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279.それは、試される強さの証明

「──という訳なので、“火吹き山”への案内をお願いしたいのですが」

「案内するのは全然かまわないのだけれど、何が『という訳』なのかしら……」


 俺の前で微妙に困惑した表情を浮かべているのは、ダークエウルフのエルシーラだ。とはいえ、俺が火吹き山へ行きたい理由なんて、おおよその見当はついているようで。


氷結不死鳥(アイスフェニックス)様にお会いしたい、という事かしら?」

「そうだ。以前火竜より聞いた中で、まだ会ってないのはその氷結不死鳥(アイスフェニックス)だけだからな」


 ノース湖の主こと大亀には少し前に会ったし、古代(エンシェント)エルフは先んじて会っている。多かれ少なかれ、あの時の会話に出てきた4種には会っておいたほうがいいだろうと思う。


「わかったわ。以前お会いした時はご健在でしたから、心配いらないと思いますが」

「まぁ、心配というより、ちゃんと会っておいたほうがいいかなってだけなんだけど」


 エルシーラが言う以前というのは、スレイス共和国の温泉に旅行に行った時だ。そこのブルグニア山にいた火竜から聞いた話により、火吹き山の氷結不死鳥(アイスフェニックス)の様子を確認したいと、旅行半ばだったがエルシーラと、その時同行していたハイエルフのマリナーサが会いに行ったのだ。

 ちなみにその埋め合わせという意味もかねて、後々ヤマト領に出来る温泉については、二人は自由に使用していい許可を出すことになっている。それによって二人がヤマト領を懇意にしてくれるならば、という下心が無いとは言わないけど。


 ともかく、そんなこんなで俺たちは氷結不死鳥(アイスフェニックス)に会いに行くことになった。

 とはいえ火吹き山はダークエルフたちにとっては、適度に訪れている場所だとか。なので特に問答もなく、すぐに承諾を得て出発することになった。

 その祭ダークエルフの長が、ヤマト領に温泉が出来たら入りたいと言ってきた。勿論大歓迎だ。精霊も居心地良いと感じてくれているから、エルフの里の人達もきてくれるかもな。




 それで火吹き山だが、まあさっくりと会いに行きたいから空路で行くことに。今回はエルシーラがいるため、彼女がどこに乗ってもらうかなのだが……。


「道案内もあるのですし、カズキと一緒でよろしいのではありませんか?」


 と言うフローリアの言葉、まさに鶴の一声でさっくりとスレイプニル騎乗に決定。……フローリアが、自分で言いながら軽くジト目をしてるのはちょっと可愛い。俺って、微妙にSっ気あるかも。

 皆各々が召喚獣を呼出し騎乗する。俺もスレイプニルを呼び出す。


「それじゃあエルシーラ、どうぞ」

「は、はい」


 前側になるエルシーラを先に乗せる。今回ヤオはミズキの麒麟(キーク)に便乗だ。

 スレイプニルは大きいが、大人しいので何の問題もなくエルシーラは乗る。その後ろに俺も乗る。


「それじゃあ案内よろしく」

「わかりました。……と言っても、これで空から行くのなら迷うこともないでしょう」


 そう苦笑された。まあ、山の山頂にある火口に住んでいるらしいからな。その辺りは火竜と一緒か。

 ただ、その火山の活性化を防ぐためにずっとそこに居るって話だ。

 ともかくまずは山頂へ。その最短ルートとして空をまっすぐ進んで移動中。俺達はもう大分なれた状況だが、エルシーラはまだ片手で数えても余るほどの経験しかない。しかも今回は、普段は地面をあるいて昇っている見慣れた景色の上を飛んでいるのだ。


「……やはりまだ慣れませんね」

「高いのは苦手?」

「苦手、という事はないと思いますが……いや、どうでしょう。まず今まで振り返っても、こんな風に空を駆けるような経験はカズキと会うまでしたことなかったから」


 そう言いながらも目線は下を興味深げにみている。今までならあそこの道を──みたいな事を考えているんだろうか。

 そう思っていると、ふとエルシーラが何か気になったのかこっちを見る。


「そういえば、一つ聞いておきたいことがありました」

「ん? どうかした?」

「今後はカズキの事は、きちんとヤマト公爵とか呼んだほうがよろしいでしょうか?」


 そう聞いてきた質問の後半も、若干丁寧な言葉になっている木がする。そして、あたりまえだけど俺はそういうのは気にしてない。というより、できれば敬語はやめてほしい性格だ。だけど、


「まぁ、公の場ではそうしたほうがいいかもね。俺はあんまりしてほしくないけど、人間社会の貴族ってそういう事煩いからね」

「そうですか。わかりました」

「あ、だから今みたいな時とか、ダークエルフの集落とかに遊びに行った時とかは今迄通りでね。俺もそのほうが気楽だし」

「わかりました。……なんというか、カズキは少し変わってますね」

「そうかな?」

「ええ」


 そう言ってニコリと微笑むエルシーラ。元いた日本では、貴族だなんだという風習はないからな。あっても一部の特殊な人達だけで、俺みたいな市民には無縁の話だ。……訂正、無縁だった話だ。

 などという世間話的なことを話してる間にも、俺達は山頂までやってきた。そこにはわかりやすく火口が口を開いている。


「あの火口の奥に氷結不死鳥(アイスフェニックス)様はいらっしゃいます」

「奥ってことは、降りて行かないといけないのか。あれ? それならエルシーラ達が来た時も、わざわざ降りていってるの?」

「いえ。私達が来た時は、少ししますと態々おいでくださいますので……あ、見て下さい」

「ん?」


 火口付近にまで来ていた俺達は、エルシーラが指さす火口奥の方を見る。すると、なにかがこちらへやってくるのが見えた。それはすぐに全身が青い大きな鳥であることがわかった。もしやと思っていると、案の定目の前に現れたのは強い冷気を纏った存在だった。今この場所で、これだけの力をもった魔獣といえば答えは一つだ。


氷結不死鳥(アイスフェニックス)様、馬上から失礼致します」

『構わぬ。我は堅苦しいことは好まぬ。にしても、今日はお主以外は初めてみる顔ばかりか』


 そう言って氷結不死鳥(アイスフェニックス)は俺達を興味深そうに見る。……いや、俺達だけじゃなく呼び出している召喚獣もしっかりと見ている。……そして。


『なんとも不思議な客だと思ったが、中でも一番の強者であろうお主──何者だ』


 そう言われたのはヤオだった。確かにここに居る者の中でも、ヤオの存在は少しばかり特異だ。それを一目で見抜くというのは、やはり火竜たちと同じように計り知れない力量も持ち主か。

 そう思っていたのだが、その問いかけにヤオがした返答というのは……。


「ふむ。わしに目をつけたのは面白いが、まだまだじゃな」

『…………なに?』

「この中で一番強いのがわしだと思った時点で、残念ながら見分が狭いと言わざるをえぬわな」

『ほぉ……この中に、それほどの強者がまだいると言うのか?』


 そう言ってざっと俺達を見渡す。正直鳥の表情なんてわからないけど、声で少しばかり気持ちが昂っているのがわかる。要するにヤオの挑発に、わかっててあえて乗った感じだろうか。って、何してんの!?


『面白い! 別に戦うつもりも無かったのだが、これは勝負を申し込まれたと受けてかまわぬな!』


 ええ~っ! なんでそんな無駄なことするんだよ! だって、ヤオが言ってる強者って──


「いいじゃろう! ほれ主様よ、その強さを久々に見せてくれまいか!」


 やっぱり俺かーっ!

 いやまあ、この中で実力的にみてもそうだと思ったけど。フローリアは絶対(チート)防御性能は特筆すべきだけど、それに比例する攻撃手段が乏しいからな。

 そんなヤオの言葉を聞いて、ジロリと俺をみる氷結不死鳥(アイスフェニックス)


『この者がか? …………確かに少し不思議な(ことわり)を纏っているが、そこまで言うほどの者とは思えぬが』


 んー……まあ、ある意味正解なんだよな。だって、こっち(・・・)はある程度強いけど、たぶん正面からぶつかればヤオに軍配があがると思う程度だし。

 そう思っていると。


「お兄ちゃん。私、久々に全力のお兄ちゃんが見たい!」

「あ、私も! なんというか、私ってLoUやってたしさ」


 ミズキとゆきが、やってやってと背中を押す。おいおい、押すな押すな。


「カズキさん! 頑張ってください!」

「私も久しぶりに本気のカズキにお目にかかりたいと思います」


 ミレーヌとエレリナも囃し立てるように奨める。


「ええっと……フローリア?」

「はい! 何者にも負けぬ私達の旦那様の雄姿、拝見いたしたいと思います」


 すごくいい笑顔で言われた。まあ、言葉を素直にうけとるならカッコイイとこ見たいってことか。

 ……でもまあ、ここんとこ本気の本気を出す事なんてなかったし。視線を氷結不死鳥(アイスフェニックス)に向ける。さして羽ばたいてるわけでもないのに、空中に浮かんでいるこの相手。どういった法則が働いているからしらないが、この世界と共に時を紡いできた強者としての威厳を感じる。

 軽く息を吐いて、あらためて相手を見る。


「わかった。やろうじゃないか」

『ふむ。どのような思惑があるかはしらぬが、よかろう』


 そう言って広げていた翼に、強い力を通してさらに大きく広げる。それだけで、この者が大空の王者や支配者と呼ぶに値する存在だと感じる。


「それじゃあ──『//cc』!」


 瞬間、俺のキャラが変更される。スレイプニルに騎乗しているその姿は、純白の鎧に包まれたもう一つの姿──GMへと変化した。


『むっ……なんだ、お主それは……!』


 それを見た氷結不死鳥(アイスフェニックス)の声に、先程まで一切感じられなかった感情が混じる。少し濁ったような声色の感情、それは──“脅威”。絶対的な王者としての気持ち揺らいだ証拠だ。

 反対に、俺は久しぶりに全力を出してみようと気持ちが昂っていた。油断はない。でも、楽しみで仕方ないという感じか。LoUにはいなかった未知の強者に心躍ってしまっている。


「待たせたな。さあっ、存分に戦ってみようじゃないか!」




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