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335.そして、拳の基礎を学ぶ道

追記:11/09更新予定分は11/10に投稿致します

 多少のトラブルもあったが、無事一回戦はすべて終了。だが、闘技場は既に二回戦の初戦準備がなされている。一回戦は全部で8試合あるため、トーナメント形式で進行すれば最初の方に戦った者たちは十分な休息が取れるからだ。


 闘技場にミズキが入ってきた。元々十分な認知がされているが、一回戦での戦いを見てさらに人気が出た様子だ。相変わらず平常運転で、力みなどはまったく見られない。


「あ、ミズキが入ってきましたね」


 隣にいたマリナーサが嬉しそうな声で言う。先の件が片付いた後、せっかくなので一緒に観戦しようという話になったのだ。なので俺は、マリナーサとエルシーラの三人で見ている。


「相手の選手もきましたね。……ミズキと同じナックル装備みたいです」


 エルシーラの声をうけそちらを見れば、闘技場に入ってきた対戦相手の男が見えた。確かにそちらもナックルを付けている。ミズキは以前ギリムに造ってもらったナックルを手にして以降、それを使っての超インファイトをするようになっていた。元々すばやいスピードを生かして戦うスタイルは、ミズキの性格にぴったりだったようだ。


 両者が歓声の中、中央ににらみ合う。対戦相手の男性はよく知らないが、今回の大会で予選勝ちあがり選手は全員一回戦で敗退した。なので彼も事前登録者……イコール、ある程度の強者なのだろう。

 遠目からトーナメント表を見てみる。えーっと……ガンレットか。一瞬篭手(ガントレット)って読みそうになったのは、あの男が(ナックル)使いだからなのかもしれん。

 おっさん臭いダジャレが頭をよぎっている間にも、闘技場はすでに開始ムードだ。


「ミズキはどんな勝ち方をしますかね?」

「んー……どうかなぁ。さっきは相手が不快だったから、さくっと一撃で沈めてたけど」


 実際ミズキであれば、ゆきとゆら以外なら全員似たり寄ったりだろう。だが次の対戦相手は、別段礼儀を欠いているような様子もない。ちゃんと試合前に礼をして、相手に対しての敬意もはらっている。


「始めッ!」


 開始の声とともに、一斉に歓声があがる。お互い拳を胸の高さにかまえたまま、ゆっくりと前進。あと1~2歩踏み込めば届く──という距離で、両者右手を前に伸ばして拳を軽くぶつける。

 選手同士の挨拶だ。その行為にもう一度歓声がわっと盛り上がる。

 拳を鳴らした二人は少し下がり、両者とも軽いステップを踏み始める。リングで向かい合うボクサーみたいな感じだ。


 最初に動いたのは──相手選手のガンレットだ。素早く前へ踏み込み、右の拳を放つ。動きも中々よく、ミズキじゃなければ初手で良いダメージを与えれたかもしれない。

 だが……相手は他でもない、ミズキだ。


「「「「えっ!?」」」」


 観客が一斉に息を呑み、驚きをあらわにする。

 後手に回り攻撃をうけると思われたミズキは、次の瞬間自分の拳でガンレットの拳を正面から打ち返したのだ。踏み込んだガンレットの右拳を、同じように踏み込んだミズキの右拳が迎え撃った。そして同じ反動を両者がうけ、右手が少し後方へ推し戻される。


 推し戻されたガンレットは一瞬驚くも、すぐに体勢を整えて今度は回し蹴りを繰り出す。別にナックルを装備しているからといって、手による攻撃しかみとめてない訳ではない。素早く繰り出す回し蹴りは、斜めうえから打ち下ろすような軌道をとり──


「「「「おおおっ!?」」」」


 先程同様……いや、より大きなどよめきと歓声が沸きあがる。

 そんな観客の視線の先には、ガンレットの回し蹴りをこれまた同じ体勢で受け止めるミズキがいた。

 左足を軸に、打ち下ろすような回し蹴りの体勢で両者とも動きをとめていた。驚きの顔で後ろにステップし距離をとるガンレット。見ればミズキも同じタイミングで下がっていた。


「……そんなつもりは無いんだろうけど、なんともえげつないな……」

「はい……」

「ですねえ……」


 ため息交じりの俺の言葉に、マリナーサたちが同意する。なんせこの試合、開始からずっとミズキはガンレットの動きを模倣しているからだ。どういう理由かは知らないが、最初に拳を合わせた時から今にいたるまでずっと。

 なら何故それがえげつないのか。それはミズキがやっている模倣が“先に動いた相手の行動を真似して打撃を相殺させている”から。つまりジャンケンにおいて、相手が出した手を見た()で自分の手を出して相打ちにするという事に等しい。

 おそらくは技を出す過程の、体躯裁きや視線その他諸々からある程度の先読みをした上で、実際にだされた技とてらしあわせて動いているのだろう。ミズキが持つ非常識な速度を実現させているロジックは、当然魔法ではないから反則ではない。


 闘技場では、さらに数度攻撃をまったく同じ姿勢で打ち返すミズキの姿に、観客達の声も大きく響き渡っていた。

 そんな中、一人だけ今起きている異常状態を正確に理解し、とてつもない焦燥にかられている人物がいた。他でもない、対戦相手のガンレットだ。よくよく見れば、その表情には焦りがありありと浮かび、攻めあぐねている雰囲気が徐々に見え初めている。


 すると、ミズキがぐっと腰を落として拳を構えた。この試合で、ミズキから構えを見せたのは初めてのことだ。それを見たガンレットは、どこかあきらめたような表情を見えると、一転表情を引き締めて腰を落とした。

 それを確認したミズキは、すっと前へすべるように──消えた。


「「「「っ!?」」」」


 観客のすべてが一瞬域を飲んで、刹那の静寂が訪れる。

 その次の瞬間、ガンレットの後方に拳を前に突き出す姿勢のミズキがいた。ゆっくりと手を下げて、後ろを振り向く。その視線の先にいるガンレットは……ゆっくりと膝をつき、そして倒れこんだ。

 何が起こったのかわからない観客は、わずかな声すらあげられない。


「しょ、勝者、ミズキ!」


 ふと我に返った審判が、ミズキの勝利を宣言する。その声に観客達もはじかれたように歓声をあげる。

 それにより救護班が倒れているガンレットの元へいくが、様子を確認しようとした矢先に自力で立ち上がった。どうやら、軽い脳震盪のような感じになっていたのだろう。しっかりと立ち上がりミズキの方を見ると、笑顔で握手をした。その時何か会話を交わしたようで、一瞬驚いた後笑みを浮かべたのが見えた。




 続いて第二試合が始まった。二回戦の中では、この第二試合だけが身内が出てないのだ。なので少しばかり興味度合いが下がるが、一応ミズキの次の相手なので見ていたほうがいいか。


「主様よ、戻ったぞ」

「おかえり。ミズキの試合はどうだった?」


 ミズキにとっては戦闘の師匠となっているヤオに、先程の試合はどう見えたのだろう。まぁ、試合と言っても無駄に高度な技を駆使しての演舞みたいなものだったけど。


「そうじゃのぉ……先の試合はあやつにとって、中々に勉強になったようじゃな」

「え、そうなの?」


 驚く俺とマリナーサたち。なんせ今の試合、わかっている人から見れば、ミズキが何か得るような事あったかな……という試合だったと思う。

 だが、ヤオはそうではないと名言する。彼女は魔法を行使せずとも、常人とは違う力を自由に行使できる。そのため試合中および試合後の両者の交わした会話も、ちゃんと聞いていたというのだ。その会話だが、試合後ミズキは勉強になった、ありがとうと感謝を述べたらしい。


「勉強って……今ので何かミズキが得たものがあるってことか?」

「そりゃああるじゃろうて。確かにミズキは強い、今の対戦相手なんぞは力任せにぶっとばしてもお釣りがくるほどにな」

「まぁ、そうなんだけど」

「じゃがのぉ……」


 ため息をつきながら、ヤオが俺の方を見る。あれ、なんかちょっと怒られてる時っぽくない?


「主様よ。せっかく特注のナックルをミズキに譲りながら、そのナックルでの戦闘指南をまったくしないのはどうなんじゃのぉ?」

「……えっ? あ、ああー、そういう事……」


 ヤオの言葉に俺は、どこか腑に落ちたような気持ちになる。先程までの試合、ガンレットがナックルを扱う上級の冒険者とみて、その動きを試合で学んでいたのだろう。正しい構えから、腕や足の動かし方、身体の裁き方等々。

 言われてみればこれまでのミズキは、ごく普通になぐっているだけで十分な強さだった。だがそれは基本的に魔物相手でのセオリー。きちんと訓練をうけた人間相手では、効果は半減かそれ以下にもなりかねない。だから試合とはいえ、目の前にいるお手本から瞬時に色々と学んだのだろう。

 ……どっちにしろ、非常識なことにはかわりないけど。


「のう主様。大会が終わったら、一度彩和にでも行ってくればよかろう。向こうなら顔なじみの道場もあるし、空手でも習ってみたらどうじゃえ?」

「空手か……」


 言われてみると、ミズキと空手はどこかしっくりくる気もする。元々ミズキというNPCキャラは、自分の好きなように作ったため日本人寄りの容姿勝ちなのだ。それに名前も日本人っぽいし。


「そうだな。大会が終わったら、ちょっとミズキと話してみるよ」

「うむ、それがよい」


 俺の言葉に、どこか嬉しげに頷くヤオ。彼女にとってのミズキは、中々に大切な弟子なんだと思うと、俺も嬉しく思えた。



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