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261.そして、人の数だけ思いと決意

「あんた達、何をやってるのよッ!」


 彩和の冒険者組合にゆきの声が響いた。それにより、アリッサさんたちに絡んできた男達だけじゃなく、ここにいる全員の視線がゆきと隣にいた俺に向く。しまった、少し離れておくべきだったか。

 だが視線をあつめたゆきは周囲を気にすることなく、ずんずんとアリッサさんたちの方へ。


「ゆ、ゆきさん。これはその……」

「俺たちは、ええっと……」

「あんた達……」


 怒りを顔に浮かべずんずんと男達の方へいきながら、ぐいっと拳をかためる。基本的に武器を使うゆきだが、当然素手による格闘もかなりの強さだ。そんなゆきが拳を握りしめて──


「いいかげんにしなさいっ!」


 あ、殴った。でもなんというか……何か違う?


「で、でもゆきさん……」

「いつも言ってるでしょ! あなた達は基本的に乱暴に見えるうえ、言葉遣いも粗野だから、声をかけるならちゃんとしなさいって! それにちゃんと見てれば彼女達が初心者じゃない事くらいわるでしょ!?」


 ……おや? なんか思ってたのと違うぞ。てっきりよくある『ようお姉ちゃん、いいことしようぜ、ヘッヘッヘ』の類かと思ったんだけど、どうもそうじゃないらしい。


「何より彼女達は私達の友人で、今日は遠くの地からわざわざ来たのに、この国に嫌な印象を与えたりしたらだめでしょう。わかった?」

「は、はい! すみません。その……皆さんも、申し訳ありませんでした」

「あ、いえ……ちょっと驚いただけなんで、大丈夫です。ハハハ……」


 ぺこぺこと頭を下げる男たちに、アリッサさんは困惑しながらも大丈夫ですよと返事をする。そんな様子をみていたミレイさんは、そっと隣にきて話しかけてきた。


「あの、ゆきさんって何者ですか? あんな風に男性冒険者を叱ったりして」

「ゆきはこの辺りを統括している狩野の娘だからね。上に一人姉がいるけど、その人は今ミレーヌの専属メイドをしているから、実質この街でのリーダー的立場のNo.2だね。あ、もちろん君主──王様とかを抜いての話しね」

「はぁ、そうなんですか……って、ミレーヌ様の専属メイド? それってもしてエレリナさんですか?」

「あそっか。ミレイさんはミスフェア出身だからエレリナも知ってるんだ。そうだよ、本名は狩野ゆら。ゆきのお姉さん」

「えっ……じゃあ、お兄さんの婚約者の一人でもあるゆきのお姉さんって……」

「なんでそんな事まで知ってるんだ……」


 じとっとミズキを見るも、今回は首をぶんぶん横に振る。それじゃあゆきか、まあいいけど。

 一応世間的には王都を中心に、ヤマト公爵という人物がフローリア王女と婚約している、という範囲で話がとどまっている。それ以外は、両ギルマスやユリナさんやエリカさん、その他に何人かという程度。まあハイエルフのマリナーサや、ダークエルフのエルシーラといった、許婚ではないけど俺たちと懇意にしている人達には知られているけど。

 まあ、領地運営が開始される頃には、ミレーヌとの婚約も公にしておかないといけないな。そんなことを考えている間に、ゆきによる説教も終わったようだ。そのゆきにミズキが話しかける。


「おつかれ。ゆきちゃんって、あんな感じで皆に頼られてるのね」

「んー……言われてみるとそうかもね。まあ、以前からこんな感じだったから、あまり気にしたこともないかなぁ」

「でも、ゆきちゃんもそのうちにヤマト領にくるんでしょ? そうなると流石に今ほど、こっちの見回りとかできないよね」

「まあね。でも流石に最近は私だけじゃなく、皆でやってるから大丈夫じゃないかな。まあ、今日みたいなことがまだまだありそうだとは思うけど……」


 そういいながら、ゆきは視線を組合のカウンターにいる受付に向ける。それをうけて、あわててペコペコと頭を下げる。まあ、受付さんに……というよりも、この組合全体の姿勢を見直せってことだろう。


「それで、どうしよっか? 何か手頃なクエでもあればって思ったんだけど」

「どうもなさそうだな。でもまあ、アリッサさんたちは彩和に来たの始めてだし、観光なりなんなりしてみるのもいいんじゃないか?」

「そうだね。どうです? 観光に切り替えて城下町でも見ますか?」


 さてどうだろうか……と思ったが、アリッサさんたちの反応は意外と乗り気だった。なんでも彩和の文化……というか、武器や道具類に興味があるとか。ミレイさんとフラウさんはミスフェア出身なので、彩和の文化には結構詳しいのだろうと思ったが、さすがに現地に来てみると色々知らないことが多いとか。

 例えば刀だけを取り上げてみても、ミスフェアで交易流通しているのは一般的な太刀が主だとか。なので脇差や野太刀でさえも珍しく、あたりまえだが銘入りの刀などはよほどの事がないかぎり海を渡ることはないらしい。……まあ、過去にその“よほどの事”がきっかけで色々あったけど。


 また、ゆきが装備している武具を見て4人とも色々と興味を示したとか。ゆきの場合は『忍者』ということもあり、少しばかり特殊ではあったが、それでも苦無をはじめとした道具は新鮮だったらしい。

 あとは、やはりというかこの彩和本場での料理が気になるようで。ミスフェアでも和食はでてたし、かなり美味しかったと記憶にあるが、それでもこの地でしか食べれないものってのは存分にあると。それに関しては先日俺達も、現実(あっち)での温泉旅行で北海道に行って思い知った。それに俺も、実は狩野が運営してる大衆食堂のうどんのファンだったりするし。


 ともあれ、ゆきにつれられて城下町散策へ向かうことに。先頭をゆきとミズキ、その後ろにアリッサさんたちが続き、最後に俺とヤオがついていく構図だ。なんか女性ばっかでヘンな男どもにからまれたりしないかなぁと思ったけど、案の定ゆきがいるため挨拶はされど無粋な絡みはおきないようだ。ここじゃあ完全に顔役だな。しかも人気者だな、少し歩くたびに街道の両方から呼び声がかかる。それにちゃんと答えながらも要所で立ち止まって話したり買い物したりしていく。

 そんな事を少しやっていると、フラウさんがこっちへやってきた。どうにも少しはしゃぎすぎて疲れたようだ。フラウさんはパーティー最年少の僧侶で、少しばかり小柄なうえ知らない場所で随分緊張していたようだ。今はだいぶ慣れたようだけど、けっこう気疲れしていたようだ。


「大丈夫ですか? 少し疲れてるようですけど」

「はい、大丈夫です。楽しくて、ちょっとはしゃぎ過ぎてしまいました」


 そう言ってえへへと笑う。たしかフラウさんは16歳とか聞いてたけど、ぱっと見でフローリアと同じくらいに見えるな。小柄だからよけいそう思えてしまう。


「どうしたのフラウ。疲れた?」

「うん、ちょっとね」

「そっかごめんね。楽し過ぎてついつい連れまわしちゃったわ」

「ううん。私も楽しかったから。だから疲れちゃったんだけどね。私は少しここでお兄さんと休んでるから、皆はもう少し見てきていいよ」

「そう? じゃあもう少しだけ見てくるね。お兄さんフラウのことよろしく」

「ああ、まかされた」


 仲間を気遣ったもどってきたアリッサさんたちに、フラウさんは少し休むから見に行っていいよと言った。実際俺も少し休みたかったし、丁度いいタイミングだな。そう思っているとミズキがこちらに来て、


「……お兄ちゃん。フラウさんに手出しちゃダメだよ」

「出さないって。ホレ、お前も行って来い」

「むぅー……」


 少し剥れながらも、ゆきやアリッサさん達と一緒に人ごみの中へと進んでいってしまった。ちなみにヤオもそちらについていった。万が一合流できなかったときの為の連絡要員だ。

 皆が消えていった人ごみをみていると、よこからくすくすと笑い声が聞こえた。


「ふふっ、ごめんなさい。でも、ミズキさんは本当にお兄さんが好きなんですね」

「あー……まあ、そうみたいだね」


 どう返事をすれば正解なのかわからず、思わず曖昧な返答になってしまった。

 それがまたおかしいのか、少し笑われてしまった。でも馬鹿にしたような笑いやなく、兄妹のやりとりが微笑ましいという感じだった。って、この子まだ16歳だろ。ちょいと感性がおばちゃんっぽい?


「あっ、今私を年寄くさいって思いましたね?」

「ふぇ!? あ、いや、それは……」

「ふふーん、ちゃんと否定しない時点で有罪ですよ」


 そう言って笑うも、俺はちょっとびっくりしている。この子も、もしかして相手の心が読めたりするのだろうか? そう思っていると、


「えっと……もしかして『この子は相手の考えがわかるのか』みたいな事思ってます?」

「……ああ、正解だ」


 実際思っていたし、本当に読めるのなら隠す意味も無い。なので素直に言うと、笑顔をこちらに向けてきた。そしてそのままじぃっと見つめてくる。なんだろう、ちょっと気恥ずかしいな。そういう感情はないんだけど、こう見つめられると……と思ったのだが。


「あれ? ひょっとしてフラウさんって……」

「気付きましたか? ちょっと分かりにくいですけど、私もオッドアイなんですよ」


 そう言ってずいっと顔を寄せてきた。その目を見ると、確かに左右の色が違っていた。だが、フローリアやミレーヌと違い、その色の違いは些細なものだ。じっと凝視しないと気付かないレベル。


「私の場合は小さな違いですが、それでも左右で異なる瞳を有している場合、何かを見ることができます。私の場合は、物事の真否がなんとなくですがわかる程度です」

「あれ? 相手の心を読める、とかじゃなくて?」

「ふふっ、違いますよ。先程のやり取りはブラフです。私の言葉に対してのお兄さんの返答を見たんですよ」

「ああ、なるほど。これはしてやられた」


 おどけるように笑ったが、それで分かってしまったことがある。この子はその力のせいで、不用意に人の心象を見抜けてしまったのだろう。おそらくさっきのも、俺の気持ちを見抜きたくてやったわけじゃないと思う。多分、長い事そういう(・・・・)生き方をしていたので、無意識にそうするクセになっているのだろう。

 そして、俺がそう考えていることも彼女は気付いた。これは別に力とかじゃなく、これまでの彼女の人生で生まれてしまった思考からの答えだ。

 しばしこちらを見ていたフラウさんは、すっと視線を外して遠くを見る。俺も同じように視線を遠くへ投げた。


「……私、この力のせいで色々辛いことがありました。といっても、そんなに悲壮な事ではないですけどね。死にたくなるとか、そこまでは行きません」


 ポツリポツリと語りだすその声が、思ったよりも元気で少しほっとする。


「ただ、相手の中からふいに見えた虚言とかに、上手く対応できなかったり。それでいつしかお互いの信用が朽ちてしまい、気付けばもうなんの繋がりもない他人になっていたりしました」


 そんな話を聞きながら、俺はふと以前ミズキから聞いた話を思い出す。


「あれ? でも以前ミズキたちと一緒に盗賊団の仕掛けたクエストを受けたとか言ってなかった?」

「アレですか……。アレはギルドのクエストボードに張られた偽のクエストでしたので。もし依頼者本人と直接話をしていたら、見抜くことはできたかもしれませんが」

「それもそうか。でも、そんな体質というか能力をもってると、中々パーティーに恵まれたりしないんじゃ……ああ、そうか」

「はいっ。今いるパーティーは大好きです」


 聞けばミスフェアで知り合ったミレイさんは、色々とからかったりはするもの大切なことは絶対ごまかさないし、隠したりしなかったとか。それで勇気をだして、自分はこんな風に人の真否が見抜けてしまう……そう伝えたところ、


『そうなの? じゃあフラウのサプライズとか、なかなかできないじゃん!』


 と一笑に付したとか。それ以降より仲良くなった二人は、気の合う仲間を求め王都にきてアリッサさんとヴァネットさんに出会ったと。その頃は以前よりも心が強くなっていたフラウさんだったが、二人も何の気兼ねもなく本音でつきあえる仲間になれたらしい。

 その後、ミズキやゆきとも同じように親しくなったとのこと。ヤオに関しては同じ様な感じでもあるが、初対面時に盗賊団の前で見せた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)姿に驚きながらも感動してしまい、ある種の信仰に近いほどの気持ちがあるとか。……神に仕える僧侶が八岐大蛇信仰とは、奇異なめぐりあわせもあるものだ。

 そんな身の上話を聞いて、少しだけ気になったことがあった。


「でも、それじゃあヤマト領に引っ越したら、王都にある聖教会から遠くなるんじゃないの?」


 フラウが王都へ来た理由の中に、そこにある聖教会というのもあったのだ。この聖教会はLoUでは聖職者の転職イベントなどが行われる場所だった。まあ、この世界でも教会は聖職者の勤める場所ではあるが、ゲームと違ってプレイヤーキャラが教会内を駄弁り場にしているわけではないらしい。

 そんな聖教会へのお祈りが日課だという。それが出来なくなるけどと聞いたところ。


「なんでもヤマト領には『祝福の樹』があるとお聞きしました。エルフ族の守るご神木より、苗木を受けた神聖な樹だと」


 とのこと、確かに教会で祈ることも大切だが、それは教会()祈っているわけではない。その祈りはどこにいてもできるし、ましてや祝福を受けたという樹があるならば、当然それに対しても祈りをささげる。そう考えての引っ越しでもあるそうだ。


「……そっか。それじゃあ祝福の樹共々、皆の引っ越しを楽しみにしてるね。まあ、もう少し整備してからの話になるけど」

「はい! 今後ともお世話になりますね、ヤマト領主様」

「ははは……早く俺も領主呼びになれないといけないなぁ」


 くすくす笑うフラウさんの横、顔を上げて青く高い空を仰ぎ見る。雲一つない快晴に気持ちが引き締まる、そんな気がした。



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