291.それは、久しぶりに皆でお出かけを
少し遅くなりました。
翌日、俺たちはラウール王国へ出発した。
ちなみにラウール王国というのが、どこにあるどんな国なのかは昨夜のうちに聞いておいた。場所は温泉の国であるスレイスから見て南、砂漠の国レジストからは西にある国とのこと。気候としは過ごしやすいらしいが、王都が基本的に陽気で過ごしやすいのに対し、涼しくてすごしやすいとか。つまり春じゃなくて秋っぽいってことかな。
同じ大陸にある大国の一つではあるが、グランティル王国やミスフェア公国とは距離もあり、直接取引などをしている者はほとんどいないとか。ただ途中の交易街などを経由し、生産品や名産などは普通に流通はしているとか。
そして今回だが、以前の旅行とは違い目的は行き先のラウール王国なので、速さ重視として召喚獣で行くことにした。生き方は二通りあり、砂漠の国レジスト共和国から西へ行くか、温泉の国スレイス共和国から南へ行くかだ。
今回はまずレジスト共和国へ転移し、そこから西へ向かう。帰りはもう片方のルートで行くことにする。これでもし道中でポータルを設置するような場所があっても、漏らさずにいけると。
ちなみに普通の人達ならば、ラウール王国に行くのはレジスト共和国から向かう行商人くらいだ。途中の砂漠はなれない者には過酷すぎて、とても越えていこうと考えられないらしい。だから普通はスレイス共和国から南下する道を通るとの事。ただし、それでは出発場所によってはとても大回りになるため、持ち運べる物資と移動費用を考慮した場合、赤字になる可能性がある行商人が、砂漠越えのルートを行くとか。
主にレジスト共和国からラウール王国へ向かう者がそれに該当する。メルンボス交易街からラウールへ向かう場合は一旦レジスト共和国へ入り、そこからラウール王国へ向かう他の業者がいない場合に行くことが多いらしい。
ホント、この世界の人達は苦労してるんだなぁと感心する。いや、感心はするけど同じ事をしたいとは思わないよ。大変だからね。
まぁ、そんなワケで久々に全員と皆の召喚獣での移動だ。ここでレジスト共和国へ転移してもいいが、それよりももう少しだけ西に転移することにした。ダークエルフたちの洞窟前にポータルがあるので、そこだとピラミッドのある砂漠を越えた先になるのだ。
まずは転移。それからいつものように、召喚獣たちの周囲に視認弊害用の魔法壁を出し、その上で少し上空を滑空しての移動をしている。そうすることにより、進路上にいる他の馬車などの邪魔にならないようにしているからだ。多少、よその馬がこちらを気にするそぶりをみせるも、どうやら召喚獣たちから『気にしないように』という合図でも届いているらしく、こっちを見たり嘶きをあげたりするような馬はいない。せいぜい少しだけ耳をこっちに向ける程度だ。
あと今回の移動では、今までとは大きく違うことがある。それは──
『……なるほど。つまり今回の移動では、食事はエレリナに任せればよろしいのですね?』
『はい。指輪のストレージは時間経過も止まりますので、ヤマト領で料理をするようになってからは、少し多目につくり毎食出来立ての料理をストレージに保存しております。分量はそれぞれ1~2人分ですが、既に何種類か入れてありますので、3食毎回ストレージから出しても10日以上もちます』
『さすがお姉ちゃん! よーし、それなら私のストレージからは、デザートを提供するよ』
『……ねえゆきちゃん。多分だけど、私達って全員ストレージにスイーツ入れてると思うよ』
『え! 本当?』
『はい、入れてます』
『私も入れております』
『もちろん私もー』
『私もですね。料理だけじゃなくスイーツも幾つか』
『おおー! それならさ、今度皆で何いれてるか見せ合おうよ。そんでそんで、幾つかあるのは交換したりとかしない?』
『賛成~』
『ふふ、楽しみですね』
『皆さんの好みがわかりますね』
『あは、それはちょっと照れるね』
…………うわぁ、すごい姦しい。もういっそのこと“嫐姦”という単語でも作ってもいいんじゃないかなと思うほどだ。文字面だけで男の悲壮さがつたわってくるぜ。
とまあ、要するに先日渡した婚約指輪の方の機能だ。今回はヤオは屋上露天風呂で留守番なので、ヤオとの通信は切った状態にしているのだけど。とはいえ、さすがに四六時中つなげているわけじゃないようだ。日常で別行動中も無闇につなげてはないといっていた。本当に緊急な時か、今みたいに近くにいるけど口頭での会話が難しいときに使うようにしているそうだ。
ボーっとそんな事を考えながらも、俺は少し昨日の冒険者ギルドでのことを思いだしていた。
「……なあフローリア」
「あ、はい。なんですか?」
俺は目の前に座っているフローリアに直接声をかけた。少し嬉しそうに振り向くところ悪いが、今から話すことは楽しい事じゃないいだよなぁ。
「えっと、昨日の冒険者ギルドでの事なんだけど……」
「はい、あの件ですね。何か気になることでも?」
すぐさま真面目な顔に切り替えるフローリア。こういうしっかりした部分は、本当に王族なんだなぁと思う。
「いや気になるというか、あのザナックという男だが……俺の顔を知らないのは全然わかるけど、フローリアの顔はちゃんと知ってただろ? でも、拠点となるラウール王国って、グランティルとは随分離れてるよな? なんであの男はちゃんと知ってたんだ? こっちに来てからどこかで見たのかな」
「そう……かもしれませんね。でも、もしかしたら私がラウールへ行った時とかに見たことがあるのかもしれませんね」
「あ、フローリアはラウールに行ったことあるのか」
「ええ。とはいえ、この大陸内では一番遠いところにある大国ですからね。1~2年に一度いくかどうか、という所でしょうか。最後に行ったのは……半年ほど前ですね」
何かを思い出したように、少しだけ笑みを零すフローリア。
「半年ほどまえに、ラウール王国の第二王女が15歳となり、その誕生際に行きました。何度か追い会いしてお話した程度ですが、とても可愛らしい方ですよ」
「そうなんだ。なら一度挨拶したほうがいいのかな」
「そうですわね。折角行くのですし、私も改めて挨拶しておきますわ。先日の私の誕生際にも着て下さいましたし」
「なるほど……。国家間での王女様の繋がりってヤツか……」
でも、そうなると王様同士も知り合いなのかな。遠い地だけど、どちらも同じ大陸で“王国”って名前だから同じような苦労とか悩みとかあるのかも。
どっちも王女──娘の事で苦労してたりして。そんでもって、それを愚痴りながら酒を交わしてたりすると、普通のどこにでもいるお父さんみたいだな、なんて事を考えていたんだけど。
「……カズキ。ダメですよ、リスティ王女に手を出したりしたら」
「いやいやしないって……ん? リスティ王女?」
「はい。先ほどお話したラウール王国の第二王女リスティです」
「そうなんだ。あれ、そういえば第二王女ってことは……」
フローリアが兄弟姉妹がいないから、王女の前に“第○”と付いたことないから気付かなかったけど、そういえば第二って言ってるから……。
「はい。上に第一王女であるアミティ王女がいますよ。……カズキさん、ダメです──」
「大丈夫だから! もう……」
またしても名前しかしらない王女を口説くなと注意される。あれぇ……俺って、そんなに節操なかったか? 出会ったばかりの女性を口説くなんて、見に覚えがないんだけど。
やれやれだぜ……なんて心で渋く呟きながら、ふとまったく皆の声が届いてないことに気付く。どうかしたのかなーっと周りをみると、どこかじーっと見るようにこっちを──正確には俺を見ていた。
『えっと、どうかしたかな?』
『『『『………………』』』』
怖ッ!! 無言なのですっげえ怖い。ナニレコ。
「先ほどのカズキの事をちゃんと皆さんにお話しておきました」
「ちゃんと話すってナニ? それ絶対冤罪だよねぇ?」
「信じてますからね?」
「だからそんな事しないってば、ハァ」
いわれのない嫌疑をかけられながら、俺達は道を進んでいった。勿論、皆冗談だというのはわかっているし、久々に皆で出かけることで浮かれているから、というのもわかっているんだけどね。
そんな感じに雑談をしながら進み、いつしか砂漠エリアをぬけて森林エリアへ。実際のところ、このルートでは森林エリアの方が距離が長い。
「そろそろ休憩をして、食事にでもしようか」
「そうですわね。では……」
フローリアに確認をとって承諾を得ると、彼女が皆に念話で伝える。皆同じような頃合だったらしく、すぐに降り立って一旦休憩となった。なんか、途中で一度料理だスイーツだと盛り上がったため、皆この時間をまっていたらしい。
「えっと、どうする? ここから一旦もどる? それともここで食べる?」
「んー……ここで済ませるでいいんじゃない? カズキも別にここにポータル設置する予定ないでしょ?」
「それもそうか。それじゃあエレリナ、お願いしていいか?」
「はい。では組み立てテーブルは……」
「あ、私の使ってー」
ちょっとした話し合いの結果、ここで簡単に──でもしっかりと食事をとることにした。まあ、本当に“道中”って感じでポータルを設置する意味がなさそうなところだしな。何か特徴がありそうな場所……たとえば、湖近くだとか洞窟があるとか……そういう場所ならポータルを設置して、ついでに食事はヤマト領にもどったりとかするんだけど。
設置したテーブルに料理を並べ、折りたたみ式の椅子に座り食事をとる。ぱっと見は、どこかの庭でおしゃれに食事でもしているようにさえ見えるかも。……まわりは木ばっかりだけど。
ともあれ、静かな……本当に静かな中、でも相変わらず姦しい皆と食事をした。先ほど聞いたように、エレリナの作りたて料理のおかげで、とてもじゃないけど出先飯とは思えない食事だったが。
皆が食事を終えてのんびりスイーツも食べ、出発前の小休憩をしていたその時。
「!!」
エレリナが何かに気付いて反応した。ここ最近、最初に反応してたのはヤオだったが、今は温泉につかっているだろうからここには居ない。
「カズキ、この近くで戦闘音が」
「わかった。まずは何が起こっているか確認だ。エレリナ、ゆき、行くぞ。ミズキはフローリアとミレーヌと一緒に後から付いてきてくれ」
「「「「はい!」」」」
エレリナの先導で、俺とゆきが追随する。まずは何がおこっているのか確認しないといけないのだが、音が聞こえる範囲ということで、俺たちはすぐに現場近くにまで到着する。そして、そこには──
「カズキ! 馬車が魔物に襲われています!」
「まずは魔物を!」
「「はい!」」
俺たちは全力で、馬車を襲っている魔物に向かっていった。




