248.それは、大切な想いの紡ぎ方
追記:5/2の更新が遅れます
空にあまねく星々の煌めきを眺め、俺達はのんびりと湯船につかる。浴室は屋外ではないが、前面には庭園を模した趣ある庭。天井には大きな天窓があり、湯船につかりながらも星空を楽しめる。
浴槽は家族風呂ということもあり、大浴場ではないが数人の家族でゆったり入れる広さだ。
そこに浸かり、のんびりと俺は空を見上げる。
「綺麗な星空ですね」
「以前スレイスで見た空よりも星が多い気がしますね」
というか、空を見上げるしかないだろう。
結局のところ観念した俺は、そそくさと浴室へきて軽く全身を湯で流して湯船へ。いつもならまず体をあらってから入るのだが、今回そんなことをしてたら絶対にミレーヌあたりが「洗います!」って言いだすだろうからだ。
なのでさっさと湯船につかり、丁度広がっている夜天を見上げて気持ちを落ち着けているわけだ。
……なのだが。
「カズキお兄様っ、あの星は何か知ってますか?」
「お兄様、ここの星座ってとても綺麗ですわね」
視覚は全て空に逃がしたが、いかんせん聴覚……主に二人の声がすぐとなりから聞こえる。そしてその隣具合だが──うん、いわゆる“限りなくアウトに近いアウト”レベル。一糸まとわぬ少女が、ぴったりと腕に抱き付いて離れないのだ。もちろん、そんな事は考えてないし、考えようとも思ってない。だがまあ、どう贔屓目にみても極上のお嬢様であるフローリアとミレーヌが、お兄様お兄様とじゃれついてくると、もう思考が前に進むのを拒否してしまう。
「あ、あれは……多分あの輝いてる星がスピカだから……乙女座かな」
「うふふっ、乙女ですか。私達にぴったりの星座ですね」
「そうですわね。今の私達ですわね。……今の」
なんで2回言ったフローリア。というかミレーヌもフローリアも、わざと何かへと誘導してないか?
ともあれ頃合いを見て、俺は早々に離脱を…………あ。しまった、さっき脱衣所で部屋のキーをミレーヌに渡したんだった。つまり、最低でもミレーヌと一緒に出て行かないと、俺は部屋に戻れないってことじゃないか。
これはまさか計画犯罪か!? そう思った瞬間、無意識に、本当に無意識に俺の視線は右腕にだきついているミレーヌへ向いてしまった。
「……あっ! カズキお兄様っ、どうしましたか!?」
「い、いや、なんでもない、なんでもないよぉ~……」
思わず向いてしまった視線を戻す。だが、ほんのわずかな時間だったが、しっかりとミレーヌの姿を見てしまった。あー……うん、綺麗だったよ。
別に俺はロリコンってわけじゃないが、自分に好意を向けてくれる子の一糸まとわぬ姿をみて、何も感じない程酷い男だとも思ってない。思ってはいないが……これは心臓に悪いな。
ともかくまた視線を空に戻し、なんとか平静を保とうとする。──だが。
「ずるいですわね。今度は私の方を見てくれてもよろしいではないですか?」
「わっ、ちょ、まっ、前にくるなっ!?」
左腕に抱き付いていたフローリアが、そのままずいっぐりっと俺の前に体を滑らす。当然ながら今度はフローリアの身体が視界に入ってしまう。
先程見たミレーヌとは、また違った色合いの綺麗さを感じてしまうも、あわてて視線を天井へ向ける。ここで安易に目を閉じるのはミスフラグになるだろうから。
ダメだ、もうごまかしきれない。確かにまだ二人とも少女の域を出ない年齢だが、とっくに愛情を向けてしまっている相手だ。だから今俺はとてつもない葛藤をしている。下衆な表現をするなら、手を出してしまいたいと思っている。
…………だけど。
「フローリア、ミレーヌ。少しだけ、いいかな」
「「……はい」」
一つ深呼吸をして呼びかける。その声は自分でも不思議なくらいに落ち着いている。
それに気付いてくれたのだろう、腕にしがみついている感触もとかれる。
「二人のことは大切だ。無論、ミズキ、ゆき、ゆら──エレリナの事も。そして今みたいに好意を向けてくれると、俺も嬉しいし……男だからそういった気持ちにもなる。だけど、まだ待っていて欲しい。これは言い訳じゃなく、俺が自分の領地をしっかりと治めて、他の人々からも領主と認められてこそ受け取るべきものだと思っているから。だから──」
「そうですわね。私もミレーヌも、やはりこの旅の心地よさ、底抜けの解放感から、常々思っていた事が抑えきれずに出てしまったと猛省しております」
「ごめんなさい、カズキお兄様。私達、本当に嬉しくて……」
先程までの声と違い、叱られた子供のようなか細い声の二人。それを聞いて、やはり俺はまだまだ未熟すぎると感じる。二人にこんな顔をさせてしまうのは俺の失態だ。そう思った瞬間、先程までの浮足立った恥ずかしさがすっと消える。ゆっくりと視線をおろし、まずは右に座るミレーヌ、そして左に座るフローリアを見る。そして、そっと手を広げて二人を抱き寄せる。
「きゃっ!?」
「えっ!?」
「ゴメンな二人とも。でも、これだけはちゃんと言わせてくれ。──大好きだよ」
「「っ!!…………はいっ」」
抱き寄せた二人の顔を見ながら、しっかりと声に出して伝える。二人の目にもうっすらと涙が浮かんでいるのが見えたが、これは気付かないようにしておいたほうがいいだろう。
ぎゅっと抱きしめた後ゆっくりと解放すると、湯船の向かいにすわっていたミズキと目がある。ずっと上をみていたので、ミズキがそこに座っていたのも初めて知った。
「勿論ミズキも好きだぞ?」
「軽ッ!? なんかついでに言われた!?」
俺の言葉にぎゃーぎゃーと喚いてくるが、俺もミズキもわかっていた。今の言葉のやりとりは、ちょっとずるいけどミズキの手を借りてここの空気を和ませる行為だったことを。
ただ、ここにいるのは少女とはいえ聡明な二人。
「……やはり、ミズキにはまだかないませんね」
「でもいつかミズキさん……いえ、ミズキお姉様を超えてみせますっ」
俺達のやり取りをみてぽつりとつぶやく声がは、どこか寂しげで、でも優しい声色だった。
そんな様子を達観して見ていたヤオが口をひらく。どうやら少しだけ酔っているのか、顔が赤い。
「まあ、王女らが主様との関係を推し進めたい気持ちもわかってやれ。なにより第一王女で、唯一の直接の王位継承者なのじゃからな。はやく子供を授かって、世継が欲しいというのもあるのじゃろ」
「世継って……ああ、グランティル王国の?」
「他にないじゃろ。それともなんじゃ? 主様は国王と王妃に、王女の弟か妹を設けて欲しいのか?」
そうヤオが言ったとたん、フローリアとミレーヌがざばあっと湯船で立ち上がった。
「「それですっ!!」」
「マジかよっ!?」
ヤオの言葉に全面賛成の声をあげる二人と、その二人の返答におもわずつっこむ俺。だが、もし本当にそうやって世継ができるのであれば、確かに王家および国は安泰だろう。それにそうなったら、その頃には俺も無関係ではないかもしれない。だったら色々な意味で手を貸す所存というところか。
「どうでしょう、私達がお父様やお母様の前でその仲睦まじき様子を見せつけてみれば……」
「もしかしたら触発されて……という事も考えられませんか!?」
目をキラキラさせてとんでもない提案をする王族二人。なんて事を言ってるんだこの二人は。俺に、国王様やミスフェア領主の前で、イチャイチャっぷりを見せつけろって言ってるのか? イタすぎる。その行為は、俺の人生に組み込まれていなかった行動パターンだ。
「では早速! カズキさんっ、大好きです」
「私もですわ。カズキッ、大好きですわ」
「どわあっ!?」
立ち上がっていた二人がこちらを向いて、座っている俺にむかってがばっと倒れるように抱き着いてくる。あわてて広げた手で二人をしっかりと抱きかかえると、一瞬驚くもすぐに笑みを浮かべてしっかりと抱き着いてきた。
その様子を見ていたヤオの呟く声が聞こえる。
「お主はアレ、やらんでもいいのか?」
「ちょっとね……なんというか、見てるこっちが恥ずかしいかも……」
なにやらミズキの声もきこえるが、またしても気持ちが焦ってしまいどうにか落ち着かせようと必死になるだけだった。
ちなみにこの後、湯船の中で裸の二人と抱き合っていた事を聞いたゆきは、
「本当にヤりやがった…………」
と呟き唖然としたまま固まった。いや、ヤってません! ヤってませんから!
ナニを……とは言いませんが、ヤってませんからっ!




