302.そして、愛おしい絆の証
現実世界できっかり一日をすごし、俺達は異世界に戻ってきた。
戻ってきた俺達は、すぐさま王女達のところへ行った。そして召喚獣を用意できたと伝えると、まさかこんなに早くとは思ってなかったらしく、しばし呆然とされた後ものすごく目を輝かせてきた。そういえば王女達からすれば、まだろくに半時も経過してなかったんだっけ。とりあえず召喚獣は『こちらとは時間の違う世界に居るから』という事にしておいた。全部ウソってわけでもないし。
それはともかく。早速お二人にお渡しするのだが、折角なので段階を踏んで驚いてもらおう。
「まずはアミティ王女。利き腕の反対を前に出してもらえますか?」
そう言われて左手を前に伸ばす王女。それを見て俺は二の腕に手をかざし、UIを操作してストレージからアイテム化状態になっている召喚獣を呼び出した。
「えっ……こ、これは……?」
俺の掌手が一瞬輝き、次の瞬間アミティ王女の腕に白い螺旋を描いたものが巻き付いていた。白いワイヤーが巻き付いたような感じだが、嫌味がなく素朴ながら気品あるデザインだ。
「これはアミティ王女の召喚獣です。今はアクセサリになって、腕に巻き付いているのですよ」
「これが召喚獣……」
驚きの表情をはりつけたまま、そっと自分の腕に巻き付いたものを撫でるアミティ王女。
「まぁ……温かいわ。それに……とても優しい感じが伝わってきます」
「それじゃあアミティ王女。その子に『おいで』と呼びかけるようにしてあげて下さい」
「はい」
返事をしてそっと触れながらじっと螺旋の腕輪を見る。すると、ほのかに光を放ち少し大きくなったかと思うと、次の瞬間その腕にやさしく巻き付いた白い蛇が表れた。
「まあっ! この子が私の召喚獣なんですのね!?」
「はい。その白い蛇は、フローリア王女の召喚獣と同じ聖なる存在です」
「そうなんですね。うふふ……なんて愛らしい……」
目を細め、嬉しそうにするアミティ王女。だが、その召喚獣にはもう一つ本来の姿というものがある。
「アミティ王女」
「ふふ、ふふふ……」
「あの、アミティ王女?」
「うふふ、ふふふっ…………はぁはぁ」
「お姉様っ!」
「はっ!?」
軽くイってる感のあったアミティ王女を、リスティ王女が呼び戻す。軽く頭をど突いていたようにも見えたが、そこは気付かなかったことにしよう。
「すみません、嬉しくて少し上の空になっておりました」
しれっと言い切るタフさはさすが王女様だ。でもまあ、とりあえずもう一つ教えておかないといけないことがあるからソレを話しておこう。
「実はですね、この子──」
「はい」
「本来の姿は、もう少し大きいのですよ。高さが成人男性ほどになりますので、室内でもその姿になれます。よろしければそちらもご覧頂けますか?」
「はいっ、是非お願いします」
俺の言葉を聞いて、最高潮に期待が高まっているのが見て取れる。それはどうなんだろうか……とも思ったが、どうやらリスティ王女や城の人たちはさして表情を崩していない。アミティ王女のこういった行いに慣れてしまっているのかもしれない。
「ではアミティ王女、その子に触れながら少し魔力を流し込んで『本来の姿へ』と念じて下さい。声に出す必要はないですよ」
「はい。それでは……」
そっと二の腕に巻き付いている白蛇の胴をすっと撫でると、蛇の全身が白く輝いて光の帯となった。その帯が大きくなりながら、するするとアミティ王女の身体にまとわりつく。だがそれは、紐が巻き付くのではなく、天女の羽衣をふわりと纏う様な感じで身体にかけられる。そして光が収まると──
「お姉様に白蛇が……」
リスティ王女の口からでたのは、ただ状況を説明しただけの言葉。だが、それ以外に何を言ってよいかわからないのだろう。白い大蛇にまきつかれた美女、というにはあまりにも……そう、あまりにもその美女が嬉しそうな顔をしすぎているのだ。
「まぁ! まあまあまぁ! あらあら! うっふっふっふ……素敵、素敵ですわ! この子が……この子が私の……」
もはや恍惚という以外ない表情で、そっと胴を撫で、腹を撫で、頭を抱き寄せる。普通であれば大蛇に巻き付かれる人間という状況なんだろうが、実際はどうみても人間に抱きしめられる大蛇である。
その大蛇にしても、本当に愛おしそうに抱きしめてくる存在──主となるべき人間に、既に親愛を抱いている様子だ。アミティ王女の根底にある蛇好き魂を感じたのだろう。
「アミティ王女。後でその子に名前をつけてあげて下さい」
「わかりましたわ! 名前、何にしましょうかね……」
嬉しそうに頭を撫でると、その頭を撫でる手にこすりつけてくる。既に強い絆が生まれてそうだが、名前を授与することで更に強くなるだろう。
そんな一人と一匹を見ていたリスティ王女が、はっと我に返って俺につめよってきた。
「わ、私のは!? 私の子はどんな子なの!?」
「っと、慌てないで下さい。次はリスティ王女の番ですよ」
「は、はい。えっとどうすれば……」
「先程のアミティ王女のように、利き腕の反対の手を前に出し──」
「はいっ」
満面の笑みで左手を伸ばすリスティ王女は、投げたボールを咥えて戻ってきた犬みたいだった。ともかく、その上機嫌なわんこ──もとい、王女様の左手首にそっと手をかざす。先程と同じようにストレージからアイテム状態になっている召喚獣を出す。
「……これが私の……」
先程と同じように俺の掌が輝いたあと、今度は手首にブレスレットのよなものがついていた。ただこのブレスレット、全体に白くやわらかな毛がついている。
「あら、この子とは違う形なのですね」
それを見たアミティ王女が、傍によってブレスレットを眺める。いつのまにか白蛇は小さい方の形状になり、王女の二の腕に巻き付いていた。アクセサリ状態ではなく、小さい召喚獣状態だ。
てっきりまだトリップ状態なのだろうと思ったので、普通にリスティ王女の召喚獣に興味を示したことに少しだけ驚いた。だが、その疑問はすぐに解消された。
「この子が、どうもリスティの方の子に興味があるみたいなの」
「え、そうなの?」
そうアミティ王女が言った瞬間、あることを伝え忘れてたのを思い出す。別に必須な内容ではないが、お互い知っておくといいかもという話だ。
「実はですね、今回お渡しした召喚獣はお互いを仲間と認識しています。なのでその子同士も仲良しなので、時々は一緒に遊ばせてあげて下さい」
「そうなんですね、わかりました」
「じゃ、じゃあ私も、その、この子の動くところが見たい!」
「いいですよ。ではその子に『おいで』と優しく念じてあげて下さい」
左手首にはまったブレスレットに、そっと右手を添える。するとブレスレットが光り、光の玉となって少しふくらむ。リスティ王女がその光をあわてて救うように手をかざすと、その上に下りた光がゆっくりと消えていった。
そしてリスティ王女の手の上には、ちょこんと座り彼女を見つめる白い召喚獣がいた。ホッキョウオオカミをモチーフにした白い狼の召喚獣だ。
「わはあああぁぁぁっ!! こ、この子が私の……?」
「はい。リスティ王女の召喚獣です。この子にも後で名前をつけてあげて下さい」
「はい、はいっ! うふふ、よろしくね~」
そのぬいぐるみサイズの白狼に、頬ずりして抱きしめて喜ぶリスティ王女。実際のところ、毛質やもふもふ感触では、ホルケよりも優れているかもしれない。そんな極上のさわり心地に頬が緩むリスティ王女だが、ふとなにか気付いたように俺の方を見た。
「そうですわ、この子も大きくなったりするのですか?」
「はい。その子に触れて『本来の姿へ』と念じながら魔力を分け与えてあげてください」
「はい……」
そっと撫でられた白狼は、先ほどの白蛇と同じように光につつまれ、そして大きな光となる。今度の光は体にまといついてはこず、リスティ王女のすぐ目の前でそのまま光の獣の姿となり、白い狼になった。
「………………ふふっ」
暫し茫然としたリスティ王女だが、そっと伸ばした手から感じた白狼の毛並みを感じ、そしてようやく実感が全身にかけめぐった。
「可愛い!! かっこいいですし、可愛いです!! 最高です!!」
わあっと目の前にいる──そう、自分よりも明らかに大きな白狼の首筋に抱き付く。がしっと寄ったが、狼はまったくブレることなくしっかりと立っている。そして抱きしめながらやさしく撫でるリスティ王女に、そっと優しく鼻横をこすりつける。それでまた王女が喜び、そっと顔を撫でるのだった。
幸せそうな笑顔で、自分の召喚獣を愛でるラウール王国の王女姉妹。それを見ていた俺達だが、フローリアとミレーヌは、さらにもう一つの感想があった。
「……これで、アミティ王女にサラスヴァティを撫でまわされなくて済みますわね」
「私もリスティ王女に、これ以上ホルケをもふられなくって済みそうです……」
はぁ~~~~と、どこか安堵の溜息をつく二人。二人とも立場的になかなか強く断れなかったのだろう。どこかほっとした様子は、中々普段見られない表情だった。
こうして、お二人へのプレゼントは終了した。
続けて、明日はヤマト領にお二人を招待することをお話した。リスティ王女は少しだけ来たことあるが、じっくりと案内するのであれば全然物足りない。というわけで、改めてご案内するとの約束だ。
……二人とも終始召喚獣と戯れていたけど、ちゃんと通じたよね?




