325.そして、見てもらうべきは鉱石と
追記:10/11更新分は10/12に投稿させていただきます
洞窟までやってきた俺達は、ひとまず中へ入り小休憩。その際、入り口傍の地面にはポータルが設置可能なことも確認した。
「……というわけで、一先ずこの鉱石が氷晶珪石なのかを、ギリムさんに確認してこようかと思うんだけど」
そう切り出した瞬間、ミズキが元気に挙手をする。
「はいはい! 私はちょっとこの洞窟を探索してきたい!」
「あ! なら私も一緒に行きたい!」
どうやらゆきも行きたいらしい。とりわけ急ぐ用事でもないし、せっかくこんな場所にきたんだから……という気がしないでもない。
そして話し合いの結果、鉱石確認のためギリムさんの所へ行くのは俺とミレーヌ、洞窟探索にいくのはミズキとゆき、念の為に洞窟に入ってすぐの場所で待機するのがフローリアとエレリナとなった。そんな訳で俺とミレーヌは、ドワーフの集落へと向かった。
ポータルを抜けた先は、ドワーフ集落となっている洞窟の入り口の傍。ここに来る場合の多くは、まずダークエルフの集落に寄りマリアーネに同行してもらう事が多い。だが、さすがに何度も顔を見せているので、道すがらや工房で会うドワーフたちにも顔なじみになってきてからは、彼女の同行なしでも問題なく訪問できるようになった。
なのでミレーヌと二人でギリムさんの工房へ。普段はここでマリアーネが呼んでいたが、今回はいないので俺が呼んでみる。聞こえなかったらどうしようかと思ったが、ドワーフというのは別段大雑把な種族ではないので、奥からすぐに返事が返ってきた。
「何の用じゃ……っと、お主じゃったか。それと、そちらのは……」
たギリムさんの視線は隣のミレーヌへ。そういえば会ったことなかったっけ。
「はじめまして。ミスフェア公国の領主アルンセム公爵が娘、ミレーヌ・エイル・アルンセムです。どうぞよろしくお願い致します」
「おお、よろしくお願いするかの。……ふむ、ミスフェアのお嬢様がわざわざこんな場所までこられるとは。すまぬが、わしらでは品の良い応対はできぬぞ」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
そう応えてにっこり微笑むミレーヌ。ひとまず納得したのか、ギリムは視線を俺に戻すと、
「それで何か用か?」
「ああ、そうだった。これを見て欲しいんだが……」
ストレージから先程採取した鉱石を取り出してカウンターの上に置く。あっという間にカウンターの上には、水晶のような透き通った鉱石が山積みにあった。
「お、おい、これ……氷晶珪石か!? それも全部!?」
「あ、やっぱりそうだったんだ」
「よかったですねカズキさん」
ギリムさんは積み上げられた氷晶珪石の一つを手にとり、目をこらして見たり照明の方へ向けて覗き込んだりしている。
「……しかも、随分と質が良いものだ。これはどこで手に入れたんじゃ?」
「ギリムさんに教えてもらった、グラーゼ山の山頂だよ。そこに分厚い氷の湖があって、そこに固まって群生してたよ」
その状況を詳しく説明すると、最初驚いていたギリムさんも次第に納得の表情に。なんでも氷晶珪石は、純度の高い水と、その水を十分に吸い込んで結晶化するための土台──今回の場合は地盤が必要なのだとか。グラーゼ山の山頂にある湖はどちらも条件を満たしており、いわば“知る人ぞ知る”という場所らしい。ただ、同時に過酷な場所でもあるため、普通であればこんな簡単に採取してくる事は不可能といわれた。
「相変わらずお主は予想を平気で裏切るのぉ。もちろん、こっちとしてはやりがいのある仕事ばかりじゃから、願っても無い話なんじゃがな」
そう言って豪快にわらうギリム。職人気質というやつなんだろうな。
「それじゃあギリムさん。以前お話した大判のガラス……これでお願いできますか?」
「おう、まかせておけ。最高の仕上がりをみせてやるわい。いつまでにとか希望はあるのか?」
「いいえ、ありませんよ。事を性急に運んで、出来上がりの質を落としたら元も子もないですから」
「……そうか。ならばじっくりとやって……半月じゃな」
「十分ですよ。それではそれでお願いします」
「おう、任せておけ!」
商談が成立してがっちり握手を交わす。楽しげな笑みを浮かべるギリムさんは、ふと何かを思い出したように聞いてきた。
「そういえば以前作った武器はどうじゃ? ちゃんと使えておるかの?」
「はい、皆で大切に使ってますよ。なぁミレーヌ?」
「はい! 私も──」
そう言ってミレーヌが弓を取り出す。以前ギリムがアンタレス種の外殻で作った弓だ。矢は射手の魔力で生成するのだが、元々ミレーヌはかなりの魔力保有者である。おまけに指輪は魔力タンク的な効果もあり、多少の無茶をしてもまるで影響が無いほどに矢を撃ち続けることがきでる。
「ほぉ……そちらのお嬢さんがこの弓を使っておるのか……」
見た目どうにも箱入りにしか見えない少女が、自分の身長ほどもある弓──特性の魔弓を手にする姿に、ギリムさんは素直に驚いていた。
「ミレーヌ、本当に射らなくてもいいから魔法で矢を作って構える姿をギリムさんに見せてくれないか」
「了解です」
そういって弓を片手で握り構える。特殊な魔物の素材で作られた弓ゆえに、扱う資格の無いものには無用に重いだけの弓になってしまう。だがそれを易々と構えるミレーヌを、驚愕した目でギリムさんは見ている。つまりこれは、その弓を取り扱うに足りる……いや、ふさわしいというべき事だと。
そんな驚きの視線をうけながら、ミレーヌは右手をそっと弓にかけるように構える。するとその手には輝く1本の矢が出現し、それを支えるように弓に魔法の弦が張られた。
そのままゆっくりと矢を引くと、魔法の弦は一緒にうしろへ伸びていく。そこで一旦停止して、その後はゆっくりと姿勢を戻し、最後には弦と矢を消した。
「……こんな感じです」
かわいらしく笑顔を浮かべ、ちょこんとおじぎをして終わりましたと意思表示をするミレーヌ。とはいえかわいらしいのは確かだが、今のギリムさんは普通に驚きすぎていて反応はなかった。
「……おどろいたの。ただ一矢構えただけじゃが、それがとてつもない力を秘めていたのは見ていて存分に感じたぞ」
「流石の武器職人ですね。彼女はフローリア王女──聖女の従姉妹で、聖女と同じくらいに強い光の魔力を持ってるんですよ」
「なるほどのぉ……。となれば、お嬢さんを護衛する者がいれば、とんでもなく強い戦力になるというわけか。とてもそんな風には見えんがのぉ」
しきりに感心しているギリムさんを見て、ミレーヌがこちらにチラリと視線を向ける。やりたいことがなんとなくわかったので頷く。
「あの、ギリムさん。実は私、常に一緒にいる仲間がおりますの」
「仲間?」
「ええ。来て、ホルケ」
その呼びかけに、すぐさまホルケが現われてミレーヌの傍に寄り添う。それを見たギレムさんは、誇張なく腰を抜かすほどに驚き座り込む。
「こちらが私の大切な仲間、ホルケです」
そう言って易しくなでる手に、気持ちよさそうに体を寄せるホルケ。だがギレムさんは目の前の存在に、ただただ驚くばかりだ。どうやら先程もそうだが、人間よりも魔力とかを視認することができるようだ。
「な……なんと強大な獣魔じゃ……」
「さすがですね。ミレーヌの召喚獣ホルケ……その正体は、伝説の魔獣フェンリルです」
「フェ……っ!?」
驚きのあまりに口をパクパクさせて、ぎこちなくこっちをみるギリムさん。
しばらくして、ようやく落ち着いて彼が言った事場は──
「本当にお主は規格外すぎるのぉ。だから楽しいんじゃろうな」
そう言って一息深く吐き、ようやく笑みを浮かべたのだった。




