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262.それは、これからに期待を込めて

 あの後少ししたら皆が戻ってきた。それに気付いたフラウさんは、笑顔で手を振る。そんな様子を見て、ミズキが少し半目になって俺の方にやってきた。


「なんか……どことなくお兄ちゃんとフラウさん、仲良くなってない?」

「そりゃあ休憩ついでに話とかしてたから、少しくらいは」

「……まあ、これなら大丈夫そうかな」


 そう言って軽いため息をつかれた。なんだ? 俺がフラウさんを口説いてるとで思ったのか? もちろん嫌いではないが、妹の友人として好きなだけだぞ。こんなちょっと話したくらいでフラグ立ったりしないってば。




 あの後、幾分回復した俺達も交えてもう少し城下町を散歩した。改めて見るとここ彩和は、団子とかせんべいとか……いわゆる“米”に分類される穀物をつかったものが多いなと感じた。交易しているミスフェアでも米や餅などはよく見かけるが、団子やせんべいなどに使う米と主食の米ば別モノだ。そして、ご飯となる米以外はあまり海を渡ってきてないらしい。

 そのため歩きながら漂ってくる、みたらしだんごなどの香りは凶悪な武器だった。何より団子もそうだが、使われている醤油なども芳醇な香りが強い。もしこのレベルを再現したくば、その土地で材料やら何やらを最初から生産していかないと無理だろう。……俺に限ってならインチキで運搬できるけど。


 魅力的な食材ではあるが、主食となる米以外の米系穀物はひとまずおいておこう。そういうのはヤマト領がちゃんと運営に乗り、水路を整備して水田などの拡張見積もりができてからだ。

 そういったことを、もう日常のクセよろしく閑雅ながら散歩をしているうちに、かなり空に輝く星が増えてきた。王都と彩和はおおよそ10時間ほどの時差があり、王都ではまだ昼にもなってないがこちらではもう十分夜である。

 そんな夜にゆきの案内で、海が見える浜辺へとやってきた。


「おーっ、なんか広い浜辺だね」

「ふむ。このくらい広いと少しばかり暴れたくなるのう」

「ヤメなさい」


 視界にひろがる砂浜は、現代とは違い人の手による影響がみられない、とても綺麗な砂浜だった。夜なので真っ暗かと思ったが、思った以上に月明かりが照らしており白い浜辺が明るくみえる。

 流木や岩など浜辺にころがっているが、そういった中にプラスチックとかビニールといった現代ゴミはない。ただただ、綺麗に砂浜が広がっているのだ。


「……私、こういう砂浜っての初めて見たかも」

「そうね。私も初めてかも」

「そうなんですか? ミスフェアにも浜辺ってあったと思うんだけど」


 確かミレイさんもミスフェア出身だったよな。あそこにも浜辺ってあったと思うけど。


「浜辺はありますよ。でもこういう、白い砂浜じゃありませんから」

「あれ、そうでしたっけ?」

「ええ。ミスフェアにある浜辺は、潮干狩りとかができる状態の砂浜です。かなり広い範囲で潮の満ち引きで、砂地が見え隠れします。そういう場所なので、貝が潜って住める黒い土なんです。こういった散歩ができるような、綺麗な砂浜じゃないですよ」


 そう言われると、なんとなく以前そんな話を聞いたことがあると頭をよぎる。いかんせんミスフェアで海をみたのって、岩場にある洞窟へ行くときに横目で見たくらいだからな。

 でも……彩和もミスフェアも、海があるっていうのはいいな。こればっかりはいくらヤマト領の改革を頑張っても、どうしようもない要素だし。まあ、横に流れるノース川は綺麗だから、領地内の川辺を気持ちよく利用できるようにはしておきたいな。

 星明りが乱反射する波を見ていると、隣にいたゆきが何の気なしに言った。


「こういう砂浜を見てると、やっぱりバーベキューとかしたくなるね」

「バーベキューか……それもいいな」

「ん? いいって?」

「いや。ヤマト領の横に流れるノース川も、川岸を整備してバーベキューとかできるようにするのも面白いかとおもってな」

「あー……。たしかにあそこなら所々に手頃な河原もあるし、いいかも。川の向こう岸もある程度までは魔物が入ってこれないし」


 でもよくよく考えると、この世界でのバベキューって需要どうかな。火を起こして食材を焼いて食べる……なんて、冒険者の野宿ではありきたりの光景だったりして。それでも河原でやるなら、ピクニックみたいな感じになるしいいのかな。




 しばらく月明かりの浜辺を眺めたあと、俺達はヤマト領へ来た。普通に王都へ戻ろうとしたとき、アリッサさんたちからの要望でそうしたのだ。


「はぁ~、ここがヤマト領ですか……」

「まあ、正式な運営はもうちょっと先だけどね」

「なにか新しい街って感じですね。それに……」


 フラウさんがしゃがんで、そこに流れている水にそっとふれる。


「領地のあちこちに水が流れてますし、この水……」

「ええ。水の精霊たちもお気に入りの、清い水ですよ」

「ですよね! 何と言いますか、教会で授かる聖水とはまた違った神聖な……」


 水に触れた手を握ったり、開いたり、すくったり。色々と水に触れながら笑顔をみせるフラウさん。どうやらこの地の水が気に入ったようで、静かに大興奮中のようだ。

 他の人達も、フラウさんほどじゃないが色々と興味がつきないようだ。


「私も王都との行き来でここは通過したことあると思うけど、いつの間にかこんなに整備されちゃってたのね」

「そうなんだ。私はこの場所に初めてきたけど、それでもわかるよ。なんか空気も綺麗だし、どこか土地が活き活きしている気がする」

「本当だね。既に宿屋とか幾つかお店もあるし、まだ正式に領地運営はしてないんですよね?」

「うん。領地の中央にある宿や大衆食堂は、早目に建設して一日でも早く旅の人達に役立てたらって思ってね。だから幾つかの施設は、先行で開業してるよ」

「え! 食堂!?」


 俺の言葉にあった『食堂』って言葉にくいつくヴァネットさん。だが、残念ながら彼女達のお目当ては食堂にはない。


「食堂は一般的な食事をする場所だよ。残念ながらスイーツはあそこには無いよ」

「じゃじゃじゃじゃじゃあ、どこにあるんですかっ!?」


 えらい勢いで聞かれた。やはりお目当て最優先はソレか。


「ごめんね。名産にするスイーツは、素材から何から鮮度が命なんだ。だからちゃんと店ができて、設備も素材も充実してからはじめて作っていくことになるよ」

「そ、そうなんですね……残念です……」


 俺の言葉にシオシオとうなだれる4人。いつしかフラウさんも期待の眼を向ける乙女になっていた。聖なる水よりスイーツですか。

 しかしまあ、残念がる彼女達を見てるとちょっとかわいそうかなぁと思ってしまう。なにより今日は一緒に過ごすときめたし、今後の関係も考えて仲良くしておきたい。


「ミズキ、試作で作ったケーキってまだあるか?」

「うん、あるよ」

「「「「え……」」」」


 俺とミズキの声で、下を見ていた顔がそろって前を見る。


「それじゃあ、いいか?」

「いいよ。もともとこういう時のために入れておいたんだから」

「「「「おお……」」」」


 驚きの顔が、ゆるりと弛緩していく。


「というわけで試作したケーキをごちそうしますよ」

「私のストレージは入れておくと時間が止まるから、出来立てのケーキだよ」

「「「「おおぉーッ!」」」」


 とたん、4人が一斉に喜びをあらわにする。まるでレアアイテムを入手したか、強敵を撃破したかのような喜びようだ。この4人には、以前にもミズキがスイーツをあげていたりしていたので、その美味しさを十二分に理解しているのだろう。というか、ヤマト領への引っ越し理由の一つでもあったしな。

 そんな光景を見ていたゆきが、それならばと声をあげる。


「よし! じゃあ私も試作ケーキを提供するね。ミズキちゃんとは別の種類のヤツを」

「「「「おほぉーッ!!」」」」


 再び沸き起こる歓声。

 アレですか。もう完全に色気より食い気ですか。

 まあ、元気が一番。元気があれば何でもできる、だからいいか。

 じゃあ場所は……領運営の食堂を少し借りるか。


「じゃあ食堂の一角を借りて、そこで食べることにしましょう。さ、行きますよ」

「「「「はいっ!」」」」


 息ぴったりな女性冒険者4人の声が揃い響いた。その光景はそこはかとなくおかしいと思いながらも、なんかいいなぁ……と思ってしまった。

 この後皆でケーキを食べたり、祝福の樹にお参りしたりして領を見て回った。結果として彩和でのクエストには出かけなかったが、将来ヤマト領に引っ越してきたら機会はいくらでもと納得してもらった。


 ……そうだな。ここんとこ旅行だ領地だとやってたから、久々に皆でどこかへクエストに出るのも悪くないかもしれない。まだまだ調べておきたい事も幾つか残ってるし。



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