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303/397

303.それは、賑やかしい領地案内に

 開けて翌日、俺達はヤマト領の南街道口側へ転移してきた。

 前回リスティ王女を連れてきた時は直接我家の玄関部屋へ転移したのだが、今回は『普通に馬車で道を進んで来た場合』を想定し、あえて領地の直ぐ外側にしたのだ。やはり余所の国の王女様には、領地口から入って来て欲しいという気持ちがあるから。


「……ここがヤマト領ですか。なんだか、空気が凄く気持ち良いですね」

「はい。ここにはエルフのご神木から祝福を授かった苗木が植えてありますからね。そこから幸せの運気が土地に広がっていますから」


 アミティ王女の言葉に、簡単な説明をしておく。実際には、横の川にも色々あったりするが、まあそれは水触れればわかることだろう。


「そうだってのですね。先日ここに来た時は、そのような木がある事は知りませんでしたわ」

「それはまだ話してませんでしたね。ここには色々なことがありますので、全て話すには時間がいくらあっても足りないのですわ」


 リスティ王女にはフローリアから補足が入る。リスティ王女は前情報として、フローリアから色々と聞いたりはしているようだ。


「では、さっそく中に…………おや」


 領地の案内をと思ったその時、すぐ側に強大な気配が現れるのを感じた。その気配は、すぐに実体化した存在となって側に出現する。


『珍シイ系統ノ気配ヲ感ジタト思ッタガ、ナルホド余所カラノ客人カ』


「なっ……」

「あっ……」


 直ぐ側に現れた巨躯の存在に、驚く王女姉妹。だが俺達はもちろん、驚きも慌てもしない。


「ああ。ラウール王国の王女様達だよ、バフォメット」


 このヤマト領及び周辺を守護している魔獣だ。普段は人知れずに守護しているが、今回は俺がいたので出て来てくれたのだろう。


「こちらはバフォメット。この辺り一帯を守護している存在だ。このヤマト領の領地開拓にも最初から手を貸してくれて、領民には馴染みの存在だよ」

「そう、なんですね……」


 見上げるバフォメットに驚き、瞬きを忘れるほどに見ている姉妹。だが、よく見ると妹のリスティ王女は、ちょっと視線の方向がちがっていた。そちらには──


「か、かわいいです! あの肩に乗っている小さな子はなんですか!?」

「あー……そっか、バフォちゃんか」

「バフォちゃん!? バフォちゃんというのですねっ! バフォちゃーん!」


 ぴょんぴょんと跳ねて手を振るリスティ王女。それを見て、そっと手に乗ったバフォちゃんを地面におろすバフォメット。どうやらバフォちゃんは領民の子供にも慕われ、こうやってよく遊んでいるようだ。


「バフォちゃん! ふふっ、かわいらしいですわ」

「あ、私も久しぶりに……」

「私もっ」


 嬉しそうに抱きしめるリスティ王女を見て、フローリアとミレーヌも私も私もと近寄る。そういえば、バフォちゃんは彼女達にも人気だったな。

 とりあえずあっちは少し放置して、俺はバフォメットと話すことにした。


「領地が正式に運営開始されて、何か変わった事や気付いた事はないかな?」


『特ニハ無イ。タダ、人ガ増エタ事デヨリ多クノ感情ガコノ地ニ集ッテイルコトヲ感ジル』


「感情が集う?」


『人ノ善シ悪シニ連ナル思イノ形ダ。モットモコノ地デハ、悪シキ思想ハ土地ト我ガ許サヌガナ』


「そうだな。頼りにしてるよ」


 そんな会話の様子を少し離れたところから見ているアミティ王女は、


「……なんでしょう、自分の中の常識が霞んできますわね」

「そうなんですよ。カズキと一緒にいると、そのうち驚くことも面倒になってきますよ」


 アミティ王女の言葉に、フローリアがちょっと酷いフォローをする。

 みればリスティ王女が満足げな顔で、バフォちゃんをだっこしてやってきた。


「堪能しましたわ。前回は中を少し散歩しただけなので、私が知らないことがまだまだありますわね」


 にこにこと笑顔でバフォちゃんをバフォメットの側へ下ろす。その様子が本当に愛らしい存在を構っているのだなぁと分かり、心なしかバフォメットの目も優しげに見える。

 もう一度挨拶を交わして、おれたちはバフォメットたちと分かれて領地へと入っていった。




「なるほど……領地口から見る景色は、こういう感じなのですね」

「そうですわね。普段の移動は馬車だから、徒歩で国や領地を移動する事は始めてかもしれません」


 リスティ王女とアミティ王女が、ヤマト領に入った場所で感慨深げに言った。そりゃ一国の王女がテクテク歩いてやってきたらおかしいもんな。

 ちなみに領地入り口の守衛には、予めラウール王国王女がここを通過する事は伝えておいた。まあ、一緒に俺やフローリアとミレーヌもいるので、問題はなかっただろうけど。

 尚、ミズキとゆきとフローリアは今は一緒にはいない。一応彼女達は彼女たちの領地での役割があり、今はそれをやってもらっている。まぁ、全体の視察や警護とかになるんだけどね。


 領地の中央と走る大通りを真っ直ぐすすむ。時折すれ違う領民は、こちらを見て皆挨拶をする。もちろん俺やフローリア達も手を振り挨拶を返す。中にはアミティ王女やリスティ王女に気付く人もいて、二人ともどこか嬉しそうにしていた。

 しばらく歩いていくと、領地の中央十字路に到着。以前はここからスイーツのお店に行ったのだが。


「それでは、先ほど少し話した祝福の樹のところへ行きましょうか」


 そう伝えてまずは東側へ。東西に伸びる道は屋台とお土産屋が多く並ぶ道。少しあるけば違う店になるため、王女姉妹はずっと目を輝かせたままソワソワして歩いている。一応後でゆっくりと見ますとは言ってあるが、こういう場合はつい目が引き寄せられるのは仕方のないことだ。特に前回いったスイーツやの前では、露骨に歩みが遅くなったりした。……フローリアとミレーヌも。

 そんな気もそぞろな王女姉妹だが、領地東側の祝福の樹に近付くにつれ、何かを感じたのか神妙な顔つきになった。そしていよいよ樹が見えるところまで来ると、驚きに声を漏らした。


「あれが祝福の樹ですか……」

「何かものすごい力が込められてますわね……」


 二人はフローリア達のような特異な魔眼の持ち主ではないが、保持魔力が大きい王族ということもあり、神聖なものなどは強く感じるそうだ。驚きと感心を抱きながら二人が近付いていき、そこに書かれているお参りの立て札に気付く。


「ヤマト公爵。この正しいお参りの仕方というはなんですか?」

「これはですね、遠い島国の彩和で行われている神様に挨拶をする時の作法です。このヤマト領は、温泉文化もそうですが、“ヤマト”という言葉もそちらの由来でして、それにあやかってお参りも『二礼二拍手一礼』という形式をお奨めしているんです」

「なるほど……」


 二人の王女が立て札に書かれている内容を読んだので、まずは自分達がと俺とフローリアとミレーヌが挨拶をする。もちろん、フローリア達は既に二礼二拍手一礼を覚えている。俺達が下がり、王女姉妹が祝福の樹の前にならんで二礼二拍手一礼をする。そして、だがった……その時だった。


「ヤマト公爵! 樹の側に何かが……!」


 驚きの声をあげるリスティ王女の視線の先、祝福の樹の側の空間がゆがむのが見えた。それを見て俺もフローリアたちも「ああ」と安堵する。

 そのゆがみは光になり、そして──


「……っと。おお! カズキ──いや、ここでは領主様って呼んだほうがいいかな?」

「こんにちは領主様。遊びに来ましたよ」


 そこから二人の女性が姿を現した。ハイエルフとダークエルフのコンビ、マリナーサとエルシーラだ。

 祝福の樹とエルフの里のご神木を(ゲート)で繋げて転移してきたのだろう。


「こんにちは、カズキでいいですよ。……と、紹介しますよ。こちらラウール王国の第一王女と第二王女です」

「はじめまして妖精の方々。私はラウール王国第一王女アミティ・イルク・ラウールです」

「同じくラウール王国第二王女リスティ・イルク・ラウールです」


 俺の言葉にすぐさま姿を正し挨拶を述べる。先ほどバフォメットと会ったときに挨拶がなかったのは、あまりの衝撃で軽くショートしてたのかな。


「始めまして王女様。マリナーサといいます」

「私はエルシーラです。よろしくお願いします」


 エルフコンビも優雅に挨拶を交わす。王族とはまた違った気品のある礼だ。

 とりあえず挨拶が済んだので、二人に話を聞くことにした。


「いきなりで驚いたけど、ヤマト領に何か用事? それとも誰かに会いにきたの?」


 俺の言葉に、エルフコンビは顔を見合わせるとふふっと微笑を浮かべる。


「以前私達ってこのカードをもらったでしょ?」


 そう言って取り出すのは温泉宿関係者カード。そういや以前会った時に渡したな。


「これで幾つか温泉は楽しませてもらったけど、まだ入ってないのがあるのよね」

「まだ入ってないって……逆に言えば、もうほとんど入ったのかよ」

「まぁまぁ。そんだけ気に入ったってことだから。で、その入ってない温泉っていうのはね──」


 そう言って二人が俺をじっと見る。……ああ、そうか。さすがにあの温泉は普通には入れないか。


「家の屋上温泉?」

「そう! 領地を一望できる温泉と聞いたから楽しみで」

「そんなわけで、よかったら入りたいなと思ってやってきました」


 なるほど。スレイス共和国でも温泉を楽しんでたし、彼女達も結構温泉好きなんだな。


「いいですよ。でも、今日は彼女達にヤマト領を案内しないといけないので……」

「なら私達も同行していいですか?」

「私達もカズキ直々に案内して欲しいです」

「えっと……」


 どうしようかと王女姉妹を見るが、


「是非ともご一緒しましょう。エルフの方々のお話も興味ありますし」

「そうですね。今日はよろしくお願いしますわ」

「……というわけで、それじゃよろしく」


 あれよあれよと突然……文字通り涌いて出たマリナーサとエルシーラを連れて、ヤマト領を案内することになった。フローリアたちも賛成してくれたので、賑やか敷く領地観光案内をすることになった。



誤字報告ありがとうございます。気付き次第修正しております。

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