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30.それは、知らない高みで

仕事で会社に二泊するハメになり、更新が遅くなりました。

今後も仕事の都合で更新が遅れる場合があります。

「……なんでこんなトコいるんですか、フローリア様」


 冒険者ギルドを出て、今回の依頼対象の現場となっている王都の東側フィールド。そちらへ足を向けた俺の前に現れたのは、第一王女であるフローリア様だ。

 一応真っ白なマントを頭からすっぽりかぶり、正体を隠しているつもりなのだろうが……。愛馬の白馬プリマヴェーラもつれているため、正直目立ちまくりで視線集めまくりである。

 そもそも、王都でこんな真っ白な馬を持っている人はフローリア様しかいないし、かぶっているマントも非常に繊細な刺繍の施された、見るからに高級な布地である。どちらかといえば王都の市民は、王女様が何かしてるけどジャマしちゃいけない、みたいな雰囲気だ。

 だが当の本人はそんな事は知りもしない。


「な、なんで私だとわかったんですか!?」


 俺は思ったね。多分今この王都で『何故フローリア王女だと分かったのか』が分からないのは、きっと本人だけなんじゃないかな……と。


「そんなことより、なんでフローリア様はこんな所にいるんですか?」

「ええっと、それはですね……」


 つい“そんなこと”と言ってしまったが、それには反応しないで少しそわそわし始めるフローリア様。聖王女とよばれる彼女には、どこか似つかわしくないその挙動。まるで、イタズラが見つかった子供のような表情になっている。


「それにそのマントの下。一見軽装な鎧に見えますが、全身に魔術防御のほどこされた特殊な鎧ですよね。どう考えても、今ここにいる事は偶然とは思えません。……教えてくれますか?」

「え、えっと……」


 しょんぼりとした顔のフローリア様は、ぽつりぽつりと話し始めてくれた。


 先日プレゼントした召喚獣ペットのセキセイインコ。フローリア様に相応しい、真っ白のインコで名前は『アルテミス』。たいそう可愛がってくれているようで何よりだが、召喚獣とは主従の関係を結ぶと色々な能力が発揮できるようになる。

 一番最初に実感するのは、お互いの意思疎通ができるようになること。これは言葉を交わすとかではなく、お互いの気持ちがなんとなく理解できるようになる状態だ。なんとなく、とは言ってもほぼ意思は通じるレベルで、言葉を交わしているのと同じくらいの認識が可能だ。

 それが出来るようになると、次は色々な感覚が一部共有できるようになる。

 フローリア様とアルテミスが共有できるようになったのは、『視覚』だった。これは意識を集中することにより、アルテミスの視界からの景色をフローリア様が見ることが可能になる。

 それによってフローリア様は王都を大空から眺めて、空中散歩の疑似体験をしていたそうだ。感覚共有している間も意思共有できるらしく、フローリア様とアルテミスは仲良く大空を飛んでいたらしい。


 そんな中、俺とミズキが冒険者ギルドへ向かう姿を見かけたと。

 それを見たフローリア様は、きっと今から何かクエストへ向かうに違いない、と思ったらしい。

 実際そうだったのだが、何故そんなことを理解できたかは不明だ。まあ、おそらくはミズキと同じ、意味も無く高ステータスなNPCならではの思考ルーチンからの導きなのだろう。

 そんな訳で急いで準備をしたフローリア様は、手馴れた行動で城からそっと抜け出して、そして丁度俺がギルドから出てきたところに出くわしたとのこと。

 いやはや、呆れてものが言えません。


「……一国のそれも第一王女ともあろう方が、何をされているんですか」

「大丈夫です。こうやって抜け出すことはよくあることですから」


 いや大丈夫じゃないです。というか、このままだとどんどん人だかりが増えてきてしまう。


「とにかくここじゃ目立ちますので、フローリア様こっちへ」

「あ、はい。プリマヴェーラ、着いてきて」


 とりあえず人目の避けて王都の外すぐそばへ。

 プリマヴェーラは言われたとおりに、フローリア様の後ろについてくる。その鞍上(あんじょう)にはアルテミスがちょこんと乗っている。

 外へ出て、門のすぐそばで引いていたフローリア様の手を離して向き直る。


「あのですね、俺が今から向かう依頼(クエスト)は、かなり危険なんですよ。こっちのカズキはAランク冒険者なので、そのAランクに直接依頼がくるレベルです。分かりますか?」

「はい」

「相手は以前戦った、召喚された魔族の眷属です。あの魔族ほど強くはありませんが、それでも並大抵の冒険者ではまともに打ち合うこともできません。今回は、俺もGM.カズキではなくこの姿で戦うので、前回のような超越した力を振るうこともありません」

「はい」

「わかってくれましたか。それでは……」

「それでは行きましょうか」

「わかってくれてますっ!?」


 なんだろう、この状況。というか、フローリア様がわざと状況を楽しんでいるような雰囲気だ。

 だからといって、今回も十分危険だ。それを承知で付いてくるなんて、言語道断なんだけど。

 俺がどうしようかと悩んでいると、にこりと微笑んでフローリア様が口を開く。


「カズキ様、こちらを見てくださいますか?」

「え、これはフローリア様のギルドカード? そんな物をお持ちに…………え」


 ギルドカードに記載している内容を見て絶句した。

 そこにはフローリア様の名前、フローリア・アイネス・グランティルと記載されている。というか、俺今までミドルネーム知らなかった。設計資料にあったかな、こんな仕様。

 まあ、今はそれは置いておいて。

 問題なのはそこに記載されている、フローリア様のランクだ。そこには──


  EX-S(エクストラ・エス)


 とあった。

 ………………なにコレ。俺、こんなの知らないんだけど。というか、あるの!?


「フ、フローリア様、このランク表記は……」

「はい。私は何故か全てのクエストに参加可能なんですよ」


 ──あ。なんかわかった気がする。

 元々フローリア様って、運営公式イベントで最終決戦パーティに参加するエクストラゲストキャラだったはず。そのため、どんなパーティーであろうとも、イベント進行上絶対に参加してくる仕様になっていたから、その性質がこの世界でも適応されているのか。

 ということは、もしかして何かしらの条件を満たせば、イベント終盤でフローリア様が使う強力な魔法ってのも実装されて、使用してくれるのか?

 何より、フローリア様はイベント展開上かならず最終局面まで居て、最後に全力支援をして疲労のためパーティーを抜ける……という仕様だ。だからこそ、万が一にも途中で倒れてないけないと、内部のステータスがとてつもないことになっている。ぶっちゃけミズキ以上に酷い。


 何が酷いのか。それは……完全な防御数値の確立だ。

 このLoUにおいて、受けるダメージと与えるダメージの算出は、色々な要素が関わってくる。

 基本になるのは、武器のダメージ値と使用者の戦闘値。そこにそれぞれの武器属性……火や水などの属性のほか、種族特化属性という特殊な値などだ。龍族種に多大な威力を発揮するドラゴンスレイヤーや、霊族種に特化のあるホーリーソード等が一例である。

 それらを絡めて算出した値に、個々の固体にある防御値やアイテムによるダメージ増減調整が入るのだが、ここで一部キャラのみ設定されている“特殊ダメージ補正値”が関わってくる。この値は小数点変数で記録されており、算出されたダメージがそのまま反映される場合は1.00が入っている。また、ダメージが半減するならば0.50、逆に倍化なら2.00という値だ。要するに、最後にこの値との乗算値がダメージ値として確定するのである。

 ここで、フローリア様のインチキ度合いを発表します。……そう、フローリア様には『死んではいけない』という製作側のルールが素直に反映されており、なんと0.00という値……つまり『どんな攻撃をうけてもダメージが0になる』という仕様が施されているのだ。


「これでカズキ様も、私の同行はご許可いただけますか?」

「……ハイ。よろしくお願いします」


 いや、断れないだろこれ。

 ああ、そうか。

 今までフローリア様のまわりにいた護衛の騎士たち。護衛のわりには、けっこうフローリア様の自由にしているなぁと思ったけど、このあたりの事情を知っているわけね。

 ただ対外的な体裁が悪いから、必要ないと思っても護衛の騎士という任についていたわけか。

 よし、わかった。この辺りの話はしかたない。でも……、


「では同行していただきます。ですが、その前に一言」

「なんでしょうか?」

「……アルテミスでの覗き見は、もう少し控えてください」


 そう、覗きダメ、絶対。


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