど」
「じゃな。まあそれは次の決勝じゃ」
「……お二人とも、ミズキさんが勝つと信じてるんですね」
「そりゃあね。だって俺は──」
そこで切って、ヤオ、マリナーサ、エルシーラをゆっくりと見て──
「この大会、優勝するのはミズキだって思ってるから」
そうはっきりと言葉にした。
闘技場で見合うミズキと対戦相手。対戦相手の男は、しっかりした体格で片手剣と盾という、いかにもな剣士スタイル。平凡だと言う人もいるが、それゆえに何にでも対応できるマルチスタイルだ。苦手がない分、自身の成長により得意項目だけが上乗せされるともいえる。
「……ふむ。相手も中々の者じゃな」
「カミールですね。確かここのレジストの冒険者ギルド所属だったかしら」
「あ、結構有名な人なのか」
エルシーラの言葉に驚く俺。彼女は所属こそしてないが、近いということでよくこのレジストの冒険者ギルドには顔を出すらしい。なのである程度は知っているとか。
カミールはAランク冒険者で、ギルドとしても信頼を置いている冒険者らしい。誠実で、他の冒険者からの評判もいいとか。そんな彼が出ているのだから、当然会場の応援はカミール一色かと思ったのだが。
実際には、両者をちゃんと応援しているようだ。当然地元のカミール贔屓なのだろうが、それよりも大会をきちんと楽しむという姿勢がここの観客にあるらしい。要するに「良い勝負を見せて!」という事が最優先なのだろう。
主審による事前確認を終え、両者が前に出る。下がった主審が手をあげる。
「『始め!』」
その声と共に、歓声がワッと溢れかえった。マリナーサとエルシーラは、既にヤオに触れて闘技場の音を聞いているようだ。
『いくぞ!』
『いきます!』
お互いきちんと宣言しての初撃。どちらも裏表が無い、サッパリとした正確なのだろう。カミールの鋭い斬りをミズキがナックルで横に弾く。少し体勢が崩れたカミールへもう片方のナックルで打ち込むも、しっかりと盾で弾かれてしまう。
お互い最初の一合は、難なく裁かれてイーブンの立ち上がりだ。
『噂には聞いてたが……強いな』
『ありがとうございます。それでも、まだ兄には到底及びませんから』
ヤオの力で、闘技場で話している声が聞こえる。……ミズキはその事を知らないから、こんな事言ってるんだろうなぁ。
「……だそうじゃ、お兄ちゃん」
「うるせぇ」
ちょいと恥かしくてぶっきらぼうに返事を返す。マリナーサとエルシーラも、とても生暖かい目で見ている。でもちょっとニヨニヨしてるな、こんちくしょうめ。
そんな二人の攻防は暫し続くも、段々と攻撃をする側と受ける側の立場が明確になってくる。息切れもほとんどなく、明らかに優勢になっているのはミズキだ。
ミズキは自身が素早いだけじゃなく、感覚も優れているので攻撃を裁く際も最小限の動きですむ。でも、普通はそうならない。攻撃をするときも受けるときも、攻撃がぶつかる瞬間以外にも力を込めるし意識もする。だがそのインパクトの瞬間だけ集中できるミズキは、他者よりも何倍もエネルギー効率が良い。
なのでまだ生き生きしているミズキが、既に肩で息をしているカミールへ拳を打ち込む。
『ハァッ!』
『うっ……ぐあああっ!?』
拳をうけた盾がはじかれ、カミールが後方へ吹っ飛ばされる。最初は盾で上手に裁いていたが、段々と受け止める事が多くなって、最後はつに弾き飛ばされた。
すでに大よその結果は予測していたが、この決定的ともいえる一打で観客が大いに沸いた。カミールも慌てて立ち上がろうとするが、剣を持った状態から腰が上に持ち上がらない。しゃがんだ状態で、自分を見るミズキを見て、暫し見合ったのち──剣をにぎった手を下に下げた。
『……俺の負けだ』
「『勝者、ミズキ!』」
会場に大きな歓声のうねりが広がる。
レジスト共和国の大武闘大会、決勝に最初に名乗りをあげたのはミズキだ。相手のカミールは強かったが、ミズキがちょっと常識ハズレだった。
だが、これからの試合はもっと常識ハズレになる可能性がある。
ゆきとゆら、彩和の忍者である狩野姉妹の対決だ。
こればっかりは、本当にどっちが勝つのか分からない。だからこそ、本当に楽しみなんだよ。
11月は仕事が少し多忙なため、投稿が出来ない事が多くなるかもしれません。




