277.それは、調査依頼にある真実へ
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山の調査依頼を冒険者組合で受けた俺たちは、食事を済ませた後出発した。
到着まではおおよそ1時間かからない程度らしいが、地名を聞いてもピンとこないのでゆきとエレリナに先導してもらうことにした。
例の如くフローリアは俺と一緒に……と思っていたが、どうやら今日はミレーヌの召喚獣であるホルケに乗った。まぁ、ここ何日かは誕生際のためずっと一緒だったし、無事終わった後に話したいことでもあるのだろう。なので俺と一緒に乗っているのはヤオだけだ。
「ヤオも元々は彩和出身だろ? 行き先はわかるんじゃないのか?」
「そんなことはないぞ。わしは彩和とはいえ、生い立ちが少し特殊じゃろ。それにずっと地べたを這いずる蛇に、遠くの山なぞわかるわけもなし」
それもそうか。ならばやはり、おおよそで場所がわかるのは二人だけか。とりあえず現場……とでもいうのか? 山崩れが起きたと思われる場所へ向かうことにした。
しばらく何事もなく進み続けいてると、ふとヤオが声をかけてきた。
「主様よ。王女達がなにやら話したいことがあるようじゃぞ」
「え?」
驚いてフローリア達が乗ってるホルケの方を見ると、いつのまにか直ぐ側まで寄ってきている。その様子に他の人達も気付いて、皆少し速度を落として声が届くほどにまで近寄っていた。
「フローリア、何か話があるのか?」
俺の言葉にこくりと頷く。
「わかった。全員、一旦降りよう。場所は……あそこに降りられそうだな」
下を見渡すと、流れている川の曲がりに少し広い川原があった。そこに召喚獣たちをおろさせ、俺たちも一旦降りる。
どうしたのかと皆集まってきたので、フローリアに説明を求めた。
「実は……少しだけ気になることがありまして」
「気になること?」
「はい。やはり“山崩れがあった”という事が、どうにも腑に落ちません。それが事実であったとして、どうやってその事実を知ることが出来たのかと」
「まあ、それは俺も気にはなったけど……」
実際気にはなったのだが、正直なところそういうものかという感じがしてしまってもいた。それに冒険者組合から正式な依頼として渡されたのだから、そうなんだろうという気持ちでもあった。
「それに私も、疑問に思っていることがあります」
「えっと、ミレーヌも何か?」
横にいたミレーヌも、依頼内容に関して疑問があるらしい。
「この依頼にある山崩れが、もしも事実であるとしたらどうやって知ったのか。現場を見ず、それでいてその事を知る方法。そんな方法ですが、私は一つ心当たりがあります」
「……それは?」
「広忠の──“夢見”です。ですが広忠は私達にそんな話はしませんでした。もしかしたら忘れたのかもしれませんが、それでいても調査依頼を冒険者組合へまかせるとは思えません」
確かに広忠様は、俺たちが空を移動できる召喚獣を持っていることも知っている。ならば山崩れであれば、何に問題もなく視察できることも承知だろう。自国の問題を他所の人物に……という意見もあるかもしれないが、広忠様は若いのにきちんと周りを見れる人物のようだ。夢見を見たのであれば十中八九俺たちに話をしてくれるだろう。
それに……はやり単純に、山崩れだと断定するのも早計で不自然だ。
「フローリア、ミレーヌ。組合の受付嬢からは、虚偽の感じを受けたりはしなかったか?」
「えっ……」
俺の言葉に息を呑んだのはゆきだ。そういえば、受付嬢と親しく話してたな。
「受付の人からは、此方を騙すとかそういう感情は見受けられませんでした」
フローリアの言葉にミレーヌも頷く。となると……
「もしこの依頼が虚偽であれば、それを出した者が何かしらの意図を持っていると考えるべきか」
「……何かしらの意図って?」
俺の言葉にゆきが呟くように聞いてくる。やはりゆきも、俺と同じで現実での見聞があるから、おおよそ俺が言いたいことがわかるのだろう。
「人里離れて誰もやってこないような山奥。そんな場所に意図的に呼び寄せるとしたら──」
「それってもしかして……」
ミズキが理解したように、少し声を震わせてつぶやく。おそらく全員が理解したのだろう。
「ああ。盗賊なりなんなりが、待ち構えているんだろう」
「でも、そんな手間をかける意味ってあるの?」
「そうだな……。例えば、この依頼を受けた人達が、そのまま何日も帰らなかったらどうなると思う?」
「えっと、依頼は失敗したかなと思って、新たな調査依頼を受けてくれる人を探す? ……あ」
そこまで言って、ミズキが何かに気付く。他の人もそれを聞いて顔を顰める。
「そうだ。つまり、この依頼に対して何かしらの答えが出るか、組合から中止をするか、そういう事が無い限りどんどん人材が山奥に送られる。おまけに依頼を受けてやってくる人物は、遠い地まで山道を進んできて疲労困憊状態だろう。そんな所を襲われたらどうしようもない」
「本当に、そんなことが……」
「とはいえ、これはあくまで俺の仮説だ。状況からみて、山崩れが虚偽だと踏まえたうえ、最悪な展開を想定しての事だ」
そう、あくまで仮説。言ってしまえば、俺の悪い妄想でしかないのだ。
「……ふむ。ならばわしが少し調べてみるかの」
「ヤオ?」
腕組みをして話を聞いていたヤオが、すっと俺たちから離れて川原の水際へ立つ。場所的には川幅が一番ひろい場所である。もしかして……。
そして眩い閃光につつまれた次の瞬間、その場所には見上げるばかりの巨躯、八岐大蛇の姿があった。
その体から伸びる8本の尾と、7つの頭を地面へ下ろす。鎌首をもたげているのは、主となる首一つ。その状態でヤオが何かを探っているようだ。そして、しばらくすると元の姿になり戻ってきた。
「……えっと、何をしてたんだ?」
「この山を探っておったんじゃが……どうやら主様の推測があたっているやもしれん。これより先に、武装した盗賊らしき者達の姿があった」
「なっ……」
さすがに絶句する。あんな素人考えの適当な推理が、よもやあたっているとは。
「……どうしたらいい? ここは彩和だ。ゆきとエレリナの考えを聞きたい」
「まずはその盗賊を捕らえて、依頼と関係があるのかを聞き出すべきかと思います」
「そうだね。もし関係なくっても、こんな所にいるのは問題だと思うし」
二人からはまず盗賊をどうにかしようという意見がでた。これに関しては俺も当然賛成だ。
んばら次は人選だが、ゆきとエレリナはまあ頼むとして。
「わしは王女達の側にいたほうがいいじゃろう。索敵しながら、逃げようとしている者がおったら逐一主様にも教えてやるぞえ」
「わかった。じゃあヤオはそうしてくれ。あとはミズキだけど……」
「私も行くよ。でもそうだね……」
なぜかミズキがミレーヌの方を見る。いや、正確にはホルケか。
「山の中ってことは、多分私の麒麟や、ゆきちゃんたちのペガサスは動きが制限されると思うんだよね。だからホルケにもお願いしたいんだけど……どう?」
「そうですね。お願いできる? ホルケ」
そっとなでるミレーヌに、優しく吠えて返事をするホルケ。たしかにゆきやミズキが速さで負けるとは思えないけど、地形を熟知した盗賊たちは侮れないものがある。そこにホルケも手助けしてくれるなら、よほどのことが無い限り大丈夫だろう。
「なら決まりだ。ヤオ、向こうからこちらに気付くギリギリまでお願いしたい。そこからは、ヤオたちは一旦下がってくれ。逆に俺たちは何も気付いてないフリをして進んでいく」
俺の言葉に皆が声を出さすに頷く。そして今度は俺とヤオを先頭に、低い位置で飛んでいく。歩くよりも、少し早い程度の速度だ。しばらく進んでいくと、ヤオがさっと手をあげる。それを見て俺達は、その場で停止。
「主様よ。ここより先に進むと、おそらくは見つかる」
「わかった」
ヤオの言葉をうけて地面に降り立つ。そしてホルケ以外を送還させる。ホルケは遠目には狩猟犬っぽく見えるので、山での相棒として連れてきた……という風に見えるだろう。少なくともペガサスや麒麟より、よほど普通だ。
「よし。それじゃあ行こう」
「二人はわしがついておるゆえ、安心して主様を手伝っておくれ」
ヤオがぽんぽんとホルケの背中をたたく。それに小さく返事を返すホルケ。ヤオはペトペンもそうだが、動物好きなんだよな、ホント。
……さてと。
それじゃあ、ちょっとばかりお話を伺いに参りましょうかね。




