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26.そして、友と呼べるなら

「冒険者のカズキ、およびミズキとその召喚獣です」

「話は聞いております。どうぞ」


 俺とミズキが身分証明となるギルドカードを提示し、入っていくのはグランティル王城。

 今日はこちらで土地運用の話……という建前で、フローリア様がミズキとペトペンへの面会を予定している。ただし、その事をミズキには内緒にしてある。フローリア様たってのお願いなので、どうにも断れなかった。


「ね、ねえお兄ちゃん。本当に今日、ここで……?」

「そうだよ。さっきの守衛さんも俺たちの名前確認してただろ?」

「そうだけどさぁ……」


 不安顔のミズキの後を、堂々とした態度(?)でペタペタと付いてくるペトペン。召喚獣だからなのか、どうみても俺たちより足が遅いようにみえて、実は普通にちゃんと付いてこれるのだ。

 ともかく俺はミズキとペトペンを連れて、ある部屋の前に到着。

 コンコン、コンコンとノックをする。中から「どうぞ」という声。まあ、誰かは知ってるけど。


「失礼します」


 ドアを開けて中へ入ると、そこは十畳ほどの広さの部屋。

 部屋の中央には低めのテーブルと、それを囲むようにソファが置かれている。そのソファ前のドア向かい正面に、ひとりの女性が立っている。

 俺は礼をして入室をする。それを追って入ろうとしたミズキは、出迎えた相手を見て動きを止める。

 そんなミズキに微笑みながら、ゆっくりと此方へやってくる女性。


「はじめまして。グランティル王国第一王女、フローリアです」


 優雅に一礼し、そして挨拶を述べるのであった。




「はじめましてペトペン様。フローリアと申します」


 少し前屈みになりながらも、できるだけ視線を合わせようとする王女のカーテシーは、ペトペンへに対する親愛の現れのように見えた。

 事実フローリア様の表情はとても生き生きしており、そこだけ見ても十分な誠意を込めた挨拶であるといえた。

 ミズキとペトペン、両者へ挨拶を済ませると、フローリア様は早速本題へ入った。

 無論、王都の広場の件であり、そこに作る予定の憩いの場所である『動物ふれあい広場』についての話である。

 フローリア様は諸手を挙げて賛成してくれたが、国が管理している土地の運用ともなれば、そう簡単にことは進まないのではないのか? そう思っていた。

 思っていたのだが……。


「では、当初の予定通りあの広場の一角をカズキ様に一任いたします」


 なんのひっかかりもなく、さっくりと話が進み、当初の希望通りの結果になってしまった。

 これにはミズキのみならず、俺も大いに驚いた。いくら一国の王女からの言葉とはいえ、そんな簡単に土地を貸し与えてもいいものだろうかと。

 それに関してフローリア様はすぐに種明かしをしてくれた。

 もともとあの広場は、この王国の人々が多種な用途に使うため、国が意図してあのような形にしていたらしい。そして本来ならば、もう少し何かしらの状況を整えた場所になるはずであったが、なかなかそういった方面での良い案が出ず棚上げ状態になっていたらしい。

 そこに丁度出てきた話が、元々の方針に近いと判断され、フローリア様が中心となり今回の話が進行してくことになったそうだ。


 随分と都合がいい話だなぁと思ったが、どこかひっかかるような気が。

 それは何か別の思惑が──とかではなく、どうにも見落としてることがあるような気がする。

 ……もしかして。

 あの場所はLoUの運営イベント開催時、専用のテクスチャが貼られ、飾りのオブジェクトモデルも多数配置されたりする場所だったはず。要するにあそこは運営管理の場所であり、この世界では神様預かりの場所ってことになるんじゃないか?

 でもそれでは管理外になってしまうので、王室預かりという設定におきかわっている……という推測がたてられる。もしかして、他にもLoUで似たような運用をした土地や物があれば、それの所有を確認すればわかるかもしれない。

 なんだろう、ちょっと楽しみが増えた気がする。

 まあ、まずは目の前の案件からだ。


「ありがとうございます、フローリア様」

「いいえ。お役に立てたようで何よりです」


 ともあれ無事に話が運んだことに、ほっと胸をなでおろして礼をする。フローリア様もそれに対し嬉しそうに笑顔を返す。

 だが、そんな俺達をずっと無言で見ている人物がいる。

 ミズキだ。

 最初部屋に入ってド緊張のまま挨拶をしたきり、その後一度も口を開いていない。

 その目に浮かぶ色は、複雑な感情を物語っているようなのだが。


「おい、ミズキ」

「…………」

「おい。どうかしたのか?」

「……あー、うん。えっと……」

「いまさら何遠慮してるんだ。どうした?」


 どうにも言いにくそうにしながら、俺とフローリア様を交互に見る。何度か見た後俺の方を見てかるく息を吐きながら、


「えっと……なんでお兄ちゃんは、そんなにも王女様と親しげなの?」

「は?」

「え?」


 ミズキの言葉に驚く俺とフローリア様。別段そんなに親しくしていたとは思わなが、よくよく考えてみるとただの平民と王族ではありえない光景かもしれない。

 実際の裏事情的な部分では、もっと気安く話ができる関係だと思っているし、向こうの世界ではお互い呼び捨てでいられる間柄だ。


「この前の時もそうだった。そもそも、こんな風に王女様が一人で平民の私達と居ることも……」

「それは私の方から申し出たからですよ」

「え? 王女様が?」


 この状況に疑問をもったミズキに、フローリア様がいろいろ話をはじめてしまった。

 ぶっちゃけ、どう話していいものかと思っていたこともあり、とりあえずまかせてしまってもいいのだろうか。


「カズキ様はこの国のため、色々と尽力して下さっております。でも、本人からの希望であまり目立ちたくないとの事でしたので、心苦しいとは思いますが王都の人々にはその功績が知れ渡っておりません」

「確かにお兄ちゃんは色々と凄いけど、でもまさか王女様にそこまで言われるほどとは……」

「詳細は申し上げられませんが、それほどまでなのです。先の召喚された魔族の撃退も、カズキ様の力あればこその成果です」

「え? でもあれは、あの時その場にいた王女様が聖なる力で……」


 ミズキの言葉に目をつぶりかぶりを振るフローリア様。真実を述べられない事が、聖女の資質もあるフローリア様には心苦しいのだろう。


「いいえ。公にはそうなっておりますが、あれもカズキ様のおかげで成し得た事です」

「そう、なんですか……」


 驚きながらも嬉しそうな表情のミズキ。

 でも少し寂しそうなのは、自分が知らなかった家族の姿を他人に教えられてしまったからか。


「ミズキ様。黙っていた事……カズキ様を責めないで下さいね。カズキ様は騒がしくなって、家族といる時間を失いたくないがため、公にしないでいたのですから」

「は、はい。責めるなんて、そんな……。それと私なんかを様付けで呼ばないで下さい。そのまま呼び捨てでかまいません」

「そうですか。では……ミズキさん、と呼ばせて下さい。私の事も王女ではなく、フローリアと名前で呼んで頂けたら嬉しいです」

「は、はい。えっとフローリア様……」

「はい」


 話が少し脇にそれたが、そのまま仲良くなる流れとなった。

 よくわからんがこれはいい傾向だ。どちらも同年代の友達ってのがいない様子だったしな。

 だが、話はこれで終わりではなかった。


「ふふふ、ミズキさん」

「は、はい。なんでしょうか」

「ところで今日は……随分としおらしいご様子ですね」

「……え?」


 アレ? なんか空気がかわった?


「以前遠目ですがお見受けしたときは、随分と挑発的な視線を向けられていたと記憶しておりますが」

「ふぁっ!?」


 ミズキの顔が青くなる。おそらく以前、その場のノリで向けてしまった視線のことを言っているのだ。やっぱり覚えていたんだな。

 どうしようかと卒倒しそうになっているミズキを見て、フローリア様はクスリと笑った。


「ごめんなさい、からかったりして。でも心配しないで。あの事で、何かするつもりも言うつもりもないから」


 そう言いながらそっとミズキの手を取り、


「友達ってそういうものでしょ? それとも、ミズキさんは私と友達は嫌ですか?」

「え? は、はい。あ、いいえ! えっと、その……」

「ふふふ、落ち着いて」


 いろんな感情が浮き沈みしてパニックになっているらしい。その様子を楽しむのも含めて、フローリア様はやり返しているのだろうか。なんとも恐ろしい、さすが王族か。


「改めてお伺いしますね。ミズキさん、私とお友達になって下さいますか?」

「……はい。私でよければ、喜んでお受けいたします」


 ……固いよ君ら。まあ、身分的には仕方ないのだろうけど。

 にっこりとほほ笑む二人を、近くでじーっと見つめるペトペン。それに気付いたフローリア様が、膝を折って優雅にペトペンと視線を合わせる。


「ペトペン様も、お友達になって下さいますか?」


 フローリア様の視線と言葉を受け、そのままペタペタと数歩進んで歩み寄る。そして差し出されたフローリア様の手の甲に、クチバシと頬を擦り付ける。おそらく認めたというペトペン流の行為なんだろう。


「ふふ、ありがとうございますね」


 微笑みながら、やさしくペトペンを撫でるフローリア様。

 フローリア様もペットを欲しがるのは、もう時間の問題だなと思い至った。


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