309.それは、空翔る白き雪のごとく
追記:8/29の更新は、翌日8/30に行います。最近の更新が、度々伸びてしまい申し訳ありません
冒険者ギルドを出た俺達は、さっそく教えてもらった西海岸の洞窟を向かうことにした。だが、それを聞いて驚きの表情を浮かべたのはリスティ王女だ。
「え!? えっと、その……クエストへ向かう為の準備とか、そういったものは無いのですか?」
「ん? 特にないよ。ねえ?」
「はい」
「ですね」
普通であれば色々と準備もいるだろうが、俺達の場合それはほぼ不要だろう。なにしろ、何もない状態であってもストレージにはアイテム等が山ほどあり、ダンジョン内でなければ即座に転移も可能なのだ。
「なんでですか? クエストに行くんですよね!?」
「リスティ、今私達はカズキと一緒にいるのよ?」
「そうですよ。カズキさんと一緒にいるのに、そんな普通の考えではダメですよ」
疑問をもつリスティ王女に、フローリアとミレーヌが返事を返す。なんかもう、すっかりこんな扱いにも慣れてきてしまった気がする。
「フローリア達が言うのであれば、そういう事なのですね。国のため、民にためにも、もっと見聞を広めないといけませんわね」
とりあえずリスティ王女も納得してくれたが、どうにも腑に落ちないとはこの事か。
一般的感覚からすれば、今からクエストに向かうとは思えないほど軽やかな雰囲気の中、ふとリスティ王女の姿を見て疑問が浮かぶ。
「ところでリスティ王女。今更ですが、王女自身も大丈夫ですか?」
「えっと、それはどういう意味でしょうか?」
「その、服装とか、体力的な事とか……」
改めてリスティ王女を見ると、当初は領内を散歩するくらいの感覚だったためだろう。少しばかり動きやすい感じの、シンプルなワンピースドレスを着ている。スカート裾は地面にはついてないが、どちらかといればロングスカートに分類される丈だ。靴も当然ながら冒険向けのシューズではない。
これがフローリアやミレーヌであれば、もう既に場数を踏んでいるため慣れてしまっているだろうが、クエスト同行が始めてというリスティ王女は、はたしてどうなのだろうかと。
だが俺の質問を受けたリスティ王女は、少し考える素振りを見せるも、すぐに笑顔で問題ないとの返事を返す。
そんな彼女の腕で、仄かにうっすら輝きを纏っているブレスレットが目に付いた。
「……なるほど、そういう事ですか」
「何がですか?」
「それですよ。ブレスレット状態ですが、主であるリスティ王女の体力消耗を抑えてるんですよ」
「え!?」
驚いて自分のブレスレットを優しくなでる。うっすらと白い毛で覆われたブレスレットは、白狼が待機状態になっている時の形態だが、主とのリンクはずっとしてある。それをなでながら、優しげな笑みを浮かべるリスティ王女。そして、ブレスレットが光を纏い小さな白い狼になる。ぬいぐるみサイズの形態だ。
「ありがとうネージュ」
そう言って易しくなでると、かわいらしく返事鳴きを返してきた。
このネージュというのはリスティ王女がつけた、召喚獣の白狼の名前だ。その名前を聞いた瞬間、脳裏にフランス語の“雪”という単語が浮かんで驚いたのは余談だ。
何にせよ、ネージュがいるなら問題は無さそうだ。俺達はのんびりと西へ向かった。
ミスフェアの西海岸は、入り江ではあるが丁度潮の流れが激しいのか、周囲を囲む岸壁が荒々しく削られた断崖となっていた。比較的穏やかなのはミスフェア側の岸のみで、その他は常に砕けた波が高くしぶきをあげていた。
その断崖の中、少し見えにくいが確かに洞窟のようなものが見える。
ただし、あれは──
「アレが調査する洞窟……なんでしょうね」
「でも、とてもじゃないですけど何もなさそうですね」
ミレーヌの意見はもっともだ。なんせ、あまりにも出入りが不自由すぎる。もしあそこを使っている生き物がいたら、鳥くらいのもだろう。魔物がわざわざ住処にするには不便すごるだろ。
「とはいえ、あれの調査が依頼内容だ。だから行くしかないぞ」
「え、でも、あそこへどうやって行けばよろしいのですか?」
俺の言葉にリスティ王女が疑問をかかげる。だが、それを聞いた俺達は「まってました」とばかりに笑みを浮かべる。
「ミレーヌ、ちょっとお手本いいか?」
「了解です。ホルケ!」
すぐさまホルケを呼び出すミレーヌ。ちなみにリスティ王女の白狼──もといネージュを組み込む際、ホルケを始めとした他の召喚獣にも小型形態を組み込んである。ホルケは無論、他の麒麟やペガサスにもぬいぐるみのような形態があるので、たまに皆呼び出しては抱きしめたりしている。
勿論、今回のホルケは通常形態だ。呼び出したホルケの背中に乗るミレーヌ。そして次の瞬間。
「えっ!? と……飛びましたわッ!?」
跳ねるのではなく、ふわっと宙に舞い上がり、そして目の前の空を軽やかに駆ける姿に、ただただ驚きの表情しかできないリスティ王女。
「ホ、ホルケが、空を、とび、飛び……」
「落ち着いてくださいリスティ。それに……ね?」
「な、何ですの……って、ま、まさかネージュも!?」
ずっと飛んでいるホルケを追っていた視線を、自分の手の中にいるネージュに向ける。
「はい、正解です!」
「本当ですか!?」
ぐわっと笑みと狂気をない交ぜにしたような目で、俺とフローリアを見てくる。うわぁ、もしこれ冗談だったら俺殺されてたな。よかった……。
「本当ですよ。まずはネージを本来の姿にしてあげてください」
「は、はい。ネージュ、お願い」
そう言うと、ぬいぐるみサイズのネージュが光に包まれ、その光が瞬く間に立派な白狼になる。そしてすぐさませの背中に乗る。既にこのサイズのネージュに騎乗する経験はしていたのだ。
「では、始めはゆっくり上昇するよにネージュに伝えてください。大丈夫ですよ、この子達に乗っている間は、落ちないように力が働きますので。眠っていても落ちませんよ」
「そ、そうなんですね。わかりました……それじゃあ、ネージュ」
そっと背中をなでると、ゆっくりとネージュが浮かぶように上昇する。
「わ……わぁあああ……!」
すーっと飛びあがるネージュの背中で、歓喜の声をあげるリスティ王女。既に大分上昇しているのだが、その声がまだ聞こえる。よほど嬉しくてはしゃいでいるようだ。
そして、ある程度まで上昇したところで隣にホルケがやってきた。ミレーヌが何か言うとリスティ王女が頷く。そして並んでゆっくりと駆け出す狼二頭。それが段々と早くなり、いつしか普段皆が走るときと遜色ないほどの速度で飛べるようになっていた。
「すばらしいです! 改めてネージュをありがとうございます!」
戻って来たリスティ王女は、もう笑顔しか知りませんわよという表情で何度もお礼を言ってきた。フローリアが見せたアルテミスの空の視野を随分気に入っていたので、よもや自分自身がそれを見れるとは思っていなかったんのだろう。
「でも、初めて乗ったのにあれだけ走れるのは、リスティ王女の力ですよ。それとネージュが王女を信頼しているからこそ、あれだけ自由に駆け回れたのです」
「そうなんですね。本当にありがとうネージュ!」
ネージュにまたがったまま、前に倒れてぎゅーっと抱きしめる。力いっぱい抱きしめているようだが、ネージュにしてみればほどよい愛撫だったのだろう。嬉しそうに尻尾をばたばたふっている。
「……さて。大変盛り上がってますけど、本来の目的は別にありますわよ」
「そ、そうでしたね。あまりにも嬉しくてつい」
フローリアの言葉で、リスティ王女もようやく本来の目的を思い出す。……あと、ついでに俺も思い出す。忘れてたなんていえませんハイ。
「それではカズキ、私達のスレイプニルさんを出して下さい」
フローリアに言われ、俺もスレイプニルを呼び出す。だが、その姿を見てフローリアが何か思案顔だ。
「スレイプニルさんも、小型形態になれませんの?」
「…………いる?」
八本脚のぬいぐるみの子馬を連想してみた。……ソレ、どこに需要あんのかね。
結論。スレイプニルは今のままでOKという事になった。




