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250.そして、目覚めと朝の風呂

 翌日の目覚めは爽やかだった。勿論、お肌がツヤツヤになるようなことは一切していない。

 単純に温泉入浴による血行促進と、旅行という事によるプラシーボ効果だろう。ここは朝食もバイキング形式なので、それに着替えて十分間に合う頃合で起きた。ちなみにミズキも既に目は覚めており、起き上がるまでの時間はのんびりと話をしながら寝そべっていた。

 とりあえず起きた俺は着替えることにして、ミズキは持ってきた枕を抱いて部屋を出て行った。出て行く際に、すこしだけ廊下の様子を気にしていたのは小動物的な雰囲気が愛嬌があった。

 とりあえず寝起きの身だしなみを整え、着替えて食堂へ向かうことに。廊下を出たところで、同じように着替えたミズキと会ったのでそのまま一緒に。




「あっ、こっちですよー」


 食堂へ到着すると、立ち上がって手を振るミレーヌがいた。どうやら皆既に来ているようだ。

 とりあえず自分の分をいくつか取って、そちらへ向かう。長テーブルを挟んで座っているので、俺がどこに座るのかと皆じっと見ていたが、まあ最初に勇気をだして声をかけたミレーヌの隣へ。とっても、別にこれで何かいがみ合ったりするほどの関係ではもう無いし。

 俺とミズキが席に着いて、さて朝飯だ……と手を伸ばした時。


「むふふっ。──“ゆうべは、お楽しみでしたね”」

「ぶっ」


 ゆきのあまりにもベタな発言に思わず吹いてしまう。もう少しおそければコーヒーを噴出す大惨事だったかもしれん。


「……お前なぁ~」

「いやいや、これってやっぱりお約束でしょ? いやーネタが通じるっていいわぁ」


 罪悪感なんのそので、ケラケラと笑うゆき。はぁやれやれだと思うも、言いたくなる気持ちもわからんではないので仕方なしと諦めた。

 その言葉に、ミズキは顔を赤くする。おいおい、本当に何もしてないだろうが。だがそれを見たフローリアは、


「カズキ、貴方まさか……」

「いやいや! 本当に何もしてないから。ゆきの冗談だから」


 あわてて否定する。そしてじっとこちらを見つめるフローリア。……あっ、今もしかして魔眼で見られてるんじゃないのか!? 本当になにもしてないのだが、じーっと見られていると冷や汗がダラダラと出る。そして、暫くした後に、


「……本当のようですね。まったく、人騒がせな……」

「いや、言い出したのは俺じゃなくて」


 なんか俺が悪いみたいな感じになっている。それを見てゆきはテヘッという感じで笑い、ゆらは苦笑い。ヤオは無関心で朝食に夢中だった。そしてミレーヌは、


「あのー……“お楽しみ”って何ですか?」

「ぶふぅっ!?」

「あっ、ちょっ、カズキ汚いっ」


 今度こそ、俺は口にふくんだコーヒーを少しだが吹いた。……正面にいたゆきに。うん、全然あやまる気が起きないね。

 それよりもミレーヌを見る。……う~ん、この様子だとそういった事柄を本当に知らないようだ。どうしたものかなぁと周りをみるも、どこか困った半分面白半分の顔で俺を見ている。まあ、さすがにここでそのものズバリを教えるわけにはいかないので、色々と濁して話した。最後に「将来、その時が来たら……ね?」と約束をしてなんとか逃げた。その約束をしてる時の、ゆきのニヤニヤ顔はやっぱり悔しかった。




 朝食も終わり、さあこれから何をしようかという話になった。この宿にはもう一泊するため、今日は丸々一日この登別にいることになる。本来の目的にも関わることなので、ここの温泉街周辺を散策もするのだが……。


「まずは朝風呂に入ろう!」


 という俺の意見で露天風呂へ。露天風呂は初日に早速入ったのだが、態々言ったのには理由がある。それは──




「あれ? お姉ちゃん、昨日はこの暖簾……」

「ええ。今日は男女が逆になってますね」


 そう。露天風呂は壁を挟んで左右対称につくっているわけではないので、色々な湯船を存分に楽しんでもらうために男女を日替わりで入れ替えているのだ。それにより一泊だけの客でも、来た日の夜と翌日の朝に入れば両方楽しめる。二泊すれば両方の温泉の朝晩も楽しめるということだ。


「そういうこと。なので昨日とはまた別の湯船を楽しんでくれ」

「はい、楽しんでまいります」


 俺の言葉に素直に頷くフローリア。元々女の子はお風呂好きだけど、フローリアは温泉に行くたびにどんどん温泉好きになっている感じさえある。


「カズキ~、昨日私達が入ったお風呂だからって、風呂のお湯飲んだりしないでね~」

「……どこからその発想が出てくるんだよ。というか、ちゃんと深夜にお湯を抜いて清掃してるから昨日の湯なんて残ってないぞ」

「そうなんですか……毎日綺麗にされていて、素晴らしいですね」


 ゆきのからかいに対する返事に、ミレーヌが真面目に感心した表情を浮かべる。何気なく自分で言ったけど、確かに温泉の深夜清掃とかの仕組みも、ちゃんと異世界(むこう)で行わないといけないな。悔しいかな、ゆきのおバカ発言に端を発して思い至ったのが少し悔しい、むぅ。


「多分湯上りは俺のほうが早いと思うけど、出るときはヤオに念話するから」

「わかったのじゃ。……と、主様よ。えっとじゃな……」


 そういってヤオがちらりと俺とゆらを見る。ああ、なるほどまたか。


「別にかまわんが……他の利用客がいたら見つからないように飲めよ? 見た目は未成年で、飲酒禁止なんだから」

「うむ! それなら大丈夫じゃ!」


 そう笑みを浮かべると「ほれいくのじゃ」とゆらの手をつかんで、一足先に暖簾をくぐってしまった。やれやれと思いながらも、中々に面白い組み合わせだと思ったり。


「ゆき。また湯船でお酒を楽しめるようにしておいてくれ。まあ、朝だし一人分でいいだろう」

「わかった。それじゃ、私達も入ってくるね」

「おう」


 そういって暖簾をくぐる皆を見送り、俺も男の暖簾をくぐった。




「……ふぃ~……」


 思わず漏れる声。そこに意味はないけど、意義はある。幸せを感じた結果の産物なんだから。

 とはいえ、やはり昨晩わいわいとはしゃいだ家族風呂と、なんとなく比較してしまう。

 うむ、ちょっとだけ寂しいかもしれん。


『なんじゃ、主様よ一人で寂しいのか?』

「っ!?」


 思わず息を吸い込んで驚く。思考がヤオに伝わったのか。


『すまん、念話になって届いちゃったか?』

『気にしなくてもよいぞ。そうかそうか、主様は一人で寂しいのか』

『いや、まあ……ちょっとだけ』


 恥かしいから否定しようとしたが、今ヤオに話しかけられて楽しいと実感してしまっていた。なので明確に否定できず、結局見栄を張って少しだけ、と言ってしまう。

 だが、その直後。


『何々? お兄ちゃん一人でお風呂が寂しいの?』

『もしかしてカズキってば、私やお姉ちゃんとも入りたいとか?』

『わっ!? な、なんでお前らが……』

『わしが「主様が一人風呂は寂しいそうじゃ」と言ったのじゃが、まずかったかえ?』


 言ったのかーそうかー……。うん、ちょっと恥かしいかな。でもヤオにまったく悪気がないし仕方ないことか。


『あ、いや。別にかまわないよ』

『ならよかったのじゃ』

『……ねえミズキちゃん。カズキってヤオちゃんには結構甘くない?』

『うん。私も時々それを痛感する。私達とはまた別の特別扱いしてるよね』


 おや。なんか話の方向性が少し変わってきた? これは早々に切ったほうが──


『私もそう思います! 特にヤオさんの容姿が、私の最年少枠を脅かしてます』

『ミレーヌのその枠もどうかとは思うのですけどね……』

『カズキがそういう嗜好性だと、私は外れてしまっている危険が?』


 うおっと、いつの間にか全員参加してる? フルメンバーで温泉ボイスチャット状態か!?

 この状態は面白いとは思うが、さすがに反映させるべき事がない。温泉で男女別にはいているのに、通話ができるシステムというのはダメだと思う。……まあ、今それをしている俺が言うのもなんだが、実用としてはダメだということで。


『えーっと。とりあえず俺はもう上がるから、また後でな。それじゃヤオ、しばらく切断してくれ』

『了解じゃ』

『あ、ちょっ! カズ──』


 慌てたゆきの声が電話切れのように消えた。なんというか、温泉につかっている女性陣の声を、あのまま延々と聞いているのもまずいような気がしたから。

 実際の声ではなく思考の声だから、悩ましい吐息のようなものは聞こえてこないだろうけど、やっぱり気恥ずかしさはぬぐえないもんな。


 とりあえず言ったように本当に湯船を上がる。

 浴衣を着て部屋に戻りながら考える。この後はこの温泉街をぐるっと観光してみようか。色々と参考のために見たいものもあるし。



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