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27.それは、活気の休息で憩なり

 『憩い広場』のオープン当日となった。

 土地の使用権をフローリア様から受けた後は、とっととログアウトからのパッチ適応コンボであっさりと環境を作り上げた。

 実際のところリアル側で二日ほど要したが、LoUでは時間が進んでいなかったので、ミズキやフローリア様から見れば“一瞬で広場が整地された”という風に見えるだろう。

 とはいえ二人とも、俺が別世界(むこう)にいると時間が止まるという事は知っているので、一瞬で整地された広場を見たあと「また向こうに行ってみたい」と詰め寄られたりもした。

 まあ、それはともかく準備完了。ここまで問題なく進み、ようやく王都の皆にもお披露目だ、


 お披露目といっても、有名飲食店を大々的にオープンするとかじゃないので、別段混雑するようなことは無い。

 しかし何もなかった広場に、突然柵で囲われた人工的な広場が出現したのだ。ほとんどの人達は何事だ? と困惑しただろう。

 すると今まで期待や不安のざわめきがしていた所へ、驚きの声が漏れ聞こえ始めた。


「皆様、おはようございます」


 愛白馬プリマヴェーラに腰掛けるように騎乗したフローリア様が、騎士数名を連れて広場へやってきた。

 優雅に下馬したフローリア様は、なんと以前向こうの世界から持ち込んだあの白いワンピースを着ていた。普段着ているドレスよりも簡素だが、可憐な雰囲気と動きやすさを兼ねたその姿に、集まった皆は視線を外せずにいた。

 とはいえ突然の王族の出現に、皆あわてて頭を下げようとするが、それを手を振り制する。


「本日は(わたくし)も、皆様とともに過ごしたいと思っております。どうか今この場では、同じグランティル王国の一人の人間と扱って下さい」


 フローリア様は優雅に一礼し、その事で驚きの声が広がる。

 王族がそう簡単に頭をさげていいものではない事は、俺も知っているが王都の市民にとっても重々承知。ならばこの行為にどれだけの意味があるのか、分からないものはいなかった。

 皆の注目を集めたフローリア様は、ゆっくりとこちらへやってくる。


「おはようございます、フローリア様」

「おはようございます、フローリア様」


 俺とミズキは挨拶をする。いくら普通に扱ってと言われても、いまは公衆の面前なので普段通りだ。


「おはようございます、カズキ様、ミズキ様。それと……」


 ニコリと笑って、ミズキの傍に腰を落とす。


「ペトペン様、本日もよろしくお願いしますね」


 花もほころぶ少女の微笑みに、きゅっと返事をするペトペン。その様子は異質ながらも、どこか愛おしさが溢れるような光景だ。

 この無意識に周囲に認めてもらえる行動、これも聖王女としてのカリスマなのだろうか。たとえ言葉で本日は普通に扱って欲しいと言っても、それだけではなかなか平民が王族と共に過ごすのは難しい。だが、これで随分とおだやかな空気になった。


 打ち解けた様な空気になったところで説明をする。

 この場所は『憩い広場』という、その名の通り心を休ませる憩いの場所だ。利用はどなたでも可能で、好きに来て好きに立ち去れば良い。

 柵の中には召喚獣のペットがいて、それらと自由に触れ合って遊ぶことができる。ペットはおとなしい召喚獣で人間に危害を加えることは絶対ないが、だからといって迷惑をかけるようなことはしないように。小さな子が無茶をしそうになったら、優しく嗜めて欲しいという要望も伝える。

 また、近くに休憩場所も設置して、飲み物や軽食もいただけるようにする予定も。今日はまだ一部の飲み物しかないが、ゆくゆくは現実(むこう)の世界にあるオープンカフェのような感じにしたい。それが上手くいったら、オープンペットカフェにまで発展できたら面白いかも。


 とりあえず柵の中にペット達を召喚する。

 何にしようか色々悩んだが、まずはウサギとレッサーパンダにする。どちらも爪などで子供が怪我をしないようにしてあり、互いにじゃれあっても怪我の心配はない。

 柵の中の芝生広場に、真っ白なうさぎ達と、可愛らしい顔と尻尾のレッサーパンダが召喚されると、子供だけじゃなく見ていた大人たち、さらにはフローリア様の護衛任務にいる騎士までもが驚きの声をあげる。

 だが、どうしていいのか分からないため、じっと見つめるも動く人はいない。

 それを見ていたフローリア様は、何かを思い付いたようにペトペンに話しかける。


「ペトペン様。少しよろしいでしょうか?」


 王女に話しかけられてもきゅ? と、かわいらしく小首をかしげる大物ペンギン。フローリア様はなにやら話しかけると、それを理解したのか一度コクンと頷いて、そして入口の方へペタペタと歩き出した。

 それを見てペトペンの行動を理解したミズキが付いて行く。なんか普段の逆でちょっと微笑ましい。


 よちよちと柵の中へ入り、ウサギたちの所へ向かう。

 すぐそばまで行くと、そっとウサギをなでながらきゅいゅいっと声をあげる。

 それをうけてウサギが、ぴょんっと飛び耳をぱたぱたとさせる。

 今度はレッサーパンダの方へいって、同じようになでながらきゅいっと声をかける。

 レッサーパンダも、ピィッキュルルと返事をするうに声を出す。

 そのまま、ペンギンとウサギとレッサーパンダが、お互いにふれあったりしてもこもこしはじめた。


(何アレかわいい……)


 その場にいた者すべてが、もれなく同じ心境だった。

 ペトペンに続いて中に入ったミズキと、それに続いて入っていったフローリア様。二人がそれぞれ、ウサギやレッサーパンダのもとへいってそっと撫でる。両方とも、気持ちよさそうに撫でる手にそっと体を摺り寄せる。

 それを見ている子供たちは、もう我慢できないという顔でじっと見ていた。


「ほら、君たちも中に入っていいんだよ?」

「……いいの?」

「いいよ。ここは、そういう場所なんだから。……ホラ」


 そういって柵の中に視線を向けると、レッサーパンダをだっこしたフローリア様が、器用にその手を振っているようにちょいちょいっと動かしている。それと一緒に尻尾をゆらしているのは、レッサーパンダのファインプレーだな。

 その様子を見て、ついに一人また一人とゆっくり中に入っていく。

 ミズキやフローリア様の周囲にあつまっていたウサギやレッサーパンダを見て、そっと手を伸ばして触れるかどうか……という位置に手を置く。

 それを見たペットが、優しく触れてくる。一瞬子供たちは驚くも、すぐに笑顔になってペットたちと触れ合いはじめる。

 そして遠巻きに眺めていた他の子たちも、期待に満ちた表情で入っていく。それを見て先に入っていた子供たちが、手まねきをして呼びだっこをさせたり撫でさせたりする。どうやら奪い合ったりするようなこともなく、仲良くしてくれている。

 その様子を暫く見ていたミズキとフローリア様は、互いに頷いてゆっくりと出てきた。


「二人とも、お疲れさま」


 会話の声がとどく所に他の人はいないので、以前のような少し近しい感じで話しかける。


「うん。あれでよかったかな?」

「よかったと思いますよ。ミズキさんもペトペン様も」


 そう言った瞬間、なぜかペトペンがフローリアにきゅきゅっと声をかける。何故か抗議するように、ちょっと甲高い鳴き声だ。


「えっと、どうしたのですかペトペン様?」


 困惑して尋ね返すフローリア様に、またペトペンは抗議声で鳴く。

 その様子を見て、少し考えるミズキが何かに気付いたような表情をする。


「フローリア様。この場ではペトペンにも“様”付けを止めてみてください」

「え? ……ああ、そういう事なのですね、ペトペンさん?」


 そう言うとペトペンは嬉しそうな声できゅっと鳴く。

 いやまあ、召喚獣で特殊なんだろうけど、人の言葉どころか敬称まで理解するんかよ……。


 ともかく、これで『憩い広場』は順調にはじまったかな。

 今後この世界で、こういった事を色々とやっていこうかと思っているから、自分の中での事業立案と施行のベースみたいになるといいけど。


 ちなみにこの召喚獣は、広場中央に設置してある魔石から出入りする。基本的に日の出に合わせてて出来て、日の入りと共に帰っていく。そのタイミングで柵内への出入り許可も切り替わり、召喚獣が帰る時に柵内に人がいたら自動的に外に移動させられるようになっている。

 まあ、その他のルールとかはいろいろやりながら決めればいい。

 今日はまず、皆とともに過ごせる癒しの場所を認知して欲しかった、それだけだ。


 後、ペットと触れ合う子供たちを見ながら、ご婦人方やご老人だちが笑顔でお茶をしていたのも、朗らかな日常みたいでよかった。


 ただ……最後にやっぱりフローリア様に言われた。


「カズキ様。私も、何か召喚獣のペットを……ダメ、ですか?」


ペット広場の話はとりあえずここまでで。最初は土地権利取得から、現実世界での画像データ作成からパッチ化などの部分も一度書いたのですが、あまりにもテクニカルタームが多過ぎるのとテンポが悪くなりすぎたのでバッサリ切り落としました。

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