260.それは、友達のお願いを受けて
「それで、アリッサさん達がヤマト領へ引っ越す事は、家族や知人にはもう言ってあるんですか?」
彼女達のように引っ越してくることを、明言してくれているのはありがたい。新しい領地とはいえ、基本的にはグランティル王国所属の領地である。無論領地独自のルールを施行はするが、立ち上がり時期はおおよそ王国と同じ感じになるだろう。それならば王都に自宅を構えている人が引っ越してくることは無いだろう。うん、やはり最初は身軽な独り身の人が多いのかな。
もちろんフローリアやミレーヌが住むため、それにあわせて最低限の人材も引っ越してくることも決まっている。そういった人達に領地運営は任せることになってるし。
「報告はこれからですが、多分大丈夫ですよ。私達は全員一人暮らしですし、出身も別の国なので現状維持みたいなものです」
「え? 王都出身じゃなかったの?」
驚いてミズキが聞き返す。おいおい、お前も知らなかったのかよ。
「うん。私とヴァネットはレジストで、ミレイとフラウがミスフェアだよ」
「そうなんですか? じゃあミレーヌのことは良く知ってるんだ」
「まあ、それなりにはね。領主様のご令嬢だから、ミスフェアに居たときに何度か見かけたことはあるけど……でもまあ、それくらいかな」
ミレイさん曰く、普通は冒険者と領主令嬢に接点なんてない、と。普通はそうだろうけど、俺たちの場合はまず王女様と会っちゃったもんなぁ。普通ってものが未だに身についてないな。
「ねえ、アリッサとヴァネット、ミレイとフラウは元々一緒のパーティーだったの?」
「私達はそうだったわ」
「こっちもそうだね」
ヴァネットとフラウが頷く。同じ国出身同士は、元々組んでいたようだ。
「それじゃあお互いが出会ってパーティー組んだきっかけは?」
「んー……きっかけと言われてもねぇ……」
「そうね。お互いがまったく同じタイミングで王都にやってきて、そこでクエストを受けるとき合同で受けたんだけど……」
「ど?」
思わず聞いてしまった俺を見て、何故かアリッサさんたちは苦笑いを浮かべる。なんだろう、聞いちゃいけないことだったのか?
「いやね、その時クエストを合同で受けたパーティーがもう一つあって。それがまあ、言葉を飾らずに言うとゲスい男共だったわけよ」
「ギルドで話してるときも、どこかこちらを舐めるようにみてて……『ああ、これはそういう系統か』って思ってたら案の定だったわけ」
「それでまあ、私達4人は初対面ながらもうまいことそいつらを縛り上げて、ギルドへつきだしたってわけ。それでまあ奇縁だと思ったけど意気投合してね」
「折角だからここに所属を移して、皆でパーティーを組もうって話になったわけなんです」
おお……。話の内容もだが、4人が流れるようにすすっと説明をしたことに感動した。なんかこういう話をするのが慣れているのか、それともこのレベルにまで息ピッタリなんだろうか。……多分後者か。
妙な感心をしていると、横に座って菓子をつまみながら茶をすすっていたヤオがふと顔をあげる。
「主様よ、ゆきがギルドにきたようじゃぞ」
「あ、そうなのか? じゃあ──」
「私が呼んで来るわ。従業員の私の方が連れてきやすいでしょ」
ユリナさんが立ち上がって呼びに行った。そういう気遣い出来る人が、新設のギルドにきてくれるのは本当にありがたい。……逆に王都のギルドよ、すまぬ。
「あの、お兄さん。ちょっといいですか?」
「ハイ、何ですか?」
「お兄さんって、色んな場所へ移動できる転移魔法が使えるんですよね?」
「ああ、使えるけど……それが?」
別に秘匿してる事じゃないけど、なぜ知ってるのかとミズキをチラ見。案の定こっちを見ないようにしているんだけど。
「その……もしお時間がある時にでも、どこか遠地の探索などに連れて行ってもらえませんか?」
「遠地というと……たとえば彩和とか?」
「彩和といいますと、ゆきさんの出身国ですよね。たしかここからですと……」
その時部屋のドアが開き、
「彩和はここからだと船で何日もかかるよ。しかも、海の状況にも大きく左右されるから下手したら半月以上も予定がずれることもあるかもね。最悪海の魔物に襲われて着かないこともあるよ」
「あ、ゆきちゃん」
手をふるミズキの隣にいってすわるゆき。おかげでこっちのソファも4人座って満席だ。
「それで、何で彩和の話をしてたの?」
「ああ。もし時間がとれるなら、俺の【ワープポータル】で遠地の探索とかできないかって言われて」
「それで彩和を? いいんじゃない、面白そうだし」
「そ、そうですよね! ねっ!」
ゆきの言葉にアリッサさんたちが俄然くいつく。そして期待をこめた目を俺にむけてくる。
よく俺に向けられるフローリアやミレーヌからの視線とちがって、また媚びるような感じではなくとにかくお願い! みたいな懇願の目だ。
「……わかりました。いいですよ、今日は暇ですし」
「ありがとうございます!」
わあっと笑顔を浮かべて立ち上がるアリッサさんたち。もう俺たちにとっては、ここから彩和へ行くのはご近所散歩となんら変わらないか、他の人にとってはかなりの大事。現実でいうところの、海外旅行以上の難易度なのだろう。
「でも、皆ってそんなに彩和とか行ってみたかったの?」
「それはそうですよ。特に私とフラウはミスフェア出身だから。彩和との貿易で、品物や話は知ってても現地には行ったことありませんからね」
ゆきの疑問にミレイさんが答える。ミスフェアの出身なら、彩和から来た文化とかには結構明るいのか。そういうのもあって、ゆきともすぐに仲良くなったのかもしれないな。
とりあえず準備をして彩和へ行こうという事になり、俺たちは冒険者ギルドを後にした。彩和の冒険者ギルド……あっちでは冒険者組合か。それにユリナさんが興味を示したが、まあ今日はクエストを受けにいくだろうからと言われて辞退した。いつしかユリナさんやエリカさんに、彩和や他所のギルドを見ることも勧めてみるか。以前少しばかりやったこともあったし。
アリッサさんたちはすぐに出発できると言ったので、すぐにポータルで彩和へ。
彩和で出る場所といえば、当然狩野一族が経営している大衆食堂の裏庭。そこにゆき、ミズキ、ヤオという順番で移動し、その後4人が着いていった。最後に俺が移動すると、周りをキョロキョロ見回して驚く4人の姿があった。うーん、新鮮。
「じゃあ、とりあえず食堂で何か飲みながら」
「あ、うん」
「食堂?」
すたすたと歩いていくゆきに、あわてて着いていくアリッサさんたち。その後を、俺やミズキたちがついていく。そのまま中へ入り少し大きめなテーブル席へ。といっても、俺たちが全員でこっちに来たときと同じ席だけど。
そこで軽くお茶を飲みながら打ち合わせ。まあ今回の主目的は、探索でありクエストだ。もしここにミレーヌとかいたなら、広忠様にも会いにいったかもしれないが、この面子ではアリッサさんたちの心身がもたないだろう。
そんなわけで、俺達は冒険者組合へ。ただ、毎度のことだが普通に歩いているだけで結構注目される。
それは──
「ね、ねえ。なんか私達って見られてない?」
「そうだよね。でも、悪意があるっていうよりは……」
「ものめずらしい……って感じかな?」
「そう、そんな視線に感じる……」
少しばかり恥かしそうにゆきの後ろをついていく4人。和服の人があたりまえに住んでいる場所に、皮鎧やローブなどを着た人達がいるのだ。イヤでも目立つに目止まる。
思い返せばフローリアたちも同じだったが、いかんせんフローリアとミレーヌが注目されることに慣れているうえ、やはり視線を集めていたのでその後ろの俺やミズキは、かなり視線を向けられることはなかったのだ。ちなみにミレーヌ同伴時はエレリナは基本メイド服なので、町の人たちからは「ゆらさんはなんであんな格好してるの?」という感じだったらしい。
ともあれ微妙に視線を集めながら、俺達は冒険者組合へ入っていく。そして依頼掲示板へ行って、手ごろなクエストを探すのだが。
「特におもしろそうなのは、ないねぇ」
「そうだね。まあ、平和だってことかもしれないけどねぇ」
ミズキとゆきが掲示板の前で不満を漏らす。まあ、人的被害の出ている急務がないのは良いことだが。でもそうなると、クエストとか関係なくどこかへ出かけることになるのか。
「ゆき。どこかよさげな場所ってあるか?」
「と言われても……。まあ、この際だから彩和っぽい場所だったりすればいいのかもしれないけど」
そういいながら依頼掲示板を見ていたゆきが、何かおもいついたように俺を見る。
「そういえばさ、以前受けたクエストのあの山村って今どうなってるかな?」
「ああ、あそこか。どうなんだろう、特に依頼とかないなら今も皆いるんじゃないか?」
「私ちょっと聞いてくる」
そう言ってゆきが組合の受付に行って話をはじめた。どうやらあれ以降、村から新たな依頼とかが来てないかの確認だろう。問題がおきたならまた以前のように依頼が出されるはずだろうから。
少し話をして、ゆきが戻ってきた。
「特に何もおきてないみたいだね。あそこに行ってみるってのもアリだと思うけど」
「そうだな……って、そういえばアリッサさんたちは?」
「あやつらなら、ホレあそこじゃ」
ヤオの声をうけそちらを向くと、
「なあ、お姉ちゃんたち。見かけねえ顔だな」
「それになんか見慣れない装備してるな」
「どうだ? ちょっとばかし俺たちと組まねえか?」
……地元の冒険者たちに絡まれていた。いや、この場合絡まれてるというよりは、言い寄られてるとかそういう感じなのだろう。見ろ、アリッサさんたちの嫌そうな顔。
とりあえず止めるか。彼女達を連れてきたのは俺だし、せっかくの彩和で嫌な印象をもたれるのも残念だし。
そう思って俺が話しかけようとした時。
「あんた達、何をやってるのよッ!」
ゆきが前にでてその冒険者に怒鳴った。ああ、ゆきがいたんだっけ。じゃあお願いします。




