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249.それは、いつか叶う絆へ

追記:5/3の更新はお休みします。次回は5/4の予定です。

 風呂を上がり部屋に戻った俺は、また広縁の椅子に腰かけてまったりしていた。どうせだったら、戻ってくるときに売店で何か軽い飲み物をかっておけばよかった。部屋に設置されている小型冷蔵庫だと、無駄に高いのが何か負けた気がするからイヤなんだよな。まあ、そんなこと言ったら売店の商品も、外で買うよりは割高になるけど。


 のんびりと星空を見上げて、今日の出来事を思い返す。

 皆と旅行をするのは初めてじゃないけど、現実(こちらの)世界で宿泊込みの旅行は初めてだ。もちろん皆楽しみだと言ってくれてはいたが、実際に今日来てみて楽しんでくれているのを実感できてよかったと思っている。

 まあ、家族風呂でのはしゃぎっぷりは中々の心労モノだったけど。でもきっと、それも後々には楽しい思い出になるのだろう。そんな事を考えているうちに、やっぱり何か口が寂しいなと感じてきた。売店か自販機コーナーで適当に何かを買ってこよう。そう思って立ち上がった時、ノックの音が聞こえた。


「カズキ、少しよろしいでしょうか?」


 ドアを開けながらゆらが入室してくる。その手には……缶ジュース? いや、アルコール系か。


「いいよ、どうしたの?」

「もしよろしければ、こちらの……」


 そう言って顔の高さにドリンク缶を持ち上げる。


「お酒、ご一緒しませんか?」

「もちろん。丁度、何か買いに行こうかと思ってたところだ」

「まあ、それは何よりです」


 くすっと笑ってドアを閉めこちらにやってくるゆら。流石に彩和が和文化国なので、浴衣の着こなしも自然で綺麗だ。まだ風呂上りの香りがほのかにして、色っぽさは許嫁内でもダントツだろう。

 俺が椅子に座りなおすと、向かいの椅子にゆらが座り、もっていた缶をテーブルに置く。4本あるが全て酎ハイだ。


「このチョイスは、ゆらが?」

「いいえ。これらが購入できる機器のところで、ゆきに聞きながら選びました」


 ああ、そうか。ゆきは現年齢は17歳だけど、前年齢が22歳だもんな。飲酒経験があっても不思議じゃないか。


「本当は皆さんも一緒できたらよかったのですが、こちらではお酒の類は20歳にならないとダメなんですよね?」

「ああ、そうだな。そうなると俺達の中ではこの二人だけか。ヤオは外観がアレだからなぁ。飲酒してるところを他人に見られたら面倒なことになりそうだ」

「そうですね。というわけで、申し訳ありませんが今は私だけで」

「いやいや、大歓迎だよ」


 一人でいるのも好きだが、折角の旅行だからとこうやって過ごすのも悪くない。ありがたく、もってきてくれた缶に手を伸ばす。無造作に手にしたソレは、シンプルにレモン系の味わいがする酎ハイらしい。タブを引きプシュっという音を聞くと「うーん、いいね!」という感じになる。ゆらも既にこちらでの缶タブには慣れているので、すぐに空けてこちらを見る。


「それじゃあ──……何にしようかね?」

「何がですか?」

「えっとね、こっちではよくこうやって杯を交わす時は“○○を祝って~”とか言うんだよ。まあ、単純に飲みたい口実を口にしてるだけなんだけどね」

「そうなのですね。では……私達とカズキの出会いを祝して」

「……改めてそう言われると、少し恥ずかしいな。でも──うん、そうだね。皆との出会いを祝して」

「「乾杯」」


 カンッと軽く缶がぶつかる音がして、その後ぐいっと喉をうるおす音が聞こえた。……うん、気持ちの問題だけど、こうやって誰かと一緒に飲むのは美味しい。

 俺もゆきも、半分ほど飲んで「ぷはー」っと息を吐く。うん、ここまでやって温泉旅行だな。

 一旦落ち着いた後は、ちびちびと飲みながら今日のことなんかを話す。ただ、やはり食にこだわりがあるのか、昼間に食べた函館塩ラーメンには随分と感心したようだった。そんな感じで、1缶目を飲み終り2缶目をあけて口をつけたころだった。


「……そういえば」

「どうかした?」

「いえ、この宿の側の茂みに、野生動物がいたのを見ました」

「えっ、野生動物? ……はっ!? まさか熊っ!?」


 どうも登別と聞くと、イコール“熊”という先入観が半端ない。だが、そんな俺の声に対してゆらは首をふり、


「いいえ。あれは確か王都の憩い広場にも同じような動物がいたかと……」

「王都の広場に……? ああ、そういうことか」


 ゆらの言葉にピンときた。おそらく彼女が思い浮かべているのは、レッサーパンダだ。でも多分実際に見た野生動物というのは。


「アライグマだね」

「アライグマ、ですか? えっと、王都にはそのような種類の動物はいなかったかと……」

「うん。見た目が似てるから、こっちの人たちもよく間違えるよ。たしかに北海道だと、野生のアライグマとかいるからね」


 そう言って、俺はスマフォをいじってアライグマの写真を見せる。基本的にどの画像もたいがいは顔を映しており、それが多少歯をみせていようが愛嬌ある絵になっているのは否めない。ゆらも画像をみながら「かわいい……」と呟く。

 そんなゆらを見ていると、またしてもヤマト領に造りたいものが浮かんでくる。といっても、これはヤマト領にも(・・)造りたいという感じだ。


「ヤマト領にも、王都のような皆がくつろげる広場とか欲しいよね」

「そうですね。元々水が豊富で、噴水や足湯のような施設は予定されていますけど」

「王都と同じような憩い広場を、ヤマト領にも設けるのを考えておこうかな。そうすると、その周囲に同じように出店みたいなものが並ぶのかな」

「いいですね。王都でもあの広場は、皆さんの休息に一役かっていますし」


 ──こんな感じで話しているうちに、二人とも2缶目を飲み終えた。時刻もそこそこいい感じだということで、ゆらは部屋を後にした。

 一人になったとたん、軽いアルコールだったにもかかわらず、程よい眠気にさらされたのでそのまま素直に寝ることにした。





「……──ちゃん。お兄ちゃん」


 ぼんやりと霞がかった意識に、誰かの声が聞こえてきた。だが、その言葉を思い返すと相手が誰なのかは考えなくてもわかる。


「んぁ……ミズキ、どうした? ……っていうかどうやって部屋に……」

「わしが主様のところへ跳んで、中から鍵をあけたんじゃが……まずかったかの?」

「……なるほど。いや、ヤオやミズキならべつにいいよ」


 多少ぼやけた頭でベッドから起き上がり、ナイトパネルの時計を見る。まだ寝てから1時間も経過してないな。


「……で。どうかしたのか?」

「あ、うん。せっかくだから、その、もっとお兄ちゃんと話したいなぁと思って」


 そう言って少しバツ悪そうに笑顔を見せるミズキ。確かに今日は、ミズキと一緒になにかしたっていう事はあまりなかったかも。そう思ってみつめると、俺にどこか申し訳ないような表情を向ける。寝てたのを起こしちゃったことに関してかな。

 かといって一度寝る体勢になってしまったから、また起きてさっきのように話すのは無理そうか。


「んー……まあ、少しくらいなら」

「ホント!?」

「おう。でもまあ、もう寝ようとも思ってたから、ホレ」


 ベッドの奥へ少し移動し、かけぶとんをめくる。それを見たミズキは「うんっ!」と笑顔を浮かべて俺のとなりに入ってきた。

 その様子をみていたヤオは、部屋を出て行こうとする。


「ん? ヤオはいいのか?」

「うむ。こやつが主様の傍にいれば大丈夫じゃろう」


 そう言って部屋を出て行った。扉が閉まった後、鍵にからみついた鞭が内側から施錠し、スルスルっと隙間から外に出て行った。……え、なにそれ。施錠形の鍵には無敵じゃん。

 そんな事を考えていると、布団に入ってきたミズキが抱き着いてきた。


「はぁー、今日は楽しかったねお兄ちゃん」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

「もうちょっとお兄ちゃんと遊べたら、もっとよかったけどね」

「すまんな。でもまあ、今こうやって一緒にいてやるから」

「うんっ」


 そう言うと一旦抱き付きを解除して、俺の隣で上を見て寝る。おれも同じようにして、俺は右手を、ミズキは左手をのばしてギュっと握った。

 別に合図をしたわけでもないが、なんとなくそうしたいなぁとお互い思った。それが嬉しかったのか、ミズキが「エヘヘ~」と楽しげに笑う。

 そういえばさっき、ヤオが何か言ってたな。確かミズキが俺の傍にいれば大丈夫だと──ああ、そういう事か。


「ミズキ、ありがとうな」

「へ? 何が?」

「俺の傍に来てくれたこと。アレだろ、こっちの世界の俺は何の力もなく弱いから、もしもなにかあったらという時のために、来てくれたんだな」

「……うん。でもねでもねっ、もちろんそれだけじゃないよ?」


 手をつないだまま、体をぐいっとこちらに向ける。なので俺もミズキの方を向く。


「せっかく旅行にきたんだもの。お兄ちゃんとの思い出が、少しでも多く欲しいんだよ。その、今夜は私が譲ってもらったけど、皆にも同じようにしてくれると嬉しいかな」

「……うーん、いい子だなぁお前はぁ」


 素直な気持ちを吐露しながらも、みんなの事も考えるミズキ。一応は妹という設定だが、それこそ本当に“設定”だ。本当の意味で血のつながりはなく、ちゃんとヤマト領を国として制定した後は、正式に迎え入れたいと思っている。だから今は抑えて……と思っていたが、少しだけ。そう、少しだけ。そう思ってしっかりと抱きしめた。


「えっ! お、お兄ちゃん!?」

「うん、大好きだぞ、ミズキ」

「あっ……うん、私もだよ。大好きだよ、お兄ちゃん」


 そのまましばらく抱きしめあった。そして、ゆっくりと体を離してまた並んで上を見る。

 ──そう、今はここまで。

 これ以上は俺が、自分自身を納得させられるようになってからだ。


「おやすみ、ミズキ」

「おやすみ、お兄ちゃん」


 おやすみの言葉を交わしたものの、しばし二人とも寝付くまでには時間を要してしまった。

 でも、二人ともとても幸せな気持ちで眠ることができたのは言うまでもない。



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