319.それは、心を癒す水辺となりて
9/21更新予定分は9/22に投稿致します。
翌日、皆で現実へ行くことにしたので、ひとまずラウール王国から来ていたアミティ王女とリスティ王女には帰国してもらった。二人ともまだ名残惜しげではあったが、俺達が全員転移が使えるので、これからは頻繁に遊びに来て欲しいと言われた。特にフローリアとミレーヌは元々の友人なので、これを期にもっと会いたいとの事らしい。
マリナーサとエルシーラの二人は、ここヤマト領とエルフの里は自由に行き来できるので何も問題ない。この後は、少し領地東の森をみてくるそうだ。以前と違って領地横の森はバフォメットが完全に守護しているので、もはや神獣クラスの魔物でも出てこない限り平和な場所だ。といかそのクラスの魔物が出たら、この世界の人達ではどこに行っても安全なんてないだろうけど。
そんな訳で、時間をみてログアウトし現実世界へ。とりあえず俺は調べ物と、データ整理があるからと皆に自由にしてもらった。
案の定ヤオは、フローリアとミレーヌの三人でアニメを見始めた。三人がこっちで一番優先していることはこのアニメ観賞だからな。ここだけの話、異世界でもDVDなどを見れる状況は作れなくもないが、さすがにそうなると日々の生活に支障がでそうなのでやってない。
ゆきは以前話していたとおり、久しぶりに実家の妹さんに電話をしているようだ。こればっかりは本当にそっとしておこうと思う。
そしてエレリナには少しお使いを頼んでいる。こっちの行き着けのケーキ屋への買い物だが、彼女はお土産とは別にお店でゆっくりケーキと紅茶を楽しんで来て良いことにしている。あと、帰り際に通り道にある旅行会社のパンフレットをいくつか取ってくるようにもお願いした。異世界ではネットでの情報拡散なんて手法はないので、普通に手にとって見れるパンフレットの実物がいくつか欲しかったのだ。
最後にミズキだが、彼女は今俺の隣にいる。というのも──
「やっぱり水辺の動物っていうなら、ペンギンは外せないと思うのよね」
「言われてみれば……ふむ。ペトペンが身近すぎて逆に盲点だった」
「それでね、ペンギンの場所についてなんだけど……」
こんな感じで、ヤマト領に作る“憩いの水場”についての相談をしていた。5人の中では一番こちらの世界で、動物園などに一緒に行っているからだ。それに言われて気付いたけど、ペトペンが召喚獣だからなのだろう、水棲動物について話すならミズキだろうって思っていたのだ。
しばらく二人であーだこーだと言っていると、電話を終えたゆきが戻ってきた。
「何の相談……って、水族館の話だっけ?」
「おしい。水棲動物……つまりは水辺の動物園のアイデア出しだ」
「ほうほう。どんな動物を予定しているの?」
戻ってきて早々だが、さっそく食い付いてきた。なによりゆきは俺と同じ動物園&水族館感覚なので、どういうものがいいかという意見は非常に有用だ。
「とりあえずペンギンとオットセイだな。アザラシやセイウチは、多分一般的にあまり差がないように思われるから今回はナシだ」
「んー……イルカとかはー……場所が難しいか」
「まあな。基本スタンスとしては、王都の憩い広場みたいに子供達が触れ合える場所が理想だからな。まぁ、綺麗な観賞魚とかの水槽ってもの見栄え的にはいいかもしれんけど」
ただ、そうなると結構大きくて丈夫、それでいて綺麗なガラス板なんかが必要になってくる。こっちの世界ではアクリルガラスを使っているが、当然異世界にそんなものはない。だが、その分魔法による強化技術もあるし、そういった物は一流のドワーフ職人になら可能なんだとか。ヤマト領で水関係の広場を計画しはじめた時から、ドワーフのギリムには話をしてあるので、そろそろ何かお願いをしてみよう。
その辺りの事情を話すと、ゆきが少し残念そうな顔をする。
「そっかぁ~。もし可能なら、おっきな水槽の中に透明なパイプの歩道をつくって、周囲360度をおよぎまわる魚とか見たかったのになぁ」
「だからそれは完全に水族館だ」
そんな事を言いながら、水の憩い広場のおおまかな構想は決まっていった。まぁ、必要なら後から手を加えればいいからと、ひとまず話し合いは終わりにしようかと思ったのだが。
「……でもさぁ、子供達って自分達も水場で思いっきり遊んだりしたいんじゃないかな?」
「そうかもしれないよね。王都の噴水でも、暑い時期は子供達が水浴びしてるし」
ゆきとミズキいわく、ヤマト領になら温泉だけじゃなく、管理の行き届いた水場……つまりはプールも正式に設けたほうがいいだろうと。一年中使える温泉に対し、プールは暑い時期限定というイメージがあり、どうも意識が向かなかったという感じだ。だが、確かにそういう場所は必要だ。別に泳げるほど深く広い場所じゃなくて、足湯程度の深さでそこそこの広さ……イメージとしては遠浅の砂浜海岸か。
「……面白いかもしれんな。深さがひざ下までこないで、波があるプールとかどうだ?」
「あ、いいかも。なんか子供がめっちゃ水のかけあいしてる姿が目に浮かぶ」
「んー……なんとなくだけど、楽しそう……かな?」
流石にゆきはすぐイメージが浮かんだようだ。ミズキもなんとなくだが、楽しそうな場になるだろうなぁという感想はもってくれた。
「あとアレよ! そのプールを使って、魚のつかみ取りとかすれば面白いわよ」
「ああ、よくテレビとかで見るアレか」
「魚のつかみ取り?」
「そう。浅いプールに、魚がたくさん泳いでいて、それを道具をつかわずに手でつかむのよ。もちろん私たちだと何でもないことだけど、子供達だとそんな事でも全力で楽しめるものね」
「そうだな。取れた魚はそのまま持ち帰れるようにしてもいいし、何匹捕まえれるかとかの大会にしても面白いか」
最初は水の憩い広場の計画話だったが、いつしか派生した浅瀬プールの話になっていた。だが、もちろんこれも領地として重要な案件だ。なので結局そのまま協議を重ねていき、のんびりとお使いから帰ってきたエレリナに気付くまで、俺達はずっと領地を発展するための案を出し合っていた。
程よく帰ってきたエレリナと共にリビングへ行くと、丁度何かを見終わったのかディスクをプレイヤーから取り出しているヤオたちがいた。三人とも、少し興奮気味に今みていたらしきアニメの話をしている。その様子は俺もよく知る光景で、とてもこの子たちが異世界の存在だなんて思えないほど自然だった。
「ほら、エレリナがいつもの店の新作ケーキ買ってきてくれたぞ」
そう声をかけると皆が一斉に華やいだ表情を浮かべる。その様子になれた感じでエレリナが皿や茶器を用意する。そこへすっとゆきが手伝いに行くのは、やはり姉妹なんだなぁと感じる。……幼い頃から「手伝いなさいっ!」てしつけられたのかな?
手早く準備をして、ケーキが皆の前に並ぶ。紅茶もいれて、すぐにお茶会というおやつタイムだ。
「……美味しいですね。ですがコレは、こちらの世界の果物ですか……。まったく同じとはいきませんが、同じ手法を用いれば別の果物で代用も……」
ケーキの研究だろうか。エレリナが食べながらブツブツと言っている。もしかして、店で食べているときもあんな感じで研究していたのだろうか。
すると、俺と同じようにエレリナの独り言を聞いてたゆきが聞いてくる。
「このケーキって、マロン……栗だよね? 栗ってさ、果物? 野菜?」
「果物でもあり、野菜でもあり、じゃなかったか?」
「へ? どういう事?」
「確か生物学上は果物で、食品としては野菜……だったはず」
「……あらためて考えると不思議な食べ物ねー……美味しいけど」
そういってケーキにのった大粒のマロンをほおばる。異世界に栗みたいな食べ物あったかな? というか、栗に限らずまだ“食べられる”と知られてない食材も多そうだな。
そういえば領地の東の森林って、今まであまり人が踏み入ってなかったから、もしかして食材とか素材がたくさんあるかも。そういうのも何か領地運営に生かせないだろうか。
そんな事を考えながら、ひとまず俺はエレリナが持ってきてくれた旅行パンフレットに目を通すのだった。




