表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/397

255.そして、眼下に広がる景色を夢見て

 温泉宿の2日目の就寝は特に何もなく無事に過ぎていった。

 開けて3日目。起き抜けの露天風呂を楽しんだ後、朝食バイキングへ。朝食の方も前日とは少し違うメニューがあり、この辺りの工夫はもう少し知りたかったとも思う。

 わいわいと楽しく食事をした後、俺達はお世話になった宿をチェックアウトした。

 その際、ごく普通に出て行くつもりだったのだが、何故か出て行こうとする俺たちを見てあわてて従業員が宿の女将さんを呼んできた。そして丁寧な挨拶と、ちょっとしたお土産を手渡してくれた。いったい何故と思ったが、どうやら昨日フローリアたちが仲良くしていたおばあさん達とは旧知の親友らしい。そのあたりからフローリアたちのことを可愛がってくれていたようだ。

 改めて挨拶をして、俺達は宿を後にした。……うん、ここはまたいつか来たいかな。




 宿に呼んでおいたタクシーで登別の駅まで戻った。人目のない場所で、俺以外の皆はお土産やカモフラージュ用に出していた鞄などをストレージにしまう。俺とヤオの分はミズキにしまってもらった。随分と身軽になった状態で、俺達は次の目的地へ向かうことにした。


 今回の旅行の大きな目的地は2つ。先ほどまでいた登別と小樽。だが、北海道って聞いたらまず頭に浮かぶ都市はまた別だ。行きにも寄った函館と……札幌だ。

 せっかく北海道に来たのだからと、小樽へ行く前に札幌にも行くことになった。電車に乗って1時間とちょっとで札幌駅に到着。まだ午前中なので食事にはもう少し、という頃合。

 なので観光と食事処への移動もかねて、駅から真っ直ぐ向かうのは──




「ほぉぉー……これはいい景色じゃのぉ」

「すごい、すごいっ」

「本当ですね。高いところからの景色を自分の目で直接見ると、また違った趣があるといいますか」


 ヤオとミレーヌ、それにフローリアが感心しているのは、札幌のテレビ塔のエレベーターからの景色。ガラス貼りで外が見えるため、お子様なんかはペタっと張り付いて外を眺めるのは通例だ。あ、何もしゃべってないけど同じようにガラスに張り付いてるミズキもいる。


「こちらのエレベーターは──」


 エレベーターのガイドさんがテンポよく説明をしてくれる。それを理解は出来てないのだろうが、何故か真剣に聞くゆらと「懐かしいなぁ」と声を漏らすゆき。

 そんな感じでエレベーターが兆着した展望台では、やはり……いや、全員がそこからの景色を魅入っていた。特に眼下に広がる大通公園は、ある種の絶景でもあった。もし季節が冬であれば、この景色が一斉に雪化粧をするのだろう。それはそれで、また見てみたい気もする。ただ、そこまでの雪化粧=かなり寒いということなので、そんな季節にここに観光にくるのは結構大変な気もする。

 そんなとき、ふと隣で景色を見下ろしてるミズキが口を開く。


「ヤマト領にも、こんな風に景色が見下ろせる場所があると面白いかもね」

「領地の展望台か……」


 言われて少し考える。確かにあると面白いし、観光名所のひとつにはなるかもしれない。だが、あちらの世界での建造物技術からして、到底こんなタワーなどは造れないだろう。勿論俺が色々手をだせば可能だが、それはあまりオススメできない。

 そう考えていた俺はある事を考え付く。別にここのタワーみたいにやたらと高くする必要はない。でも景色を楽しめて、それにプラスアルファで何か楽しみを上乗せできるような事を設ければいい。それについて、幾つか思案する。……うん、これならあちらの技術でも可能だろう。

 そう結論つけて、楽しくなって笑みを浮かべたのを、側で聞き耳をたてていたフローリアに見つかる。


「何かまたよから……面白いことを思いつきましたね?」

「今、よからぬ事って言いそうになったよね? 俺そんな悪そうな顔してた?」

「いいえ! カズキお兄様は何時でも素敵ですよっ」

「ミ、ミレーヌ! それでは私が意地悪いみたいに聞こえるじゃないですか」

「フローリア姉さまうかつですー」


 やいやいと言い合う王族二人を見て、思わず目尻が下がる。この旅行中は、本当に普段の国益任務から離れてのびのびしているなぁと。


「……で、お兄ちゃん。結局何を思いついたの?」

「ああ。まだ構想段階だけどな、ヤマト領の中でも景色がいい場所に温泉宿を建設するのは既にきまってるが、その宿の屋上──屋根の部分は柵をもうけて出られるようにするんだ。そして、そこに露天風呂を設置する。要するに領地の中に、高台の露天風呂を設けようと思ってな」

「へええ~、なんか面白そう!」

「だろ?」


 発想は、以前ネットでみた“ビルの屋上がプールになっている”という記事だ。それを元に考えてみたのだが、実現できれば色々と面白そうだ。

 元々は温泉宿の露天風呂は普通に庭等に設けるつもりだったが、そうするとどうしても視界制限の壁などを設ける必要があった。景観を損ねる云々はある程度は緩和できても、やはり無いなら無い方がスッキリするものだ。そこで、その地域で一番高い建物の屋上に設置するのであれば、当たり前だが男女の区分け壁だけで住む。それにおそらく景色も普通の露天風呂では見れないものになるだろうし、何より話題性があると思う。


「“空中庭園”じゃなくて、“空中温泉”だね」


 そういったのは側にきていたゆき。いつの間にか皆俺の話を聞いていた。


「まあ、空中って言うほど高い建物は無理だろうけど、そんな感じだろうな」

「大丈夫じゃない? こっちと違ってあっちの人だと、一番高い建物って城とかそんなモンだし」

「城といえば……カズキお兄様は、ヤマト領に自分のお城を建てたりしないのですか?」

「ん~……とりあえず“ヤマト領”の間はしないかな。後々、正式に国として成ったら、あったほうがいいとは思うけどね」

「でしたら、とりあえずはその一番高い温泉宿の最上階、そこに住むことにすればよろしいのでは?」


 フローリアが領地での俺の住居提案をしてくる。それもありかなと思ったが、頭に浮かぶのは日本人特有の『バカと煙はなんとやら』である。なので少しばかり返答を躊躇していると、


「いいですね。その地を納める長として、皆を見下ろせる場所に構えるというのは必須かと」


 それは当たり前の事だ、といわんばかりにゆらが賛成を述べる。それにのって、皆がいいのではと賛成意見を重ねていく。俺としてはどちらでもなかったが、皆がそういうのであればという気持ちに寄る。


「……そうだね。それじゃあヤマト領の温泉宿に関して、そういう方向での作業も視野に入れて計画の確認と修正をしていこうか」


 そういった瞬間、みながわあっとわいた。えっと、そんなに嬉しいか?


「ということは主様よ、時間があればわしは延々と風呂で飲んでおってもよいのじゃな?」

「私もできるだけご一緒できるように致したいですね」

「やったー! これで毎日温泉にはいれるー!」


 ……はっ!? それが目的か!!

 確かに領主やその家族が、自分の領地であり建物である温泉なら、自由に入れて当然という事になるのだろう。納得はできるし、理解もしている。でも、何かこうやりきれないそんな思いが、俺の心にしとしとと雨を降らせている。んー……女3人あつまれば姦しい──じゃない3人よれば文殊の知恵というが、6人もいるとどんな策略が巡ってくるかわかったもんじゃないな。

 少しばかりうなだれている俺を、ゆきがぽんぽんと肩をたたく。


「まあまあ。カズキもあっちに行けばチートの塊なんだから、そう気落ちしないで」

「……チートの塊なのに、何故か全然勝てないような気がするのは気のせいか?」

「まあまあ。それよりホラ、そろそろお昼でも食べにいこうよ。札幌はよく着てるから、私も結構案内できるよ」


 そう慰められて、俺達はここから近くにある有名なラーメン屋さんに行った。函館で塩ラーメンを食べたから、札幌なら味噌ラーメンだよなっていう単純な理由だけど。

 ちなみに、ゆらがものすごい真剣な顔でラーメンを食べていた。あれはもう、料理とかに関しての執念みたいなものだな。そのうち、あっちでも札幌を感じる味噌ラーメンが食べれるかもしれない。そんな事を感じながら、俺達は昼食を済ませ札幌駅にもどった。


 そして向かう先は小樽。──ゆきの生前の故郷だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ