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25.そして、順調な難関へ

 商業ギルド。

 主に冒険者ギルドと対となっているという認識で、その名の通り商業関係を取り扱うギルドだ。

 国内の商品流通管理をはじめ、土地管理などの不動産分野も行っている。だから王都の中央道にある屋台は、この商業ギルドに登録認可されている。


 その商業ギルドへやってきた。

 建物へ入ると視線が幾つかこちらを向く。一応俺は商業ギルドにも登録している、という設定になっている。要するにLoUのプレイヤーキャラの設定上の仕様だ。

 とはいえ何か商売でもするつもりがなければ、商業ギルドはあまり来る必要がない。


 次に、続いて入ってくるミズキに視線が移る。

 追随して入ってきたので、知らない人にも家族かなと思われるのだろう。特別奇異な視線は向けられたりはしない。


 そして最後に入ってきたのは……ペンギン。


「!!!???」


 入り口の方を見ていた人物全員から、声にならない驚きが漏れた。

 そして全ての視線を集めた元凶(ペンギン)……もといペトペンは、豪胆なのか鈍感なのか我関せずという雰囲気でペタペタとミズキの後ろを付いていく。その状況に誰しもが、口を半開きにして見ていた。


「ちょ、ちょっと! カズキくん、ミズキちゃん、その、えっと……あれは?」


 はっ、と気付いた受付にいた職員があわてて飛び出してきた。

 俺とミズキの名前を知っているこの人、名前をエリカさんという。実は冒険者ギルドの受付嬢ユリナさんの双子の妹だ。なので年齢もユリナさんと同じ25歳。適齢期だね、ファイト。


「こんにちはエリカさん」

「こんにちは。この子はペトペン、私のペット!」

「そ、そう……ペットなのね……」


 機能実装に伴い、家飼いの動物を『ペット』という名称で認識するようになったのか、言葉のやり取りにおいては問題はないようだ。

 だが、エリカさんの顔にはどこか困惑した様子がありありと浮かんでいる。


「もしかして、ここはペットはダメでしたか?」

「えっと……どうなのかしら。今まで前例がなかったから……」


 俺の質問にエリカさんは、困り顔でペトペンを見る。じぃっ……と見られてはいるが、当のペトペンは「どしたの?」という感じで首をかしげる。案外大物かもしれんな。

 するとミズキがペトペンの後ろから、脇の下に手をいれてだっこして持ち上げる。そのまま両手でかかえこんでぬいぐるみでも抱いてるようになる。ペトペンは利口なうえ、意思疎通できるので抱き上げられても全然あばれようともしない。


「こうしてれば全然大人しいよ。……ダメ?」

「……わかったわ。でも、騒いだりしたらその時は出て行くのよ?」

「はーい。よかったねペトペン」


 きゅっと返事をするペトペンを見て、エリカさんは微笑みながら受付へ戻る。

 それきっかけで、しばし静寂に包まれていたギルド内もざわざわと普段の喧騒がもどってきた。

 なので、俺もようやく本来の目的を果たせそうだ。


「エリカさん。相談があるんですが、今大丈夫でしょうか?」

「ええ大丈夫よ。商業ギルドに関係した話、よね?」

「はい」


 俺がこっちに来る事自体珍しいからなのか、ミズキとペトペン同伴なのが困惑させたのか、確認をされてしまった。まあ俺もLoUの中では商業ギルドなんて、イベント絡みでしか行ったことないもんな。


 とりあえず俺は、この王都の南東にある広場にちょっとしたモノを造りたい、そのためにあの土地をいくらか買い取りたい……という旨を伝えた。

 最初はニコニコ顔で俺の話しを聞いていたエリカさんだが、場所があの広場だと聞くと途端に表情を曇らせる。なんだろう? 面倒臭い地主でもいるのか?


「あの広場の土地なんですが、王室が管理しているんですよ。その為あの土地はたとえ貴族でも、取り扱うことはほぼ不可能なんです」


 なんと、そんな裏事情が。俺が知らない設定だよ。

 確かにこの王都のディテール設計とかは、俺がやったわけじゃないけど。いったい今後、どこにこの設定は生かそうと思ったんだろうかね。

 おかげで、現状がややこしくなってしまったんだけど。

 変更パッチとかあてて無理やりってのは、こういうプログラム上に明記されてない仕様だと、どんな不備や食い違いが出るかわからないから怖いんだよな。


 ……あれ、そういえば。


「ねえ、エリカさん。さっき、ほぼ(・・)不可能って言ったよね?」

「……ええ」

「じゃあ教えて。どうすれば可能になるの?」


 おそらく無意識だと思う自然な言葉選び。そこには得てして真実が含まれている。だから言葉を組み直せばエリカさんは、方法を知っているという事だ。

 確認してみるとエリカさんはやっぱり知っていた。

 単純な話だった。あの土地が王室管理であるならば、王族からの許可が下りれば使用可能であると。

 ならば手はあるかもしれない。

 聞こえは悪いけど、フローリア様をうまく引き込めばいけるような気がする。当然フローリア様だけじゃなく、他の王族……特に王様に納得してもらえるのが一番だが。


「そんな訳だから、あの土地は……」

「うんわかった。近いうちに許可もらうから、そんときにまた」

「え? ちょ、ちょっと?」

「行くぞミズキ」

「はーい、行くよペトペン」


 慌てふためいているエリカさんを置いて、俺たちは商業ギルドを後にした。

 俺が話をしている間、ずっとペトペンはミズキにだっこされておとなしくしていたようだ。

 外に出たところで、地面に降ろしてやるとすぐにミズキの後をついて歩き出す。


 ちなみにこのペトペン。召喚獣という分類のペンギンのため、密かに色々な特性がある。食事をしなくても主人からの魔力共通で生存可能なのもその一つなのだが、他に便利なのは汚れ等に関して気にしなくていい事だ。

 先ほど噴水に浸かっていたが、そこから出た瞬間に体毛の水分は消え去っていた。表面になにか特殊な加工が施してあるとかではなく、決まり事としてそういう仕様を与えてあるのだ。召喚獣ならではのインチキだけど、まあその方が扱いが楽だってのもあるし。


「とりあえず行きたかったところは終わり。ミズキはまだ何かあるか?」

「んー……特にないかな?」


 ペトペンの方を見るも、こちらも特になさそうだ。あっても我儘を言うペットじゃないだろうけど。

 ともかく今日はこれで十分だ。俺達はそのまま帰宅した。






 翌日、俺はフローリア様の部屋を訪問した。正確にいえば、GM.カズキが。


「本日はどういった用件でしょうか?」

「実は……」


 俺は広場の土地に関しての話をした。

 あの土地でやりたい事があるのだが、王室管理のため商業ギルドの一存では取り扱えないという事。そこでもし可能であれば、第一王女であるフローリア様による支援を頂きたいと。

 やりたい事というのは、いわゆる『動物とのふれあい広場』だ。

 広場の一角を芝生広場にして囲い、そこにふれあえる小動物的な召喚獣を用意するというもの。

 召喚獣は基本的に動物で、ウサギやレッサーパンダなどにする。無論、召喚獣なので万が一という危険性もないため、普通の動物よりも安全だ。

 規模はそれほど大きくするつもりはない。単純に王都の人々が、少し心を休められるような場所があるといいなと思っただけなのだから。

 あと、これで金をとるつもりもない。商売をめざすなら、もっと効率のいい事はいくらでもある。

 まあ要するに、小さい頃いろいろ想像してた“やりたいこと”をやっているだけなのだ。喫茶店のマスターになりたいとか、そういうレベルの夢だな。現実の世界ではなかなか出来ないことを、こっちでやってみようと思ったわけだ。


「楽しそうですね。是非ともご協力させて下さい」


 俺の言葉を聞いてフローリア様は、すぐに賛成してくれた。

 もしここがLoUベースの異世界じゃなければ、もっと交渉は困難だったかもしれない。実際に物事を進めるのは、こんな理想や綺麗ごとだけじゃすまないもんな。

 そういった事は、本当に考えないといけなくなった場面でやればいい。


「ありがとうございます。これで色々考えてたことが進められそうです」

「それはよかったです。そこで相談なんですが……」


 話がとんとん拍子に進みそうだったが、ここでフローリア様から相談を持ちかけられた。

 フローリア様の性格からして、この相談きっかけで支援の取りやめをしたりとかは無いだろうけど。


「なんでしょうか?」

「その、もしよろしければなんですが……」


 フローリア様が、少し発言を逡巡する。


「大丈夫ですよ。私で出来る事なら何でも言ってください」


 思わずフラグ建築単語の“何でも”を口にしてしまう。まあ、この場合はそれこそ問題ないだろう。ここでムチャを言うようなフローリア様じゃないだろうに。


「ではその……私もペンギンのペトペンさん? にお会いしたいと思って……」

「召喚獣に直に触れてみたいのですね。いいですよ」


 なるほど、さすがフローリア様。まずは自身で体験しておきたいのか。

 やはり民に愛されし聖王女と呼ばれる存在だな。


「後、カズキ様の妹様にもお会いしたいと思いまして……」


 あー……それもそうだな。ペトペンの主だもんなぁ。

 フローリア様、理由って……それだけだよね?


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