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326.それは、国と成すための布石として

「ただいま戻りました」

「ミズキ達はまだ散策中ですか?」


 戻ってきた俺とミレーヌは、すぐさま洞窟の中へ。少し進んだところが広くなっており、そこにフローリアとエレリナがいた。


「おかえりなさい。先程、念話で戻ってくると言ってましたので、そろそろ……あ、丁度戻ってきましたね」


 そうフローリアが言うと、洞窟の角を曲がって二人がこちらに来るのが見えた。


「ただいま~、ってお兄ちゃん戻ってたの?」

「おう。俺たちも今戻ってきたところだ」

「おかえりなさい」

「うん、ただいま。そんでもって、おかえりー」


 探索が楽しかったのか、二人ともどこか楽しげだ。もしかして何か戦利品でもあって、ストレージしまっているのかもしれない。


「おかえりなさい二人とも。何かありましたか?」

「あった……というのかな? この洞窟の先に、綺麗な地底湖があったんだけどね……」

「ん? 何かおかしかったのか?」

「それがね、たしかに地底湖なんだと思うんだけど……水が全部凍っていて、氷の湖になってたのよ」

「ほぉー」


 ミズキの話に皆が興味深そうな顔をする。俺だってそうだ。ただ、地底湖の水がすべて凍るほどの場所となれば、ちょっと気軽に行けるような気がしないんだが。


「興味はあるけど……とりあえず、今日は一度戻ろうか。せっかくこっちに出てきたんだから、スレイスの温泉にでも行こうかと思う──」

「「「「「賛成!」」」」」


 俺が言い終わるまでに、全員からの賛同を得て可決された。口には出さずとも、皆この寒空の下で結構な寒波を感じていたのだろう。

 そういえばミレーヌは一緒にドワーフの襲来へ行ったが、その時明らかに表情が弛緩してたのは安堵が浮き出ていたんだろう。……俺も同じような顔してたのかな。

 そんな訳で、ひとまずグラーゼ山での採取は終了となった。






 スレイス共和国へは、ポータルで即移動。普通の人間である、今までいた場所の標高が、雲より上──二千メートル以上ならば、少しずつ気圧変化にならしながら移動するべきだろう。だが彼女達は強力な召喚獣との繋がりで、いわゆる高山病クラスの症状は無縁になっている。おかげで色んな場所へ、気軽に転移できるってものだ。


 そしてスレイス共和国では、ひとまず前回お会いしたエリント首相の処へ。さすがに王女に、領主令嬢、あと俺も一応領主なんだから、スレイスに来ていることはお伝えすべきだろうという判断だ。

 急な訪問に驚かれたが、すぐに笑顔で歓迎された。やはり以前俺達がここスレイスの温泉を復活させた事で、大きな感謝を向けてくれているのだろう。

 そして、俺がヤマト領の領主になったという話をしたら、凄く驚かれたがそれ以上に嬉しそうな顔を見せてくれた。なんでもスレイスにもヤマト領の温泉の事が伝わってきているらしい。そして、ここからがスレイスの人達の大らかさだろう。余所が温泉を──という狭量な話ではなく、お互い温泉のよさを広めていきましょう! という意思表明をして、ヤマト領と友好関係を築きたいらしい。

 もちろん大歓迎だ。この世界の温泉国家といえば、やはりここスレイス共和国。そことちゃんと提携し、きちんと友好的な関係を結べるのなら断るはずもない。

 そんな訳で急遽、スレイス共和国とヤマト領で温泉を通じて友好関係を結ぶ話が立ち上がった。無論いますぐ結ぶことができるわけではなく、これからそれに向かい準備をしていくことになる。だが、双方のトップがお互い全力で進んでいるのだ。これはすぐにでも実現することになりそうだ。


 俺が首相と話を進めている間、女性陣は首相夫人に案内されて温泉へと行っていた。なんでも夫人や、訪問した要人を招待するための温泉だとか。

 その後、俺も首相に連れられて温泉へと入った。港同じ温泉の男性側浴場らしい。屋根つきの露天風呂は、駆け流しの天然だとか。その源流は、あのブルグニア山にいる火竜から発せられる熱だというのは、この国ではごく一部の人間しか知らない秘密だ。逆にいえば、これだけ心地良い温泉が出ているのならば、火竜は元気だという事なのだろう。


 温泉を出てロビーにある椅子に座りくつろいでいると、女湯がある方の通路から皆がやってきた。俺もそうだが、用意された浴衣に着替えている。

 元々スレイスにはちょいと立ち寄るだけのつもりだったが、エリント首相がどうしてもと言うので一泊することにした。するとすぐさま国賓御用達的な温泉旅館へ連れていかれたのだ。


「ふうー、お兄ちゃんいた~」

「カズキ、楽しんでますか?」

「ああ。やっぱりここもいい温泉だよなぁ」


 俺の言葉に皆が頷く。温泉の細かいことなんて知らないが、少なくともスレイスの温泉とヤマトの温泉は、お湯がまったく違うという事だけはわかった。どっちがどう……という訳ではなく、それぞれが違う効能をもる別モノだという事だと思う。

 リクライニング感のある椅子にぐで~としていると、隣にフローリアが座ってきた。


「カズキ。少しだけ真面目な話……いいですか?」

「ああ、大丈夫だ」


 その言葉に倒していた上体を起こす。皆も雑談をとめてこちらを見る。


「本日エリント首相と交わされた、スレイスとヤマトの友好関係締結……今回スレイスへ立ち寄ったのはこの話ためですか?」

「んー……正直に言うと、その予定はあったけどまだ話を切り出すつもありはなかった……かな」


 俺の言葉を聞き少し考え込むフローリアだが、すぐさまこちらを見て、


「スレイスとの友好関係は、ヤマト領を国として認めさせるための地盤強化ですか?」

「…………正解。まぁ、分かりやすいよね」


 現在この大陸にある国家で、敵対するような関係性の国は無いが、一定水準以上の友好を結べている国は全てではない。


 まず中央にあるグランティル王国だが、ここは全く問題がない。なんせ第一王女のフローリアがこちらにいるのだ。


 同様にミスフェア公国も磐石だろう。こちらは公国代表を務める領主アルンセム侯爵、その娘であるミレーヌがいるからだ。


 もう一つ同じような感じで、ラウール王国も良い関係を結べていると思う。そこの第一王女アミティ様と第二王女リスティ様が、フローリアやミレーヌと友人であり、こちらから進呈した召喚獣をいたく気に入ってくれたからだ。モノで釣ったつもりはないが、その後も良好な関係を築けている。


 そして、ここに来てスレイス共和国のと友好締結だ。元々首相とは、温泉復活の件で懇意にしてもらえていたが正式に明言されたのは非常に大きいと思う。


 となると……この大陸で国として考えると、あとはレジスト共和国だ。思い返してみても、レジスト共和国だけは、完全に宿に泊まる程度の事しかしてない。……あ。そういえば祭りかなにかに飛び入り参加したような記憶があるな。でもそれくらいだから、他の国のように何かに貢献はしていない。


 その事をフローリアに伝えると、彼女も少し思案顔をする。


「レジスト共和国ですか……グランティルからですと、間にはメルンボス交易街があるため、思った以上に国交が無い国です」

「……ラウールのように、王族のお友達とかは居ないのか──って、そうか……共和国か」

「ええ。スレイスと同じように共和国なので、代表となる首相はおりますが、治めている王族はおりません」

「……ねぇ、お兄ちゃん~」


 うーんと唸っていると、段々難しい話に飽きてきたのかミズキがじれたような声をだす。


「そろそろまた、屋台とか見に行かない? そうだ、ヤオちゃんも呼ぼうよ!」

「あー……そうだな。ここの屋台を随分気に入ってたからなぁ、呼ばなかったら後ですっごいふて腐れそうだ」


 そういいながら想像するヤオは、袋一杯にはいった屋台焼き菓子を手に、串モノを頬張っている。そういや以前来た時の帰り、お気に入りの屋台菓子を貰ってご機嫌だったな。


「……そうだな。それじゃあヤオも呼んで、皆で温泉街道を散歩するか」


 俺の言葉にまたしても、皆が快諾の返事をしたのは言うまでもない。



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