316.それは、等しく死を扱うモノか?
9/14更新分は9/15に投稿致します。
この先にいるのは“死神”だ────。
そう冒険者は呟いて、仲間の下へもどっていった。おそらくはこの4階層で休憩した後、外へ戻るのだろう。
しかし死神とは……。確かにLoUにも“死神”という魔物は存在する。だが、もしそうだとしても腑に落ちない事が多い。
「ねえカズキ。さっきの人が言ってた死神って……LoUにいた死神?」
「いや、どうだろうか。もし本当に死神だったら、生半可な冒険者じゃ生きて戻ってこれないだろうな。LoUというゲームだからこそ、許容される難易度の魔物だったからな」
実際のところLoUの死神は、熟練者のボス狩りパーティークラスでないと太刀打ちできない魔物だった。そして当然それだけの存在ならば、こんな5階層程度で到着するダンジョンに控えているわけがない。ましてや、出現ボスが固定じゃないダンジョンに居ていい存在じゃない。
「以前ここにはスカルドラゴンが出現した。少しばかり特殊な能力持ちだったが、それ以外はごく普通の魔物だった」
「……まぁ、その“特殊な能力”がひどく厄介だったんだけどね」
俺の言葉にミズキがボヤく。ミズキはLoUは知らないのだが、俺やミズキが色々と話だけは聞かせているのでこういったいわゆる『メタ話』みたいな事も一緒に話したりする。
「ともかく、一度見てみよう。さっきの冒険者が戻ってきてるように、戦闘開始で部屋や階層がロックされるような事もないと思うし」
俺の言葉に二人が頷く。そしてアリッサさん達の了承を得て、俺達は彼女達について5階層──ボスフロアへと進んだ。
第5階層は、以前着たときとおおよそ同じような状態だった。ただ、以前は初めての到達者ということで、まったく人が立ち入った形跡が無かったが、今は多少地面などに人が来た形跡がある。だがまあ、このフロアでは目的はただ一つ。この先にいるボスを倒すのみ。2階層あたりに出てくる弱いアンデッドが幾つかいるが、当然そんなものはこの階層に来る者にとっては障害物レベルだ。弓も魔法も使うことなく、鞘に収めたままのソードでアリッサさんが打ち崩していく。
そして、そのまますんなりとフロア最奥の広間へと到着した。
「奥に見える骨の塊……アレが、さっき言ってた死神かしら」
「どうですね。でも、そっれらしいものは他にありませんけど」
とりあえず広間にはいり、少しずつ近寄っていく。たしか以前の記憶では、もう少し進むんだ所で魔物がアクティブになったはずだ。
「アリッサさん、一度止まって。あと数歩近付くと、向こうにいる骨も魔物が動き出すと思うから」
「わかったわ。それで、アレが何かわかる人はいるかしら? やっぱり死神なの?」
「……いや。あれは死神じゃない」
「え?」
俺の言葉にゆき以外が驚く。さすがにゆきもLoUの熟練プレイヤーだけあって、本当の死神を知っているからな。
「あそこにいる魔物はスカルリーパー。風貌は確かに死神に似ているけど違う存在だ」
死神の象徴みたいな大鎌を手にした骸骨の魔物だ。ボロボロになった着衣を身にまとっているため、なおさら死神に見えてしまったのだろう。だが、その実強さ的にはそれほど大したことはない。以前ここに出てきたスカルドラゴンと同じ系統の魔物だが、あっちのほうが何倍も強い。
正直なところ、ちゃんと連携をして落ち着いて戦えば、それほど苦戦する相手ではない。もしかして、先程の冒険者は、あの容姿をみて死神と早合点してしまったのかもしれないな。
「心配しなくても、アリッサさんたちのパーティーなら十分戦えるよ。それに、前衛のレイラさんと後裔のジェニィさんも加わるなら磐石だね」
「……わかりました、その言葉を信じます。レイラさん、ジェニィさん、いいですか?」
「はい」
「いつでも」
力強く頷く二人。アリサさんとレイラさんが前にでて隊列を構える。
「では……いきます」
その声を合図に、ゆっくりと前へ進んでいく。とりあえず俺達はその場で待機して、彼女達の戦闘を見守ることにした。万が一があればわからないが、基本としては見守る姿勢だ。
「ねぇ、お兄ちゃん。あのスカル……なんだけ?」
「スカルリーパーだ。それがどうかしたか?」
「あれって、見た目はすっごい“死神”って感じするんだけど……全然違うの?」
少しばかりの不安を浮かべて聞いてくる。アリッサさんたちは友達だから、ほんの少しの不安でも気になるのだろう。
「そうだな……彼女達の観点からしてみれば、スカルリーパーは“強い”、そして死神は“無理”ってところかな」
「うえぇ……無理って……何ソレ」
「どう表現していいかわからないんだよ。それだけ、本物の死神ってのは『死』が付き纏う存在なんだ。例えば死神が振るう大鎌……あれは、触れた相手の魂をも殺す武器といわれている。理屈はわからないが、武器にそういうルールが設定されているんだ」
「……なんだかソレ、インチキくさくない?」
ジト目で俺を見るミズキ。だから俺はあることを教えてやる。
「それを言うならミズキ、お前以前彩和でドラゴンをぶった切ったことあるだろ? あの時使った武器──ジークフリートを忘れたか?」
「あー……そういうコト」
「そういう事だ。ジークフリートがドラゴンに対し等しく滅びを与えるように、死神の鎌はすべてに死を与える武器だ」
それを聞いたミズキが「うげ」と小さくうめいたが、横にいたゆきがちょっと面白げに口を開く。
「でもさ、多分死神の鎌でもフローリア様には届かないんだよね?」
「え!? そうなの?」
「ああ。フローリアは死神が持つ闇属性と正反対の聖属性、それを宿した存在の頂点ともいえる。それに彼女自身が持つ特殊な力で、物理的な攻撃は一切届かない。乱暴なやり方だが、死神が現われたらフローリア一人を置いて離れていればすんなり決着するだろうな」
といっても、フローリア以外にも俺達なら誰しもが一人で十分討伐できるだろう。ミレーヌだけは召喚獣のホルケ同伴じゃないとちょっとキツそうだけど。
「……と、どうやら向こうが動き出すぞ」
俺の声を聞いて、二人の視線が前方に向く。すでに武器を構え準備万端の彼女達に、スカルリーパーがゆっくりと起き上がった。
遠目で見た感じ、慎重は2メートルを超えているようだ。人というよりもトロルやオーガーに近い背丈かもしれない。だがその風貌はあきらかにアンデッド。ぼろい布を纏った骸骨が、自身の身の丈と同じほどの鎌を握っており、身長以上の大きさを感じさせている。
だがそれだけの巨体ならば……と思った次の瞬間、スカルリーパーはすばやい動きで一気に間合いをつめた。
「なっ……」
「早……」
前衛の二人にめがけ、横なぎに鎌が振りぬかれる。
「ぐぅッ!」
「ああっ!」
予想をはるかに超える速度とパワーに二人が弾き飛ばされる。だが、それを見て俺とゆきは安堵の息を漏らた。
「どうやらスカルリーパーで間違いなさそうだな」
「そうね。もしアレが死神なら、最初の一振りで魂を切り裂かれる恐れもあったものね」
「それに……」
「ええ……」
「「足があるから」」
「……ナニソレ」
俺とゆきの言葉に、ミズキがなんだそりゃという視線を向ける。まぁ正直言えば、骨が立ち上がった時点で足があったから死神ではないだろうとは思っていたんだ。
だがそれがわかったところで、今戦っている彼女達には関係がない。スカルリーパーが、思ったよりも機敏で彼女達が翻弄されているからだ。
「お兄ちゃん、アレ……大丈夫かな?」
「ミズキはアリッサさんたちを信じてないのか?」
「信じてるけど、でも……」
スカルリーパーに襲われている彼女達を、心配そうに見ているミズキ。ゆきも言葉にはしてないが、心配しているのが伝わってくる。
だが、防御陣を組みながらも、アリッサさんが何か話をしているのがここから見える。そして何度か言葉を交わすたび、皆が力強く頷いている。……うん、いいパーティーだな。
「大丈夫だよ。多分もう少ししたら、アリッサさん達の反撃がはじまる」
そう言って不安そうなミズキの頭をぽんぽんとたたいてやる。
まあ、見てろって。大切なお友達の戦闘なんだから。




