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305.そして、再会と更に再会を

 フローリアからの提案で、せっかくだから普通では行けないような場所……ノース湖の主である大亀に会いに行くのはどうだろうかとの話になった。

 中々に面白いとは想ったが、一応ラウールの王女姉妹はヤマト領を見に来たという事なので、どうだろうと確認をとってみると、二人とも面白そうだとすぐ了承してしまった。


 聞けば今回の領地視察は、道中の出会いで分かるように当初はリスティ王女だけの予定だった。そして本来であれば、馬車で延々と移動しての到着となるはずだった。その行程も、まずはグランティル王国へ脚を運び、そこで何日か滞在した後ちょっとだけヤマト領を見る……程度の感じだったらしい。

 だが俺達が同行したため、移動時間をまるまるカットするという結果に。この世界で国や領地を訪問するという行為は、その大半が移動であるといって過言ではない。だから普通は『せっかく来たのだから』と長期滞在をする事が多いのだとか。


 それで今回だが……まだヤマト領ならではの名所と言えるものはほとんどない。将来的には『水の街』というイメージを定着させて、そばのノース川は無論、土地を広げ水資源を生かした観光および商業施設を増やしていく予定だ。手始めに王都の“憩い広場”と同じスタンスで、触れ合える水族館のようなものを構える予定なんかを立てている。

 まあ、そんな訳で今はまだ温泉関係とお土産通りくらいしか無いようなものだ。その二つのうち、一つは今日散策したし、帰る前にもう一度見てまわってもらえばいい。そして温泉の方は、それこそ今夜特別に家の屋上露天温泉に入ってもらう事になっている。

 そういう訳で、ものめずらしさも相まってノース湖の主に会いにいくことになった。




 といっても、別段何か用意をするわけではない。すぐさまノース湖の辺に皆で転移をする。

 一瞬で転移をするという事に、ラウールの王女姉妹はまだなれないが、流石にマリナーサとエルシーラは普通だ。自身もご神木からの転移を行っているからというのもあるが、実際彼女達とは結構いろいろな土地へ同行しているからなぁ。

 だが、そんな二人も今回は別の意味で驚いてた。


「……すごく精霊の力に満ちた空気ですね」

「この湖からヤマト領に水が流れていくのですね……」


 どうやらここ山頂の空気に、普通ではない力が篭っているという事にいち早く気付いたのだろう。その辺りはさすがにエルフ──妖精種であるといわざるを得ない。


「これが山頂の風景……」

「このような場所、初めて来ました……」


 大して王女姉妹は、こういった山頂自体が初体験らしい。王女様っぽいと言えばそうなんだと、今更になって思ってしまい、なんとなくフローリアを見てしまう。


「……なんですか? 私だってカズキと知り合ってなかったら、今みたいな非常識な自分規準を持ち合わせたりはしてませんわよ」

「非常識って、なんと酷い……」


 フローリアの遠慮のない歯に衣着せぬ言葉が、理不尽に俺を苛める。でも、なんか最近これがフローリアなんだなっていう気がしてきた。もう、俺の中で聖女ってなんだろうって思ってるよ。


「大丈夫ですよカズキさん。フローリア姉さまは、今幸せすぎて色々と自分が抑えられなくなっているだけですから。もう少ししたら以前のような、ちょっとだけ辛辣なフローリア姉さまに戻ります」

「あ……少しだけど辛辣なのはあるんだ」


 とても年下とは思えないミレーヌの言葉に、俺も少しばかり諦めムードを漂わせる。というか、なんでミレーヌはこういう発言が出来るんだろうか。……エレリナさんの妙な教育とか受けてないよね?

 まあ、変な気遣いがいらないのはありがたいが……などと思っていたら、ふとマリナーサが何かを見つけたように叫んだ。


「あっ! あの島は……」

「っ!? なんか物凄い力を感じます……」


 言葉を追って視線を向けたエルシーラは、そこからとてつもない何か強大な力を感じた。

 そちらには、湖の中ほどにぽっかりと島があった。正確には、島のようなモノ(・・・・・・・)が浮かんでいるのだ。


「おーいっ!」


 俺はその島に向かって呼びかける。すると──


「ね、姉さま! 島が動いてます!」

「いえ、アレは島では……もしやあれが……?」

「はい」


 驚くエルフ達と王女姉妹の目の前にやってきた島は、ざぱっと水面へより浮き上がり……持ち上がった。そして、その島の正面には頭があった。湖の主である大亀だ。

 俺はその大亀のすぐ前まで行き、そっと手で触れて話しかけた。


『お久しぶりです、以前こちらに来ましたカズキです』

『久しぶりですな。……おや、他にも以前お会いした方が二人ほどいますね』


 俺の後ろにいたフローリアとミレーヌを見て、大亀が楽しげな声を出す。どうやらちゃんと覚えていてくれたようだ。俺は二人を手招きして、同じように手を触れてもらう。


『お久しぶりですね、お変わりありませんか?』

『あれから困った事とか、おきてませんか?』

『はは、その節はありがとう。今は何もなく平和だよ』


 二人の言葉に、表情からはわからないが喜びのような声を受ける。


『……それで、今日は一体どうしたのかね?』

『あ、そうだ』


 大亀に言われ俺は、興味津々でこちらを見ている四人を呼ぶ。マリナーサたちはこの大亀が、ご神木である古代(エンシェント)エルフや、スレイス共和国で会った火竜、そして火吹き山の氷結不死鳥(アイスフェニックス)と同じ存在であると認識していたが、王女姉妹にとっては色々と初めてづくしの相手である。

 ひとまず全員を簡単に紹介して言葉を交わす。王女姉妹はこの念話のような会話がまだうまくできず、仕方なく此方で紹介をさせてもらった。ただ、手を触れていれば他の会話は聞こえるので、そのまま聞いていてもらうことにした。

 その中で、マリアーネはハイエルフであり、里でご神木となっている古代エルフと深いつながりがあることを話すと、大亀がどこか嬉しそうな声をあげた。


「そうか、あいつの……。もう今となっては、会うことも叶わぬからな……」


 そう言ってそっと目を細める大亀。もしかしたら閉じて何かを思い返しているのかもしれない。

 だが──昔からよく“言葉には意思がある”と聞く。会話で話題になるということは、それ自体に意味があり何かしらの力が働いているのだと。

 だから、それに気付いた時は少しばかり鳥肌が立った。偶然……なのかなって。

 はるか空の高みから、こちらへ近付いてくる強大な力を感じたのだ。


『カズキ! 何かが近付いてきます!』

『わかってる。でも、大丈夫だよ……ね?』


 マリナーサとエルシーラもすぐに気付いたようだ。不安そうにする他の人に、俺は大丈夫だと言って大亀の方を見る。


『……そうか。なんとまぁ、久しいものだな……』


 そう言って空を見上げると、その視線の先に段々と近付いてくるものがいた。それは大きく翼を広げながらも、どこか優雅にそして鋭敏な飛行をみせていた。

 その姿がようやく見えたフローリアが、驚きのあと一際嬉しそうな顔を見せた。


『アレは氷結不死鳥(アイスフェニックス)さんですね』

『ええ、そうですね……』


 見上げていたミレーヌの言葉に、どこか感慨深げに呟くフローリア。そういえば彼女は、以前火吹き山で氷結不死鳥(アイスフェニックス)から、


“もし困った時には我の名を呼べ。我の名は────”


 との言葉を受けていた。幸いにも、今のところそれを呼ぶような危機に陥ったことはないが。

 じっと見上げた空から、ゆっくりと舞い降りてすぐ傍に降り立つ。その姿は以前と変わらぬが、よもやこんな場所で出会うとは思っていなかったから驚きだ。


「お久しぶりですね」


 そう微笑みながら近付いていくフローリア。そして直ぐ傍までいくと、それにあわせたたように氷結不死鳥(アイスフェニックス)が頭を下げる。その首すじにそっと手をふれ、優しくなでるフローリア。

 畳んだ翼が少し震えているのは、気持ちがよいのだろうか。


「ヤマト公爵。フローリアとあの、えっと……」

「ああ、氷結不死鳥(アイスフェニックス)?」

「はい、そうです。その氷結不死鳥(アイスフェニックス)と一体どういう……」


 様子を見て状況がわからないリスティ王女が聞いてきた。アミティ王女も不思議顔をしている。


「フローリアは以前、聖女の力であの氷結不死鳥(アイスフェニックス)を助けたことがあるんですよ」

「「ええっ!?」」


 姉妹そろって驚いてくれた。一言で「助けた」というのとは違うけど、結果一番貢献したのはフローリアだから問題ないか。

 それを見ていた大亀も、フローリアが何をしたのか想像できたのだろう。どこか嬉しそうに見える表情をじっと浮かべていた。



明後日の土曜日の更新はお休み致します。次回は来週の火曜日予定です。

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