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278.そして、気持ちを引き締めて前を見る

 山の中を進んで行く。無論きちんとした山道などはなく、ともすればけもの道もどうかという場所だ。だが俺達はなんとなく進んでいる。

 ──そう。この“なんとなく”が実はクセモノだ。道の無い山中を歩くとき、なんとなく木々が離れており、足元に繁る草が少ないように見える所があれば自然とそちらを歩く。多少枝などが折れていても、雨風の影響か動物が通った跡なんかだと思ったり。

 要するに今俺達は、前方に潜んでいる盗賊たちの狙い通りの場所を歩いているのだ。そんな俺達だが、わざと無防備に歩いているのは俺とミズキだけ。ゆきとエレリナは気取られないように左右に迂回しており、ホルケは何時でも飛び出せるように俺達よりも後方からついてきている。

 そっと俺はUIを操作して、周囲のマップ表示を確認する。マップで確認できる範囲に、赤く点灯しているマーカーがいくつかある。完全にこちらを認識して、かつ敵対意思があるということか。決まりだな。

 マップでは俺とミズキ、そして後方のホルケもマーカーが見えるが、ゆきとエレリナはいない。二人が隠ぺい系スキルを使用したとしても、このマップには表示がされるので、マップ表示領域よりもさらに外側にいるのだろう。


『ヤオ、前方に敵対反応がある。全部で……15か』

『わしの索敵でも15じゃな。ならばそれで全部じゃろ』

『わかった。それじゃあ、また後で』

『うむ』


 ヤオとの念話を切り上げて、隣のミズキをちらりと見る。そろそろだ、という意味合いを理解してかすかに頷く。そしてそのまま、順当になんちゃってけもの道を進んでいくと。


「…………」


 無言で正面に二人の盗賊が出てきた。視界のUIマップでは、ずっとマーカーが表示されていたので、この二人が実はさっきまで声を潜めて目の前のヤブに隠れていたのも知っている。気を抜くと笑ってしまいそうだが、なんとかこらえた。


「何か御用でしょうか?」

「…………」


 こちらの質問に返答はない。確かにこんな場所で出くわす人物が、自分の目的とかをペラペラしゃべったりするのは愚策だからな。「どうせ死ぬなら教えてやる」とか言ってるヒマがあれば、さっさと戦って時間稼ぎをさせるようなマヌケではないらしい。

 そう思っていると、その二人の後ろからのそりともう一人出てきた。まぁ、こいつもマップのマーカーでいるのはわかってたけど。


「野郎に用はねえよ。でもまあ、そっちのお嬢さんには用があるかもな。へへっ」


 ……訂正。普通にマヌケでした。…………それに。


「ちょっと、ムカついたかな」

「あぁん? 何をブツブツ言ってるんだ、おま──」


 その男──おそらくはこの盗賊団のリーダーであろう男の言葉を、最後まで聞くことはなかった。というか、俺が聞く気にならなかった。思いっきり目の前に踏み込んで、全力の手加減(・・・・・・)をしてぶん殴ってやった。男は大きく膨らんだたんこぶを頭にこしらええて、その場で気絶した。


「なっ……!」

「貴様……!」


 ワンテンポほど遅れて、振り返った二人の盗賊の目に映ったのは、気絶してうつ伏せに倒れてる盗賊リーダーと、いつの間にか背後にまわっていた俺の姿だった。その状況を理解できないまでも、なんとか声を張り上げる二人。だが、


「ぐっ!?」

「がはっ!!」


 視線が俺の方を見ているというとは、思いっきりミズキに背中を向けているということ。なので、何の問題もなく当身×2で、気絶者を2名ほど追加した。

 さて、他はどうなってるかなーと思っていると。


「こっちは終わったよー」

「こちらも終わりました」


 いつの間にかすぐそばに、ゆきとエレリナが来ていた。そしてマップで見ると二人の後方には、微動だにしない赤いマーカーが見えている。さっくりと気絶させたようだ。ちなみにちゃんと生きている。もし死んでたらマーカーは灰色になっているからね。


「お疲れ。それじゃあ、全員ここに運んでまずは縛り上げておくか」

「了解~」

「了解です」


 その旨をヤオにも伝えて、こちらにやってきてもらう。その際戻ってきたホルケと交代してもらって、ヤオには気絶してる盗賊回収へとまわってもらった。ヤオが鞭でふんじばって運んだ方が早いし。

 ちなみにそのホルケは、一人素早く逃げようとしていた盗賊を捕まえてきてくれた。いい子いい子。




「……さて。色々と聞きたいことがあるんだけど」


 一ヶ所位まとめて縛り上げたあと、全員をまとめて叩き起こした。とはいえ、ヤオの鞭で縛り上げられているせいで、胴体は麻痺状態になっている。当然逃げるどころか、立ち上がる事すらできない。


「俺達は調査依頼を受けてここにきました。内容はこの辺りで山崩れがありその詳細を知りたいので調査を、というものです。さて、それについて心当たりはありますか?」

「…………」


 俺の質問に対し、ただじっとにらみつけてくる盗賊のリーダー。他の者達は、バツわるいのか視線をそらしたり仲間同士で目配せをするだけだ。

 さきほどこの男は気分よくペラペラと話していたが、さすがに今の状況では無言を貫くか。


「もう一度だけ聞きます。心当たりはありますか? これは質問という形の……警告です」

「っ!?」


 言葉締めに少しだけ殺気を乗せてぶつけてみる。気を感じられる素質有無ではなく、生物の本能にうったけるレベルでの殺気だ。さすがに驚きの息遣いが漏れたようだ。


「……わかった。話す」


 やがてリーダーの男が諦めたようにポツチポツリと語り始めた。

 それによると、やはり冒険者組合へ出した依頼は、山奥へ人を呼び寄せる罠だったらしい。やってきた人達を襲い金品を奪うなどの悪事をしていたとか。

 ……そう。既にここに来るまでに、何度かこういった事を行ってきているという。詳しく問い詰めると、この彩和の北の方……およそ日本列島に近い形状のこの国の、東北地方あたりからこの所業は行っているとか。一ヶ所で何度も繰り返すとさすがに目をつけられるので、ある程度したら徐々に南下して途中で西へ進路を変えてきたと。要するに関東で、東海・近畿地方へ向きをかえたのだろう。

 結果、転々とつまみ食いするようにしながら、各地で金品を強奪し、場合によっては人を殺めてきたということらしい。はっきり言って不快このうえない。

 全てを話終わって、男はこちらを伺うように見てきた。


「俺達をどうするつもりだ?」


 その声には覇気がなく、懇願もやけっぱちでもない音にしかならなかった。そんな声を聞いてしまい、改めて不快に思うも、同時に“どうでもいいや”という気にもなった。実際、自分にかかってこないのであれば本気でどうでもいいと思ってしまえるのだな俺は。


「どうもしない。普通に突き出して、あとは御役人にまかせるだけだ」

「………………そうか」


 俺の言葉にしばし沈黙した跡、男はゆっくりと頷いて顔を下に向けた。

 その表情は、この後冒険者組合まで連行し、引き渡すまでずっとあげられることはなく、表情は一切わからなかった。




 そんな感じで消化不良な気持ちになってしまい、そのまま彩和を後にすることにした。時差を考えて一旦現実世界を経由して王都へ戻ることにした。

 俺は一人ボーっと自室に座っていた。何かを考えようと思ったのだが、どうにもスッキリしない。原因はわかっている……あの盗賊たちだ。

 不愉快だったのは確かだし、やってきたことに同情の余地はないのもわかる。だけど、俺が生きてきた世界が──日本が甘いんだろうな。どうしても簡単に割り切れない。

 そのモヤモヤがなにかもわからないでいると、コンコンと扉をノックされた。


「カズキ、よろしいですか?」


 返事を返すと入ってきたのはフローリアだった。他にもいるのかと思ったが、すぐ扉を閉めてこちらにやってくる。どうやら彼女だけのようだ。

 そのままベッドに座っている俺の横にちょこんと座る。なんというか、これだけで一々可愛い。


「今日はお疲れ様でしたね」

「あ、うん。……その、ごめん。楽しく彩和へ遊びにいったハズなのに」

「いいえ。気にしてませんわ」


 そう言って浮かべる笑みは、本当に気にしてないように思える。彼女のことだからそれは真実かもしれないが、それでも俺が気にしてしまう。


「あの人達の事、あれでよかったのかな……」


 ポツリと漏れた俺の言葉は、たぶん今思っている素直な気持ちだろう。あの盗賊たちは、これから今までの余罪を遡って調査されていくだろう。そしておそらく、この国の刑罰状況ならば──。


「仕方ありません。あの方たちはそうなってしまうだけの罪を犯したのですから」


 俺とは違い、やはりそういう事に関してはフローリアは潔い。きっぱりと言い切れるのは、自身の立場からの認識によるものだろう。


「……でも、カズキなら」

「え?」

「カズキなら、そうならない国を、世界を作れる。……そう思っていますよ」


 そう言ってこちらを覗きこむ。

 あの者達は、許されない罪を犯した。でも、その罪を犯すような状況になってしまったのは何故か。原因の全てではないにしても、やはり国の在り方に問題もあったのだろう。そうフローリアは言った。


 犯罪を取り締まること、抑制すること、それらは大切なこと。だが、そもそもの犯罪を起こさせないようにするにはどうすればいいか。まるで禅問答のような問で、きっと答えなんて出ない。

 だけどフローリアは、俺にならそれが出来ると言う。俺に──俺達にならと。


「……手伝ってくれる?」

「あたりまえですよ」


 立ち上がって、座っている俺の前にたちそっと腰をかがめて視線を合わせる。


「私達は……主人(カズキ)を支えるための()なんですよ」


 そういってニコリと微笑むフローリア。

 ……うん。この笑顔を見るだけで、決意する価値があるなと思ってしまった。


 領地が正式に運営開始するまであと少し。

 それまでに、少し残っている懸念事項を確認しに行ってくるか。




私事ですが、先日スマフォと冷蔵庫が壊れてしまいてんやわんやてします。そのため土日の書き溜めがまったくできなかったので今週はお休みの日が増えるかもしれません。

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