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314.それは、予想できない道草道中

 ヤマト洞窟の前に転移した。以前来た時は前回は、この洞窟に初めてやってきた冒険者だったので、当然入り口などはまったく手付かず状態の天然モノだった。

 現在はヤマト領管轄の洞窟ということで日が浅いながらも、入り口付近は人間が踏み固めたような状態になりつつある。

 入り口から中を見るも、見える範囲には他の冒険者は見当たらない。この洞窟は階層毎にしっかり魔物区分がされており、1階層ではオーク系、2階層は初級アンデッド、3階層は中級アンデッドという感じだ。そして4階層が安全階層で、5階層がボス部屋となっている。


「じゃあ、行くか」


 洞窟へ入る際に、思わずそう呟いてしまう。思い返せばこっちに来て、一人でダンジョンへ潜るという事はほとんどなかった。実際のところ、今回だって先に潜ったミズキやゆきが待ってはいるが、一人で入って行くことすら随分久しい。

 それを気楽と取るか、寂しいと取るか……。多分今の俺なら後者だろうな。それじゃあ寂しいのはイヤなので、さっさと二人が待つ4階層目に向かう事にした。


 久々のソロダンジョンは逆に新鮮だった。この世界の基礎となっているLoUでは、基本的にタイムアタック要素は存在しない。ただキャラ性能だけじゃなく、プレイヤー技量による進行速度の違いはどうしても発生してしまい、新規ダンジョンやマップリファイン後のログイン直後などは、良い狩場を目指してプレイヤーが目まぐるしく駆け回る光景は珍しくもなかった。

 今の俺は少しばかりそんな心境だ。ダンジョン内でもフィールドでも、武器を構えないで“移動”に徹していれば、構えている場合よりもはるかに早く移動できる。そんな訳で1階層目のオーク達に関しては、すぐ横をさっさとすり抜けて通り抜けさせてもらった。

 同じ感じで2階層目もほぼスルーに近い感じで走り抜けてみた。この世界の洞窟は、意図的に真っ暗な仕掛けが施されてないかぎり、結構そのままでも見通すことができる。もっとも、俺のステータスが高いせいもあるけど、基本的に松明とかなくても大丈夫なレベルで構築されている。

 ただ、さすがに3階層目は少しやっかいだった。2階層目に出てくるスケルトンなどは武器を構えているが、ここのワイトなどは特にそうでもない。それに浮遊しているから、こちらを見つけるとすーっと飛んで近寄ってくる。流石にこればっかりは倒さないとしつこいので、武器を取り出し一刀両断。時間としては極わずかだが、これが本当のタイムアタックなら結構なタイムロスだろう。

 かといって階層出口までトレインするわけにもいかないしなぁ……なんて考えていた時。


「……まだっ……!」

「…………っ!」


 すぐ近くから戦闘音と共に、誰かの声が聞こえてきた。きっとここにきた冒険者パーティーだなと思い、何となく音のする方へ行って覗いてみた。

 そこにいたのは、女性二人組みの冒険者で剣士と……あれは魔法使いかな? そして相手はワイト……じゃない、リッチか? だとするとよほどの冒険者じゃないと、きついんじゃないか?

 これは場合によっては、助けに入らないとちょっとまずいかも。ゲームと違って横なぐりによる揉め事とかは発生しないけど、どうしようかな……と迷っていたのだが。


「コイツ、近寄るだけで……」

「力、がっ……」


 リッチによられた二人が、顔色を悪くして……武器を落としてしまう。あれはリッチじゃない、デミリッチだ!


「とおりゃぁッ!!」

「え……?」

「は……?」


 飛び出してソードでデミリッチを殴るようにして遠くへ下がらせる。デミリッチはある程度近寄るだけで、エナジードレインが発生してしまう。先ほどの様子を見るに二人は、その範囲内にまで近寄られてしまったのだろう。なのでまずは二人から引き離すため、おもいっきり剣で叩くようにして吹き飛ばした。ヘタに切り付けてしまうと、離れてくれないかもしれなかったから。


「あ、あなたは……」

「話は後! まずはアレを倒すけど、いいかな?」

「は、はい──」


 状況がいまいち理解できてないようだけど、吹き飛ばしたデミリッチはすぐさま起き上がって攻撃準備をしている。時間がないので、了承の返事がきこえたかどうかというあたりで、すぐに俺は飛び出していき手にしたソードに魔力を流し込む。以前ドワーフのギリムに作ってもらった、魔力を流して威力を上げる武器だ。今回は威力を上げるのではなく、アンデッド系に有効な武器としての魔力付与だ。

 近寄って一気に振り切る。相手はアンデッドだし、ヘタに時間をかけてエナジードレインを受けるのも嫌だからな。俺からしてみると、特別強いわけじゃないのであっさりと討伐完了。


「凄い……」

「うん……」


 後ろで呆けている冒険者二人の声が聞こえる。その言葉に若干嬉しい気持ちもあるが、俺としては少し気になることがあった。とりあえず二人のところへ行き、まだ座り込んでいる傍へしゃがみこむ。

 ストレージからMP回復薬を取り出すと、二人が驚きの目を向ける。


「とりあえずこれを飲んでMP回復をして。さっきのデミリッチのエナジードレインで、二人ともうまく動けないみたいだから」

「デ、デミリッチ……!」

「さっきのが……」


 俺の言葉に驚いている間に「とにかく飲んで」と押し付けて飲んでもらった。すぐさま効果は出て、目に見えて二人の顔色が良くなっていく。

 そして落ち着いたところで、気になる事を聞くことにした。


「お二人のパーティーなんですか?」

「はい、そうです」


 俺の質問に剣士の方が答えてくれる。こちらがリーダーなんだろうか。


「今回ここに来るにあたって、ヤマト領の冒険者ギルドでクエストは受けられましたか?」

「あ、はい。こちらに……」


 そう言って腰のポーチから、冒険者ギルドの依頼書を見せる。確かにちゃんと正式に受けているようだ。だが……


「先ほどの様子から見て、お二人でここの3階層はまだ早いのではありませんか?」

「えっと……」

「そうかもしれないです。でも……」


 こちらの言ってる事を理解はできるが、何か納得できないという表情の二人。えてして、冒険者ってのは無謀だったりもするから、分からないでもないんだけど。だからといって、今の俺はこういう事は見過ごせない立場でもある。二人を見ながらすっと立ち上がる、一瞬ビクっとしながらも俺の顔を見る。


「改めて挨拶を。俺はヤマト領の領主、カズキ・ウォン・ヤマトです。俺から見てお二人は、まだこの階層は早いです」


 言いながら自分の冒険者カードを提示する。


「ヤマト領主……」

「うそ……Sランク……」


 カードと俺を何度か見た後、二人はうなだれてしまう。どうしたもんかと思っていると、目の前の剣士が顔を上げて話しかけてくる。


「あ、あの! 私達は、何かペナルティを受けたりするのでしょうか?」

「え? いや、別にそれはないよ。只単に俺個人が『無茶したら危ないよ』って言うだけだから」


 その言葉に安堵の表情を浮かべる。どうやら無茶をしてる自覚はあったようだ。


「……でも、どうしようか。俺はこれから、もう一つ先の階層で待ってる人達と合流するために進むんだけど。二人はどうする? 脅すわけじゃないけど、このまま戻って無事に2階層に戻れるって確約はないでしょ?」

「「…………」」


 俺の言葉に言葉なく頷く二人。となると──


「それじゃあ、とりあえず一緒に4階層へ行きましょう。そこに居る知人のパーティーと合流して、一時的に一緒に行動して下さい」

「はい、わかりました」

「お手数おかけします」


 俺の申し出に素直に返事をする二人。まぁ、ここで「はいさようなら」と見捨てられるのではないとわかり、ほっとしているようだ。


「それじゃあ待たせているんで、行きましょう。えーっと……」

「あ、レイラです」

「ジェニィです」


 剣士の方がレイラ、魔法使いがジェニィと名乗る。

 とりあえず二人を連れて俺は3階層を進み、ようやく4階層へ到着したのだった。

 んー……すっかり道草してしまったな。



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