318.そして、領地観光地化を推し進める
9/19の更新分は9/20に行います
冒険者ギルドにて、アリッサさんたちが一通りの手続きなどを終えたので、それを区切りとして今日は解散となった。
とはいえ、ミズキとゆきは皆と合流して屋上露天風呂だし、アリッサさんたちはレイラさんとジェニィさんの歓迎会をし、その後はさっそく皆で温泉に行くとか。
……ふむ。さて俺はどうしようか。さっそくポータルを登録した彩和のどこぞへ行ってもいいが、次のあそこへ行くなら連れて行けとヤオに約束させられてしまっている。それに一応あれはミスフェア冒険者ギルドからの依頼でもあったし、見に行くのなら話をしておいたほうがいいかもしれない。
とりあえず冒険者ギルド前で別れた後、特に用事もないがお土産通りへ行くことにした。といっても、ギルド前を東西に伸びてる道を歩いてくだけなんだけど。
ただ、このお土産通りが本当に賑やかだ。領地の正式運営開始から少々日数は経過したが、ここは常にお祭りの屋台並びのように賑やかだ。食べ物関係の店の前などには、オープンカフェのように椅子とテーブルも出ており、天気が良い日はここで甘味等楽しんでいる人も多い。
すぐそこのお店は、フローリア達もお気に入りで行き付けだが、やはり店前には買ったばかりのスイーツを楽しんでいる人がいる。20歳くらいの女性二人が、すごく嬉しそうにスイーツを食べている。こういう平和な光景を見ると、領主であることがちょっと誇らしい。
「あっ、カズキさ……じゃない、領主さま」
「領主さま、こんにちは」
「えっ?」
笑顔でスイーツを楽しんでいる二人の横を通り抜けようとしたとき、ふいに二人に呼ばれた。一瞬、領主だからだろうと思ったが、最初に“カズキ”と名前で呼ぼうとしていた事に気付く。
二人ともどこかで見たことある気がする。王都あたりで、顔を見たことあるとか……あ。
「お久しぶりです、アイナさん、ルミエさん」
とっさに思い出して挨拶をする。二人はそれぞれ、王都の商業ギルドと冒険者ギルドの新しいサブマスターになった人達だ。二人は親友で、それぞれがエリカさんとユリナさんの後輩だったな。
「お久しぶりですね。領内の見回りですか?」
「そんな所です。さっきまでは、ヤマト洞窟のダンジョンに挑戦してたパーティーに同行してました。知ってますよね、元王都ギルド所属のアリッサさんのパーティーです」
「ええ、知ってますよ。こちらに移ってきて、ヤマト領ギルドの所属第一号なんですよね」
さすがルミエさんは冒険者ギルドのサブマス。元々受付嬢なので、王都冒険者の情報はしっかり頭に入っているようだ。
「所でお二人は休憩中ですか?」
「ええ、先程まで先輩と業務連絡と相談をしてました。お互い用件は終わりましたので、戻る前に少しお楽しみをと思いまして」
そう言ってアイナさんは、手にしているケーキを一口頬張る。ルミエさんも紅茶をすすり、日暮れ前の優雅な休憩時間となっていた。
「それにしても領主様から預かったコレ……すごいですね」
少しだけ声を潜めたアイナさんが、そっと手にしているブレスレットを見せる。それは加工した魔輝原石のかけらを配置し、場所限定の【ワープポータル】が登録してある物だ。アイナさんとルミエさんには、これを持たせて王都に居ながらヤマト領へ自由に行き来できるようにしている。
そして、このブレスレットにはストレージ機能もつけてある。勿論目的は業務の為なんだけど、あらかじめ私用に使ってもいいよと言ってある。これは転移に関しても同じことで、二人が王都のサブマスになる際の契約なのだから。
「この収納魔法……ストレージというのは、領主様特性なんですよね? 収納能力が底なしなのもすごいですが、経年劣化がまったく無いなんて……」
「そうそう! だって私、ヤマト領地が運営開始した日に限定で出てたケーキ、まだ残ってるもん。入れた数日後に一度取り出したけど、出来立ての香りがして驚いたわ」
「あっ、私も私も! 夜中に前日買った温かい紅茶出したら、すっごい湯気たってた」
二人はストレージのすごさを、目を輝かせて話してくれた。ミズキたちもそうだけど、この時間が停止するストレージを美味しい飲食用に上手につかっているようだ。
これらのおかげで、最近の二人は仕事終わりにはほぼ必ずヤマト領に来ているそうだ。まず何かしらのスイーツを購入し、それから温泉でゆったりとした時間をすごす。その後、湯上りの心地よさを感じながら、買っておいたスイーツを食べる……という事らしい。
それを可能にしているのは、勿論俺が貸し出したブレスレットによるものだが、それを借りていられるのはギルドのサブマスを引き受けたからである。言い方は悪いけど、この極上の餌で二人をサブマスにすえ、ユリナさんとエリカさんをヤマト領に引っ張ってきたのだから。……まぁ、アイナさん達にとってはこの餌は極上すぎるようで、この先何があってもサブマスを辞めない! くらいの意気込みでさえある。
「所で、王都の方で何か問題とかありませんか。問題とかじゃなく、話題になっている事とかでもかまいませんけど」
「最近ですか? う~ん……」
「話題というわけじゃないですけど、以前はよく街に王女様が遊びにきてくれてましたので、最近はすこし寂しい……という声を聞きますね」
「あー……それはその、申し訳ない……」
フローリアは王女ながら、よく王都の街で姿を見かける存在だった。王女であり聖女の彼女は、王国の民にとっては崇拝すべきアイドルのような存在だったのだろう。
「それじゃあ、ミスフェアも同じような感じなのかな……」
「ミレーヌ様ですか? そうかもしれませんね」
ミレーヌも領主令嬢として、領地の民に慕われていた。それがなかなか姿を見せなくなってしまっては、理由を知っていても寂しいと思うのも無理はない。
「……そうだな。定期的に、王都やミスフェアを訪れて、以前のように皆と触れ合える時間を設けるべきかもしれないな」
「そうですね。特に王都なんかだと、憩い広場では王女様だけじゃなくミズキさんも子供たちに大人気でしたから」
「あー……なんとなくわかる」
うちの女性陣は、皆憩い広場で動物と触れ合うのが大好きだ。中でもミズキはどの子とも全力でじゃれあって、子供達ともすぐ仲良くなっていたため、遊びに来た子供たちにも人気だった。
「……そうだ」
「ん? どうしましたか?」
急に呟いた俺を、二人が不思議そうに見てくる。先程の憩い広場の話を聞いて、あることを思い出したのだが、それが声に出てしまったのだ。だが、今目の前に商業ギルドと冒険者ギルドのサブマスがいる。これはもしかして丁度いいかも。
「二人とも、少しばかりお仕事の話はいいですか?」
「え? ……あ、はい。大丈夫です」
「わ、私も大丈夫です」
急に姿勢を正した俺に、合わせて姿勢良く座りなおす二人。幸い目の前のケーキはもうなく、紅茶がわずかにある程度なので丁度いい。
「実はですね、以前よりこのヤマト領に“水の憩い広場”を作ろうと思っていたんですよ」
「「水の憩い広場?」」
「はい。王都の憩い広場のように、かわいらしい動物と触れ合える場所です。ただ、ここヤマト領の売りはなんといっても『水』ですよね。そこで、水辺にいるかわいらしい動物を集めた、水動物の憩い広場をここにつくりたいのです」
俺の申し出に二人は真剣な顔を見せる。さきほどまで美味しくスイーツを楽しんでいた時とは、まるで別人の仕事の顔だ。
「それでですね……その施設規模はおそらく王都以上になりますが、それらを目的の一つとした上で、さらに温泉などの施設をからめた観光旅行……そう、旅行プランを考えてはもらえませんか?」
「王都とヤマト領の……」
「旅行プラン……」
「はい。普通の人は王都からヤマト領へは、馬車を使っての往復となります。それらの道中と、ヤマト領での観光などを絡めた旅行、その一連を商業ギルドで組んでみてはもらえないかという提案です」
そこまで言ったとき、ルミエさんが「あっ」と声を漏らす。
「なるほど。もしそのアイディアが実現した場合、冒険者ギルドとしては旅行にあわせて護衛任務を依頼できる体制を整えておく……という事ですね?」
「そうです。もちろん護衛の冒険者達は、道中以外はすべて自由行動ですから、本人たちも観光なり温泉なりを楽しんでもらえます。……いかがでしょうか?」
「「やりましょう!」」
二人の快諾により、王都とヤマト領のツアープランが始動することになった。
よし! 次は現実でツアープランを色々見てこよう!




