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272.そうよ、誕生日へ感謝をこめて(4)

今回までフローリア視点です。

次回からカズキ視点へ戻ります。

「誕生日おめでとう、フローリア」

「ありがとうございます、お父様」

「誕生日おめでとう、フローリア」

「ありがとうございます、お母様」


 誕生日当日の朝、私の部屋へ来た両親におめでとうの言葉を頂いた。この私の部屋では、二人は国王と皇后ではない。一組の夫婦で私の父と母だ。祝いの言葉とともに抱きしめる手が、強くて優しい。昔は二人ともかがんで私を抱きしめてくれたが、いつしかそのままの姿勢で抱き合えるようになった。それも、ここまで育ててくれた両親への感謝の証だ。

 少しだけ言葉を交わして、両親は部屋を後にした。それと入れ違いで、ミレーヌとエレリナが入ってきた。


「フローリア姉さま、お誕生日おめでとうございます!」

「ふふっ、ありがとうミレーヌ」


 ミレーヌに抱きつかれた私の側に来るエレリナ。そちらを見ると、丁寧に頭をさげる。


「フローリア様。お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうエレリナ」


 顔をあげたエレリナに笑みを送ると、かすかにだが笑みを返してくれた。仕事中であるため私事である笑顔を避けたのだが、それを踏まえて笑みを見せてくれた事が少し嬉しい。

 だが、笑みを見せているフローリアを見て、ミレーヌが残念そうに言う。


「でも本当は、私たちよりもカズキさんに最初におめでとうって言って欲しかったのでないですか?」

「そうね。でも、大丈夫よ」

「え……あ! もしかして……」

「ええ。昨晩日付が変わった頃かしら。カズキが来てくれて、おめでとうって言ってくれたわ」

「そうなんですね! よかったです」


 ミレーヌは笑みを浮かべ、自分の事のように喜んでくれた。


「それで、カズキさんは……その、何を?」

「それは……」

「それは……?」


 じっと私の言葉を待つミレーヌが、何かおあずけをされてる小動物みたいで可愛い。


「内緒っ」

「ええーっ!?」


 思わず非難の目を向けてくるミレーヌ。心なしか隣のエレリナにも軽く睨まれてる気がする。


「落ち着いて二人とも。実はまだ私もカズキからの贈り物を受け取ってないのよ」

「あぁ、そうなのですね……」


 どうやら納得はしてくれたようだ。とはいえ、ミレーヌはともかくエレリナは、ここ何日かカズキと一緒だったはずではないかしら。


「エレリナ。貴女はカズキからの贈り物はご存知なのかしら?」

「そ、それは……」

「ああ、大丈夫よ。聞き出すつもりはないから安心して下さい」

「……恐縮です」


 おそらくはどんなに命令してもエレリナは言わないだろう。勿論、そんな横暴をする気はないが。


 こんな感じで、私の15歳の誕生日は始まった。




「フローリア様、おめでとー!」

「王女様、誕生日おめでとうございますー!」

「フローリア王女ー! おめでとうー!」

「聖王女さまーっ!!」


 今私は愛馬プリマヴェーラに乗り、王都の大通にてゆっくりと進んでいる。普通王族の誕生日パレードならば馬車が定番だが、やはり私はプリマヴェーラと一緒がいいと言い、このような形となった。

 そういえば以前このような行進をしたのは、王都に呼び出された魔族をカズキが討伐した時だ。あの時は、まだ今ほどカズキの事は知らなかった。だがあれをきっかけにより一層親密になっていった気がする。そうそう! ミズキの顔を見たのもあの時の帰路での事だった気がする。

 そんな風に少し前のことだが、懐かしげに思い浮かべながら観衆に手をふる。元々私は頻繁に王都内を出歩いてはいるが、やはりここまで面と向かって声をかけられる事はない。普段は皆、節度を守って自重してくれているのだ。なので今日みたいにしっかりと応えられるの嬉しい限りだ。

 そう思って手を振りながら進んでいた私の視界に、一人の人物の姿が見えた。


──カズキだ。


 遠目だったがすぐにわかった。そして側にはミズキとゆきさんの姿も。……あ。ミズキの隣にいるお二人にも見覚えが。多分あれはカズキとミズキのご両親ですね。というか、ゆきさんの隣にいるのは狩野十兵衛様ではないですか? カズキが連れてきたのですね。

 パレードを見に来ている観衆には等しく手を振っているが、カズキたちの方には少しだけ……そう、ほんの少しだけ長く笑顔を向けて手を振っておいた。

 じっくりゆっくりと進むパレードは、王都をゆっくりと練り歩きそして最後は王城前広場につく。そこには舞台のように、少し高いステージが設けられていた。大きな祝福の声が飛び交う中、私がそのステージに上り中央に立つと、まるで指揮者の指示でもあったかのように静かになった。


『皆様、本日は私の誕生際にお集まりいただき、ありがとうございます』


 私の声が、広場のみならず王都じゅうに聞こえるほどに響く。実はこれ、ヤオさんと召喚獣たちによる声の増幅によるものらしい。私はステージに上がる際、ヤオさんから不可視状態にした鞭を手渡された。それを握って話すことにより、私の声がヤオさんを通じて他の召喚獣に届くとか。その声を風を扱える召喚獣の力で、音を増幅してこの空間に響かせている……という話だ。もちろん詳しい原理は知らない。

 だが私の声がとてもはっきりと聞こえるこの現象を、皆は何か魔法でも使っているのだろうと感心しながらも耳を傾けてくれる。


『本日で私も15歳となりました。本国では15歳は大人と見なされ、一切の責任を自己負担しなければなりません。無論私も例外ではなく、発言や行動の一つ一つにおいて、重度の責任が生まれることでしょう。ですがそれは、私が王女であるとか聖女であるとか、そういう事で決まるものではありません。私は王女であり、聖女であり、そしてこのグランティル王国の国民です』


 ざっと眼前の人々を眺めながら、自分の言葉で思いを告げていく。ふと見渡した先に、先ほどと同じようにカズキの姿を見つける。それだけで、何か安心を得たような気分になる。

 そのまま感謝の言葉と、より一層の自分の気持ちを皆に伝える。それに皆が声援を送ってくれたのは非常に嬉しかった。

 なので、おおよそ話したかった事をのべて最後に話したい事へきた。


『……最後に。皆様既にご存知の通り、私は新領地ヤマト領の領主である、カズキ・ウォン・ヤマト公爵と婚約を致しました。ゆくゆくはヤマト領主の伴侶となり、領地を支える一人となるでしょう。ですが、私が生まれ育ったこのグランティル王国は、かけがえの無い故郷で、私の宝物です。どうかこれからも、末永く私とこのグランティル王国、そして新たに始まるヤマト領を宜しくお願い致します』


 伝えるべき事をすべて言った。ステージの一番前まで出て、そこで頭をさげる。ここまで、じっと聞いていた観衆からの反応がどうなるのか心配だった。

 ──だが。


「わかりましたー王女様ー!」

「フローリア様ー! お誕生日おめでとー! 婚約おめでとー!」

「フローリア様! おめでとー!」

「王女様、ステキー!」


 より大きな歓声が返ってきた。それにより胸が熱くなる。今年の──15歳の誕生日というものが、自分にとっても国にとってもどれほどの意味があれるのか、わかっているつもりだったが改めて実感した。そんな気持ちを抱えて視線をカズキに向ける。それに気付いたのだろう、そっと笑みを返してくれた。

 うん、大丈夫だ。自分は、自分達は……大丈夫。




 この後、城内に戻り次の仕度へ。服装を誕生日用にあつらえた室内ドレスへと着替える。そして行き先は謁見の間。本日ここで、多くの王侯貴族より私への誕生日プレゼントが手渡されるのだ。


 昨年までは、私を伴侶にせんという思惑の殿方が多かった。だが今年はカズキの事もあり、少しは減るだろう……と思ったのだが。

 さして減りはしなかった。というよりも、逆に奮起してやってきた方もいた。そして……中には、遠まわしにカズキを貶すような発言をする人も。

 カズキの事をぽっと出の爵位持ちで、何かしらのコネで領主となり私の婚約も取った、ただ運がいいだけの人間……みたいな認識なのだろう。

 仮にも私の誕生祝で来てくれたので、無下に追い返すようなことはしないが、どうにも居心地が悪く感じてしまう時もあったりした。


 だが、自分の想いがカズキにしか向いてない事を伝えると皆苦渋の表情を浮かべながらも大人しく引き下がってくれた。さすがに誕生日の主役に、強要するわけにはいかなかったのだろう。


 プレゼントの受け取りが進んでいき、自分の席からも列の最後が見えるほどになった。おかげで少しばかり疲れてきた気力が、ここに来て回復した。なぜならば、この列の最後に待っているがカズキ達だから。

 順番にミレーヌ、エレリナ、ミズキ、ゆきさんがいて、一番最後にカズキがいる。一人、まや一人と進めていくうち、つに私の前にミレーヌが来た。


「おまたせしましたフローリア姉さま」

「ありがとうミレーヌ。……これは?」


 手渡された箱を見て聞き返す。長方形の箱で、一番長い辺も30センチあるかどうかとい感じ。受け取った感じから中にあるものはさほど重くはないようだが。


「それは靴ですよ」

「靴、ですか?」

「はい! でもまだ見てはダメですよ。それでは次ミズキさんっ」

「えっと……フローリア様、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 そして手渡されたのは、今度は先ほどより小さな箱。丁寧にリボンが付けられており、その外観がどこかでみたような気がした。


「私からはブレスレットです。フローリア様がお持ちになっているのと、対になっております」

「そうなのですか。ありがとうございます」

「それで、まだそれも見ないで下さいね。それでは後は……」


 横へどいたミズキの後ろから、エレリナとゆきさんが一緒にこちらへと来る。どうやら二人一緒のようだ。


「「フローリア様、お誕生日おめでとうございます」」

「ありがとうございます。それで、これは……?」


 そっと手渡されたのは、平たい箱。だがその見た目に反して、受け取ってみると以外と重みを感じた。ずしりとした重みというより、軽い箱を想像していたら思ったよりも……という感じだ。


「こちらはドレスです」

「ドレス?」

「はい。フローリア様に似合うかと思い選んだドレスです」

「そうですか。ありがとうございます」

「……それでですね。もしよろしければ、カズキ──ヤマト公爵のプレゼントを受け取る前に、このドレスと先の靴とブレスレット。そちらにお召し替えしていただきたいかと」

「この服と先ほどの、ですか?」

「はい」


 驚いてカズキを見ると、優しげな顔でこちらを見ていた。おそらくは、カズキのプレゼントに関係があるのだろう。この服装が意味があるか、もしくはカズキのプレゼントを他者と完全に線引きしたい……か。


「わかりました。ミレーヌ、エレリナ。一緒に」

「「はい」」


 二人を連れて一度謁見の間から抜ける。この場にいた者たちには、少し着替えてくるのでしばしお待ちいただくようにお願いをした。

 着替えるために移動する私の腕の中、何故か侍女に持たせれば良いはずのプレゼントの箱を、大切なものであるとしっかり抱きしめていた。

 少し顔が熱くなっていたのは、小走りになっているだけではないのだろう。



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