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245.そして、はるばる来たぜ温泉地

 新幹線を使って函館駅へ到着。正確には新函館北斗駅だが、行き先は函館ではなく登別。なのでここから在来線の特急へ乗り換える。ここまでの乗車時間は4時間ちょっと。

 とりあえず函館──北海道の地を踏んだことになる。俺もふくめゆき以外は、まったく知らない地だ。

 とはいえ生前は小樽にいたというゆきでも、函館はそんなに来たことないと言う。これは北海道に来たことない多くの人が勘違いをしていることらしいのだが、北海道で有名な都市である札幌と函館。これって地図では北海道の左下に集まっているように見え、感覚としては隣の市にでもいくくらいに思われているらしい。だが実際は、東京から愛知の三河地方あたりまでの距離ほどだとか。なので──


「時間も丁度いいから、ここで昼食をとってから出発しようと思う。どうかな?」

「そうだね。特急で行くなら登別に2時間半くらいだから、それでいいんじゃないかな」


 ゆきの頼もしい返答に皆が感心する。さすがにこの辺りに関しては、ある意味地元民だ。ゆきは異世界(あっち)での生活が17年あるが、俺とは違い“転生”であり、その時期も遡った時間軸になっている。変な言い方だが、俺たちが現実(こっち)でLoUを作る前から既にあっちで生まれていたという、少し不思議な時間経過をたどっている。

 おかげで北海道に関する知識も、一年も経過してないというありがたい結果に。ここから、登別へ向かうルートなども、ゆきの知識が大いに役立った。特急登別に停車する特急と、停車しない特急があることを教えてくれたのもゆきだ。


「じゃあ昼飯に行くが……」

「アレだよね? ハコダテシオラーメン!」


 ミズキが笑顔で定番のご当地メニューを言う。どうやら皆は、ゆきを中心に北海道の……主に今回行くもしくは通過するところの名物を色々とリサーチしていたらしい。その中でもド定番である函館潮ラーメンと札幌みそラーメンは食べたいとのこと。まあ、行列が出来る有名店とかじゃなければ、普通に入れるだろうからいいんだけどね。

 そんな訳で俺たちは、普段とは違いゆき先導でわずかばかりの函館観光をした。

 ちなみに北海道にきたばかりだが、帰路では函館駅から出ない予定なので先にお土産などを買うように言って置いた。皆の指輪のストレージも、俺と同じで時間が進まないのでこういう時は便利だ。




 僅かばかりの観光を済ませ、今度は在来線の特急で一路登別へ。こちらも指定席を予約しておいたので、皆座っての移動である。グリーン車だと席構成が、1人または2人での組み合わせになるので、こちらは普通に指定席にしておいた。でも、こちらでもヤオの不可視状態の鞭による念話をできるようにしておいたので、移動中はわいわいと脳内談話室が大繁盛だった。


『ん? ヤオさん、何を食べてるのですか?』

『イカ飯じゃぞ』

『面白いですね。彩和にはイカを食べる習慣ありますけど、そのような形にして食すとは』

『あー、彩和ってここでいう尾張だもんね。そういえばたこ焼きとか関西の食も無いか』

『タコヤキ? カンサイ? ゆきちゃん、それって何?』

『ああ、えっとね……』


 うーん、脳内情景が新幹線のときとなんら変化がない。要するにずっと通常運行だということだ。変に緊張疲れされて楽しめないような事もなく、俺達はそのまま静かにわいわいと電車移動を楽しんだ。

 そして新幹線同様に、隣の席にはかわるがわる誰かが来た。とはいえ、その会話はほぼ『楽しい』という意味合いの濃い言葉ばかりだったのは嬉しい。


 特急での移動も終え、無事に登別駅へ。さすがに観光地の駅だけあってタクシーが待ち構えている。それを2台確保して、予約をとってある温泉へ。運転手さんも地元ドライバーらしく、温泉宿の名前を言っただけですぐに返事を返してくれた。

 俺が前側車両、ゆきに後ろ側車両に乗ってもらい、あとはばらけて乗ってもらう。まあ、ここは移動時間も少しだけなので何も不満はでないが、こっちので移動や買い物はゆきにかなり助けてもらっているので、どこかで特別にお礼をする予定ではある。

 タクシー移動を終えて、温泉宿に到着する。なかなかに立派で、以前スレイス共和国の温泉街でみた風景を思い出す。

 俺達はタクシーのトランクから各々鞄などを取り出す。これは登別駅についてから、カクシーに乗る前にストレージから出してもらった荷物だ。というのも、さすがにほぼ手ぶら状態で温泉宿に来るのは、不自然すぎるという理由からだ。だから着替えの一部など、ある程度のものを入れた鞄を怪しまれない程度の荷物として出してもらった。

 とはいえ、フローリアとミレーヌは普段から力をこめて物を持つなんてことはしてない。なので鞄とか重くないかなぁと思ったのだが。


「お持ちします」

「ありがとうエレリナ──あ、いまここではゆらですね。ありがとう、ゆらさん」


 エレリナが率先して主であるミレーヌの荷物を持つ。まあ、これは当然か。

 じゃあフローリアは……と思ったのだが。


「ん? どうしましたカズキ──お兄様」

「いや、フローリアにその鞄は重くないかなぁと思ったんだけど」


 だが目の前のフローリアは、そこそこ詰まっているように見える鞄を平然と持っている。見た目ほど重くはないのかな……と思った時に目についたのは。


「あ。そのブレスレット……」

「ふふっ、気がつきましたか」


 以前ドワーフのギリムに作ってもらったアイテムの一つだ。魔物の甲殻特性を生かしたもので、フローリアは魔力を物理エネルギーに変換して使う方法を会得した。その応用で、重い鞄を軽くしているのだろう。……なんか生活魔法みたいになってるな。

 全員荷物を手にして、宿のフロントへ。名前を言って部屋へ案内してもらう。7人いるので二人部屋を3つと一人部屋を1つ。ミズキとヤオ、フローリアとミレーヌ、ゆきとゆらという組み合わせだ。

 それぞれ自分に割り当てられた部屋に荷物を置くために分かる。俺も自分の部屋へいき、そこに荷物をおいて窓側へいく。


「おおー……さすが北海道ってことか。景色いいなぁ」


 部屋の窓から見える風景は、近くの温泉街と遠くの山々。似た様な形式は以前スレイス共和国でも見たけど、やっぱりこっちのどこか日本文化色がにじみ出ている、という風景のほうが落ち着く気がする。


「んー……なんかこういう景色、落ち着くねー」

「そうじゃな。わしがおった彩和の山にも似たような景色があったの」

「落ち着きますね。あっ、カズキお兄様だ!」

「こらミレーヌ、落ち着いてないじゃないですか」


 ふと横から聞こえる声の方を見ると、皆俺と同じように外を眺めていた。その声も晴れ晴れとしており、来てみて正解だったなぁとしみじみ思う。

 さて、一休みしたらどうしようかなぁと思っているところへ。


「カズキお兄様ー! お風呂行きましょう、お風呂ー!」

「っもう、ミレーヌったら。でも、私も賛成ですわ」


 元気にはしゃぐミレーヌを見て、もし元々この世界で生まれてたら普段からこんな感じなんだろうなとか思ったりした。まだ11歳という年齢は、小学生5年生あたりの年齢だ。領主である公爵令嬢という身分ゆえ、周りの大人貴族よりも大きな責任をも背負っていたりするには、まだあまりにも幼いだろう。そう考えると、こうやって全力で甘えてくれるのは僥倖だ。

 部屋の中へもどり荷物から着替えを取り出し廊下へ。しばらくすると全員が集まる。だが手荷物はほとんどない。いいなぁ、こっちの世界でのストレージ……。


「さあカズキお兄様、いきましょうっ」


 笑顔で抱きついてくるミレーヌ。うん、かわいいね。かわいいけどちょっとだけお願いを。


「えっと、とりあえずまずはゆっくり普通に入りたいんだけど、いいかな?」

「えぇー」

「ゆっくり普通に……というのは、家族風呂とかではなく、と?」

「そう。まあ、あれだけお願いされちゃったら家族風呂にも入るけど、まずは普通に汗を流してこの宿──こっちの温泉というものを感じたいし、感じて欲しいんだよ」

「……そうですね。そもそも、第一の目的がソレでしたわね」


 俺の言葉にとりあえず皆納得はしてくれたようだ。まあ、家族風呂にも入るといったのも大きいようなんだけど。


「うー……早く入りたいのにぃー」


 ただ一人だけミレーヌは納得行かないように、まだ少しだけ駄々をこねている。それを見たフローリアがそっと彼女に助言をする。


「いいですかミレーヌ。今日は随分と移動をしまして、汗もかきました。わかりますね?」

「はい、わかります」

「ではまずは、その汚れを落とし、綺麗な状態になってからお兄様に接するべきではありませんか?」

「あっ! そうですね! きちんと綺麗に磨き上げてからカズキお兄様に向かうべきでした」

「そういうことです。では、まずは一緒に入りましょう。私が身体を洗ってあげますわ」

「はい。それでは、私がフローリア姉さまを洗いますね」

「ふふっ、お願い致しますわ」


 そう言って二人は手をつないで行ってしまった。部屋を案内されるときに、浴場の案内もされていたのでそちらへ向かったのだろう。

 かるくあっけに取られている俺を、誰かがチョンチョンと肩をつつく。ふりむくとゆきがいた。


「カズキくん。なんか、すっごい気合入れてるんだけど、あの王族お二方」

「ああ、そうだな……」

「とりあえず私達も浴場に行くけど……」


 そう言って歩き出す皆。だがゆきが少し歩いて振り返る。


「結婚式あげる前に、王女や公爵令嬢のおめでた報告とか、ヤメてよね?」

「しねえよッ!?」


 思わず全力でのツッコミをしてしまう。

 そしてゆきを見ると、随分とニヤニヤしている。ああ、やっぱりゆきもこの地に来たことでテンションあがってるんだなぁ。



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