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32.そして、ありえない邂逅に

現在多忙のため次の更新は後日となります。申し訳ありません。

【追記】次回更新を9/13の20:00に予約投稿しました

 俺たちの眼前で繰り広げられている状況は、なかなかに壮絶だった。

 元々MMOのレイドボスという存在は、別名エリアボスとも呼ばれている。それはボスによって固定のエリアに居るからで、別のエリアボスと相見えるということは普通考えられない状況だ。

 また、LoUのようにアイテムで特定の場所に召喚したとしても、内部の敵対判定はプレイヤーキャラに向けられ、モンスターは互いに干渉しないようになっていた。


 だが、目の前にいるデーモンイリュージョンとバフォメットは、お互いを敵と見なして激しく戦っている。とはいえ、状況からみてバフォメットが圧倒的に優勢だ。元々デーモンイリュージョンがレイドボスの眷属設定の取り巻きなのに対し、バフォメットはそのレイドボス自体なのだから。

 意思なく攻撃を繰り返すデーモンイリュージョンだが、段々と動きが鈍る。身体の損傷による動作不備や、動く為の魔力などが欠損してきたのだろう。

 次第にバフォメットの攻撃をまともに受け始め、次第に防御もままならない状態になる。そして、最後はバフォメットの持つ大きな剣により切り裂かれて霧散した。


 その状況を見ながら、俺は妙な違和感を覚えた。

 確かにバフォメットがこんな森林フィールドにいるのは、非常におかしいとは感じる。だが、ソレとは違う何かをあのバフォメットから感じているのだ。


「カズキさん、どうしますか? 魔族の眷属は消滅しましたので、依頼は完了しましたが……」

「そうですね。あのバフォメットをそのままにしておいて良いのか……」


 今見た限りでは、強さ的には脅威とは思えないが、かといって見過ごして良いとも思えない。どうしようかと少し悩んでいたその時。


「先ホドカラ、ソコデ何ヲシテイル。我ニ何用カ」


 聞き覚えのない声が聞こえた。その不意打ちには俺も驚いたが、フローリア様はもっと驚いていた。


「カズキ様、この声はまさか……」

「ああ。あそこにいるバフォメットだ」


 まず大前提として、LoUのモンスターはしゃべらない。たとえそれがレイドボスであっても、セリフを設定してないのでしゃべることは無い。

 だが、あのバフォメットはしゃべった。きちんとこちらを認識してしゃべったのだ。

 それ故に、もしかしたら……という考えが脳裏を横切った。


「行きましょうフローリア様」

「……はい」


 少しばかり気を引き締め、俺たちはバフォメットの方へ進む。緊張した表情のフローリア様の後ろに、プリマヴェーラもついてくる。

 ……ふむ、やはりそうかもしれない。

 ある程度まで近づき、武器を構えて一足飛びすれば打ち合えるほど近くまで来た。


「我ニ何カ用カ?」

「いや、貴方にというより先ほど倒されたデーモンイリュージョン……悪魔の眷属に用事があった」

「……先ノあれカ。貴様達ハあれノ仲間カ?」

「いや、その逆だ。アレを討伐するために俺が出向いたのだが、丁度貴方が倒すところに出くわしたというわけだ」

「ナルホド。ナラバモウ用ハ済ンダハズ。何処ヘナリト立チ去レ」


 興味をなくしたのかきびすを返して立ち去ろうとするバフォメット。それを見て俺は確信した。


「まってくれ。一つ確認したいことがある」

「何ダ」

「あんた、クローズドβテストのバフォメットだな?」

「……ソレハ、ドウイウ意味ダ」


 さすがに意味は理解できないか。とはいえ、俺はそうだろうと確信した。

 まず最初に感じた違和感。それはバフォメットの武器が大剣だったことだ。元々LoUでのバフォメットは、大剣ではなく死神の鎌(デスサイズ)になっている。ただしクローズドβ時代は、武器の種類も少なくモンスターが装備する武器も、すべてのカテゴリを賄えるほどではなかった。

 また、会話が出来るという事に関しても、ある意味特異な設定があることを認識させられた。普通はモンスターに会話メッセージなど設定しないが、このクローズドβのバフォメットは特別だった。その時点では絶対倒せない凶悪なモンスターとして用意し、本来居ない場所にわざと配置してプレイヤーを賑やかしたものだった。


「今のあんたとは、戦う必要がなさそうだってコトだ」

「…………」

「ホウ……何故ソウ思ッタ?」


 俺の言葉にフローリア様は何も言わず、バフォメットは先ほどまでの平坦な声と違い、どこか喜色をにじませるように聞いてきた。


「あんたが俺の知っているヤツなら、ある理由で俺達人間を敵だと認識しないだろうと思ってな。あとはそうだな……」


 俺はすぐそばにいるプリマヴェーラにそっと近づく。そしてその姿を確認して言う。


「このプリマヴェーラ……分類上普通の馬であるこの子が、あんたに怯えてないからだ。フローリア様もそう思ったんじゃないですか?」

「はい。この子が全然怖がる様子をみせないので、きっと大丈夫なのだろうと思いました」

「くくく。ナント、タッタソレダケノ事デカ? オモシロイ」


 俺達の言葉に高笑いをするバフォメット。その声色から、心底楽しそうだということがわかる。


「お気に召したのなら、教えてくれ。なんであんたはデーモンイリュージョンと戦っていた?」

「あやつガワレノ守護スベキ場所ニ踏ミ入ッテ来タカラダ」

「そうか。こちらの手間が省けた、礼を言う」

「イラヌ。我ガ好キデヤッタコトダ。ソレヨリモ……」

「なんだ?」

「コレヨリ北ハ、我ガ守護スル場所。ソコニ踏ミ入ッタ場合、命ノ保障ハデキヌトオモエ」


 要するにここより北には踏み入らぬよう、他の人間にも言い聞かせておけといいたいのだろう。別にここでバフォメットを倒すという手もあるのだろうが、このバフォメットを倒しても時間経過によるポップが無いとも限らない。それに、何より貴重なクローズドβ時代のバフォメットだ。なんかもったいない。


「了解した。帰ったら他の者達にも話しておく。この辺りには守護者がいるとな」


 俺の言葉に、バフォメットが頷く。そしてそのまま何も言わずに立ち去った。

 その姿が完全に見えなくなると、フローリア様が大きく息を吐き出した。


「はぁー……でも本音は、やっぱり怖かったです」

「でも、こちらに攻撃する気はまるでなかったみたいですね」

「そういえば、先ほどの『くろーずどべーた』といいましたか。なぜソレですと、私達人間に敵対しないのでしょうか?」

「ああ、あれはですね……」


 それが気になっていたのか、フローリア様はすぐさま聞いてきた。

 とはいえこれに関しては、馬鹿正直に話しても仕方ないと思っている。なんせクローズドβ時代のプログラム仕様なんて、当時の関係者で懐かしがって話す以外用途がないからな。

 ましてや、クローズドやらオープンやらの説明も出来そうにない。仕方ないので、適度な真実を織り交ぜた話をして、納得してもらうことにした。


 まずあのバフォメットだが、この辺りの領地を統括守護している特殊な存在であること。

 そして、領地にて無法な行いをするでもないかぎりは、人間に対して敵意を向けることもないこと。

 なので可能なかぎり、この地域へ立ち入ることは控えた方がいいこと、など。


 実際には内部でのパラメータ構造が、クローズドβからオープンβ時に一部変更され、ボスモンスターも含め会話の制限がかかったりしたのだが、それは完全に裏側の事情だ。

 敵認識パラメータも、あのバフォメット内の判定基準が過去のままなので、結果襲われる人間=プレイヤーキャラはクローズドβ時代のプレイヤーキャラだけになってしまった。要するに、今はもう人間をむやみに襲うことはないということ。

 まあ、さすがに人間側がちょっかい出せば反撃はしてくるだろうけど。


 なにはともあれ、これで依頼も無事終了だ。

 ちょっとばかり王都の北東の森林地帯には、特殊な守護モンスターがいるので不可侵だという事を、フローリア様を通じて取り決めないといけないけど。

 ともかくクエストは無事終了だ。討伐記録はギルドカードに記録されているらしいのは、以前ミズキとオークの巣へ行った時の経験で知っている。

 だから後はギルドへ戻り、報告をするだけだ。

 ちなみにフローリア様とあえてパーティーを組まなかったのも、記録がカードに残ってしまうからだ。なんせ聖王女さまと野良パーティーなんて、それなんてイベントだよって言われちゃうだろ。


 その後も何もなく、俺達は王都の東門まで戻ってきた。

 さて、フローリア様とはここで別れて俺はギルドへ報告に……そう思った時。


「お兄ちゃん。なんでフローリア様と一緒なの?」


 あー……お約束な展開だなぁ。

 こんなベタベタなホームドラマみたいなシナリオ、誰がLoUに実装したんだよ。


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