3.それは、初クエストなり
続けて第3話です。
新米冒険者への洗礼的イベントなのか、ミズキがクエストボード前で他の冒険者と言い争っている。とはいえ、こんなイベントをLoUで設定した覚えはなんだけどなぁ。
これってアレだよな。登録したばっかりの新人だけど、実は超強くてその辺の一般冒険者をあっさり叩きのめしてしまうという、いわゆる「ざまぁ」イベントの初歩の初歩ってヤツで。
あんまり首を突っ込むのはイヤなんだけど、ミズキが関わってるんじゃそうも言ってられないか。
「ミズキ、何を騒いでるんだよ」
「あ、お兄ちゃん!」
随分とヒートアップしてるような雰囲気だったが、俺が声をかけるとミズキはハッとした顔でこっちへやってきた。そして俺の腕にしがみつくと、再び言い争っていた相手を睨む。
……っと、ミズキってスタイルはそこそこ良いんだっけ。なにやら、柔らかい感触が。
「この人達、私が手に取ったクエスト依頼を『貴女には無理』とか言って盗ったのよ!」
「あ、いや、それは…………あ」
弁明をしようとした冒険者達のリーダーらしき人物が、俺の顔を見て言葉を切る。
「もしかして……カズキ様、でしょうか?」
「えっと、確かに俺はカズキだが……」
(え? カズキ“様”って何? でも俺の顔を見て聞いたよね? だったら俺のこと?)
混乱してる俺に気付かず、目の前の冒険者達は驚き、続いて慌ててミズキに頭を下げる。
「すまなかった。まさかカズキ様の仲間だとは知らず……」
「え、あ、うん……」
その対応に、さっきまで怒髪天あわやという感じだったミズキも、どうしていいのか困惑した表情であいまいに返事を返した。
まあ、何にせよ暴力沙汰にならずよかったと思い、少し場所を移動してギルド内隅のテーブルに着く。
落ち着いて話を聞いてみたら、こんな内容だった。
新人の登録したばかりの冒険者であるミズキが、クエストボードから選んだのはDランクの討伐クエストだった。ミズキ自身は登録したのでFランクだが、Aランクの俺が一緒ならば2ランク上のDランクまでは同行可能になっている。ちなみに俺がもしBならば、同行可能レベルは1ランク上のEまで。Cならばランクアップ補正はなしだ。
まあ、そんなワケだがこの国にはあまりSランクやAランクは居ないし、冒険者ギルドに顔を出すことも稀だ。だからFランクのミズキがDランクのクエストを受けるというのは、普段ならばありえない状況だった。だからそれを見た先輩冒険者は、『クエストランクが合ってないからダメだよ』という親切心で忠告してくれたらしい。
ところがミズキの同行者がAランクの俺だと知り、ランク補正で受注が可能だとわかると、自分達が間違っていたと謝罪してきたのだ。
なんというか、ものすごい真っ直ぐで正直な冒険者だ。よくあるテンプレイベントでやり返す云々とかじゃまったくもってなかったよ。
「頭を上げてください。ミズキ一人でクエストを探しに行かせた、こっちの責任の方が大きいです」
非はこちらにあると、今度は俺が頭をさげる。それを見てミズキも頭を下げる。そうなると今度は、向こうがあわてて頭をあげてくださいと言ってきた。これでようやく水に流せそうだ。
ともあれ簡単な話し合いで、解決をした。よくあるタイプのイベントじゃなくてよかった。
「さてと。それじゃ気持ちを切り替えて、クエスト行くか?」
「うん、行く!」
予想外の事で少し時間を取られたが、これでようやくクエストだ。ミズキにとっては初めてのクエストだからな、ちゃんと成功させてやらないと。……あれ? そういえば……。
ある疑問が沸いた俺はミズキに声を掛けようとしたが、いつのまにかクエストカウンターでクエストを受注していた。相手はユリナか。
「えっ……ミズキちゃん、これ受けるの?」
「うん、そうだよ。お兄ちゃんも一緒だけどね」
何やら二人の会話が聞こえてくる。
「でも、カズキくんも一緒だからいいか。それにミズキちゃんも実は……ね?」
「まあね。だから、受付よろしく~」
やいのやいのと話し合った後、問題なく受注したようで、満面の笑みを浮かべて戻ってくるミズキ。
そんなミズキに対し、俺はどうしても聞かないといけないことがあった。
「なあミズキ、どんなクエストを受けたんだ?」
そうなのだ。俺はミズキがどんなクエストを受けたのか聞いてない。先ほどの受付での会話から、俺たちならば問題ないクエストであろうことは理解できたんだが。
「もう受けたから、ギルドカードのクエスト情報を見ればわかるよ~」
そういえばそうか。俺はギルドカードではなく、メニュー[パーティー]を選択する。クエストを受けていれば現在受けている内容が表示されるハズだ。
そこに書かれていた内容は……。
・オークの群れ討伐(Dランク+)
と書かれていた。……オークか、なんか微妙に初心者+ステップアップみたいな位置づけだな。
基本的に冒険者登録したばかりのならば、Fランクから順番にこなしていかないといけない。
ランク別のおおまかな内容はこんな感じだ。
・Fランク
主に採取系クエストやお使いクエスト。薬草等の採取や、武器・薬などの運搬が主。
・Eランク
簡単な討伐系クエストや、討伐技術が必要な採取クエスト。
ゴブリンやウルフなどの討伐クエスト。でも気を抜くと命を落とすことも。
・Dランク
ある程度の危険な討伐系クエスト。
オークや初級アンデッドの討伐。冒険者的にはこの難易度は一般的。
・Cランク
かなり危険な討伐系クエスト。
オーガやトロールなど、単体で協力なモンスターの討伐。
Dランクのクエストをソロで完遂できる腕前が要求される。
・Bランク
基本的にギルドで募集可能な最高ランクのクエスト。非常に危険。
ある程度の知能を持つモンスターの討伐。上位アンデッドなども含む。
・A/Sランク
国から特別に発令されるレベルのクエストで、災害ほどの認識が必要。
A/Sランクの冒険者が少ないので、直接本人に依頼が通達される事が多い。
冒険者へ発令して受けた場合、その冒険者が所属するギルドへは連絡が入り管轄となる。
また、各ランクには、++/+/-/--とランク微調整が入り、目標の対象数や場所によって難易度の上下が存在する。
今回は相手がオークだが、“群れ”ということである程度の数を想定し、ランクが“+”補正されているようだ。
「なるほど。まあ、初クエストなら無難な所か」
「でしょでしょ?」
俺が認めたのが嬉しいのか、破顔して笑顔を浮かべるミズキ。
そんなワケで、ミズキの初クエストである『オークの群れ討伐』は開始された。
……が。
当然いきなりオークの群れの中に飛び込めるハズもなく、目的地にまで出かけないといけない。
目的地までの移動手段と、それに見合った道中での食事や休憩などの準備等、色々な用意が必須なのだが……それは現実の話。
冒険者ギルドを後にして、そのまま帰宅。武器や防具を確認した後、俺とミズキは庭に出る。さあ、いよいよか……という時に、のんびりとした声が。
「あら、二人とも。今からお出かけ?」
俺もミズキも、あまりにも聞きなれた声であり、顔を見なくても相手が分かるほどの声。
「うん! これから初クエストだよ」
「なので、ちょっと行ってきます」
そう、相手は俺たちの母親だ。当然父親キャラもいるのだが、もしかしてこの二人もマイハウスの外を自由に行動できるのだろうか。今度調べてみよう。
「あらそうなの? それじゃあ、夕食はどうする?」
「えっと……お兄ちゃん、どうかな?」
「多分大丈夫かな。帰ってきて一緒に食べるよ」
そう言うと「わかったわ、いってらっしゃ~い」と声を掛け、洗濯物を持って室内に戻って行った。元々俺がこうやってクエストに行くことが日常茶飯事で、両親とも慣れてしまっているのだ。
「それじゃあ、改めて……行くぞ」
「うんっ」
掌に意識を集中して魔法を詠唱する。目の前の地面に直径1メートルほどの光の柱が発生する。それと同時に俺のMPゲージが少しだけ削れたのがわかる。
これは【ワープポータル】だ。要するに転移魔法であり、予め記録した場所へ繋がるワープ領域を作り出す魔法。これを使えばある程度の範囲で、自由に移動が可能になる。ちなみに類似魔法の【リターンポータル】は、魔法使用者のマイホームへ転移できる。帰るときはこちらを使えば、一足飛びで戻ってこられるので両親も安心している。
まあ、今はまずミズキの初クエストだ。
「行き先は、オークの群れが住み着いてる土地への入り口付近だ」
「……うん、行こう!」
先にミズキが入る。俺が先に入るとポータルが消えてしまうからだ。ミズキの転送を確認して、俺も足を踏み入れる。即座に視界が下から白い光に包まれる。だが、ログアウトの時みたいに意識が飛びそうになることはない。
少しまばゆい周囲がゆっくりと薄れていく。それと同時に目の前には、先ほどまではなかった木々の生える森林が広がっていた。
それと同時に、俺は視界の右側になにやら表示されていることに気付く。視界の範囲内のマップがそこに表示されていた。そういえば街や施設内ではマップが表示されないけど、フィールドでは縮小マップが表示されるんだったな。
マップに表示される範囲でオークらしきマークは無い。小さいマークは表示されているが、もしLoUの仕様そのままであれば、これは野うさぎなどの害のない小動物だ。
少しだけマップの表示範囲を拡大する。すると前方に、赤いマークが幾つか表示された。今受けてるクエストのターゲットである証だ。
「どうやらこの先を少しいった所に、目的の相手が群れてるみたいだな」
「さすがお兄ちゃん、すごい探知能力だね~」
まあLoUプレイヤーならば基本機能なんだが、この世界では当然そんなシステムは存在しない。ぶっちゃけあのポータル系の転移魔法ですら、こっちの世界ではレアらしい。何だろう、NPCだけの世界では色々と文化水準が低いのだろうか。俺としては自分へのリスクが大幅に軽減されるから、願ったりなんだけど。
「……っ、いた」
じっと前を見ながら歩いていたミズキが立ち止まる。確かに視認可能な距離にオークが居る。幸いここから見える分で、この周囲にいる全部だ。
「じゃあ、お兄ちゃん。……行ってくる」
「おう、行ってこい」
俺の言葉を聞き届け、ミズキは剣を鞘から抜く。
そして、前方にいるオークに向かって走り出した。
──ミズキ一人で。
最初なので、とりあえずここまでまとめ投稿しました。
以降は早くて1日、遅いと2~3日ペースになるかと思います。