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270.そうよ、誕生日へ感謝をこめて(2)

今回もフローリア視点です。

 (わたくし)フローリアの15歳の誕生日まであと5日という本日。

 既に王都で行われる王女誕生祭──要するに国行事として執り行われる誕生日祝いの準備もほぼ済み、あとは最終確認と本番を迎えるだけとなっていた。

 私自身は何かをするということもなく、当日着るドレスなどの最終確認をした程度。ただ、この誕生祭のために周辺諸国からも大勢の貴族がここグランティル王国にやってくる。私がただ王女というだけならばまだしも、聖女という肩書もあるために他国の王室関係者も少なくない。

 なので、当然グランティルと親密なミスフェア公国の領主であるアルンセム公爵家は、総出でお越しいただいており、この期間中は王城にて過ごしてもらっている。


 ……そんな中私は、さすがにカズキに会えない日々が続き少し寂しく思っていた。それを察してくれたミレーヌに誘われて、少し時間を頂いて王都の街へと遊びにでかけることにした。

 他の国は知らないが、私は以前よりこうして街へと出歩いている。そして皆も、私を見てもこうして遊びに出てきている時はかしこまらなくても良いことを十分に認知している。皆さんと挨拶を交わしながら私とミレーヌは、王都東側の広場に設置された『憩い人場』へやってきた。


「あっ。あそこにミズキさんがいますよ」

「あら、本当ですわね」

「ミズキさーん」


 憩い広場の中で一番人気の場所、動物たちと触れ合える所にミズキがいた。ミレーヌが嬉しそうに手を振りながらかけよっていくと、子供や動物と夢中になっていたミズキがこちらに気付いた。


「あ、ミレーヌ……様とフローリア様、こんにちは」

「こんにちはミズキさん。カズキさんはご一緒ではないのですか?」

「はい。先日より兄は所用で出かけており、ここ数日は不在です」


 そう言ってこちらを見る。その視線には“もう、わかってるでしょ!”という感情と“このしゃべり方めんどくさいよぉ”という感情が見えるようだ。一応公共の場ということで、ミズキが私達に呼び捨ては無論せず敬語で話すのは不思議な感じだ。以前はこれが普通だったと思うのだが、やはりカズキを通じて随分と親しくなったと思う。

 それに私もミレーヌも、ミズキとエレリナとゆきさんは自分たちと同列だと思っている。今はまだここ王都での仕組みにより立場の上下があるが、いつかヤマト領が次の段階になった時はそれが是正されるので暫し待つという状態だ。


「それで、ミズキさんは本日は何をしているのですか?」

「あ、はい。少し気分転換に、ヤオちゃんと一緒にここで癒されにきました」

「あら、ヤオさんもご一緒なのですか?」

「はい。その……あそこに」


 苦笑いを浮かべて指さす方は、こどもがわあっと集まって賑やかだった。その集まりの中、よくみるとヤオさんと……あら。ペトペンさんもいますわね。そういえばヤオさんは、ペトペンさんを大層可愛がっていましたし。

 どうやら子供たちが夢中になるあまりやりすぎないよう、この場所での保護者的な感じで見張りをしてくれているようだ。私がじっと見ていると、ちらりとこちらをみて僅かに会釈を返してきた。私もそっと頭をさげて、ミズキの方を見る。


「ミズキさん。少しお話、よろしいでしょうか?」

「はい」

「ではフローリア姉さま、私はヤオさんの所に行っておりますわね」


 そう言ってすたすたとヤオさんがいる子供たちの方へと歩いて行くミレーヌ。本当にお気遣いのできるよい子ですわ。




「……ふぅ。皆さんとは少し離れてますので、普段通りでお願いします」

「うん、わかった。何というか……言葉に気を遣うのって付かれるね」


 少し離れた場所のテーブルに座る私達。広場に遊びに来た人々から少しだけ離れており、ここからヤオさんたちは見えるが周囲に会話が漏れ聞こえることはない。

 ミズキは軽くテーブルにつっぷしそうになるが、声が聞こえないとはいえ公衆の面前だと思い返したのか、一つ息を吐いて姿勢を戻した。


「それで? フローリア達はこんなとこで何してるの?」

「私達ですか? さすがに準備とはいえ、城にずっといては息が詰まるので気晴らしです」


 特に隠すことでもないので素直に言った。だが、少し伺うような目つきをするミズキ。


「そうなの? てっきり私をつかまえて、お兄ちゃんが何をしてるのか追及してくるかと思った」

「あら? カズキが何をしているのか教えて下さるのですか?」

「ううん、教えない……というか、私も知らない」

「ですよね。そうじゃないかと思ってました」


 私がくすりと笑うとミズキが少し拗ねたような顔をする。まあ、妹である自分も知らないってのが少し気落ちしている理由なんだろう。


「まあねぇ~。ここ数日ゆきちゃんも見ないから、おそらくはお兄ちゃんと一緒に彩和で何かしてるんだと思うけど」

「おそらくは。エレリナもここ数日ミレーヌから離れてますから。カズキやゆきさんと一緒だと思いますよ」

「そういえば、そうだね。うーん、エレリナさんがミレーヌの目が届く場所に居ないって不思議」

「……ですね。先日もその話をミレーヌと致しましたわ」


 言いながら、そういう人がいるのは羨ましいと思った。ミレーヌにはエレリナが、ミズキにはカズキが。無論ゆきさんには、姉としての仮野ゆらさんがいる。ふと思い返すと私には──。そんな事を想いながら遠くで笑顔を見せているヤオさんとミレーヌが目に入る。沢山の子供や動物とじゃれあっているその光景を見て、私は大切なものを思い出す。

 私は小さいころからプリマヴェーラが一緒だった。とても賢く、一緒に歩んできた存在だ。


「フローリア、どうかした?」

「……いえ、なんでもないわ。少しプリマヴェーラの事を考えていただけよ」

「ああ。賢くていい子よね、あの子。そういえば、誕生祭でのパレードで騎乗するんでしょ?」

「もちろん。私専用の騎乗馬はプリマヴェーラだけですわ」


 5日後に行われる誕生祭にて、昼の王都で行われるパレード。主役はもちろん私だが、馬車などではなくプリマヴェーラに騎乗する。これは今迄も、そしてこれからも続いて行く、私の願いだ。


「あ、そうだ。ヤオちゃんが誕生祭で、美味しい物はたくさん食べれるのか? って気にしてたよ」

「うふふ、ヤオさんらしいですね。大丈夫ですわ、きっとご満足いただけるとお伝え下さい」

「わかった。それと当日は、私は王都の冒険者さんたちと一緒にいることが多いかもしれないんで」

「あら、そうなんですか?」

「うん。私やゆきちゃんの知り合いの冒険者で、女性の4人パーティー。その人達、今度ヤマト領の冒険者ギルドに移ってくるんで、今後とも仲良くしたいから今年の誕生祭は一緒にって話になって」

「いいですわね。では落ち着きましたら、私にも紹介して下さいね」

「勿論!」


 嬉しそうに笑みをこぼすミズキを見て、私も嬉しくなってしまう。城にいて、王侯貴族や騎士団に侍女たち、城下に出れば国の民とも顔を会わせることができる。ただ、今こんな風に過ごしているのは、間違いなくカズキやミズキのおかげだ。

 私は余所の国の王子や王女とくらべても、いわゆる平民とのふれあいが多く親しまれているとの事をよく聞く。それが妬みや嫌味の話ではなく、純粋に聞き及ぶだけなので内心安堵しているが。それでも、きっと今年の私の顔は、今迄よりもずっと晴れ晴れとしているのだろう。大好きな人と、大好きな仲間がいるから。


「……ミズキ」

「ん?」

「誕生祭、楽しみですわね」

「うん、すっごく楽しみ!」


 二人で一緒に笑顔を見せる。

 うん、本当に楽しみ。


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