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308.それは、新たなる調査のはじまり

追記:次話の投稿(8/27分)は8/28に行います

 久しぶりにミスフェアの冒険者ギルドを訪れた。初めてここに来た時、砕いた貝殻の漆喰(しっくい)壁に触れていたら、ここのギルマスに話しかけられたんだっけ。たしかゼリックだったかな。王都のギルマスのグランツさんと友人なんだっけ。

 少しばかり前の事を思い出しながら建物に入ると、室内の冒険者の視線が一斉にこちらに向く。その視線だが、最初は先頭の俺を見て、その後後ろのミレーヌやフローリアへ向く。その時点で大抵の者は気付いてそっと視線を戻してくれる。

 そんな中、傍のテーブルに座った人物がじっとこちらを見ている。たがその視線に嫌な感じはまったくない。なぜならば、


「久しぶりだな。……っと、ヤマト領の領主になったのでしたかな?」

「ええ、お久しぶりです。でも堅苦しいのはいやなので、以前と変わらぬ普通の冒険者扱いでいいですよ」


 そう言って握手を交わす相手は、先ほど思い出していたギルマスのゼリックだ。そういえばここの初めて入った時も、ゼリックはそこに座っていたな。きっとお気に入りの場所……というか、職場の監視席なんだろうな。


「こんにちはゼリックさん。いつもご苦労様です」

「ありがとう御座いますミレーヌ様。それにフローリア様もご一緒ですか」

「ええ、でも今日は……」


 そう言ってフローリアがすっと横にずれる。その後ろにいたリスティ王女が前に出てくる。

 二人を見て、一瞬「?」という顔をしたが、すぐさま「っ!?」と驚きの顔になる。さすがにギルドマスターなんだけあって、ちゃんと顔を知っているようだ。


「リスティ王女……でしょうか?」

「ええ、始めましてミスフェアのギルドマスター殿。ラウール王国第二王女のリスティ・イルク・ラウールです。少しばかりミスフェアへお邪魔しておりますわ」


 二人が名乗ると、冒険者達の視線がひたたび戻って来た。ただ、今度はアミティ王女とリスティ王女が、その視線の先にあるターゲットだ。元々大陸内でも遠地の両国。ここの冒険者達はラウールの王女達を、名前こそは知っていても顔は知らないものが多い。それに何より、一緒にいるのがフローリアとミレーヌという事で、その信憑性に疑いの余地はない。

 まさかの訪問に、ゼリックも緊張した面持ちで頭を下げた。


「歓迎いたします。して、本日はどのようなご用件で?」


 そういいながらゼリックの視線は俺を見る。まあこの面子では、俺が一番話しかけやすいんだろうな。


「何かここで適当なクエストでもあればと思って。出来れば討伐系がいいんだけど」

「……なんだかお前さんは、以前も同じような事を言っておったな。妹のランク上げのために手ごろなクエストがないか、とか言っておっただろ」

「あー……そんなこともありましたね」


 以前ここへクエストを受けに来て、その結果が最終的に彩和へ行くことになる原動にもなった。あれがなかったら、その後の彩和関連の出来事が遅れる、もしくは無かったかもしれない。


「とりあえずここでは何だ、奥の部屋に行こうか」

「わかりました。皆、移動しましょう」


 俺の言葉に「はい」と返事をして着いて来る女性陣をみて、ゼリックが少し驚いた様子で俺を見る。


「王女様達相手に、堂々としたもんだな……」

「慣れですよ。これでもフローリアとミレーヌの婚約者ですから」

「……そうだったな。まったく、少し前までは普通の冒険者だと思ってたのに、いつのまにか領主で公爵で、王女様や領主令嬢の婚約者だとぉ? まったくどうなってるんだか……」


 軽く愚痴るゼリックを見て、心の中で「なんかズルしてすみません」などと謝りながら後を着いて行く。カウンターの横を通る時、こちらを見ている受付嬢と目があったので会釈した。なんか見覚えがあると思ったら、以前来た時に話した受付嬢だった。ちょっと懐かしいと思ったけど、ここで立ち止まったりするとフローリアあたりがすごく睨みそうなんでやめておいた。




「……それでだ、何か良さげなクエストって無いかな?」


 応接室に入り、皆が座るのを待って俺は話を切り出した。別にあせってるわけじゃないけど、この面子だと俺が話しを切り出さないと進まないような気がしたんで。


「とはいってもな……ここのクエストは、相変わらず護衛任務が多いからな。とはいえ、ヤマト領が出来たおかげで、一番多いのがミスフェアとヤマト領間の護衛だな。主に商人が依頼してくるヤツだ」

「あー……ちょっとその話を聞きたいかな。すみませんリスティ王女、クエストの前に少しだけこちらの話よろしいですか?」

「ええ、かまいわせんわ」


 笑顔で快諾してくれたので、俺は改めてゼリックに話を聞く。


「ヤマト領が出来て、護衛任務がミスフェアとヤマトの間の護衛というのが多くなったのは、ここの冒険者達にとってはどうなんですか? その、良し悪しというか」

「そうだな……歓迎する声は聞いたことあるが、別に不満を漏らしてるって話はないぞ」

「本当ですか? 俺が領主だからって気を遣ってないですよね?」

「ああ、本当だ。何でもヤマト領ってのは、温泉とか色々あるんだろ? この前も知り合いの冒険者がお土産だって、なんか簡易の携帯食をもってきたぞ。お湯をかけて少し待つと麺になるってヤツだ」


 あ、それってヤマト領で売り出してるインスタント麺か。こうやってちゃんと売れてるって話を聞くと安心するな。家に帰ったらエレリナにも話しておくか。


「後は……そうそう! 護衛任務だから、移動の費用は依頼者持ちになるだろ。だから冒険者達は、自分たちの食費と小遣いを持って、温泉に入りに言ってる……とか言ってたぞ」

「あーそういうやり方もあるのか」

「寧ろグランティルの王都へ行くよりも距離が短い分、冒険者も御者も疲労が少ないから、かなり万全な移動になっているしな。おかげでミスフェアとヤマト領の間の護衛は、こっちじゃ人気の依頼だぞ」

「……そうですか。なんか、意図しない結果になってますけど、感謝されてるなら何よりで」


 程よい返事をもらった俺は、ひょっとして王都からヤマト領への護衛任務も同じようになっているのかなと考えた。今度王都へ行ってグランツに聞いてみるか。


「それじゃあ、何かよいクエストが無いかお聞きしたいのですが」


 とりあえず満足したので、自分の話題はここで切り上げて本題へ。


「んーそう言ってもなぁ……言ったように、基本的に護衛任務が多い国だからなここは」


 実際のところ、先ほど話題にしたのはヤマト領までの護衛だけだが、港国として栄えるミスフェアは、当然他の国への商品も運びだしている。ヤマト領の先ならばグランティル王国や、もっと南下してメルンボス交易街あたりまで運ぶ商人も多い。西へ向かうならスレイス共和国も多い。温泉の国であるスレイスでは、ここと同じように彩和の文化が受け入れられているからだ。


「多分今掲示板にある討伐クエストじゃ、満足してくれないんだろ?」

「なんか人を戦闘狂みたいに……あと、満足しないのは俺じゃないんで」


 どうしたもんかと真剣に悩むゼリックを見て、かえっても仕分けないと思って諦めようとしたその時。


「…………仕方ないな」

「ん? 何が仕方ないんですか?」


 何かを決めたような顔でこっちを見てくる。話の流れ的に、なんか秘密にしてた事項を打ち明けるみたいな雰囲気なんだが。


「以前の依頼は覚えているな? ここの東側の岩場にある洞窟の調査をしてもらったのを」

「ああ、もちろん覚えているが……まさか、またそこに何か?」

「いや。場所はそこじゃない。反対側……西側の対岸だ。ここの西側は大きな入り江になっているが、ミスフェアに面した部分以外は切り立った崖と未開の森になっていて、その実態がそうなっているのかは俺にもわからん。だが、その入り江の対岸……つまりさらに西側に、あそこと同じように洞窟があるんだよ」

「……それを調査して欲しいと?」

「ああ。何もなければいいのだが、以前のように何かが潜んでいる可能性もある。今は対岸だから何も起きてないが、もしあそこに魔物でも住み着いていたら問題だからな」

「西の入り江の対岸……ミレーヌはその洞窟は知ってるのか?」


 じっと邪魔をせずに黙っていたミレーヌに声をかける。やはりこの国のことを一番知ってる人にも聞いておくべきだろう。


「西の入り江は勿論知っておりますが、そこにある洞窟までは……。そもそも、私はカズキと知り合うまではそこまで出歩かないお嬢様だったんですよ」


 そう言ってくすりと笑う。なんかその言い方だと、箱入り娘が素行の悪い男にそそのかされて夜遊びしてるみたいな感じなんですけど。


「どうだろう? できれば調査してもらえないか? 無論危険だと判断したらやめてもらっても構わない」

「いえ、大丈夫ですよ。皆もいいかな?」

「はい、構いませんわ」

「もちろんですよ」


 フローリアとミレーヌが即返事を返す。だが、リスティ王女からの返答がない。討伐クエストじゃないからイマイチなのかなと思った顔を見ると。


「こ、これが冒険者なのですね! どうしましょう、ワクワクしてきましたわ!」


 と手を組んでこちらを拝むようにして目を輝かせている。

 なんかよくわからないけど、とりあえずは賛成ってことでいいんだよね。その様子をフローリアとミレーヌは苦笑い、ゼリックは唖然とした様子で見ていた。

 ……よし、気分を切り替えて調査クエストに行ってみようじゃないか。



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