表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
317/397

317.それは、冒険者としてのあり方

 ミズキに「もう少ししたら反撃がはじまる」と言った頃合から、アリッサさん達の動きに変化があった。最初は遠巻きに攻撃を当てたり、ある程度まで近付いたらすぐ離れたりと、あきらかに相手の技量を推し量る行動をとっていた。

 だがアリッサさんが全員の顔を見て「行くよ」と呟くと、先程まで固まっていた状態から、全員が単独行動を開始した。その中で、一人だけ移動せず武器を構えている人がいた。アーチャーのミレイさんだ。戦闘開始時のファーストアタックを含め、定期的に矢を撃ち込んでいる彼女は、パーティーの中でも現在一番ヘイトを取っているはずだ。だというのに動かず、更に矢を撃ち足している。

 結果、彼女へのヘイトは文句なく上昇し、表情がないハズのスカルリーパーが怒り寄ってくるかのようにさえ見える。人間であれば我を忘れて……というほどの勢いで近寄るスカルリーパーだが、次の瞬間ガクンと速度が落ちた。急に動きが鈍くなったかのようだが、それは下半身のみで上半身はそのままの勢いで、自身の目標へ走り寄ろうとした。結果──


「あ、こけた」


 その様子を見ていたゆきから、なんともしまらない言葉が飛び出す。たしかにその通りではあるが、あまりにも場にそぐわない発言だったため、思わず俺も噴出しそうになる。


「あ、あれ? アイツの足元、何かある?」


 微妙に笑顔的に顔をゆがませながら、ミズキがスカルリーパーの足元──もとい、転倒した地面に何かがあることに気付いた。


「あれは泥沼だ。スカルリーパーがミレイさんに向かう直線上に、こっそりと生成したんだろうね」

「でもアレ、別に底なし沼とかじゃないよね。ならすぐ起き上がって抜ければ……」


 そうゆきが言っている最中、今度はスカルリーパーの周囲にうっすらと霧が立ち込める。あれは氷結系魔法だな。それにより、スカルリーパーの周囲は勿論、自身がはまってい泥沼が一瞬で凍りつく。魔力が付与された泥が、魔法で凍結されたのだ。その拘束力は、単純に氷だけで拘束するよりも圧倒的に強い。


「あらま。なんかスカルリーパーが土下座状態だ。あれよ、えーっと……orz」

「酷い例えを耳で聞いた」

「あー、なんか久々に陽光(ひかり)と話したくなってきた。今日帰ったら久々にいい?」

「え? それ今言うこと?」


 あまりの緊張感無さに、オイオイ……と思ったけど実のところ無理もないかなと思ってる。なぜならば──


「あ、いつの間にかアリッサさんとレイラさんが」


 スカルリーパーが地面へ氷付けにされると同時に、左右から剣士二人が素早く近付いていった。そして、アリッサさんは一緒に氷付けにされた鎌とそれを握る手を、反対側でも同じようにレイラさんが手を、それぞれ魔力を通した剣で押さえ込んでいる。

 氷結魔法と、剣士二人の魔力込みの押さえでピクリともできないスカルリーパーの背後から、僧侶のフラウさんが神聖魔法を詠唱しながら近付いて……手を触れた。

 次の瞬間、スカルリーパーを中心に光の柱が昇り、数秒の時間経過と共に消えた柱は、一緒にスカルリーパーをも消し去っていた。


 呆気(あっけ)なく、実に呆気(あっけ)なくヤマト洞窟の今回のボス、スカルリーパーは討伐されたのだった。




 討伐が終わり、スカルリーパーが消えた場所へ。そこには既にアリッサさんたちが待つ待っている。


「お疲れ様。なんだか拍子抜けするくらいアッサリ倒してしまいましたね」


 多少は手こずるかなと思ったのだが、あまりにもすんなり倒してしまい正直驚いている。


「はい。その、私達もこんな簡単に倒せていいのかなぁ……と」

「……ねえ」

「うん……」


 アリッサさんの言葉に、他の人たちも少し困惑気味に頷く。


「ただ一つ分かるのは、今回はレイラとジェニィ、二人がいたからこんなに簡単に事が運んだという事です」

「……そうですね。以前の4人だったら、先程の連携は難しかったかも」


 先程の連携で、まず以前のパーティーだったら問題になるのは足止め魔法の選択だ。ジェニィさんが加わったことにより、以前は不可能だった魔法の重ね(・・)が可能になった。今回使用した泥沼の魔法──たぶん土属性魔法【マッドフィールド】だが、それで発生した泥は他の魔法との相性も良くジャマをしない。だから水属性魔法【フロストフィールド】により、泥沼も一緒に凍らせてより強い拘束魔法として作用したのだ。

 これが一人だった場合、どちらの魔法を使うにしろ威力不足だろう。【マッドフィールド】なら、一度成功してもすぐぬけてくるし。【フロストフィールド】はまず捕らえられるかどうかだろう。仮に捕らえることができても、連携させた時ほどの拘束は望めない。

 また、剣士も二人になったおかげで押さえ込む時も、より確実な行動が行えたようだ。一人であれば、当然片方しか押さえられないので、万が一もう片方の手が拘束を逃れたら取り返しがつかない。


「でも流石ですね。今日会ったばかりの二人なのに、すぐに連携が取れてましたね」

「それはもう、私達も彼女達も冒険者ですからね。合同クエストや緊急招集では、初対面の相手でも連携くらいとれないと結果に響きますから。彼女達は変なクセもないみたいでしたし、予め得意なスキル等も聞いてましたから」


 そういって問題ありませんよと微笑むアリッサさん。確かにゲームでも野良パーティーで一緒する場合、使用可能なスキル云々の確認はするしな。それでも、ゲームの場合はゲーム毎職種毎に、役割ってものが存在する。その役割のテンプレさえ守ってればいいって感じだけど、この世界にそんなマニュアルはない。だからやっぱり彼女達……冒険者の適応力ってのは高いのだろう。

 それは(ひとえ)に、生の執着が強いからだろう。当たり前の事だが、この世界で死亡するということは文字通り死亡だ。一部の人物……フローリアのような人間は、死んだ人間を復活させる魔法が使えたりもするが、基本的にそんなものは無いというのが世界の常識だ。

 だがゲームでは例外なく復活が出来るものが大半だ。特にオンラインゲームであればそれは当然の措置となっている。それゆえに、この世界の冒険者は本当の意味で必死に生きているんだろう。

 そんな事を考えながら話していると、他の人たちも少し落ち着いたのか、こちらにやってきた。


「レイラ、ジェニィ、お疲れ様。いい動きだったよ」

「はい」

「ありがとう」


 アリッサの言葉に、二人も嬉しそうに返事をする。外から見てても、パーティー参加直後とは思えない働きぶりだったしな。


「それでなんだけど、二人には正式に私達のパーティーに加入してもらいたいんだけど……どうかな?」

「勿論です、お受けします」

「改めて、宜しくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 二人が笑顔で申し出を受ける。それにアリッサ達が笑顔を返し、とりかこんで歓迎する。

 そんな訳で、ボスも討伐したので一度ギルドへ戻ることにした。その際、レイラさんとジェニィさんのパーティー加入手続きも一緒にするとのこと。


 そして、俺からは領主としての歓迎の意味を込めて、ヤマト領で自由に温泉は入れるパスなんかもあげた。これでアリッサさんたちと一緒に、冒険の後は気兼ねなく湯船で休めるだろう。これに二人は大変喜んでくれた。まぁこれで、二人が今後は無茶なクエストを受けることもないだろう。


 そういえば、ミズキとゆき以外は皆家の屋上露天風呂に行ってるのか。二人もそこへ行くだろうけど、うーん……俺はどうしようかな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ