300.そして、色々な交流を進めてみる
ラウール王国のリスティ王女と、冒険者ギルドマスターであるエミットさんを連れて、俺はヤマト領の自宅の玄関部屋へ転移した。ここは最上階が自宅となっている温泉宿だが、一階に俺達の家に繋がる転移部屋の玄関がある。そこは誰気兼ねなく転移できるように用意した部屋なので、大人数を一度にヤマト領へ連れてくるときはここを利用する。
「ここは……?」
「私達の家の玄関ですよ。転移拠点にもなっていて、ここから最上階の家に移動できます」
「まあ家の案内はまた今度しますので、まずは外へ出てヤマト領を簡単に案内しますよ」
そう言って外へ出るための玄関を開けて皆を促す。すぐにゆきとエレリナが出ていき、周囲を警戒して頷く。特に問題はなさそうだ。
「では行きましょうか、リスティ王女」
「う、うん」
「エミットさんもいきましょう」
「そ、そうだな」
来客二人は言葉に促されて外へ。戸惑いと好奇心に後押しされながらも、玄関をくぐった途端二人から驚きの声が。
「ここがヤマト領……なのですか? なんと心地良い空気の場所なのでしょうか」
「これが少し前に正規運営が始まった領地ですか……。なんとも穏やかな街ではありませんか」
興味深げにキョロキョロしていたリスティ王女が、近くに流れている小川を見つけてしゃがみこむ。見た目には綺麗な水が流れているが、街中の水流など普通は手にしてよいものではない。だが、そんな様子を見ていたミズキがすっと水に手を漬ける。
「え? 水に手を……」
「大丈夫ですよ。この街では、こうやって手で触れられる水は全て綺麗な水です。洗濯などの汚れた水も、各家庭から排出する前に浄化されますし、その水は地下を通って町の外に運ばれますから」
「そうなんですの? ……ふぁっ、冷たいけど……気持ちがいいですね……」
手をかざして楽しそうな顔をするリスティ王女の隣に、今度はゆきがしゃがみこんで同じように水に手を浸す。
「この街では、いたるところに水溜まりがありますよ。無論どれもとても綺麗で、人体に害はありません。そこではいつも、子供達が元気に遊んでます」
「……そう。これが以前フローリアの言ってた『水の街』という事ね」
「はい。それに……他にも──」
そう言いながら向ける視線の先には、ユリナさんとエミットさんがいた。彼女達も小川の前にしゃがみこんでいるが、リスティ王女達とは明らかに違うところがあった。
「……なるほどね。温泉からあふれたお湯を使って……」
「ええ。ここヤマト領には各種温泉が幾つかありますが、気軽に温泉気分を味わう方法の一つにこの『足湯』があります。ここに素足をつけて、暫し休息をとればそれだけでもかなり安らぐことが可能です」
「そうね。こうして…………ふぅ。お湯に手を漬けるだけで、温かくなってくるわ」
「はい。ここの水は精霊によって綺麗になってますし、ヤマト公爵の話では水源の主である守護獣より、水に祝福をしていただいたそうです。……ここの温泉、本当に効きますよ」
「………………マジで?」
「マジです」
その後、よく見れば女性が皆肌が綺麗なことに気付き、エミットさんはさっそくヤマト領地での滞在を引き伸ばせないかと考え始めるようだったけど。
とりあえず冒険者ギルドへ行こう、という話になった。用事があるのはユリナさんとエミットさんだけだが、せっかくなので道中観光がてら全員で行くことに。普段ならばフローリアやミレーヌがいるので領民が気付く事も多いが、俺だけだとまだ領主認知が低いのかあまり話しかけられない。そんな事を思っていたのだが、
「もしかして、リスティ王女ではありませんか?」
「え? えっとどちら様でしょうか……?」
驚いて思わずたずね返すリスティ王女。相手の男性は姿勢を正して返答をする。
「いえ、私はラウール王国のただの冒険者です。王女はご存知ないと思います」
「そうですか。わざわざ声をかけてくださいありがとうございます」
「え……は、はい! 失礼致します」
笑顔で手をふるリスティ王女に、元気欲返事をしたその男性は笑みを浮かべて去っていく。その様子を見ていたミズキは。
「すごいですね。こんな遠い所でもリスティ王女の事に気付く人がいるなんて」
「そ、それは……」
どう返事をしてよいかわからず少し顔を赤らめるリスティ王女だった。
その後も、何度かリスティ王女に気付く領民や旅行者がいた。にこやかに手を振る王女を先頭に、しばらく歩いていいくと領地の中央の十字路へ。ここの角に冒険者ギルドはあるので目的地到着だ。
「それではユリナさんとエミットさんとは一旦お別れですね」
「そうですね。ヤマト公爵はこの後どうされますか?」
「もう少しだけリスティ王女を案内したら、一旦ラウールへ戻りますよ。とりあえず今日はラウール王国に泊りますので。明日また来ますので、その時にエミットさんは戻るのでどうでしょう?」
「わかりました。では、そうしていただきたいと思います。ではリスティ王女、それに皆さん、失礼致します」
そう言ってユリナさんと共にギルドの建物に入っていった。彼女の今夜の宿とかはユリナさんが手配してくれるそうなので、その辺りはおまかせした。
その後は、皆で近くにあるスイーツのお店へ。すでに個々は皆の御用達的なお店になっているが、かといって何か特別なことはしてない。普通に良い店なので、領民にも観光客ににもちゃんと来てもらえる様にしているだけだ。ここで一つ食べ、後お土産を購入。お土産はラウールの王城で待っているフローリア達の分も含まれている。
そして一旦俺達はラウール王国へ帰還した。
すぐに王城へ戻り、アミティ王女の元へ。部屋に戻ると、さすがにもうフローリアのサラスヴァティは送還されていたが、フローリアとアミティ王女が二人で窓の方を見ていた。俺達に気付いたミレーヌが声をあっけてくる。
「おかえりなさい皆さん」
「ただいま。……って、あの二人は何を?」
「ああ、お二人はですね……」
ミレーヌが言おうとした時、開けられた窓から白い鳥が入ってきてフローリアの肩に止まった。それはフローリアの召喚ペットである白インコのアルテミス。よく見れば、二人は手を繋いでいた。なるほど、鳥視点による空の散歩気分をアミティ王女に味わってもらっていたのか。
「おかえりなさいカズキ」
「おかえりなさい皆さん! ふふふ、楽しかった!」
アミティ王女はえらく楽しんでくれたようだ。意味がわからないリスティ王女が理由を聞いて自分もやりたいと言い出した。それもいいけど……と、俺は少しラウールの王女二人に話があった。
「アミティ王女、リスティ王女、少しよろしいでしょうか?」
「「はい」」
「実はお二人に、皆と同じように何か召喚獣をお一つお送りしたいと思うのですが──」
「「本当ですか!?」」
俺の提案にすごい食い付きをしてきた。
「はい。主の魔力をほんの少し使って呼び出せますが、王族であればほとんど影響はないほどです。それで、よろしければお二人のご希望を伺いたいと思いまして」
そう言うと二人は目を輝かせて、俺の同行者を見る。
アミティ王女の目はフローリアを、リスティ王女の目はミレーヌを。
ああ、なるほど。希望はそういう方向ですね、うんうん。




